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Wed, 17 December 2025

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ジャケット・アート再発見

音楽もダウンロードで入手できるこの時代、レコードはおろか、CDさえも買わないという人が増えてきた。いまやジャケットのアートワークが持つ価値や意義は、すっかり失われてしまったのだろうか。そこで今回は、UKロックの歴史を辿りながら、これまで生み出されてきた名盤の数々を、ジャケット・デザインの観点からもう一度、振り返ってみたい。正方形の中で繰り広げられる無限のアートを、今こそ再発見する時!(黒澤 里吏)

60s ジャケット・アート開拓期

英国における大衆音楽の分野で、レコード・ジャケットが表現方法の一つとして重要視されるようになったのは、やはりビートルズ以降と言えるだろう。それまでは、バンドのメンバーがただ笑っているだけの写真を使ったものがほとんどだったが、ビートルズはまずセカンド・アルバム「With the Beatles」で、笑っていない4人を写した渋いモノクロームの肖像で新しい世界観を示した。以降、新作ごとに画期的な試みを取り入れ、とりわけ「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」は、ジャケットに初めて歌詞を載せたアルバムとして有名。ビートルズが打ち出した新しい表現は後世に多大な影響を与え、今でも何度となく模倣されている。

また、米西海岸に端を発するLSDカルチャーはサイケデリック音楽を生み、それに伴ってジャケット・アートも発展。英国では先に述べたビートルズ の「Sgt. Pepper's~」に影響が見られるほか、クリームはアルバム「Disraeli Gears」で、ボブ・ディランの作品などでも知られるマーティン・シャープを起用し、その音楽性をダイレクトに反映した圧倒的なカバーを完成させた。サイケデリック・ロックはその後、キング・クリムゾンなどに代表されるプログレッシブ・ロックへと発展し、ブリティッシュ・ロックの新しい分野を確立することとなる。

Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (1967)
The Beatles

Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Bandポールによる下絵をもとに、ポップ・アーティストのピーター・ブレイク卿がデザイン。4人の背後には彼らがヒーローと崇める歴代の著名人たちが勢揃いしている。当初、ジョンはヒトラーも候補に挙げていたが、撮影当日に却下されることとなった。(写真提供:Toot'n Reg)

Disraeli Gears (1969)
Cream

Disraeli Gears60年代にサイケデリック・アートの一時代を築いたオー ストラリア人アーティスト、マーティン・シャープの傑作。ビクトリア時代の版画も取り入れた絢爛(けんらん)なデザインだ。シャープは収録曲「Tales of Brave Ulysses」で歌詞も提供している。(写真提供:Toot'n Reg)

In The Court Of The Crimson King (1969)
King Crimson

In The Court of The Crimson Kingクリムゾン作品の歌詞を担当していたピート・シンフィー ルドの友人で、コンピューター・プログラマーのバリー・ゴドバーが自画像として描いた作品。ゴドバーは本作リリース直後の1970年に、心臓発作により24歳の若さで急逝している。(写真提供:Russell Taylor)

Abbey Road (1969)
The Beatles

Abby Road1969年8月8月、レコーディ ングを行った「EMI」のアビー・ ロード・スタジオ前で撮影され た、あまりにも有名な1枚。こ ちらもポールによるスケッチが 原案。フォトグラファーのイア ン・マクミランが撮影にかけた 時間はたった10分だという。(写真提供:Satori K)

Ogdens’ Nut Gone Flake (1968)
Small Faces

Ogdens’ Nut Gone Flakeベーシストのロニー・レーンが、当時マリファナ入れとしてよく使われていたタバコ缶に着想を得て、ビクトリアン・デザインのパッケージで有名なタバコ会社「オグデンズ」に協力を仰ぎ制作。12インチのオリジナル盤は見開き5面の円形ジャケット。(写真提供:Toot'n Reg)

The Who Sell Out (1967)
The Who

The Who Sell Out The Whoの3作目となる、ラジオ局とCMをテーマにしたコンセプト・アルバム。ジャケットも商品広告を意識しており、前後面をそれぞれパネル状に2分割し、各メンバーが巨大化された食品や日用品を手にしているというポップなデザイン。(写真提供:Nick Collins)

70s バンドの「色」をジャケットに投入

70年代は音楽が産業として大きく発展した時代。さまざまなムーブメントが生まれ、スタイルが分化されていく。そしてロキシー・ミュージックやデヴィッド・ボウイに代表されるように、バンドやミュージシャンは自身のパブリック・イメージにこだわりを持ち、自らアート・ディレクションを手掛けるなど、アートワークや演出により重点を置くようになる。

それまでジャケット制作は、レコード会社の専属スタッフによりインハウスで行うことがほとんどだったが、この頃から独立系デザイナーを起用するバンドも出てくる。その代表格が、ストーム・ソーガソンが所属するデザイン集団、「ヒプノシス」に制作を依頼したピンク・フロイドだ(彼らはビートルズの次に「EMI」社から外部デザイナーの起用を許可されたバンドだった)。一方、ローリング・ストーンズは独自のレーベルを立ち上げ、その1作目として「Sticky Fingers」を発表。アンディ・ウォーホルがデザインしたジャケットが話題を呼び、以降もセンセーショナルな作品を次々と生み出していく。

また、70年代後半のパンク・ムーブメントは、そのDIY精神とともに多大なインパクトをもたらした。「パンクは過去100年の間に起こった数々の運動、たとえばロシアのアジプロ、ダダイズム、シュールレアリズム、シチュエーショニズムなどに根ざしたムーブメントの一つと捉えている」と語るアーティストのジェイミー・リードは、アンバランスな帯に新聞の見出しから切り取ったランダムな文字列を配したり、ユニオン・ジャック柄や安全ピンなどを用いたりして、時代のイコンとなったセックス・ピストルズのイメージを完璧なまでにグラフィックで表現した。

Wish You Were Here (1975)
Pink Floyd

Wish You Were Hereデザイン・グループ「ヒプノシス」のストーム・ソーガソンがタイトルとアートワークを担当。シド・バレット脱退後ともあって「不在」をテーマにしており、炎に包まれ燃えている男が握手しているイメージは、初対面の際に本心を明かすことを嫌う人間心理を象徴しているとされる。(写真提供:Nick Collins)

Sticky Fingers (1971)
The Rolling Stones

Sticky Fingers本物のジッパーが付いた斬新なカバーは、アンディ・ウォーホルの発案。ジッパーを下ろすと、後にバンドのロゴとなるベロ出しリップ柄を施したブリーフのカードボードが現れる。同作は猥褻との理由で物議を醸し、スペイン盤は別デザインに変更された。※ 写真は一部破損(写真提供:Nick Collins)

Animals (1977)
Pink Floyd

Animalsストーム・ソーガソンのデザイン。巨大なブタの風船をロンドンのバタシー発電所上空に飛ばし、3日間かけて撮影。途中、風船が空高く飛んで行ってしまい、一時は警察も出動する騒ぎとなったが、最終的にケント州の農場にほぼ無傷で着地したのだとか。(写真提供:Nick Collins)

Barrett (1970)
Syd Barrett

Barrrettピンク・フロイド創始者の一人、シド・バレットのソロ2作目にして最後のスタジオ・アルバム。もともと画家志望でアート・スクール出身のバレットが自ら描いた昆虫の絵に、絶妙なタイポグラフィによるタイトルが添えられた、儚さが漂う美しい1枚。(写真提供:Nick Collins)

Some Girls (1978)
The Rolling Stones

Some Girlsハリウッド女優たちとバンドのメンバーが交互に配された内ジャケットの写真が、外ジャケットの切り抜かれた顔部分からのぞくという凝った仕様。レーベル側が女優たちに正式に許可を取らなかったことから、後に裁判沙汰に発展した。(写真提供:Satori K)

Roxy Music(1972)
Roxy Music

Roxy Musicバンド・メンバーの50'sスタイルへの愛好を反映したデザインは、その後ロキシー・ミュージックのアートワークを数多く手掛けたニック・ドヴィルが担当。カバー・ガールは、後にミック・ジャガーの弟、クリス・ジャガーと結婚した、カリ=アン・ミュラー。(写真提供:Toot'n Reg)

Physical Graffiti (1975)
Led Zeppelin

Physical Graffiti通算6作目となる2枚組アルバムで、ニューヨークの4階建てフラットの写真を使用。内ジャケットに描かれた人物写真や絵が、外ジャケットのくり貫かれた窓部分から見える仕掛け。1976年のグラミー賞でベスト・アルバム・カバー賞に選出されている。(写真提供:Toot'n Reg)

Brain Salad Surgery (1973)
Emerson, Lake & Palmer

Brain Salad Surgeryスイス人画家でデザイナーのH・R・ギーガーによる原画を採用。表面は2枚仕立てで、観音開きのトップ面を開くと女性像が現れる。後に映画「エイリアン」のデザインを手がけて世界的に人気を博したギーガーの、初の公式作品としても有名。(写真提供:Nick Collins)

Do It Yourself (1979)
Ian Dury & The Blockheads

Do It Yourselfアート・スクール出身のイアン・デューリーも絶賛のグラフィック・アーティスト、バーニー・バブルズがデザインしたバンド2作目のアルバム。背景に使われているのは壁紙のサンプルで、12以上のパターンが制作された。バブルズは1983年に自殺。(写真提供:Nick Collins)

Never Mind The Bollocks, Here’s The Sex Pistols (1977)
The Sex Pistols

Never Mind the Bokkocksセックス・ピストルズのアートワークといえば、ジェイミー・リード。どぎつい色にランダムなレタリングを配した、シンプルながら強烈なデザイン。これ以上ないほどの粗さとインパクトの強さが、バンドのイメージに完全マッチ。(写真提供:Kaz)

Go 2 (1978)
XTC

Go 2「ヒプノシス」による高いデザイン・コンセプトをもつ1枚。「This is a RECORD COVER」から始まって、機械的で皮肉めいた解説が続き、読んでいるとまるでロボットが喋るのを聞いているような感覚に陥る。音もジャケットに違わず斬新で前衛的。(写真提供:Nick Collins)

80s レーベルの個性が際だつ時代

ポップ・スターが記録的ヒットを量産する一方で、続々と生まれた独立系レーベルが精力的な活動を展開した80年代。なかでもインディ・ムーブメントの担い手、ザ・スミスを送り出したレーベル「ラフ・トレード」の存在は大きい。そして同じころ、マンチェスターでは「ファクトリー・レコード」社が新たなムーブメントを生み出そうとしていた。同レーベルの専属デザイナーとして活動を始めたピーター・サヴィルは、ニュー・オーダーなどを手掛けて注目を集める。また、「4AD」社はヴォーガン・オリバーをデザイナーに迎え、独自の世界を築いた。個性がより生かされ、表現の幅もますます広がっていくなか、CDという新たなフォーマットの登場により、ジャケット・デザインは大きな転換期を迎える。

Low-Life (1985)
New Order

Low-Lifeグラフィック・デザイナーのピーター・サヴィルは、もう一人のメンバーと言っても過言ではないほど、デザイン面でバンドと密接に関わってきた。フロント・カバーの人物は意外な抜擢、ドラムのステファン・モリス。トレーシング・ペーパーの効果が生きたクリアでミニマルなデザイン。(写真提供:M.E)

Welcome To The Pleasure Dome (1984)
Frankie Goes To Hollywood

Welcome To The Pleasure Dome性的な歌詞が問題になり放送禁止となった大ヒット作「Relax」 や、米ソ冷戦を批判した「Two Tribes」等で一世を風靡したFGTHのデビュー作。このカバー絵は、当時アート・スクールを出たばかりだったロ・コール作。(写真提供:M.E)

Doolittle (1989)
Pixies

Doolittleニルヴァーナやレディオヘッドなどにも多大な影響を与えた米国出身の彼らは、デモテープを英レー ベル「4AD」に気に入られて英国からデビュー。アートワークはヴォーガン・オリバーが一貫して 担当しており、サウンドに合ったシュールで退廃的なイメージ。(写真提供:Nick Collins)

The Sky’s Gone Out (1982)
Bauhaus

The Sky's Gone Out20年代のドイツの芸術活動「バウハウス」に名を借りた彼らは、ゴシックの元祖。ライブでは常に黒い衣装を身にまとい、ストロボ・ライトの閃光による演出のもと、ダークで激しい音を鳴らしていた。これはそんな彼らの表現活動をビジュアル化したような1枚。(写真提供:Nick Collins)

Meat Is Murder (1985)
The Smiths

Meat is Murder菜食主義を声高に訴えた名作。スミスのカバーのほとんどはモリッシーが選んだ古い映画や写真のイメージだが、本作では1968年のドキュメンタリー映画「亥年」のカットを採用。ヘルメットに書かれていたオリジナルのスローガンは「Make War Not Love」。(写真提供:Kaz)

Bummed (1988)
Happy Mondays

Bummed伝説のクラブ、「ハシエンダ」で見出されてファクトリー・レコードと契約。後に全盛となるマッドチェスター・ムーブメントの先駆けとなった1枚で、同ムーブメント関連のアートワークの担い手だった「セントラル・ステーション・デザイン」がカバーを担当。(写真提供:M.E)

