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都市ガイドシリーズ⓫

2000年の歴史を誇る世界遺産の街アウクスブルクの魅力再発見!

16の個性豊かな州からなるドイツ。歴史や文化はもちろん、言葉も食もそれぞれ異なる。そんな魅力たっぷりのドイツ各地の都市を、一つずつスポットを当てて紹介していく「都市ガイドシリーズ」の第11回目は、ドイツ南部の古都アウクスブルク。ドイツで2番目に古い街であり、ロマンチック街道の発祥の地でもある。街中には美しい教会や噴水、さまざまな様式の華やかな建築など、街の随所でその歴史を感じられる。今号では、そんなアウクスブルクの魅力をたっぷりお届けする。
(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)

アウクスブルクの魅力再発見!

アウクスブルクってどんな街?

都市名:アウクスブルク(バイエルン州)
人口:29万51人(2019年)
面積:146.9 km²

ドイツ南部、ミュンヘンの北西に位置するアウクスブルク。紀元前15年にローマ皇帝アウグストゥスがこの地に駐屯地を開いたことからこの名前が付いたといい、その歴史は2000年以上に及ぶ。バイエルン州では、ミュンヘンとニュルンベルクに次ぐ3番目に大きい都市である。

15〜16世紀には、ドイツ有数の富豪であるフッガー家やヴェルザー家などによって金融都市として栄華を極めた。そのため「フッガー都市」(Fuggerstadt)と称されることもある。レヒ川とヴェルタハ川という二つの川に囲まれており、水に恵まれた街として発展。給水塔や水車、水路などの水の配給システムが街のあちこちに築かれ、それらは2019年に「アウクスブルクの水管理システム」として世界遺産に登録された。またモーツァルトの父レオポルト・モーツァルトの出身地としても有名だ。

このような長い歴史と繁栄の名残として、アウクスブルクの街中にはバロック様式やロココ様式など、さまざまな歴史的建造物が残されており、多くの観光客を惹きつけている。

アクセス

アウクスブルク中央駅
Augsburg Hauptbahnhof

● ミュンヘン中央駅から

ICEで約30分 / REで約40分

● フランクフルト中央駅から

ICEで約2時間50分

● ベルリン中央駅から

ICEで約4時間40分

● デュッセルドルフ中央駅から

ICEで約4時間10分

www.bahnhof.de

シティーツアー

アウクスブルクのシティーツアー

アウクスブルク市の観光局では、徒歩で回るツアーをはじめ、バスツアー、家族向けツアーなど、さまざまなシティーツアーを提供している。テーマ別ツアーも豊富に用意されており、「水の歴史」「フッガー家・ヴェルサー家の歴史を学ぶ」「夜の街歩き」「はだしで歩くアウクスブルク」など。同市観光局ウェブサイトからオンラインで申し込むか、もしくはツアー開始30分前までならツーリストインフォメーションでの申し込みが可能。
www.augsburg-tourismus.de

アウクスブルクのおすすめスポット

アウクスブルク地図

アウクスブルクに旅行で来たり、引っ越してきたりした人はぜひ訪れるべき、おすすめスポットをご紹介。

Rathaus Augsburg① アウクスブルク市庁舎

アウクスブルク市庁舎
アウクスブルク市庁舎

アウクスブルク出身の建築家エリアス・ホルによって1615〜1620年に建てられた、ドイツ・ルネサンス様式の最高傑作ともいわれる市庁舎。建物中央に見える黒いワシのマークが、アウクスブルクがかつて帝国自由都市であったことを示している。市庁舎4階にある「黄金の間」は、大富豪フッガー家によって最盛期を誇っていたアウクスブルクの象徴でもあり、見どころの一つ。

Rathausplatz 2, 86150
※2024年8月より「黄金の間」は改修工事予定。

Augsburger Dom② アウクスブルク大聖堂

アウクスブルク大聖堂

シンパート司教によって805年に創設され、その後11〜12世紀に西側部分がロマネスク様式、14〜15世紀に東側部分がゴシック様式で再建された。特に有名なのが、1140年に制作された世界最古のステンドグラス。旧約聖書に登場するダビデ王をはじめとした5人の預言者が描かれている。ほかにもハンス・ホルバインの肖像画など、随所に歴史的価値の高い絵画や装飾が見られる。

