コロナ用語から絶滅危惧種まで
進化するドイツ語
「言葉」は、私たちと共にその時代を生きているものだ。実際、ドイツ語の文法はこの200年間ほとんど変わっていないが、単語数は少なくとも30%増加しているという。2020年は特に、コロナ禍によって世の中が大きく変化し、新しい言葉が次々と登場することになった。本特集では、そんな最新のコロナ用語や若者言葉、さらには消えかかっている言葉などを切り口に、日々進化するドイツ語の世界を探る。(Text:編集部)
ドイツ語ってどんな言語?
EU内で最も話されている母国語
ドイツ語は、インド・ヨーロッパ語族、ゲルマン語派に属する言語。世界で11番目に多くの母語話者を持つ言語であり、欧州連合(EU)では母語として最も広く話されている。ドイツをはじめオーストリア、スイス、ルクセンブルク、ベルギー、リヒテンシュタイン、さらに南チロル地方(イタリア)に住む約1億3000万人が母語あるいは第二言語として日常的に使用。また、外国人のドイツ語学習者数は英語の次に多く、世界中におよそ1540万人いるとされる。ドイツ語が第二言語として人気な理由には、ドイツの経済力や大学機関のレベルの高さが挙げられており、特に中国やインドなどのアジア圏では、ドイツ語学習の需要が2010年以降に4倍以上に増えたところも。
14万8000語が辞書に登録されている
2020年に改定されたドイツ語辞書DUDENには、約14万8000語が記載された。DUDENが初めて編纂した1880年版のドイツ語辞書には約2万7000語が収録されていたことからも、いかにドイツ語が増加してきたかが分かる。今回の改定では、主に環境やジェンダー、コロナ禍にまつわる約3000語が追加された。一方で、ドイツ語は複数の単語を組み合わせて一つの単語にすることができるため、厳密に単語数を数えることは難しく、ある説では合計およそ1800万語(単語の変化系は含まない)ともいわれる。
最も〇〇なドイツ語
最も長いドイツ語
ドイツ語の名詞と言えば、とにかく長い! というイメージがあるだろう。実際のところ、一般用語としてドイツ語辞書DUDENにも記載されている最も長い単語は、Aufmerksamkeitsdefizit-/
Hyperaktivitätsstörung(注意欠陥・多動性障害)で44文字。法律名などではさらに長いものもあり、現在ドイツの公式文書に記載された単語のうち最も長いものは、79文字から成るRinderkennzeichnungsfleisch-Etikettierungsüberwachungsaufgaben
übertragungsgesetz(牛肉識別ラベル付け監視業務委託法)だ。このように法律名や規則名が長くなる理由は、「(法律を制定する)議会議員たちは何事も誤解を生まないように厳密にやりたがるから」だとか……。
最も美しいドイツ語
ドイツ語学習者のための雑誌Deutsch Perfektが2019年に世界48カ国の読者に向けて行なった調査では、「最も美しいとドイツ語」の第1位にGemütlichkeit(居心地の良さ)が選ばれた。この単語に投票したある読者は、「ドイツの暗くて寒い冬、温かくて居心地の良い居間で、ゆったりとビールを飲む様子をイメージするから」と語る。第2位はSchmetterling(チョウ)で、「言葉の響きから、風が吹く牧草地を舞うチョウの羽を想像する」との意見があった。そして第3位はEichhörnchen(リス)で、「ドイツのリスはかわいいだけでなく、発音がとても難しくてドイツ語学習者を悩ませる存在だから」という投票理由も。皆さんにとっての「最も美しいドイツ語」は何だろうか?