90s - 00s 12インチから12センチへ

マッドチェスター、ギター・ポップ、エレクトロニカなど、新ジャンルが次々生まれると同時に、CDが完全に主流となった90年代。大判のレコード・ジャケットに心を躍らせる人の数は圧倒的に少なくなった。反面、デザインのデジタル化も進み、今までとは全く異なるアプローチの表現が可能となったうえ、ブックレットという形の12センチ四方のアートが新たに生まれたことも事実だ。コンピューターの普及なども手伝って、バンドのメンバーが自らアートワークを手がけることも珍しくなくなった。

2008年夏、ピーター・サヴィルは「アルバム・カバーの時代は終わった」と発言。音楽ダウンロードが一般的になり、価値観が変わりゆくなかで、ジャケット・アートは今後どう変化を遂げるのだろうか。

Screamadelica (1991)
Primal Scream

Screamadelica90年代のマッドチェスター全盛期を代表するアルバム。音、アートワークともに当時のドラッグ文化の影響をモロに反映。前面にタイトルなどが一切入っていないにもかかわらず、バンドおよびEカルチャーの出現を象徴する1枚として広く認知された。(写真提供:Satori K)


Dubnobasswithmyheadman (1993)
Underworld

Dubnobasswithmyheadmanメンバーのカール・ハイドとリック・スミスが所属するデザイン集団、「トマト」の作品。混迷するラインと文字を配した過不足のないデザインは、エレクトロニック・ビートとカットアップの美学を見事に反映。ダンス・アルバムのデザインにおける新基準となった。(写真提供:Satori K)

Mezzanine (1998)
Massive Attack

Mezzanineメンバーの1人でデザイナーの3Dは、自然史博物館のために昆虫の写真撮影をしていた経験もあるファッション写真家、ニック・ナイトの作品を起用。南米産の珍種カブト虫の頭部写真に特殊加工を施し、シャープで危険、かつ力強いイメージを完成させた。(写真提供:Satori K)

You Could Have It So Much Better (2005)
Franz Ferdinand

You Could Have It So Much Better今や飛ぶ鳥落とす勢いの、グラスゴー出身の4人組。全員アート・スクール出で、ビジュアル・イメージも自ら手がける多才ぶり。2作目となる本作では、ロシア構成主義を代表する前衛芸術家、アレキサンダー・ロドチェンコの作品をモチーフにしている。(写真提供:Satori K)

Kid A (2001)
Radiohead

Kid A1994年以降、バンドの全作品のアートワークを担当しているスタンリー・ドンウッドが本作で描いているのは、熱と冷気が一度に迫ってくるような、山脈を中心とする風景。ドイツの画家、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒなどからの影響も見て取れる。(写真提供:Satori K)

Hey! Venus (2007)
Super Furry Animals

Hey! Venus通算8作目となる本作では、2作目以降、全作品のカバー・デザインを担当してきたピート・ファウラーに代わって、日本人アーティストの田名網敬一を起用。バンド・メンバーが来日時に田名網氏の作品を見て「ブッ飛んだ!」ことから採用が決まったという。(写真提供:Chinami)

名盤はパクられてナンボ!?

世にパロディものは多々あれど、ビートルズほどその対象となったバンドはないだろう。かなりの数のパロディが出回っている 「Abbey Road」をはじめ、彼らのジャケットでコピーされなかったものはないとまで言われているほどだ。例えば米国の覆面前衛芸術集団、The Residentsのファースト・アルバム「Meet The Residents」(写真左)は、「Meet The Beatles」からデザインとタイトルを借用。EMI がこれに憤慨して告訴すると騒いだが、実はジョージとリンゴはこれを気に入り、自ら購入したという噂だ。ほかに「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」などもよくパロディ化されている。写真右はその一枚、80年代のガレージ・コンピ盤 「Graveyard Stomp」。


(写真提供:Nick Collins)


コレクターの的になる 世間を騒がせたレコード

ロキシー・ミュージック「Country Life」、R・ストーンズ「Beggars Banquet」(写真左) など、猥褻、悪趣味、冒涜表現などで物議を醸し、デザイン変更を余儀なくされたカバーは、後にコレクターズ・アイテムとなって高値で取引されていることが多い。例えば写真の通称「ブッチャー・カバー」、ビートルズの「Yesterday And Today」(同右)。白衣を着たメンバーが解体された赤ん坊の人形と肉片を手に微笑む姿は、あまりに不気味で制作意図を疑うが、背景には彼らの意思を無視したレコード会社への反抗などの理由があった様子。しかしやはり悪趣味すぎるため、発売後、回収されて別カバーに変更。オリジナル盤には相当な高値がついている。


(左写真提供:Nick Collins、右写真提供:Satori K)

お気に入りのカバーをご紹介

Hey! VenusSuperfuzz Bigmuff
Mudhoney

Nick(「All Ages Records」オーナー)
80年代の終わりごろ、地元のリーズである日、なじみのレコード屋の前を通りかかったら、このジャケットが目に飛び込んできたんだ。思わず「うわっ!なんだよこれ!」って。即買いして家で聴いたら、これまたブッ飛んじゃってさ。忘れられない体験だね。
Long IslandLong Island (single)
Gorilla Angreb

Ayako(「All Ages Records」スタッフ)
ジャケットはいつも、写真よりイラストの方に惹かれますね。これはロンドンで見つけたデンマークのバンドのシングル盤なんですが、インパクトのある絵と色合いが好き。実はTシャツも持ってます。残念ながら、このバンドはもう解散しちゃったんですけどね。
Jesus Meets the StupidsJesus Meets The Stupids
Stupids

Philippe(音楽プロモーター)
英国のハードコア・バンドなんだけど、イラストがまずいいよね。さらに裏面のスケボーしてるメンバーの写真を見て気に入って、音を聴いたらやっぱり好きだった。この1枚で彼らのことを知って、過去のアルバムも遡って全部聴いたよ。
Up All Night! 30 'Northern Soul Classics'Up All Night! 30 'Northern Soul Classics'
VA

Etsu(グラフィック・デザイナー)
90年代後半に雑誌でノーザン・ソウルの記事を読んで興味を持ち、大阪のレコード屋で購入。見た瞬間「音もいいはず!」と思ったのを覚えてます。実際、全曲当たりで踊れる曲が満載でした。いつか本場英国のシーンを体験したいという気持ちも芽生えましたね。
In The Land Of The Blind Oneeyed Is KingIn The Land Of
The Blind Oneeyed Is King
Mika Vainio

Taigen(「BO NINGEN」 Vo.&Bass)
フィンランドでPAN SONICっていう音響ユニットを知ったんですが、Mikaはその1人なんですね。後日、ロンドンであるアーティストのライブに行った時、会場でこれを発見。写真も一目で気に入って購入しました。いろんな意味で、聴く時間を選ぶ作品ですね。
Plastic AshtrayPlastic Ashtray (Single)
Urusei Yatsura

Russell(ミュージシャン)
自分が音楽をやるきっかけになったバンドなんだ。18歳の時にジョン・ピールのラジオで聴いたのが初めての出会い。以来、ライブに通って、そのうち彼らの活動を手伝うようにまでなって。ジャケットもみんなカッコいいんだけど、これは特にお気に入り。
Inside In / Inside OutInside In / Inside Out
The Kooks

Lono(音楽コーディネーター)
写真に惹かれてジャケ買いしたら、音も良くてライブもサイコー!私自身、しばらく音楽業界から離れていた時期だったんですが、彼らのライブを見に行って業界に戻る決意を固めました。しかも私、街でよく彼らに会うんですよ。不思議な縁を感じますね。
Cosmic Slop Cosmic Slop
Funkadelic

Aruta(変態絵描き)
アルバム・ジャケットのアートワークには自分自身、すごく影響を受けてます。これはカムデンのレコード屋で見つけて即買い。もともとCDで持ってたんですが、この絵はやっぱり大きいサイズで持ちたいと思って。カオスな感じがたまりませんね。
Radiator Radiator
Super Furry Animals

Chinami(グラフィック・デザイナー)
デビュー当時から音は好きだったけど、この、ピート・ファウラーが手掛けた2作目のジャケにハートを射抜かれちゃって!以来、大ファンになって、毎回新作が出るのを心待ちにするほどでした。SFAの音ともピッタリで、最高のコラボだったと思います。
6 For A Fiver6 For A Fiver
Short Bus Window Lickers

Pasty(パンク・ロッカー)
実はこれ、友達のバンドなんだけどね。ジャケットに使ってるのは道端に落ちてた手袋なんだよ。ほら、よく見るとあちこち汚れてるんだけど、いい味出してるだろ?音は一言でいうとストリート・パンク!ちょっとバカげてて、これまたサイコーなんだ。
 

英国人の言い訳術

各界の第一人者から学ぶ、英国人の言い訳術

世間では、ラジオ番組の収録でおふざけが高じた人気コメディアンと司会者が総スカン状態となっているようです。しかしこのお2人、ひたすら謝るだけであまり芸がない。そこで今回は、英国人がこれまでこうした修羅場において、どのような言い訳を繰り出してきたかを振り返っていただきたいと思います。各界の第一人者たちが残した迷言の数々から、英国流の言い訳術を学び取っていただけたら幸いです。

(すばよしこ)

ラッセル・ブランド&ジョナサン・ロス*英国人コメディアンのラッセル・ブランド、テレビ司会者ジョナサン・ロスが、BBCのラジオ番組内で、コメディ俳優アンドリュー・サックス氏の孫娘と性的関係を持ったとする内容を同氏の留守番電話に残すという悪ふざけを行った。これが聴取者などからの抗議を呼び、後日発表した声明の中で、両者は共に謝罪した。

芸能人

聞かれた質問には、とりあえず適当に答える
モデルは、歌手のジョージ・マイケル

‘Prescription drugs. And I was tired.’
「処方薬。そして疲れていたから」
ジョージ・マイケル

解説
2006年2月、自家用車を運転していたマイケル氏は、信号待ちしている最中に運転席で違法薬物を吸入、車内で意識を失った。また同年10月にも同様の理由で車内で倒れているところを通行人に発見され、警察に通報されるという事件が発生。同月に行われた裁判では、所持していた薬物は合法的なものであり、倒れていた理由を「疲れていたから」と説明した。

在英邦人への教訓
このときの裁判で検察側は、「何を摂取していたのか、そしてなぜ倒れていたのか」を聞くことによって、マイケル氏による違法薬物の所持を立証しようとしていました。それに対するマイケル氏の答えは、「処方薬であり、疲れていたから」。口八丁手八丁のイメージがある芸能人ですが、意外と言い訳するのが下手なようです。違法薬物を吸引して卒倒した直後に病院へと搬送されたマイケル氏は、そこで薬物の中毒症状が出ていると診断されているのですから、ただ単に「疲れていた」だけで済む問題ではないことは明らか。ただこの回答で一つ見習うべきことは、不器用ながら質問には答えようとしていることですね。その誠意だけは、評価してあげましょう。

まだある芸能人の言い訳術

「眠かったから」
エイミー・ワインハウス(歌手)
かねてから薬物中毒の疑いが持たれ、その奇行が注目を集めていた歌手のエイミー・ワインハウスが、下着姿で一般道を歩いていたことに対して弁解。なぜ眠いと下着姿で路上を歩くのか、という理由についてのはっきりとした説明はなかった模様です。

「ブリーチ剤を吸ってしまったから」
ピーチズ・ゲドルフ(タレント)
2006年に薬物吸引で卒倒した挙句に病院へと運ばれた彼女は、その理由を「自身の髪を脱色するために用意したブリーチ剤を吸い込んでしまったから」と説明。その奇妙な理屈が、薬物中毒を疑われる理由となっていることに彼女はまだ気付かなかったのでしょう。

「抗生剤を飲んでいたから」
カプリス(モデル)
英国在住の米国人モデル、カプリスが、検問にて飲酒運転が発覚した後に、裁判所で行った発言。抗生剤と飲酒検問の関係性の説明はなし。ボキャブラリーの貧困さが原因なのか、芸能人の言い訳術には、首をかしげてしまうようなものが多く見られます。

スポーツ選手

単純明快な口実は、小粋な言い回しで煙に巻く
モデルはサッカー選手のジョー・コール

‘The conditions definitely played a major part.’ 「状況に大きく影響された」
ジョー・コール

解説
2006年に開催されたサッカーのW杯ドイツ大会において、イングランド代表は格下と見られていたパラグアイ相手に苦戦。試合後の記者会見でその不甲斐ない試合内容の原因として30度の高気温を挙げたのが、同代表の中盤を務めるジョー・コール選手だった。この試合は何とか1-0で勝利を収めたものの、同大会におけるイングランドは準々決勝で敗退した。