Frauentorstr. 1, 86152

UNESCO Welterbe „Augsburger Wassermanagement-System“③ 世界遺産「アウクスブルクの水管理システム」

アウクスブルクの水管理システム

レヒ川とヴェルタハ川に挟まれたアウクスブルクは、700年にわたって運河や水路が築かれた水の都でもある。給水塔やポンプ場、美しい噴水や水車が残っており、1545年から飲水と生活用水が分けられるなど、技術面でも卓越した水管理システムを持っていた。これらの計22施設が、「アウクスブルクの水管理システム」として2019年に世界遺産に登録されている。市街地を散歩しながら見られるおすすめの施設としては、「Lechkanäle」(A)、「Unteres Brunnenwerk」(B)、「Herkulesbrunnen」(C)など。

Aegidienkirchhof 1, 30159

Römerlager im Zeughaus④ ローマ博物館

ローマ博物館

紀元前8世紀、古代ローマ人たちが野営地を築いたことが起源となったアウクスブルク。この博物館の常設展「Römerlager. Das römische Augsburg in Kisten」では、ローマ人が定住し、後に州都となった「アウグスタ・ヴィンデリクム」時代の出土品が展示されている。

Zeugplatz 4, 86150

Fuggerei⑤ フッゲライ

フッゲライ

15〜16世紀に鉱山・金融業で富を築いた富豪フッガー家が寄贈した、世界最古の社会福祉住宅。140あまりの住居があり、現在でも福祉住宅地として使われている。入居条件はアウクスブルク市民であること、カトリック信者であることなど。家賃も年に1ライングルデン(約0.88セント)と、創設当初から今も変わっていない。13番の建物は博物館となっており、住居内部や設備などを見学することができる。

Jakoberstr. 26, 86152
www.fugger.de

Parktheater im Kurhaus Göggingen⑥ クアハウス劇場

クアハウス劇場

1886年にオープンした、鉄骨とガラスだけで造られたバロック様式の美しく豪華な劇場。演劇やコンサート、文化イベントなどの魅力的なプログラムを実施している。公演などがない日であれば、毎日9〜18時に劇場を無料で見学することができる。劇場前に広がるクアハウス公園も、英国式の美しい庭園で一年中楽しめる。

Klausenberg 6, 86199
www.parktheater.de

Schaezlerpalais⑦ シェッツラー宮殿

シェッツラー宮殿

銀行家のベネディクト・アダム・リーベルトが18世紀後半に建てさせた宮殿。アウクスブルクを代表するロココ建築で、特に大広間「祝祭の間」は目を見張るような豪華さだ。この大広間では、かのマリー・アントワネットが1770年に行われた祝賀舞踏会で踊り明かしたといわれる。現在は、1階はドイツ・バロック美術館、2階は州立美術館となっている。

Maximilianstr. 46, 86150
https://kunstsammlungen-museen.augsburg.de

Augsburger Puppenkiste⑧ 人形劇シアター&ミュージアム

Augsburger Puppenkiste

アウクスブルガー・プッペンキステは、1948年に設立された人形劇団。1950年代には多くのテレビ番組で人形劇が放映されるようになり、ドイツで知らない人はいないといわれるほど有名になった。「ブレーメンの音楽隊」「ラプンツェル」「ホレおばさん」など、さまざまな演目が上演されている。人形劇博物館も併設されており、同劇団の歴史を知ることができる。

Spitalgasse 15, 86150
www.puppenkiste.com

アウクスブルクを味わおうおすすめのグルメ

Brauhaus Riegeleリーゲレ醸造所

リーゲレ醸造所

アウクスブルクで1386年からビールを造っているリーゲレ醸造所。ドイツの伝統的な手法を守りつつ、現オーナーのセバスティアン・P・リーゲレ氏は2011年のビアソムリエチャンピオンにも輝いており、独創的なクラフトビール造りも行っている。中央駅からもほど近い醸造所と併設レストランで、おいしいビールとドイツ料理を楽しもう。