参考:Die Bundesregierung「8 Dinge, die Sie noch nicht über die deutsche Sprache wussten」、Deutsche Welle「Europäischer Tag der Sprachen: Ein paar Fakten über Deutsch」、deutschland.de「Man spricht Deutsch」、Deutsch Perfekt「Gemütlichkeit:Das schönste deutsche Wort!」
2020年に生まれたコロナ用語
マンハイムにあるライプニッツ・ドイツ語研究所(IDS)では、1991年からその時代ごとに生まれる新語(Neologismus)を記録している。同所の言語学者であるクロサ=キュッヘルハウス氏は、「異例な社会的事象は、より多くの言葉が生まれるきっかけになる」と語り、これまでも1989年のベルリンの壁崩壊や、2001年のアメリカ同時多発テロの際に、時代を象徴する言葉が誕生してきた。そして今年、コロナ禍によって未だかつてなく多くのドイツ語が生まれたという。
同氏によれば、ドイツのコロナ用語にはいくつかのパターンがある。まずは、Corona-Party(コロナパーティー)のように「Corona +単語」を組み合わせるもの。またLockdown(ロックダウン)のように、英語圏で用いられる言葉をそのままドイツで使用することも多い。さらに、ナポレオン時代に生まれた言葉であるTriage(トリアージュ、回復の見込みがある患者を優先的に救助しなければならない状況)のように、現代ではほとんど忘れ去られていた単語が再び登場したパターンも。そして最もドイツらしい新語は、やはり「単語のつなげ技」によって生まれる。例えばメルケル首相は今年の4月20日、ロックダウンの緩和を急ぐ各州首相たちをÖffnungsdiskussionsorgie(Öffnung +Diskussion +Orgieをつなげたもの。直訳で、オープンディスカッション大騒ぎ)という言葉で批判したことが話題になった。
このようにコロナ用語は、政治家やメディアが生み出すものもあれば、私たちの日常からも日々生成されているのだ。しかしコロナ禍が終わりを迎えれば、これらの言葉のおよそ80%は消えていくと予想されている。
| 2020年に注目を集めたコロナ用語 | 意味・由来 |
|---|---|
| Corona-Frisur (コロナ美容室) |
ロックダウンによって美容室がしばらく閉鎖されてしまった際、自己流で散髪した人。特に、悲惨な髪型になった人のことを指す |
| Corona-Kilos (コロナ・キロ) |
コロナ禍で外出することが極端に減り、運動不足やストレスによって体重が増加すること |
| Gabenzaun (ギフトフェンス) |
コロナ禍で困っているホームレスや貧困者のために、食品や衛生用品などを詰めた袋を吊るす「ギフトフェンス」がドイツ各地で設置された |
| Geisterspiel (幽霊試合) |
コロナの影響により、無観客で行われるスポーツ試合のこと。この言葉自体は以前から存在しており、主催者や観客に対する制裁として行われる無観客試合を意味していた |
| Infodemie (インフォデミー) |
Information(情報)+Pandemie(パンデミック)の造語。コロナ禍で世界中に大量のフェイクニュースが流れたことを指す |
| Online-Demo (オンラインデモ) |
接触制限によって、インターネットやソーシャルメディア上で開催されたデモ活動 |
| Zoom-Bombing (ズーム爆撃) |
オンライン会議ツールのZoom(ズーム)がコロナ禍で急速に普及したが、そのミーティングに悪意を持って参加し、不適切な画像を共有するなどして荒らすこと |
参考:ライプニッツ・ドイツ語研究所(IDS)ウェブサイト、Forschung&Lehre「Corona-Krise ist Quelle neuer Wörter」、Süddeutesche Zeitung「Wie Corona unsere Sprache beeinflusst」
古いドイツ語と新しいドイツ語
生き残ってほしい趣のあるドイツ語
古くからある言葉でほとんど消えそうになりながらも、今も日常的に耳にする言葉をいくつかご紹介しよう。
一つ目は、中世から使われているというsplitterfasernackt。「素っ裸の」という意味で、木材を作るために皮などの破片(Splitter)を取り除くことに由来する。nackt(裸の)という単純な表現にはない、奥深さのある言葉だ。二つ目は「目の保養」を意味するAugenweide。牧草地(Weide)のある風景が美しいことに由来し、自然に心が洗われるのはいつの世も同じだと思わせてくれる表現である。三つ目は、古いフランス語のmoi tout seul(孤独)に由来するmutterseelenallein。直訳では「母の魂のように孤独な」となるが、「独りぼっち」という意味で使われる。孤独感が増すような響きのある言葉だ。
ベルリンの壁崩壊とともに消えた東ドイツの言葉
今年10月、東西ドイツが再統一して30周年を迎えたが、東ドイツ特有の言葉があったことはご存じだろうか。30年前に完全に姿を消した言葉もあるが、なかには旧東ドイツ地域を中心に生き延びている言葉も。
もう存在しない言葉のほとんどは、旧東ドイツの社会システムに関連している。代表的な例に、国営企業を意味するVEB(Volkseigener Betrieb)、高等学校を指すEOS(Erweiterte Oberschule)などがある。また、全ての居住者や西側からの訪問者を記録するHausbuch(家屋居住者登録簿)という言葉は、旧東ドイツが監視社会だったことを物語っている。
一方で、食べ物を示す言葉は現役活躍中であることが多い。Broiler(ローストチキン)、Feinfrostgemüse(冷凍野菜)、Ketwurst(旧東ドイツのホットドッグ)などがその例である。
大人には通じない? これがドイツの若者言葉だ!