在英邦人への教訓
小難しい言い回しは、英国人が最も得意とする話法です。例えば、上のコメントにある「状況」って具体的には一体何を意味すると思いますか。この後で「気温が下がるといいんだけど」などと言っているので、「暑さ」のことを指していると考えていいでしょう。たださすがに、「暑過ぎて動けなかった」ではあまりに言い訳じみて聞こえてしまうので、「状況」という、より抽象的な言葉で代用したのですね。ただ単に物を失くしてしまっただけなのに、「Misplaced(置き間違えた)」と言って誤魔化すのも同様です。ちなみにイングランド代表が、「状況」が変わりナイターの試合が主となった2008年のサッカー欧州選手権においてもまさかの予選敗退を喫したのは、残念な限りです。

まだあるスポーツ選手の言い訳術

「ピッチが荒れていた」
アレックス・ファーガソン(サッカー監督)
名門マンチェスター・ユナイテッドを率いるファーガソン監督が、2001年のFAカップ敗戦後に残したコメント。ジョー・コール選手の場合と同じく、悪いグラウンド状態で戦わなくてはいけないのは、対戦相手も同じはず。

「家の引越しで忙しくて、忘れていた」
リオ・ファーディナンド(サッカー選手)
監督が監督なら、選手も選手。マンチェスター・ユナイテッド所属のファーディナンド選手は、2003年にドーピング検査を受けるのを忘れてしまい、その理由として「家の引越しで忙しかった」と述べました。これで彼は8カ月間の出場停止に。

「エアコンの風で軌道がずれた」
マービン・キング(ダーツ選手)
英国で5本の指に入るほどの実力を持つダーツ選手が、2003年に行われた大会の準決勝に敗退した原因を述べたときに出た、とっさの一言。彼の対戦相手はより重く、そして平らなダーツを使用していたため、エアコンの風の影響を受けなかったとも。

政治家

深刻な悩みを打ち明けて同情を買う
モデルは、自由民主党のマーク・オートゥン議員

“The problem was undoubtedly compounded by my dramatic loss of hair.”
「ハゲに悩んでいたから」
マーク・オートゥン

解説
2006年、自由民主党の内務省スポークスマン(当時)を務めていたマーク・オートゥン議員が党首選に出馬した際に、同議員が過去に23歳の男娼を買っていたとのスキャンダルが発覚。これにより、同議員は党首選への出馬を撤回し、さらに同ポスト辞任。後にこの一件について「サンデー・タイムズ」紙上に約 3700語に及ぶ謝罪文を掲載した。

在英邦人への教訓
言い訳や釈明において、最も頻繁に使われるテクニックが「泣き落とし」。家庭を持つ自民党の党首候補が、隠れて若い男娼を囲っているとのニュースは当時の一大スキャンダルとなりました。「妻子がいる身でなぜ」との問いに対するオートゥン議員の釈明は「ハゲに悩んでいたから」。どれだけテレビを通して熱く政策を語っても、彼の髪の薄さばかりに注目する一般市民に失望し、やがて男娼に癒しを求めるようになったとのことです。ちなみにこの「私じゃなくて、環境が悪いんだ」という論法は、世界各国で利用されているのではないでしょうか。社会事件を起こした犯罪者などがよく使っているのを鑑みると、それなりに説得力があるのでしょう。

まだある政治家の言い訳術

「私は、スーパーウーマンではない」
シェリー・ブレア(元首相夫人)
トニー・ブレア首相(当時)の妻であるシェリー夫人が2002年、過去に詐欺で逮捕歴のあるオーストラリア人男性に、息子のフラット探しを依頼していたことが発覚。その釈明会見において放ったこの一言こそ、泣き落としの真髄です。

「ビッグ・ブラザーの視聴率が良いから」
ジョージ・ギャロウェイ(リスペクト党議員)
本来の実務を放り投げて、チャンネル4の実験ドキュメンタリー番組「ビッグ・ブラザー」に数週間にわたって出演していた同議員。「国会議員としての義務を放棄してまでなぜテレビ出演するのか」との声に対する反論は、スポンサー企業も顔負けの視聴率主義に支えられていました。

「妻が髪が乱れるのを嫌がるから」
ジョン・プレスコット(元労働党議員)
ホテルから党大会が開催される会場まで、わずか約250メートルの距離を、リムジンを利用して移動することについて非難された際の説明。ちなみにプレスコット夫人の前職は、美容師。しかしなぜタクシーじゃなくて、リムジンなのでしょうか。

電車・鉄道

新しい概念を主張して説得する
モデルは、労働組合RMTボブ・クロウ書記長

“He needed sports therapy
to repair his ankle.”
「スポーツ・セラピーが必要だったから」
ボブ・クロウ

解説
捻挫を理由として数カ月にわたって病欠していた鉄道職員が、その休暇中に室内スポーツ、スカッシュをプレーしていたことが2003年に発覚。この知らせを受けて、ロンドン地下鉄はこの職員の解雇を決定した。しかし、労働組合RMTはスカッシュをプレーしていたのは治療のためとして同決定に抗議し、騒動はやがて24時間のストライキにまで発展した。

在英邦人への教訓
捻挫を理由に数カ月も欠勤していて、しかもその間スカッシュしていたことがばれてしまった、という状況は、正直言ってなんとも苦しい。そんな土俵際で、どううっちゃりを打つか、という方法を示した好例です。そうです、「スポーツ・セラピー」なる新しい概念を持ち出して反論を展開すればいいのです。科学や医療などに関連した、学術的な響きを持つ言葉だと、説得力が増します。もし相手が困惑したような表情を浮かべたら、「え?スポーツ・セラピーを知らないの?」と逆に問い返してみましょう。鉄道業界の労働組合RMTのボブ・クロウ書記長のように、生まれつき顔に凄みがある人がこのような因縁をつけると、さらに効果があることも付け加えておきます。

おかしな地下鉄・列車の遅延原因

「露が落ちたため」
過去の記録を見ると、夏には高温(heat)、秋には落ち葉 (leaves on the track)、冬には雪(wrong kind of snow)、そして春には露(dew)といった自然現象が電車の遅れの理由となっているようです。結局、列車は四季を通じて遅れていることになります。

「運転手の背が大き過ぎたから」
2005年9月にグラスゴー中央駅で起きた遅延の理由。そのときの電車の運転手を務めたのは、約195センチの身長を誇る男性でした。彼は運転席の椅子の高さが調整できなかったために、「前方の視界を確保できない」として運行を突然キャンセルしたそうです。

「カラスが低空飛行をしているから」
ロンドン郊外では狐や豚、牛などの動物が線路近くに出没したために電車が遅れる、というトラブルが現在でも頻繁に起きているようです。1999年には「カラスの低空飛行」によって電車に遅れが出た、という奇妙な事例が報告されています。

BBCを悩ます言い訳
TVライセンス不払いの理由

「テレビを持っていない」
衛星パラボラ・アンテナが取り付けられた家の住人までもが使う、最もポピュラーな言い訳なのだとか。

「この家の住人ではない」
パジャマを着用したままでこのセリフを口にする者も多いという。

「妻が払っていると思っていた」
日本の中年男性が好んで使うこの常套句は、 英国人男性の間でも頻繁に利用されている。

 

ロンドンの本屋で過ごすひととき

ロンドンの本屋で過ごすひととき

インターネットで世界中から手軽に本を取り寄せられる時代。もはや、わざわざ本屋まで足を運ぶ必要はなくなったのだろうか。今回は、ロンドンにある個性的な本屋を紹介。店主の本への愛情とこだわりが詰まった小さな世界に足を踏み入れれば、そこにはどことなく懐かしい空気と新しい発見が待っている。たまには本屋という空間で、店主、そして本とのコミュニケーションを、心ゆくまでゆったりと楽しんでみよう。(本誌編集部: 村上 祥子)

世界各国から車・鉄道ファンが訪れる
Motor Books

Motor Books
Motor Books
13/15 Cecil Court, London WC2N 4AN
Tel: 020 7836 5376
www.motorbooks.co.uk

ロンドン随一の繁華街、レスター・スクエアの駅近く。駅前の喧騒とはうって変わって静寂が辺りを包み込む小道、セシル・コートには、演劇や音楽など、それぞれの専門書を扱う、こじんまりとした本屋が並ぶ。その 一角にある「Motor Books」は、創業1950年、世界最古の自動車・バイク専門書店を謳う本屋だ。過去数度の移転を繰り返し、2007年にセシル・コートに落ち着いたこの本屋は2軒続きになっていて、左手には自動車やバイク、右手には鉄道、そして地下には航空・軍事関連の書籍が揃っている。

「ヨーロッパだけじゃなく、世界各国からバイヤーが訪れたり、メールでの注文が入るんだよ。もちろん、日本からもね」とちょっぴり自慢気に語ってくれたのは、鉄道関連の販売担当者のジョンさん。ここではエリアごとに担当者が決まっていて、書籍に関するどんな質問にも淀みなく答えてくれる。特にお客さんに人気なのは、ポルシェやメルセデス・ベンツなどのスポーツ・カー関連の本、そしてクラシック・カーや蒸気機関車などを取り上げた「少しノスタルジックな本」なのだとか。

Motor Booksちょっととっつきにくそうな店員さんも、車や鉄道の話になるや、物静かな口調ながら次から次へとお勧めの本を語り出す。こんな本屋では、本を購入するだけでなく、いかにも英国らしい、ちょっとシャイで頑固な店員との会話を楽しみたい。

上写真:セシル・コートには「Motor Books」のほかにも専門書を扱う古本屋が軒を並べている
下写真:鉄道と本への愛情を、軽妙な語り口で滔々と話してくれたジョンさん

Last Steam on the Undergroundジョンさん一押し。現在はロンドン交通局が所有するグレート・ウェスタン鉄道のタンク式蒸気機関車の物語。実はジョンさんの共著本だ
Red Panniers: Last Steam on the Underground
John Scott-Morgan, Kirk Martin (Lightmoor Press)
「世界で最も優れた本屋」トップ10 にランキング
Hatchards

Hatchards
Hatchards
187 Piccadilly, London W1J 9LE
Tel: 020 7439 9921
www.hatchards.co.uk

Hatchards2007年度「ガーディアン」紙が選ぶ「世界で最も優れた本屋」において、英国内の本屋で唯一トップ10にランク・インしたのがこの「Hatchards」。創業1797年、3つの王室御用達の称号を持つこの書店にはかつて、オスカー・ワイルドやバイロン卿も通ったとか。

敷地面積はさほど広くはないものの、入ってすぐの螺旋階段を上に行けば、アートから文学、ビジネス書に至るまで、さまざまな分野の書籍が階ごとに整然と並べられている。磨きこまれた木の階段に、深緑を基調にした落ち着いたインテリア、そして慇懃な店員のサービス̶̶ほかのどの書店よりも「英国らしさ」を感じさせるこの場所では、店内を漂う歴史の重みを感じてみたい。

写真上: お勧めコーナーにも、英国の歴史と伝統を感じさせる本が。写真下: 伝統と格式を感じさせる外観

The Church Mouse美しい装丁が魅力の教会ねずみシ リーズ絵本。クリスマス・プレゼ ントにもぴったり
The Church Mouse
Graham Oakley (Atheneum)
店主の思い入れが詰まったミステリー専門書店
Murder One

Murder One
Murder One
76-78 Charing Cross Road, London WC2H OBD
Tel: 020 7539 8820
www.murderone.co.uk

鬱蒼とした曇天に石畳の道、暗く長い冬̶̶ロンドンは、幽霊や犯罪といった、少々物騒な物語を生み出す要素に満ちた街だ。そんな場所にぴったりな本屋がここ、「Murder One」。ミステリー関連の専門書店で、特にシャーロック・ホームズに関する本の品揃えには定評がある。

とはいえ、中はいたって普通の書店の構え。1階には新旧問わず、あらゆる犯罪小説が置かれており、右手には、何故かロマンス関連の本がぎっしり。そしてミステリー・ファン垂涎の本が並ぶのが地下。切り裂きジャックなどノン・フィクションの犯罪本と、ホームズ専門コーナーがある。

「元々は出版社に勤めていたんだ。会社を辞めた後、作家になったんだけど、ずっと机にかじりついているだけの生活に嫌気が差してね。それで始めたのがこの本屋だったんだ」。書店経営のみならず、ミステリー作家としても活躍中の店主マキシムさんは、ミステリー・ファンの間では名の知れた存在。店をこのような形にしたのは、勤めていた出版社がミステリー書籍を扱う会社だったことと、米国に旅行した際、ミステリーの専門書店を数多く目にし、「ロンドンでも需要があるはず」と確信したから。その読みは当たっていたようで、「売上は順調だよ」。

Murder Oneロマンスも扱っているのは、「もちろん、私がロマンス本も書いているからさ(笑)」。マニア向けと思いきや、マキシムさんの個性が反映された、ちょっぴりお茶目な本屋だった。

写真上:ホームズ関連書籍はさすがの充実度。戯曲や注釈本も数多い
写真下:簡単に1冊の本を勧めることは難しいと語るマキシムさん。「日本のミステリーと言っても、江戸川乱歩と桐野夏生じゃ、全然テイストが違うだろう?」