Frölichstr. 26, 86150
www.riegele.de

Zwetschgendatschiツヴェトシュゲンダッチ

ツヴェトシュゲンダッチ

アウクスブルクには「ダッチブルク」(Datschiburg)というニックネームがあるのをご存知だろうか。「Datschi」とは、イーストを使った生地の上に季節のフルーツ(プラムやリンゴ、イチジクなど)を並べた焼き菓子で、アウクスブルクの名物でもある。アウクスブルクの多くのレストランやカフェでこのケーキを食べられるので、ぜひ味わってみて。

古都アウクスブルクを持ち帰ろうおすすめのお土産

松ぼっくりチョコレートPralinenzirbelnüsschen

松ぼっくりチョコレート

アウクスブルクの街の紋章は「松ぼっくり」。古代ローマで豊穣や繁栄を表すシンボルだったことに由来する。アウクスブルク市庁舎の屋上や、市庁舎前のマンホールなどでも松ぼっくりのシンボルを見ることができる。アウクスブルクの老舗製菓店「DICHTL」の松ぼっくりの形をしたチョコレートをはじめ、松ぼっくりにちなんだお土産が手に入る。
https://dichtl.de

アウグスト・ジンAUGUST Gin

AUGUST Gin

アウクスブルクで造られている、クラシックなロンドンドライジン。シュヴァーベン地方の最高級のオーガニック原料をベースにしている。ボトルネックに書かれた「Nunc est bibendum」(ラテン語で「さぁ、飲もう」)とは、ローマ時代の詩人ホーレスの歌に出てくる一節で、アウクスブルクが古代ローマ時代に設立されたことを物語っている。
https://augustgin.de

アウクスブルクをもっと楽しむヒント

歴史ある古い街ならではのスポットや、豊かな市民生活が垣間見えるスポットが豊富なアウクスブルク。その中から地元民のおすすめをいくつかご紹介する。(文・写真:見市知)

市民の憩いの庭園

ホーフガルテン(Hofgarten)

大聖堂の裏手にあるホーフガルテン(Hofgarten)は、アウクスブルク市民のオアシス。かつて司教邸宅の一部だった庭園が1965年以降、全ての人に開放された。バロック風の小人の石像が立ち並び、美しい花々に囲まれた小さな池と噴水の周りで、訪れる人たちはピクニックをしたり読書したり、自分の家の一部のような感覚で思い思いにくつろぐことができる。ドイツの街中でよく見かける無料本棚も設置されており、天気のいい日は時間を忘れてゆっくりできる空間だ。

街を救った伝説のパン職人

パン職人コンラート・ハッカー

30年戦争の英雄譚「パン職人コンラート・ハッカー」。1634〜35年にかけて帝国軍に街を包囲されたアウクスブルクは食糧難に陥った。そのとき、パン職人コンラートは材料をかき集めて巨大なパンを焼き、それを持って城壁の上から「アウクスブルクに食糧がある」という偽情報を敵に与えた。コンラートは敵の砲弾によって亡くなるが、その行いによって街を守ったという。往時の雰囲気を残す城壁に囲まれたSchwedenstiegeに、コンラートの記念碑がひっそりとたたずんでいる。

市場の一角に地元ベーカリーがずらり

アウクスブルクのシュタットマルクト

市民の台所、アウクスブルクのシュタットマルクト(Stadtmarkt)。ここの見どころの一つが、複数の地元ホームベーカリーがずらりとカウンターを並べている一角だ。アウクスブルクを含むシュヴァーベン地方で昔から栽培されてきた小麦の古代品種ディンケル(スペルト小麦)のパンや、バイエルンでおなじみのブレーツェルなど、ご当地パンの数々が味わえる。近年人気の高い、ヴィーガンに特化したケーキやパンを売るコーナーも。ベーカリーの自家製ジャムもおすすめ!