「わかりみが深い」、「ぴえん」……など、日本語にも大人には通じない(!?)若者言葉が多々存在するが、それはドイツ語も同じ。ちなみにドイツの若者言葉は、英語やトルコ語から派生して独自の意味をなすことも多いのだとか。最後に、日々生み出され続ける新しいドイツ語の一部をお届けしよう。
| 若者言葉 | 意味 |
|---|---|
| Babo | 社長/リーダー |
| Bestie | 親友(女性のみ) |
| chillen | チルする |
| cringe | 恥ずかしさを感じていることを示す表現 |
| Ehrenmann/Ehrenfrau | 何か特別なことをしてくれる人に対する呼称 |
| Gib ihm! | でしょ!/ほらね! |
| Läuft bei dir. | かっこいい/すごい |
| sheeeesh | マジで? |
参考:Babbel MAGAZIN「9 fast vergessene deutsche Wörter」、Süddeutsche Zeitung「Überbleibsel aus der DDR: Fetzt urst ein」、t-online「Kleines Wörterbuch der Jugendsprache: Wissen Sie, was "cringe" bedeutet?」



インベスト・イン・ババリア
スケッチブック
ドイツでは法律と並び、数多くの民間の動物保護団体が動物保護の重要な一端を担っている。彼らが運営する「ティアハイム(動物の家)」という動物保護施設は、ドイツ全国に500カ所以上存在し、動物の保護や飼育、新たな飼い主への譲渡、動物飼育にまつわる教育活動などを行っている。ここでは、欧州最大級の施設「ティアハイム・ベルリン」を例に、人間と動物たちとのより良い関係を考えてみよう。


ジミーは、以前の飼い主と折り合いが悪かったため、ティアハイムに来ました。彼はまだ人に触られることに慣れておらず、とても敏感で、信頼関係を築くには時間がかかります。
ドイツではクリスマス前に動物の引き取り希望者が増え、クリスマス後には捨てられる動物が増える傾向にあるため、例年12月20日〜1月1日は動物の譲渡を休止するという。
2005年以来、第8代ドイツ連邦共和国首相を務めるアンゲラ・メルケル。彼女は「Mutti(お母さん)」という愛称で国民から親しまれているが、このあだ名はもともと、メルケルの政治家としての能力を過小評価する意味で2008年ごろに周囲の男性政治家たちによって付けられたものだ。しかし実際のところ、経済政策での「倹約的な母」、難民受け入れやコロナ禍での「思いやりのある母」、安定した外交での「ドイツの肝っ玉母ちゃん」などのイメージがあるように、メルケルはこのあだ名からさまざまな恩恵を受けているともいえるだろう。メルケル自身もこのあだ名について、「私は、このあだ名と共に生きることを学んだ」と語っている。
1949年、東ドイツの首都は引き続きベルリンとなったが、西ドイツは西ベルリンが離れ小島となったため、そうもいかなかった。首都の候補地となったのはフランクフルトとボン。しかし、西ベルリンのロイター市長(当時)は「もしフランクフルトなら、二度とベルリンは首都にならないだろう」と発言し、暫定的な首都としてボンが選ばれた。ボンは政治都市として発展し、人口は10万人から30万人にまで増加。ところが1990年にドイツが再統一すると、首都がベルリンへ戻ることが決定する。ボン市民はこれに抗議したが、補償金が支払われることで和解した。現在でも六つの連邦省をはじめ、各国際機関がボンにとどまっている。
いつまでもたっても終わらない典型的なドイツの工事現場の代名詞ともいえるのが、ベルリン・ブランデンブルク国際空港だ。2006年に着工し、当初は2011年6月にオープンすることを予定していた。しかし、工事に欠陥が見つかり、開港を何度も延期し、現在の責任者は4人目に……。着工から実に14年を経て、ついに今年10月31日に開港されることになった。
2016年のドイツ経済研究所の統計によると、ドイツにおける男性の育児休暇取得率は37%で、日本の6%と比較すると6倍も高い。しかし、スウェーデンでは80%となっており、欧州諸国の中ではまだまだ低い取得率となっている。