The Church Mouseホームズの物語に詳しい注釈を付けた研究者向けの本。著者は弁護士でシャーロキアン
The Sherlock Holmes Reference Library: The Memoirs of Sherlock Holmes
Leslie S. Klingers(Gasogene Books)
「ロンドンで最も美しい本屋」が内包する世界
Daunt Books

Daunt Books
Daunt Books
83 Marylebone High Street, London W1U 4QW
Tel: 020 7224 2295
www.dauntbooks.co.uk

お洒落なカフェやショップが並ぶマリルボン・ハイ・ストリートにあって、一際目立つエドワード調の建物。「ロンドンで最も美しい本屋」とも言われるこの店は、トラベル関連の書籍を主に扱う本屋だ。入ってすぐのエリアには一般書の新刊が美しく陳列されているが、何といっても圧巻なのが、右手の旅行関連コーナー。大きな天窓から差し込む柔らかい陽射しが、実に居心地の良さそうな、優しい空間をつくり出している。

Daunt Booksそしてもう一点、特筆すべきなのが本の配列。旅行書のみならず、小説などすべての書籍が国ごとにまとめられているのだ。本棚を眺めただけで、それぞれの国の文化や歴史まで見えてくるような、時間や空間を超える広がりを持つ本屋である。

写真上:新たな装丁で生まれ変わった英国文学の傑作たち
写真下:「JAPAN」の棚には、遠藤周作や村上春樹ら日本人作家の小説とともに、「Memoir of Geisha」など外国人作家が描く日本の小説も

Journey Through a Small Planet作家エマニュエル・リトビノフが、ロンドンのイーストエンドで暮らした自身の少年時代を振り返る
Journey Through a Small Planet
Emanuel Litvinoff (Penguin Modern Classics)
コレクターとの絆を守り続ける希少本の専門店
Gekoski

Daunt Books
正面の棚の上に並べられているのは、ウェールズ人作家ディラン・トーマスの著作コレクション。値段はまとめて25万ポンド。

Gekoski
Pied Bull Yard, 15A Bloomsbury Square, London WC1A 2LP
Tel: 020 7404 6676
www.gekoski.com

ビジネス街、ホルボーン駅近くにある小さな公園から続く小道を行くと、パブやカメラ屋が軒を並べる中庭に出る。そのなかにある、一見すると何の店か分からない、個人宅の書斎のような小さな店。「Gekoski」という、店主の名前が付けられたこの店は、英国の近代文学の初版本や希少本を扱う本屋だ。

店内に入っても、ここは本当に本屋なのか、との思いは消えない。入り口には重厚なデスク。壁沿いに置かれた棚には、一目で年代物と分かる本が並べられているが、その数は驚くほど少ない。

「ここにあるのはだいたい500冊くらい。多くはありませんが、どれも選りすぐりの良書ばかりです」。いかにも英国紳士然とした店員のピーターさんの言葉は、サマセット・モームやグレアム・グリーンなど、英国を代表する現代作家たちのサイン入り本の数々に裏打ちされている。価格は数百ポンドから数十万ポンドまで。とても素人が手の出せる金額ではないが、ピーターさんは驚くほど気軽に次々と貴重な本を見せてくれる。

Daunt Books「普通の本屋だったら、本が一番大切でしょう。でも私たちにとって何より大切なのは人との関係なのです」。顧客はほとんどがコレクター。彼らとのコネクションを通して、本を購入し、販売する。長年培ってきた彼らとの関係性を守り続けること、そして「あまり欲深くならないこと」、こうした姿勢を貫くことで、「Gekoski」は希少本の世界における確固たる地位を保ち続けている。

写真上:ここだけ時が止まったかのような静謐な佇まい
写真下:「笑った方がいい?カメラを向かない方がいい?」と何度も確認。真面目な人柄が滲み出るピーターさん

Graham Greeneグラハムには珍しいこの詩集は、現在では世界に数冊しか残っていない貴重なもの。何とグラハム本人から購入したという本の最後には、直筆の詩も書き加えられている
After Two Years / For Christmas
Graham Greene (The Rosaio Press)
粒揃いの良書に店のセンスを見る
Koenig Books

Koenig Books
Koenig Books (Charing Cross Road)
80 Charing Cross Road, London WC2H 0BF
Tel: 020 7240 8190

Koenig Booksヨーロッパ最大の独立系本屋と言われるドイツのWalther Koenig Books。そのロンドン支店としては、ケンジントン・ガーデン内のサーペンタイン・ギャラリー店が知られているが、チャリング・クロス・ロードにも今秋、新たな店舗がオープンした。黒で統一されたシンプル&シックな店内はさほど大きくないが、アートや建築、写真の分野では定評のある書店の支店だけあって、選び抜かれた本はどれも店のセンスがキラリと光るものばかり。また、店独自で出版しているものもあるので要チェックだ。人気の現代作家のアート本や写真集が置かれた1階をゆっくり楽しんだ後は、ぜひ地下へ。分野を問わず、さまざまな本が大幅に値下げされていて、思わず目移りしてしまう。

上写真:お洒落な外観に目をとめる人も多い。
下写真:店のショーウィンドーには日本人作家、村山知義の本も

Albumスーパーのチラシから電話ボックスに貼られた女性のヌード写真まで、さまざまなチラシをユニークなアレンジでまとめたスクラップ写真集
Album
Hans-Peter Feldmann (Walther Koenig)
冒険家気分で店内を探索
Stanfords

Stanfords
Stanfords
12-14 Long Acre, London WC2E 9LP
Tel: 020 7836 1321
www.stanfords.co.uk

コベント・ガーデンの駅から歩いて数分。「世界最大の地図&旅行関連の本屋」と謳うこの本屋の魅力は、「とにかく旅行に関する本なら何でもあるよ」と店員が胸を張るのも納得の品揃えだ。研究者や地図マニアが国内外から訪れる有名店だが、それとともに注目したいのが「遊び心」。巨大な地球儀に世界地図を敷き詰めた床──店内では、あちらこちらで座り込みながら本を眺める子供の姿が見られる。同じ旅行関連と言っても先述の「Daunt Books」とは全く異なる雰囲気を持つ、胸がワクワクするような、冒険心溢れる本屋だ。

Stanfords

A to Z of Georgian Londonロンドンの街を網羅した詳細な地図を時代別にまとめたシリーズの1冊
A to Z of Georgian London
John Rocque (London Topographical Society)
新しい文化を生み出す元祖アート系本屋
Magma Covent Garden

Magma
Magma Covent Garden
8 Earlham Street, Covent Garden London WC2H 9RY
Tel: 020 7240 8498
www.magmabooks.com

Magma本屋という枠組みを超え、新しい文化の発祥地として若者を中心に絶大な人気を誇るショップ。本のみならず、Tシャツやキャラクター・グッズ、文房具などが販売されている店内には、混沌としながらもどこか統一感を覚えさせる不思議な空気が漂う。ありとあらゆる分野の人々がドアを開けて店内に入り、何かを求めるという行為はとても人間的に豊かなこと、とはオーナーの弁。客からのフィードバックを大切にし、そのアイデアを取り入れることで進化し続ける空間に、今後も目が離せない。

This Diary Will Change Your Life 2009「MI5の職員をスパイせよ」などユニークな指示が挿入されたダイアリー・シリーズの2009年版
This Diary Will Change Your Life 2009
Benrik Ltd
店舗がなくても本屋はできる
Southbank Centre’s Book Market
サウスバンク・ブック・マーケット
Southbank Centre's Book Market
BFI Southbank(South Bank Waterloo, Lambeth, London SE1 8XT)の
向かい側
営業時間: 年中無休。時間は季節によって異なる

テムズ河沿いに伸びる散歩道、クイーンズ・ウォークをそぞろ歩くと、橋の下に本がずらりと並べられたストールに大勢の人が群がっているのが見えてくる。BFIサウスバンクのカフェの向かいに広がるこの空間は「サウスバンク・ブック・マーケット」、そう、店舗を持たない青空本屋だ。

「毎日毎日、雨の日も風の日もオープンしてるよ」と語ってくれたのは、ストールの一つを「経営」するアダムさん。このマーケットは1982年から、サウスバンク・センターの親会社であるサウスバンク委員会により運営されていて、アダムさんらストールの経営者は、同委員会にお金を支払って場所を確保している。

「厳しいのは雨より風だね。横なぐりの風なんかが吹くと、本が台無しになってしまう」。冬場には凍えるような寒さのなか、何時間も河辺にアダムさんじっと留まっていなければならないこの仕事は、かなりの重労働に違いない。それでも彼らが毎日、本を売り続けていられるのは、「本が好きで、このエリアが好きだから」。時には馴染み客が本を売りにやって来ることもあるという。本を好きな人と人が集まれば、そこにはもう、「本屋」という空間が存在しているのかもしれない。

右写真:「僕なんかでいいのかい?」とはにかみながらポーズを取るアダムさん

 

リバプール・ビエンナーレ

リバプール・ビエンナーレ

今年は2年に1度のモダン・アートの祭典「リバプール・ビエンナーレ」の開催年。開催5回目、そして設立10周年という記念すべき年でもあり、この小さな街に、驚くほど豪華なアーティストたちが集結した。そのなかでも、特に「芸」がキラリと光るおすすめを紹介しよう。

(本誌編集部: 國近絵美)

誰もが思い浮かべる「リバプール=ビートルズ」という図式。とはいえ日本人にとって、この街はそれ以外にあまり印象がないのも確かだ。でも実は、この地で英国最大にして唯一のモダン・アートの祭典「リバプール・ビエンナーレ」が開催されているのはご存知だろうか。

まず、今年のビエンナーレの中心となるのは、世界各国のアーティスト40名が参加する「MADE UP」と呼ばれる企画展。すべてビエンナーレのために製作された新作が発表され、市内13カ所の会場にはギャラリーだけではなく、パブや古い映画館など意外な場所も選ばれている。

その他にも、今年で開催25回目を迎える国内最大の絵画の公募展「ジョン・ムーア現代絵画賞」、そして大学の最終学年を対象とした公募展「ブルームズバーグ・ニュー・コンテンポラリーズ2008」では、英国の先鋭アーティスト100名の作品を紹介。また、個人経営のギャラリーが主催する「ザ・インディペンデント」などの展示を合わせると、1都市の中になんと100近い会場が設置されていることになる。

今年は「欧州文化都市」にも選ばれ、ノリに乗っているリバプール。意外にも、街の大きさは1日ないし2日で歩いて周りきれるくらいなので、気軽に訪れるにはちょうど良い。この街をゆっくり散策しながら、モダン・アートをたらふくいただこう。

リバプール・ビエンナーレ地図

意外性がおいしい道ばたアート

リバプールという1つの街に、最新のアートがぎゅっと詰まった今回のビエンナーレ。ここでは、会場を回る途中でぜひ鑑賞して欲しい、街角に点在する作品を紹介する。

23Richard Wilson
Turning the Place Over

Richard Wilson

オフィス街に突如として現れる、異様な光景──6階建てのビルの壁が楕円形にくり抜かれていて、その空間に設置された壁が縦、横、ななめに回転するという、前代未聞のインスタレーション作品がこれだ。船舶や原子力産業で使用される巨大な回転装置に取り付けられた直径8メートルの 「壁の窓」が動く度に、内部の様子をのぞき見ることが出来るという不思議な仕組みになっている。
日常感覚を揺さぶるアートでは定評があるウィルソンらしく、この作品も空間や物の役割について、観客に問いかけるものとなっている。なお、同作品はビルが取り壊される今年の年末まで、夜明けから日没の間、回転中だ。

5Atelier Bow-Wow
Rockscape
Installation Commissioned by Liverpool Biennial International 08

Atelier Bow-Wow

日本人建築家の塚本由晴と貝島桃代によって1992年に結成されたユニット「アトリエ・ワン」。個人住宅を中心に建築・デザイン活動を行っている彼らの作品の特徴は、使う人に合わせてスペースが順応するうえ実用的、なおかつ遊び心が反映された構造だ。
そんな彼らは今回、街の中心部に位置しながらも存在が忘れられかけていた空き地を、音楽とパフォーマンスが行われる野外劇場に変身させた。階段を座席にするという古典的な手法と、リバプールの街並みの象徴でもある赤茶色が絶妙にマッチ。寂れた街の一角をアートで盛り上げる、その発想と実力に脱帽だ。

10Ai Weiwei
Gleaming Lights of the Souls
Mixed Media Installation
Courtesy of Victoria miro Gallery / Ota Fine Arts, Tokyo

Ai Weiwei

今年開催された北京五輪で、世界中の注目を浴びた競技場「鳥の巣」。そのランドスケープ・デザインを担当した中国現代アートの寵児、アイ・ウェイウェイの手により、広場に巨大なクモの巣が出現した。そして広場に張られた鉄製ワイヤの中央には、クリスタルを散りばめた巨大グモが待ち構えている。
ウェイウェイがこれまでに発表してきた、スケールの大きさとその建築美で人々をうならせる作品群とは確実に一線を画したこのポップな作品に、驚く人も多いはず。名建築家が挑戦した脱力アート、日光の下で露のように輝くクモと、夜の闇に怪しく光るクモの2つの表情を楽しもう。