ドイツで最も祝日の多い街アウクスブルクだけにある平和祭

ドイツでは、州によって祝日の数が異なる。最も多いのがバイエルン州とバーデン=ヴュルテンベルク州で年間12日、最も少ないのがベルリンやハンブルクなどの7州で10日となっている。さらにバイエルン州では一部地域限定の祝日があり、その一つが8月8日の「アウクスブルク平和祭」(Augsburger Hohes Friedensfest)だ。これはアウクスブルクだけのローカルな祝日。そんな祝日が計14日ある同市が、ドイツで最も「おめでたい街」になった歴史をひも解く。
(文・写真:見市知)

アウクスブルク平和祭の日アウクスブルク平和祭の日、市庁舎前広場では恒例のブランチ大会が開催される

宗教改革までさかのぼる平和祭の始まり

アウクスブルク平和祭の歴史は、30年戦争(1618-1648)にまでさかのぼる。30年戦争は、1517年に始まった宗教改革に端を発し、カトリックとプロテスタントの対立が欧州各国の複雑な戦争に発展したもの。1648年のヴェストファーレン条約によって終結した。それから2年後の1650年以降、「平和祭」がアウクスブルクで祝われるようになった。

なぜアウクスブルクだけにこの祝日があるのか。そこには、宗教改革以来のこの街独特の経緯がある。宗教改革後、プロテスタントの存在が初めて公に認められたのは、1555年の「アウクスブルクの宗教和議」のときのこと。「領主の宗教がその地の宗教」という原則が定められ、人々は自分が住む場所の領主の宗教に従わなければならなかった。しかしアウクスブルクなどの帝国都市では例外が認められ、カトリックとプロテスタント両方の信徒の居住が可能だった。しかし30年戦争が始まるとこの均衡は崩れ、1629年に神聖ローマ皇帝フェルディナンド2世により発令された復旧令により、帝国都市に住むプロテスタント信徒はさまざまな権利を失う。プロテスタントの礼拝は禁止され、屋外でのみ礼拝が可能になった。

市庁舎前に並べられたブランチ大会のテーブル市庁舎前に並べられたブランチ大会のテーブル

30年戦争を終結させ、あらためてプロテスタントの権利を認めたヴェストファーレン条約は、帝国都市に住むプロテスタント信徒にとって特別な意味を持っていた。プロテスタント信徒たちは信仰の自由が認められたことに感謝し、毎年平和祭を開いてお祝いするようになったのだ。当初、ニュルンベルクなどほかの帝国都市でも同様の趣旨の平和祭を祝っていたが、時代とともにこの日を祝うのはアウクスブルクだけになっていく。1950年にアウクスブルク平和祭が公の祝日に制定され、2018年からはドイツユネスコ委員会により無形文化遺産として保護されている。

毎年恒例イベントは市庁舎前のブランチ大会

8月8日のアウクスブルクでは、市庁舎前の広場いっぱいにベンチとテーブルが並び、「フリーデンスターフェル」(Friedenstafel)と呼ばれる巨大ブランチ大会が催されるのが恒例となっている。参加者は家から料理を持ち寄り、隣り合った人たちと交流するという趣向だ。

それぞれ料理を持ち寄って交流する市民たちそれぞれ料理を持ち寄って交流する市民たち

ヴェストファーレン条約から約400年を経た現代、カトリック信徒とプロテスタント信徒が食卓を共にすることは特別なことではなくなった。むしろ宗派に基づくアイデンティティは薄れ、教会を脱会する人の数も増え続けている。現代におけるフリーデンスターフェルは、キリスト教という宗教の垣根を超えて、異なる民族、信仰の人たちが食卓を共にする場所となっているのだ。

かつて血を流し合った宗派の対立を経て、400年近く平和祭を祝い続けてきた街アウクスブルク。8月8日のブランチ大会には、そんな特別な意味と人々の祈りが込められている。

ライター / 見市知 Tomo Miichi
ドイツ在住ライター。東西ドイツ再統一の年に渡独し、現在はアウクスブルクに住む。著書に『ドイツ クリスマスマーケットめぐり』『ドイツで100年続くもの』(いずれも産業編集センター)など。
X:@gutereise_
 
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