石工
Steinmetz
マルクス・シュローヤーさん
年間約600 万人の観光客が訪れるドイツ最大の観光名所、ケルン大聖堂は157メートルの高さを持ち、ゴシック様式の建築物としては世界最大を誇る。この巨大なドームのたもとで風化や老朽化によって壊れたり、跡形もなくなってしまった柱や 石像を始めとする構造物の復元、改修が約60人の 石工の手によって日々進められている。
その中の一人がマルクス・シュローヤーさん(49)。14歳の時にこの道に入り、大聖堂での勤務は29年を数える大ベテラン。世界で最も古い職業の1つに数えられる石工になろうと思ったのは、7歳の時に墓石を作る職人の作業を見たのがきっかけだそう。「つなぎ合わせることなく、ある素材から1つの造形物を彫り出していくところに魅力を感じ」、家族の中で唯一人、職人の道を選んだ。熟練工となった今では、柱頭の模様を刻むような細かい作業を任されている。
一見すると芸術家のような仕事とも思えるが、「芸術家は最初から最後まで自由に自分の気持ちの赴くままに作品を作ることが許されるけれど、職人には制約された一定の枠の中でしか創造力を発揮することが許されない。特にドームではスタイルも決められているし、もしミケランジェロみたいな大芸術家が僕らの仕事をやったら、出来た作品は使い物にならないんじゃないかな」と笑う。
大聖堂で使われる石の種類は50以上で、イタリアやポーランドなどからも運ばれてくる。どの箇所に使われるのか、また修復前に使われていた素材、デザインなどを研究者らが吟味し、細かな指示をした上で石工たちは仕事に取り掛かることになるが、一旦ノミを手にしたら「自分と石だけの世界になる。他の人がどんな横槍を入れてこようが、軌道修正をすることはもはやできない」
砂塵にまみれ、肉体的にも負荷のかかる石工の仕事は決して楽な仕事ではないが、この職業を選んだことは一度も後悔したことがないと言い切る。何千年も前に先人がノミと金槌をふるったように、世界最高の文化遺産の1 つを次世代に受け継ぐために、 シュローヤーさんの工房からは未来へつながる音が響き続ける。
左)ノミ 100 本ぐらい所有。気分転換に替えると作業が進むこともあるそうだ
中)槌 右)ハンマー
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