7U-Ram Choe
Opertus Lunula Umbra (Hidden Shadow of Moon)
Aluminum, stainless steel, plastic, electronic device (BLDC motor motion computing system) Commissioned by Liverpool Biennial International 08 and FACT Artwork courtesy of bitforms gallery NYC and Art Station, Poznan, Poland

U-Ram Choe

アートのはしごに疲れたら、映画館やカフェも付設している総合文化施設「FACT」に入ろう。ここでは空飛ぶ巨大イモムシ、もしくは日本のアニメ「風の谷のナウシカ」に出てくるオウムのようなスカルプチャーがホール中央の天井から吊るされている。
この作品を手がけたのは、金属という無機質な素材を使って不思議な「生命体」を造り出す韓国人アーティスト、チェ・ウラム。重量750キロ、長さ約5メートルという大型作品であるが、コンピューター・プログラミングによって設計された外殻は繊細に波打っている。自然界、そして「生きる」という圧倒的な美しさが再現された作品だ。

4Manfredi Beninati
To Think of Something
Installation Commissioned by Liverpool Biennial International 08

Manfredi Beninati

街の一角の、どこにでもあるレンガ造りの建物。風雨にさらされたポスターが貼られた壁をよく見ると、大小ののぞき穴がいくつか隠されている。そして中をのぞくと、最近まで人が住んでいた形跡が残る部屋の内部を見ることが出来る。日常の断片を描いたこの精巧なインスタレーションには、夢を見ているような、または短編小説を読んでいる途中で物語の置き去りにされたかのような錯覚を覚えるはず。
映画監督として才を発揮し、その後ビジュアル・アート界へと活躍の場を移したイタリア人アーティスト、ベニナーティ。独自の世界にするりと観客を導く才能は、映画というジャンルで磨き上げた技術の賜物かもしれない。

異次元空間を操るおすすめアーティストたち

空間をうまく使うことで独自の世界を造り出す、建築とアートを融合させたインスタレーションが目立った今年のビエンナーレ。圧倒的な想像力と独創性を持つアーティストたちの世界に足を踏み入れてみよう。

11David Altmejd
The Holes
Mixed Media
Commissioned by Liverpool Biennial International 08
Supported by Stuart Shave / Modern Art, London and Andea Rosen Gallery, New York

David Altmejd

ホワイト・キューブの中に横たわる、体のあちこちがちぎれた巨人。皮膚の裂け目からは赤い肉や内臓が見え、切り離された手や足は目的を失い、無残に転がっている ──そう聞くとかなりグロテスクだが、この作品にはどこか静かで穏やかな雰囲気が漂う。その理由は、水晶やファーといった素材が持つ柔らかな印象、そして巨人を取り囲む花や植物が持つ生命力が、巨人の「死」に打ち勝っているからだろう。この作品は、巨人の墓地であると同時に、1つの人生の縮図だ。事実と錯覚、断片と全体、実在と不在といったものが入り混じる不思議な空間に、しばらく身をゆだねよう。

12Yayoi Kusama
Gleaming Lights of the Souls
Mixed Media Installation
Courtesy of Victoria miro Gallery / Ota Fine Arts, Tokyo

Yayoi Kusama

水玉などのパターンを病的なまでに繰り返す作品で知られる草間彌生は、今回、3畳ほどの部屋のなかに小宇宙を誕生させた。靴を脱いで入室すると、2人立つのがやっとという幅の板の両側に水が、そして四方の壁には鏡が張られている。天井からは小さなライトが無数に垂れ、数秒おきに光が変色していく。鏡が光を無限に反射し、観客は流星群に囲まれたような幻想的な世界をしばらく独り占めすることが出来る。
その美しさとは裏腹に、実はこの小屋は、草間が子どものころから見続けているという幻覚への強迫観念を表したものだという。つまり足を踏み入れた瞬間、観客は既に草間という人間の中に入っていることになるのだ。

26Gross Max
Rotunda Pavillion
109 Great Mersey Street L5 2PL

Gross Max国際的に活躍するビジュアル・アーティストとリバプール近郊の3都市が協力し合い、それぞれの街にパビリオンが作成された今年。中でもリバプールの北に位置するカークデールでは、「見捨てられた土地をコミュニティー・ガーデンにしたい」という街の要望にアーティストが応えた。このパビリオンは2つのエリアに分かれており、1つは城のような、そしてもう片方は「バー・コード」というガーデンとなっている。これは一見すると「一体、どこがガーデン?」と思ってしまうような代物だが、中に入ると、壁の内部が植物で覆われていることが分かるという仕組みになっている。グリーン思想とアート、そして地元の人々の生活が一体となった作品だ。

9Sarah Sze
Untitled
Installation
Commissioned by Liverpool Biennial International 08

Sarah Sze建築分野でのキャリアも持つ米国人アーティスト、サラ・ジーは、細部まで細かい趣向を凝らしつつも、奔放な雰囲気が漂うインスタレーションを制作することで知られている。今回、展示場である階段横の吹き抜けを最大限に利用したサイト・スペシフィックな作品を発表したジーは、「これは1つの風景というよりも、ある風景のなかで起こっている動きの連続」であると語る。インテリア用品のサンプルやレンガ、建築の材料にコケなどが配置されているのだが、これらの作品の1つ1つが「次の動作」に移ろうとする瞬間で「一時停止」されているのだ。そしてそれらのオブジェは構成されたというよりも、それぞれが生命体として意思を持っているかのように力強い。

11Adrian Ghenie
Nickel Odeon 2008
Oil on Canvas
Commissioned by Liverpool Biennial International 08

Adrian Ghenie

密度の濃い、不思議な空間をキャンバスのなかに作り上げるルーマニア人画家のエイドリアン・ゲーニー。彼は創作活動において、あらゆるメディアを駆使して行うリサー チを最重要視する珍しいアーティストでもある。
今作を描くにあたりゲーニーが最も強く影響されたのは、映画によって人々のリアリティーの受け止め方が変わるという認識なのだとか。動画は記憶や潜在意識に滑り込み、想像や夢、聞いたことのある文章や音などをごちゃ混ぜにしてしまう。そんな真実と虚偽のあいまいな境界線をこの作品で表現したのだという。

「人生」が宿る風景を観る

英国で最も偉大な彫刻家の一人である、アントニー・ゴームリー。リバプール郊外の砂浜に常設展示されている作品「アナザー・プレイス」を、この機にぜひ訪れてみてはいかがだろう。

25Antony Gormley
Another Place

Antony Gormley

人体とは、記憶と変化の「場所」である ──そんな考えに基づき、これまで幾度となく自身の体をモデルにした彫刻作品を発表してきた彫刻家、アントニー・ゴームリー。そんな彼が2006年度のリバプール・ビエンナーレに出展した作品が、リバプール市内からバスで1時間ほど北に位置するクロスビー・ビーチに常設展示されている。
緩やかな丘を越えて砂浜に下りると、辺り一面、見渡す限りゴームリー本人の型をとった鋳鉄(ちゅうてつ)の像が、まるで海の彼方を望んでいるかのように並べられている。約3キロにわたる海岸に設置された像の数は、なんと100体。潮の満ち引きとともに見え隠れする姿、そして天気の移ろいととも Antony Gormley Another Place に刻々と表情を変える海に向かうその姿からは、哀愁や凛とした決意など、生々しい感情が漂ってくるから不思議だ。
19~20世紀、リバプールはロンドンに次ぐ主要渡航ルートとして、主に米国へと旅立つ移民であふれていた。当時、より良い「新世界」を目指し同地を訪れた人々にとって、ここが生涯最後に踏む欧州の土となったのだ。複雑な感情を抱きながら、彼らは海の向こうに何を見たのだろうか。
過去に思いを馳せながら周囲を見渡すと、恋人や家族連れたちが、思い思いにビーチで時を楽しんでいる。様々な人生の交錯点となったこの海を前に、ゴームリーの分身たちはこれからもまた、未来を見据え続けるのだろう。

 

美術館&博物館のカフェ

ロンドンの秋を満喫する美術館&博物館のカフェ

ロンドンに住み始めてから、美術館や博物館めぐりの楽しさに目覚めた人も多いことだろう。だが意外と見落とされがちなのが、これらの施設の多くが、実は素敵なカフェを持っているという事実。そこで本特集ではこれらのカフェに注目し、芸術の秋と食欲の秋を一遍に実現する方法を紹介します。(本誌編集部 : 長野雅俊)


ICA破天荒な現代アートの思想がこの空間に凝縮
ICA バー & カフェ
ICA
「Institute of Contemporary Arts(現代芸術協会)」を正式名称とする総合アート施設。バッキンガム宮殿とトラファルガー広場という2大観光名所をつなぐ大通りマルの間に位置している。ポップアート作品などを積極的に取り上げる、アバンギャルドなアート空間として人気を集める。

時に奇抜、時に過激なアートで、既存の美術界の権威に抗う独特のアート空間を作り出すICAならではのカフェ。一見すると学食と見紛うような気軽で簡素な作りの飲食スペースが、夜になると様変わり。日・月以外の夜は深夜1時までオープン、カクテル・メニューが用意され、DJすら登場するカフェをICA以外のアート施設で見かけることはまずないだろう。またあまり知られていないが、このカフェは今から10年以上前となる1994年に「インターネット・カフェ」としての運営を始めた、その世界の先駆者でもある。斬新そして破天荒なスタイルで独自のアート空間を切り開いていくICAの思想が、たっぷりと詰まった場所だ。

ICA Cafe

カフェの営業時間: 12:00-翌1:00 (月は23:00 まで、 日は22:30 まで)
The Mall SW1Y 5AH
Tel: 020 7930 3647
www.ica.org.uk
地下鉄: Charing Cross駅

お茶ついでに、ちょっとアート
Roberto Cuoghi: Šuillakku
Roberto Cuoghi: Šuillakkuイタリア人アーティストのロベルト・クオギが作り出す、音の芸術展。紀元前7世紀前後にメソポタミア文明を築いたアッシリア帝国の崩壊をテーマとしたという、ICAらしい一風変わった芸術作品は、11月23日まで公開。入場無料。
Roberto Cuoghi, Pazuzu, 2008, Courtesy Galleria Massimo De Carlo, Milano, Photo Paolo Pellion


Design Museumコンラン卿プロデュースで食をアートへと変える
ブループリント・カフェ
Design Museum
かつては船の波止場として賑わったが、他の交通手段の発達に伴い、戦後は閑散としていたロンドン東部バトラーズ・ワーフ。その再開発事業を手掛けたコンラン卿が、同地区に設立したのがこの博物館だった。車、電話、洗濯機といった20、21世紀のプロダクト・デザインを中心に扱っている。

レストラン経営やホテル建築、そしてプロダクト・デザインのプロデュースなどを手掛ける英国人デザイナーのテレンス・コンラン卿。「食とアートの融合」を掲げる彼が、デザイン・ミュージアム内に創設したのが「ブループリント・カフェ」だ。従来の「カフェ」という概念を超越するかのような高級感を漂わせた内装とサービスは、まさにコンラン卿プロデュースの真骨頂。お得意のモダン・ブリティッシュ料理に加えて、シンプルさを際立たせたインテリア、そして窓際からのぞくテムズ河岸の絶景など、「食とアートの融合」が体現されている。「美術館を訪れたついでに立ち寄る」といった気軽なスタンスで訪れるのが憚(はばか)れるぐらい、豪華な魅力に溢れたカフェである。

Blue Print Cafe

カフェの営業時間: 10:00 - 17:45
28 Shad Thames, Butlers Wharf SE1 2YD
Tel: 0870 833 9955
www.designmuseum.org
地下鉄: London Bridge / Tower Bridge駅

お茶ついでに、ちょっとアート
Alan AldridgeAlan Aldridge:
The Man with Kaleidoscope Eyes

英国人グラフィック・デザイナー、アラン・オルドリッチの特別展。サイケデリック・アートの草分けとして活躍した彼の英国での初の個展となる。2009年1月 25日まで公開。入場料£8.50(シニア£6.50、学生£5)。
Roberto Cuoghi, Pazuzu, 2008, Courtesy Galleria Massimo De Carlo, Milano, Photo Paolo Pellion


Tate Modern都会人のためのシックなバー
テート・モダン・レストラン
Tate Modern
テムズ河沿いに位置する、7階建ての巨大な現代美術館。かつて火力発電所として使用されていたという建物を改装し、2000年にオープンした。パブロ・ピカソやダミアン・ハーストといった現代アートの巨匠たちの作品を一目見ようと、同館を年間500万人もの鑑賞者が訪れるという。