パンとバター、ハムやチーズにピクルスなどが並ぶ伝統的な夕食。理想的な時間は17〜19時で、パンの厚さが8ミリならパーフェクトだ。カルテスエッセンが夕食の定番となったのは1920〜50年ごろ。工場労働が主だった当時、ランチタイムに食堂で温かいスープが労働者に提供されたため、夜はパンとバターで十分だった。また、カルテスエッセンは究極の「時短料理」であり、働く女性の味方であった。今日ではこのような伝統的な夕食をいただく家庭は多くはないが、子どもが幼い家庭などではカルテスエッセンが絶大な支持を得ているとか。
ドイツで風邪をひいてお医者さんへ行ったら、ハーブティーを飲むように言われた……なんて経験がある方も少なくないだろう。それは、古くからハーブなどを用いた自然療法が生活に根付いていることと関係がありそうだ。
ドイツの大手ディスカウントスーパー「アルディー(Aldi)」には、実は「Aldi Süd(南)」と「Aldi Nord(北)」という2種類があるのをご存じだろうか。「Aldi」は、1945年にテオ・アルブレヒトとカール・アルブレヒトという兄弟が、両親が営んでいた小さな食料品店を引き継いだことに始まる。「Aldi」は瞬く間に企業として成長し、創業から10年後にはすでに100店舗のチェーンを展開。現代のディスカウントスーパーの先駆けとなった。しかし1961年、この兄弟は道を分かつことになり、テオが「Aldi Nord」、アルブレヒトが「Aldi Süd」をそれぞれ全く別の企業として経営することに。その理由について兄弟は沈黙を貫いたが、性格や経営方針の不一致など、さまざまなうわさが飛び交ったという。一方で、この別離はお互いの急速な発展も可能にした。現在、Aldi Nordは6万人の従業員と4700店舗、Aldi Südは14万8900人の従業員と6240店舗を抱えている。また、Nordはポーランド、デンマーク、オランダ、フランス、スペインなどに、Aldi Südはオーストリア、イタリア、英国、米国、オーストラリアなどに進出している。
ドイツの学校の始業はたいてい7時半~8時で、7時に始まる学校も。その昔、工場労働者や職人は朝が早かったため、始業が早いことは働く親にとって好都合だった。しかし現在は働き方が多様化し、子どもの健康面を考えると、始業を遅らせるべきとの声も。睡眠の専門家によれば、特に冬の間は午前8時より前は身体が眠っている状態だという。ただし、始業を遅くする場合は交通機関の時刻表の変更も必要で、社会全体の相当の準備が求められる。
ドイツで毎週日曜日に放送される「Die Sendung mit der Maus(だいすき! マウス)」は、1971 年に西ドイツで始まった子ども向け番組。オレンジ色のマウスとその仲間たちが
テクノミュージックとは、シンセサイザーやリズムマシンなどで構成される電子音楽のこと。1980年代後半から、デュッセルドルフを拠点に活動していた電子音楽ユニットの「クラフトワーク」をはじめとするグループが、電子楽器を操って新しい音楽を生み出し、テクノシーンがドイツで大きく発展していった。またこの頃、ベルリンの壁が崩壊し、旧東ドイツの建物や施設を利用したクラブなどが数多く誕生。言うなれば、テクノミュージックはドイツにとって新しい時代の到来を象徴するものでもあり、ベルリン市民たちはテクノミュージックとともにナイトライフを謳歌していた。当時のドイツには、世界各地からDJやプロデューサーが移住してくることもあったという。
あっちでもこっちでも殺人事件……ドイツのテレビはほぼ犯罪ドラマにジャックされているといっても過言ではない。FAZ.NETの社会部門編集者のマリア・ヴィーズナー氏によれば、善と悪がはっきりと分かり、最後には犯人を見つけて平和が訪れる、という決まったシナリオが人々に安心感を与え、人気の秘密だとか。そんなドイツ人の犯罪ドラマ好きを象徴するのが、今年放送50周年を迎える「Tatort(犯
罪現場)」。各都市が舞台のドラマシリーズで、毎週日曜20時15分から約1000万人が視聴。さらに、各地にはTatortを流す「Tatort-Kneipe(居酒屋)」まで存在するから驚きだ。