巨大な現代美術館であるテート・モダンには全部で3つの飲食スペースが設けられているが、中でも特にお勧めなのが、最上階となる7階に位置するこのレストラン。まずテムズ河上で銀色に輝くミレニアム・ブリッジと荘厳なセントポール大聖堂の眺めを一望するだけでも行く価値あり。さらに料理も本格派で、サーモンやフィッシュ・パイ、ロケット・サラダ、ラムのステーキなどといったお馴染みのメニューには新鮮な食材が利用されており、まるで高級レストランにいるかのよう。またレストラン手前はバー・エリアとなっており、日暮れが早くなるこれからの季節に夜景を楽しむにもぴったり。金・土は夜10時まで開館しているので、仕事帰りの一杯にも活用できる。

Tate Modern Restaurant

カフェの営業時間: 10:00-18:00 (金土は22:00 まで)
Bankside SE1 9TG
Tel: 020 7887 8000
www.tate.org.uk/modern
地下鉄: Southwark駅

お茶ついでに、ちょっとアート
Cildo Meireles
Cildo Meireles最近のコンセプチュアル・アート界を牽引するブラジ ル人アーティスト、スィウド・メイレリスの特別展。日常生活で手にする事物を使いながら、観る者に驚きや困惑を与えてしまうような、不思議な作品世界を作り上げる。2009年1月11日まで。入場料£8。
Daros-Latinamerica ©Cildo Meireles


Royal Acadmy of Arts待ち合わせにも最適
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ・レストラン
Royal Academy of Arts
著名な画家や建築家を中心とする80人の協会員が所属する芸術機関。展示会などの売上を通して、大学院を運営している。協会員を務めるのは、古くは19世紀の風景画家ジョン・コンスターブル、最近ではハイテク建築で知られるノーマン・フォスター卿といった英国アート界の権威ばかり。

1階にも小さなカフェが設置されているが、よりお勧めなのが地下にあるレストラン。以前は格式ある豪邸といった雰囲気を醸し出していたこの空間は、ロンドン在住の建築家MUMAによって最近になって改装され、モダンな空気を入れ込むことでイメージを刷新することに成功した。壁にかけられた絵はライトアップされていて、さすがは美術館のレストランと思わず頷いてしまうはず。またレストランに行くだけなら入場料は発生しないので、たとえ館内で展示された作品を見学せずとも、気軽に立ち寄れるところが嬉しい。絶えず混雑しているピカデリー・サーカス駅付近で待ち合わせすることが多い在英邦人の方々にとっては、利用価値大だろう。

Royal Academy of Arts

カフェの営業時間: 10:00-18:00 (金は22:00 まで)
Burlington House, Piccadilly W1J 0BD
Tel: 020 7300 8000
www.royalacademy.org.uk
地下鉄: Green Park / Piccadilly Circus駅

お茶ついでに、ちょっとアート
John Madejski Fine Rooms
John Madejski Fine Rooms多角ビジネスを手掛ける英国人企業家ジョン・マデイスキーからの300万ポンド(約6億円)の寄付によって建築された展示スペース。数年ごとに展示内容を変更しながら、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツのコレクションを公開している。入場無料。
Francis Ware 2003 © Royal Academy of Arts London


National Portrait Galleryロンドン中心部の隠れ家的名所
ポートレート・レストラン
National Portrait Gallery
世界でも数少ない肖像画だけに特化した美術館。離婚問題をきっかけとして英国国教会を創設したヘンリー8世や大英帝国の権勢を欲しいままにしたヴィクトリア女王、さらにはビートルズや人気サッカー選手のデービッド・ベッカムといった、英国の歴史を築いた偉人たちの顔がずらりと揃っている。

ナショナル・ポートレート・ギャラリーを内包する建物の最上階に位置しているため、国会議事堂、ロンドン・アイといったロンドン中心部の観光名所を眺めながら優雅に食事できるレストラン。その立地の良さから、界隈のオフィスで働くビジネスマンが、ランチ会食を催す場としても頻繁に利用されているという。グルメの王道であるモダン・ブリティッシュに加えて、忙しい夕刻時に劇場へ出掛ける人を想定して作られた、手際良いサービスを良心的な価格で提供するプレ・シアター・メニューも木・金に限り用意している。また同館では、自然光が入り込む半地下のカフェもかなりの人気を集めている。意外な場所に、ロンドンのグルメたちは集まるものである。

National Portrail Gallery

カフェの営業時間: 土~水11:45-14:45 (木金は17:30-20:30 も営業)
St Martin's Place WC2H 0HE
Tel: 020 7321 2463
www.npg.org.uk
地下鉄: Leicester Square / Charing Cross駅

お茶ついでに、ちょっとアート
シェイクスピアの肖像画
シェイクスピアの肖像画ナショナル・ポートレート・ギャラリーの最初の所蔵品になったのが、文豪ウィリアム・シェイクスピアの肖像画だった。ただ同館でもこれがシェイクスピアを描いたものであるかどうかを断定できない、いまだ多くの謎に包まれた作品なのだという。
©National Portrait Gallery, London


National Portrait Gallery新古典主義の庭で優雅なお茶を嗜む
サマセット・ハウスのデリ
The Courtauld Gallery
サマセット・ハウス内にある、主にフランス印象派絵画を集めた美術館。20世紀前半の資産家サミュエル・コートールドが設立した、美術史を専門とする高等教育機関のコレクションとなっている。ポール・セザンヌ、エドガー・ドガといった日本でも有名な代表的な印象派画家の作品が並ぶ。

コートールド美術館やギルバート・コレクションといったアート施設を内包するサマセット・ハウス。この建物のテムズ河側に面した部分に隠れるようにして、名もなきデリがある。それでもこの場所を訪れる人がいるのは、彼らが美しき新古典主義建築の庭でゆっくりとランチを食べる贅沢の味を知っているから。カフェを出てすぐ右側にある、テムズ河より一段高い場所に設けられたスペースか、もしくは55基の噴水が取り付けられた中庭の椅子に腰を下ろした途端に、優雅な気分になってしまうから不思議だ。サンドイッチ、スープといった簡易メニューとしては若干の割高感があるが、ただその分、大手スーパーとは一味違った、色濃い新鮮な野菜を使ったメニューが揃う。

The Courtauld Gallery

デリの営業時間: 8:30-18:00 (日は10:00 から営業)
Somerset House, Strand WC2R 0RN
Tel: 020 7848 2526
www.courtauld.ac.uk/gallery
地下鉄: Charing Cross / Temple駅

お茶ついでに、ちょっとアート
A Bar at the Folies-Bergère
マネの「フォリ・ベルジェールの酒場」19世紀のフランス画家エドゥアール・マネが死の直前に完成させたという「フォリ・ベルジェールの酒場」(右写真)は必見。コートールド美術館への入場は£5(60歳以上、学生は£4、月は14:00まで無料)。
©The Samuel Courtauld Trust, Courtauld Institute of Art Gallery, London


Photographers' Gallery破天荒な現代アートの思想が凝縮
フォトグラファーズ・ギャラリー・カフェ
Photographers' Gallery
主に写真に関する個展を開催しているギャラリー。写真アートに特別興味を持たない人までもが気軽に訪れることができるような、親しみやすいアート空間となっている。12月初旬にオックスフォード・サーカス駅付近に場所を移してリニューアルするため、現在の形での開館は11月16日まで。

ロンドン随一の繁華街レスター・スクエアの一角に位置する建物、フォトグラファーズ・ギャラリーの東側にある展示室には、驚くほど簡素な作りのカフェが設置されている。この場所の最もユニークな点は、展示スペースとカフェが一体化しているということ。展示室の中央に食卓テーブルが置いてあり、同室の角にあるレジで飲み物やお菓子を買えば、そこで飲んだり食べたりしながら写真をのんびりと鑑賞できるのである。またこのスペースは、たとえドリンクを購入しなくても、足に疲れを感じた人たちが腰を下ろすための、気軽に利用できる休憩所としても機能している。そんな敷居の低さにこそ、このギャラリーが愛される理由があるのだろう。

Photographers' gallery

カフェの営業時間: 月-土11:00-17:30 (日は12:00 から営業)
5 Great Newport Street WC2H 7HY
Tel: 020 7831 1772
www.photonet.org.uk
地下鉄: Leicester Square駅

お茶ついでに、ちょっとアート
Dryden Goodwin: CastDryden Goodwin: Cast
ロンドンの劇場街ウエスト・エンドを舞台とした、写真と絵画を融合させた展示。11月16日まで。入場無料。
©Dryden Goodwin / Courtesy of the artist and Stephen Friedman Gallery (London)


Kings Place異なるアートにはおあつらえのカフェを
グリーン・フォーチュンほか
Kings Place
まだ10月にオープンしたばかりのクラシック音楽や講演会、そしてもちろん美術展も行う総合アート施設。リージェンツ運河の上に浮かぶように建つ近代的な建物をその舞台としている。今月初旬には5日間で100のコンサートを開催するなどして、オープン直後から話題を呼んでいる。

キングス・プレイス館内には、カフェとレストランに加えてバーが2カ所。まずは1階にある「ロタンダ・レストラン」とその併設バーでは、リージェンツ運河の河岸に立つキングス・プレイスの立地を生かした、抜群の眺めを楽しむことができる。建物の中央に位置するグリーン&フォーチューン(写真)は、館内での待ち合わせや時間つぶしのために気楽に利用できるカフェ。さらに上階には、コンサートの合い間に聴衆が喉を潤すためのバーも設置されている。総合アート施設と銘打っているだけあって、各用途に則した飲食スペースが用意されているのだ。カフェ一つをとっても鑑賞者の行動を計算して設計されたことが分かる、非常に機能的なアート施設。

Kings Place

カフェの営業時間: 8:00-23:00
90 York Way N1 9AG
Tel: 0844 264 0321
www.kingsplace.co.uk
地下鉄: King's Cross駅

お茶ついでに、ちょっとアート
Dryden Goodwin: CastKings Place Gallery
ノルウェー人彫刻家ニコラス・ウィダーベルグの作品展を開催中。入場料は無料。また異なるジャンルの音楽を融合させる「This is Tuesday」など、様々な形態のアートをテーマとしたイベントを行っている。
写真上)©Nicolaus Widerberg 
写真下)©Nicolaus Widerberg



Wellcome Collection甘いお菓子とともにみっちりとお勉強
ペイトン & バイン
Wellcome Collection
米国人化学者ヘンリー・ウェルカムの名を取り設立された財団が運営する博物館。人体と科学、そしてアートの融合を目的としている。肥満や遺伝子といった現代的なテーマから、フランス皇帝ナポレオンが使用した歯ブラシといった歴史的な物までを扱った、幅広い展示が用意されている。

訪問者を甘いお菓子で誘惑するかのように、ウェルカム・コレクションの入り口付近に設置されているのがこのカフェ。しかも英国のカリスマ・パティシエ、ロジャー・ピジーの手作りケーキで人気を集めるペイトン&バインの2号店というのだから、味も折り紙付き。抑制の利いた甘さとほのかなリキュールの風味で、上品な味に仕上がったケーキは確かに美味。さらには英国人たちがこよなく愛するスコーンも置いてあるので、甘党にはたまらない場所だろう。白を基調とした開放感溢れる内装にも好感を覚えるはず。また電源があるので、パソコンで作業を行うにもぴったり。実際、ここでは小奇麗な服装をした学生が静かに勉強している姿をよく見かける。

Peyton and Byrne.

カフェの営業時間: 月~土10:00-18:00
(木は22:00 まで、日は11:00 から営業)
183 Euston Road NW1 2BE
Tel: 020 7611 2222
www.wellcomecollection.org
地下鉄: Euston駅

お茶ついでに、ちょっとアート
Transparent Woman
Transparent Woman常設展の中にある人体の展示。体の部位を意味する英単語を押すと、その部位が光る仕組みになっている。「胃」、「肝臓」といった初歩的なものから「膀胱」といった単語の復習に便利。ウェルカム・コレクションの常設展への入場は無料。


Victoria & Albert Museum世界で初めてのミュージアム・カフェ
V & A カフェ
Victoria & Albert Museum
科学博物館、自然史博物館などといった大型施設が並ぶ、サウス・ケンジントン地区に建つ博物館。正式名称の頭文字をとった「V & A」の愛称で親しまれている。1851年に開催されたロンドン万国博覧会で展示された作品を中心として、主にインダストリアル・デザインに関する展示品400万点が145部屋にわたって展示されている。

V & A の巨大な敷地内にある3部屋をスペースとして活用した、見た目から非常に豪華なカフェ。「モダン・デザインの父」と呼ばれるウィリアム・モリスがデザインした「モリス・ルーム」、19世紀後半の産業企業家ジェームズ・ギャンブルによる新古典主義建築が高級感を醸し出す「ギャンブル・ルーム」、同じく19世紀後半を生きた英国人画家エドワード・ポインターが設計を手掛けた青と白の組み合わせが印象的な「ポインター・ルーム」と、設計者の名前がそれぞれつけられた部屋は、デザインをテーマとした同博物館の展示品の一つとしても機能しているという。料理も豊富に取り揃えられているので、何度訪れても飽きることはないだろう。

V&A

開館時間: 10:00-17:45 (金は22:00 まで)
Cromwell Road SW7 2RL
Tel: 020 7942 2000
www.vam.ac.uk
地下鉄: South Kensington駅

お茶ついでに、ちょっとアート
Cold War ModernCold War Modern: Design 1945-1970
第二次世界大戦とデザインの関係を考察する特別展。とりわけ米国と旧ソビエト連邦の宇宙開発の競争について取り扱っている。入場料は£6~ 9。
©V & A images


Wallace Collection英国貴族が嗜んだお茶の時間を追体験
カフェ・バガテル
Wallace Collection
かつて貴族の屋敷として使われていた邸宅を利用した美術館。4代にわたるハートフォード侯爵、さらにその子孫であり、館名にもなったリチャード・ウォレス卿が蒐集した絵画や家具が集められている。フランドル絵画と呼ばれる、15世紀に欧州大陸で流行した作品のコレクションは見事。

ウォレス・コレクションの開館時間となる午前10時から訪れる客を見かけるほどの、ロンドン市民の間でも抜群の人気を誇るカフェ。透明なガラス天井から入り込む自然光と、シュロと呼ばれるヤシ科の常緑木が植えられた鉢、さらには噴水まで設置されていて、室内庭園さながらの趣をなしている。かつて貴族の邸宅として使われていた歴史を持つという、その優雅な空気に満ちたカフェであれば、大英帝国としての繁栄を謳歌したヴィクトリア朝からエドワード朝時代の英国貴族が堪能した、至高の贅沢を追体験することができるだろう。結婚式を執り行う人も多くいるというその華美な空間は、アフタヌーン・ティーを嗜(たしな)むための恰好の場所となるはず。

Wallace Collection

カフェの営業時間: 10:00-17:00 (日は12:00 から営業)
Hertford House, Manchester Square WIU 3BN
Tel: 020 7563 9500
www.wallacecollection.org
地下鉄: Bond Street / Baker Street駅

お茶ついでに、ちょっとアート
The Laughing Cavalier
The Laughing Cavalierフランドル絵画の代表作として知られる、17世紀のオランダ人画家フランス・ハルスが描いた傑作。入場無料の常設展に飾られている。
©By Kind Permission of the Trustees of the Wallace Collection



RIBA都会の喧騒から逃れるための隠された屋外庭園
RIBA カフェ
RIBA
王立英国建築協会(Royal Institute of British Architects)の略称。英国にある公共施設や住宅といったあらゆる建物の建築デザインの向上を図る目的の下に発足した。ショップに並べられた建築関係の本のコレクションの豊富さは見事。フロアごとにテーマの異なる特別展を行っている。

王立英国建築協会(RIBA)のビル2階奥にあるカフェ。建物内に入ってすぐの場所にもカフェが設置されているが、そこで止まらずに階段を上ってさらに奥へと進むと、このガーデン・カフェへと行き着く。買い物客で常に騒がしいオックスフォード・サーカス付近にあるというのが信じられないほど、カフェ内には独特の落ち着いた静かな空気が流れている。デザイン性に溢れた縦長の窓も、まさにRIBAならではのアール・デコな空間作りに一役買っている。ガーデン手前にある大ホールや1階と2階を結ぶ階段脇などにも椅子とテーブルが置かれていて、辺りをよく見回してみると、実はこのビルはカフェ・スペースばかりということが分かるはず。

RIBA

カフェの営業時間: 8:00-18:00(土は9:00-16:00)
66 Portland Place, W1B 1AD
Tel: 020 7631 0467
www.architecture.com
地下鉄: Regent's Park/ Great Portland Street駅

お茶ついでに、ちょっとアート
RIBARIBA の内装
建築界の権威なだけに、RIBA は建物そのものがアート。入り口からの階段、床、柱、側壁にそれぞれ異なる大理石が用いられるなど、あらゆる場所に趣向 が凝らされている。


*本記事で記されている各アート施設のカフェの営業時間はあくまで目安です。当日の店の込み具合やイベントの有無などによって、変更される場合があることを予めご了承ください。


まだあるアートの息吹に触れられるカフェ

>カフェがギャラリーを作った
The Parlour@SketchThe Parlour@Sketch

営業時間: 月~金8:00-23:00 (土は10:00 から営業)
9 Conduit Street W1S 2XG
Tel: 0870 777 4488
www.sketch.uk.com

>音楽の神童と共にコーヒーを味わう
Café MozartCafé Mozart

営業時間: 8:00-22:00 (土日は9:00 から営業)
17 Swains Lane N6 6QX
Tel: 020 8348 1384

>文学もこれまたアートなり
Poetry PlacePoetry Place

営業時間:月-金 12:00-23:00 (土は19:00 から営業)
22 Betterton Street WC2H 9BX
Tel: 020 7420 9887

>読書の秋を楽しもう
5th view@Waterstone's5th view@Waterstone's

営業時間:10:00-22:00 (日は12:00-18:00)
203-206 Piccadilly W1J 9HA
Tel: 020 7851 2400

>カフェがギャラリーを作った
Books for CooksBooks for Cooks

営業時間: 10:00-18:00
4 Blenheim Crescent W11 1NN
Tel: 020 7221 1992
www.booksforcooks.com

 

第52回ロンドン・フィルム・フェスティバル

ロンドン・フィルム・フェスティバル

世界43カ国から約300本の作品が一堂に会し、10月15日(水)~30日(木)の2週間にわたって行われるこの映画祭は、例年ロンドンっ子たちも気軽に参加する市民のためのイベントとして知られている。巨匠作品から新鋭のインディ映画まで幅広く公開され、世界先行上映作品は15本、欧州/海外先行上映作品は計34本と新作や話題作を一足お先に観られるのも嬉しい限り。最近 DVD三昧の方も、この機会に劇場へ足を運んでみてはいかが?(黒澤里吏)

ロンドン・フィルム・フェスティバル
公式ウェブサイト: www.bfi.org.uk/lff


Opening Night Gala

思惑と機知が交錯する世紀の問答
Frost/Nixon

Frost/Nixon

英王室の内幕を描いた「クイーン」などで知られる英国の脚本家ピーター・モーガンが、1977年に行われたニクソン元米大統領と英国人TVプレゼンター、デービッド・フロストの対談の模様を描いた戯曲を、オスカー受賞歴をもつロン・ハワード監督が映画化。ニクソン役とフロスト役に、それぞれ舞台でも同役を演じたフランク・ランジェラとマイケル・シーンを配し、映画ならではのダイナミズムで魅せる本作は、今回、世界先行公開となる大注目の一本だ。

ウォーターゲート事件による辞任から3年を経た1977年夏、それまで沈黙を守っていたニクソン元米大統領は、英国人TVプレゼンター、デービッド・フロストの対談番組への出演依頼を受諾する。辞任後初という歴史的なインタビューの相手にフロストが選ばれたことは世間を驚かせたものの、いざ本番となってカメラが回り始めると、辛辣なジョークとウィットに富んだ発言の応酬となり……。果たしてフロストはニクソンに肉迫し、公式謝罪をとりつけることができるのか。

(USA 2008/122分)

監督 Ron Howard
出演 Frank Langella, Michael Sheen, Rebecca Hall他
上映日時 10月15日(水)19:00 / 18日(土)12:30
場所
Odeon Leicester Square(15日)
Odeon West End2(18日)

The Times Gala

ブッシュとは一体誰なのか
W.

W.

JFK、ニクソン、カストロと歴史的要人の人物像に迫り、高い評価を得てきたオリバー・ストーン監督が新作で取り上げたのは、現米大統領ジョージ・W・ブッシュ。近年著しい活躍を見せるジョシュ・ブローリンが大統領に扮し、脇を固める俳優陣も実力派揃い。米大統領選を目前に控えたタイミングでの公開に期待は高まるばかりだ。

名門ブッシュ家の異端児と言われたジョージ・W・ブッシュは、いかにして大国のリーダーにまで上りつめたのか──。パーティー続きで飲酒に明け暮れ、薬物を乱用していた青年期から、権力者としてのし上がってゆく姿、そして長年にわたる元大統領の父との確執まで、現米大統領の半生を、監督いわく「偏りなく描いた」伝記映画。

(USA 2008/110分)

監督 Oliver Stone
出演 Josh Brolin, James Cromwell, Ellen Burstyn他
上映日時 10月23日(木)19:30 / 24日(金)13:00
場所 Odeon Leicester Square(23日)
Odeon West End2(24日)

Closing Night Gala

賞金を狙う本当の理由とは
Slumdog Millionaire

Slumdog Millionaire

「トレインスポッティング」を始め数々の話題作を手掛けてきたダニー・ボイル監督が、英国一とも言われるその多才ぶりをまたしても発揮した待望の新作は、インドを舞台にしたユーモラスでスリリングな物語。原作はヴィカス・スワラップのベストセラー小説「ぼくと1ルピーの神様」、脚本は「フル・モンティ」のサイモン・ビューフォイが担当。お得意のアップビートな演出が冴えわたり、パワフルで味わい深い快作に仕上がっている。

ムンバイのスラムで生まれ育った18歳の孤児ジャマールは、人生最大のチャンスを掴もうとしていた。一攫千金バラエティ番組「ミリオネア」で一等賞金獲得まであと1問に迫っていたのだ。しかし番組放映後まもなく「教養のない孤児がなぜそんな難問に答えられるのか」と疑われ、警察に拘留されてしまう。ジャマールは無実を証明するため、それまでの人生を語り始める。驚くことに彼の半生は、クイズの回答を知る鍵となる出会いや経験に満ちていて……。

(UK 2008/110分)

監督 Danny Boyle
出演 Irrfan Khan, Anil Kapoor, Dev Patal他
上映日時 10月30日(木)19:00
場所 Odeon Leicester Square

The Mayor of London Gala

優しく力強い家族再生の物語
Genova

Genova

ノンフィクションからSF映画まで幅広く手掛けるマイケル・ウィンターボトム監督の、心に染み入る家族ドラマ。撮影は同監督作品のレギュラー、マーシャル・ジスキンド。イタリアのジェノヴァを中心に、ほぼ全編にわたりロケ撮影を敢行し、ハンディカメラを多用することで、自然光を生かした瑞々しい質感を生み出すことに成功している。

妻を不慮の事故で亡くし、悲しみに暮れるジョーは、2人の娘とともにイタリアのジェノヴァで新生活を始めることを決める。引っ越しを済ませ、気持ちも入れ替わり落ち着きを取り戻してきた3人だったが、ある日、次女のマリーが悪夢にうなされる。さらにその翌日から、亡くなったはずの母が近所を歩いている姿を目にするようになり……。

(UK 2007/90分)

監督/ 脚本(共作) Michael Winterbottom
出演 Colin Firth, Catherine Keener, Hope Davis他
上映日時 10月22日(水)20:30 / 26日(日)16:00
場所 Odeon West End2(22日)
Odeon West End1(26日)
Sight & Sound Special Screening

生の声が飛び交うリアルな教育現場
The Class(Entre les murs)

The Class(Entre les murs)

教職経験をもつ作家フランソワ・ベガドーの半自伝的小説を基に、ベガドー本人が教師役を演じ、さらにパリに実在する学校の生徒が生徒役を演じているというリアル度120%の意欲作。次の展開が楽しみになる活気に満ちた授業はまさにドラマそのもの。今年のカンヌ国際映画祭で、仏映画としては実に21年ぶりとなる最高賞に輝いている。

パリのとある中学校でフランス語を教えているフランソワ。古典的な教授法に縛られず、ユニークな切り口で進められる彼の授業は、生徒たちの意欲と発想力を高めると評判だった。そんなある日の授業で、いつも優秀な一人の生徒が、ある問題に引っかかり、そのまま深みにはまってしまう。フランソワは彼に解決の糸口を与えることができるのか。

(France 2008/128分)

監督/ 脚本(共作) Laurent Cantet
出演 François Bégaudeau他
上映日時 10月18日(土)20:30 / 20日(月)13:30
場所 Odeon West End2(18日)
Odeon West End1(20日)
Time Out Special Screening

怒りと情熱がにじみ出る衝撃作
Hunger

Hunger

ターナー賞受賞歴をもつビジュアル・アーティスト、スティーヴ・マックイーンの映画デビュー作は、アイルランド共和軍(IRA)による監獄でのハンガー・ストライキを題材にした、見ごたえのある社会派作品。今年のカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール賞、ヴェネチア国際映画祭でグッチ・グループ賞など、数々の賞を受賞している。

1981年、ベルファストのメイズ刑務所に収容されていたIRAの政治犯たちは、ひどく劣悪な環境にいた。そしてある日、刑務所内で起こった暴動事件で一人の政治犯が射殺されたのを機に、リーダー格のボビー・サンズは正当な処分を求め、他9人のメンバーとともにハンガー・ストライキ(命懸けの断食による訴え)を実行する。

(UK 2008/90分)

監督/ 脚本(共作) Steve McQueen
出演 Michael Fassbender, Stuart Graham, Liam Cunningham他
上映日時 10月19日(日)21:00 / 20日(月)16:00
場所 Odeon West End2(19日)
Odeon West End1(20日)
Tiscali Gala

20世紀の革命家が今に伝えるもの
Che(Part1 & Part2)

Che(Part 1 & Part2)

「トラフィック」でアカデミー監督賞を受賞したスティーヴン・ソダーバーグ監督が、今も世界中の多くの人々に影響を与え続けるアルゼンチン生まれの革命家、チェ・ゲバラを徹底研究した伝記映画。アプローチやトーンが異なる2部から成り、計252分の大長編に仕上がった。念願のゲバラ役に扮したベニチオ・デル・トロの熱演に釘付けだ。

パート1ではカストロとの運命的な出会いから、約2年にわたる熾烈な武装ゲリラ闘争を経て、1959年にキューバ革命を成し遂げるまでを描く。パート2は1966~67年のボリビアへの介入に焦点を当て、ゲバラの理想主義や自己犠牲の精神とともに、米国の助力を得てゲリラ対策を強化した政府軍に破れ、処刑に至るまでの姿を追う。

(France-Spain-USA 2008/252分〔126分+126分〕)

監督 Steven Soderbergh
出演 Benicio Del Toro他
上映日時 10月25日(土)18:00(Part1 & Part2)
10月27日(月)12:30(Part1)
10月29日(水)12:30(Part2)
場所 Odeon West End2
London Film Fextival

国に翻弄される男の半生
Teza

Teza

エチオピア出身のハイル・ゲリマ監督が、14年という年月をかけて完成させた切れ味の良い政治ドラマ。長く国を離れた後に帰国した男が現実の世界に違和感と幻滅を抱く姿を通して、母国の歴史と政情を鋭く描写し、今年のヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞とオゼッラ賞(脚本賞)のW受賞を果たした。

舞台は1970年代のエチオピア。西ドイツに留学中のアンバーバーは、革命で母国の君主制が廃止されることを知り、喜び勇んで帰国する。しかし彼を待っていたのは恐ろしい独裁政治だった。その後、政府によって東ドイツへ派遣された彼は、ベルリンの壁が崩壊し、母国の軍事政権が廃止されるまで西ドイツに身を隠すことにする。

(Ethiopia-Germany-France 2008/140分)

監督/脚本 Haile Gerima
出演 Aron Arefe, Abiye Tedla, Takelech Beyene
上映日時 10月30日(木)13:00 / 18:00
場所 Odeon West End1(13:00)
Odeon West End2(18:00)
London Film Fextival

何はなくとも音楽があれば
1234

1234

ショート・フィルムで経験を積んだガイル・ボーグ監督の長編デビューとなる本作は、インディ精神とは何かを伝える英国らしい作品だ。無名のバンドが紆余曲折する姿をウィットを交えながら丁寧に描くことで、数あるバンド物語とは一味違った、オリジナリティ豊かな心温まるドラマが誕生した。世界先行公開となるこの機会に是非。

仕事はできない、彼女もなしのサエないメガネ君、スティービー。しかし彼には少なくとも音楽があった。友達のニールとともにバンドを組んでいた彼は、経験豊かで大きな野望を抱くギタリストのビリーと、彼の友達でベーシストのエミリーをメンバーに加えることに成功して波に乗り、バンドをレコード会社に売り込もうとするが……。

(UK 2008/85分)

監督/脚本 Giles Borg
出演 Ian Bonar, Lyndsey Marshal, Kieran Bew他
上映日時 10月17日(金)21:00
10月24日(金)18:3
10月25日(土)19:30
場所 NFT1(17日)
Ritzy Screen2(24日)
Studio(25日)
Sky Gala

ひと夏の恋はこうでなくっちゃ!?
Vicky Cristina Barcelona

Vicky Cristina Barcelona

ウッディ・アレン監督の最新作は、太陽が燦々と降り注ぐバルセロナを舞台にレベッカ・ホール、スカーレット・ヨハンソン、ペネロペ・クルスと旬の女優たちが大人の恋模 様を繰り広げるロマンティック・コメディー。

カタルーニャ文化を研究中の米国人学生ヴィッキーは、友達のクリスティーナとともにバルセロナへ旅立ち、夏を楽しんでいた。ある日、自由気ままなアーティストのホアンと知り合った2人は、誘われるままに週末を彼の別荘で過ごすことに。そこから意外で複雑な恋愛劇がスタートする。さらにホアンの前妻マリアが突然現れて……。

(USA-Spain 2008/96分)

監督/脚本 Woody Allen
出演 Rebecca Hall, Scarlett Johansson, Javier Bardem他
上映日時 10月21日(火)20:30 / 25日(土)13:15
場所 Odeon West End2
Family Gala

大人も引き込まれる童話世界
The Secret of Moonacre

The Secret of Moonacre

英国の児童文学作家、エリザベス・グージの名作「まぼろしの白馬」を下敷きにし、「テラビシアにかける橋」で話題を呼んだハンガリーのガボア・クスポ監督が再び極上の冒険ファンタジーを完成させた。

両親を亡くし、遠縁のベンジャミン卿に引き取られてムーンエーカー館に住むことになった少女マリア。ある日、たった一つの遺産である一冊の本に、館にまつわる重大な秘密と謎、またそれを解く鍵が隠されていることに気付く。本によると、月が5000回目に空に現れたとき、館は海に沈んで消えてしまうというのだ。

(UK-Hungary 2008/103分)

監督 Gabor Csupo
出演 Ioan Gruffudd, Dakota Blue Richards, Juliet Stevenson他
上映日時 10月26日(日)15:30
場所 Odeon West End2

日本映画

可笑しく切ない信念と愛の物語
Achilles and the Tortoise アキレスと亀

アキレスと亀

北野武監督の長編14作目となる新作は「俊足のアキレスでも決して亀に追いつけない」という数学の逆説に名を借りた、売れない画家とその妻の物語。監督自身の手による約70点の絵画が場面に彩りを添えている。裕福な家庭に生まれた真知寿(まちす)は家族におだてられ、画家になることを決意する。その後、両親が自殺して波乱の人生を送るが、夢をあきらめず、唯一の理解者である妻に支えられながら絵を描き続けていた。しかし一向に芽が出る気配はなく……。

(日本2008/119分)

監督/脚本 北野武
出演 ビートたけし、樋口可南子、柳憂玲他
上映日時 10月21日(火)18:30 / 22日(水)13:00
場所 Odeon West End1(21日)
Odeon West End2(22日)

これぞ日本のホームドラマ
Still Walking 歩いても歩いても

歩いても歩いても

「誰も知らない」の是枝裕和監督による、ささやかで平凡な家族の肖像。軽妙なユーモアをちりばめながら、登場人物の心の綾を淡々と映し出し、小津作品を彷彿とさせる珠玉のホームドラマに仕上げている。失業中の横山良多は、15年前に亡くなった兄の命日に、重い気分のまま妻と息子を連れて実家を訪れる。姉の一家とも再会して賑やかなひとときを過ごすが、父との確執は拭えずにいた。そんな中、ふとしたことから両親の老いを実感し……。

(日本2008/114分)

監督/脚本 是枝裕和
出演 阿部寛、夏川結衣、YOU他
上映日時 10月22日(水)16:15 / 23日(木)20:45
場所 ICA1

異色のヒロイン、よし子に喝采!
German + Rain ジャーマン+雨

ジャーマン+雨

期待の新星、横浜聡子監督の自由な感性が爆発した、型破りな快作。16歳のよし子はゴリラ顔で性格も最悪、天涯孤独の嫌われ者。植木職人見習いとして働く現場でもののしられてばかりだが、全くめげることはない。そんな彼女は、今日も近所のガキどもを集めてはタテ笛を教えて小銭を稼ぎ、彼らのトラウマをネタに曲を作りながら、歌手になる夢を追っていた。破天荒なヒロイン、よし子を演じるのは、体当たり演技で知られる超大型新人、野嵜好美。

(日本2007/72分)

監督/脚本 横浜聡子
出演 野嵜好美、藤岡涼音、ペーター・ハイマン他
上映日時 10月20日(月)21:00
10月21日(火)14:00
10月24日(金)19:00
場所 ICA1(20日、21日)/  Studio(24日)

狂信的な革命戦士が陥った悪夢
United Red Army
実録・連合赤軍あさま山荘への道程(みち)

実録・連合赤軍あさま山荘への道程

真実を残酷なまでにえぐり出す力強い作風で知られる若松孝二監督が、1972年の連合赤軍による「山岳ベース事件」および「あさま山荘事件」に迫る衝撃のドラマ。警察の捜査網を逃れ、革命戦士となることを目的に群馬県の山岳地帯にアジトを設営し、軍事訓練を行いつつテロ戦略を練っていた森恒夫、永田洋子率いる連合赤軍メンバーたち。やがて訓練や規律がエスカレートしていき、粛清と称した壮絶な集団リンチへと発展していく。

(日本2007/190分)

監督/脚本 若松孝二
出演 坂井真紀、ARATA、地曳豪他
上映日時 10月22日(水)18:30
場所 NFT3

関連記事:ドイツニュースダイジェスト「若松孝二監督インタビュー」

チケット入手法

郵送
公式パンフレットに付属の申込用紙(公式ウェブサイトからもダウンロード可)に必要事項を記入して郵送。

オンライン
公式ウェブサイトから直接申し込む。24時間受付なので便利。

電話予約
Box Office: 020 7928 3232(毎日9:30~20:30)

会場窓口
BFI South Bank Box Office(South Bank)
毎日11:30~20:30
Leicester Square特設チケット・ブース

10月14日(火)~30日(木)毎日12:00~21:00
各上映会場
当日、最初の作品上映の30分前から購入可

※チケットの予約はBFIメンバー先行で9月下旬より行われているため、作品によっては売り切れの場合もある。毎年確実にチケットを入手したいなら、BFIメンバーへの登録がお勧め。

ラスト・ミニット・チケット
残念ながら売り切れだった場合でも諦めるのはまだ早い。10月10日(金)以降、いったん売り切れとなった作品のチケットが再度売り出される場合がある。ウェブサイトからEメール通知サービスに登録しておくとチケット再販売のお知らせが届くほか、電話(020 7928 3232)での問い合わせも可能。連日、新しいチケットが出る可能性があるので、マメにチェックしよう。また通常、上映30分前から当日券販売も行われるので、こちらも要チェック。

チケット料金

BFI Southbank(NFT1/NFT2/NFT3/Studio)
Ritzy / ICA / Curzon Mayfair
£8.50
Odeon West End £11
ガラ、特別上映 £15または£25
オープニング/クロージング・ナイト・ガラ £25

※その他、会場により異なる

割引情報

平日マチネ
Odeon以外の会場なら、平日17時以前に始まる上映作品はすべて£6で鑑賞できる。またOdeon West Endでは、平日17時以前に始まる上映作品がすべて£7で鑑賞できる。

子供料金
公式パンフレットに「f」マークが付いているファミリー向け作品に限り、15歳以下の子供は£5(ファミリー・ガラ作品は£7)で鑑賞できる。大人券1枚につき子供券は最高3枚まで購入可。

主な上映会場

BFI Southbank(NFT1 / NFT2 / NFT3 / Studio)
Belvedere Road, South Bank London SE1
最寄駅: Waterloo/Embankment/Charing Cross
Box Office: 020 7928 3232
問い合わせ: 020 7928 3535
http://www.bfi.org.uk/whatson/bfi_southbank

Odeon West End
40 Leicester Square WC2
最寄駅: Leicester Square
www.odeon.co.uk

Curzon Mayfair
38 Curzon Street W1
最寄駅: Green Park/Hyde Park Corner
www.curzoncinemas.com

ICA Cinema
The Mall SW1
映画館マップ最寄駅: Charing Cross/Piccadilly Circus
www.ica.org.uk

Ritzy Cinema
Brixton Oval, Coldharbour Lane SW2
最寄駅: Brixton
www.picturehouses.co.uk/site/cinemas/ritzy/local.htm



 

ロンドン・ファッション・ウィーク 2008

London Fashion Week

自信に満ちたアバンギャルド魂がいつだってカッコいい英国ファッション界。そして毎シーズン、流行を刷新しては、その斬新なクリエイティビティで世界を席巻しているのがロンドン・ファッション・ウィークだ。そこで、先日行われた2009年の春・夏コレクションに大接近、有名どころから新鋭デザイナーの紹介、キャットウォーク潜入にバックステージ密着と、英国の最新ファッション情報をお届けしよう。(文: Miki Yamanouchi 写真: Miki Yamanouchi、永見ちえみ、勝見晋一郎)

LFW 2008 Spring/Summer Collection

2009年春・夏のトレンドをチェック

9月14日~19日の約1週間にわたり、ロンドン・ファッション・ウィーク(以下LFW)が開催された。公式のショーとオフ・スケジュールのショーに、それぞれ50以上ものデザイナーが参加した今回。そのなかでも、来年のマスト・アイテムを紹介する。

トレンド・チェック

去年、今年と続いたサロペット人気の次に、またもや着こなしの難しいアイテムが来る予感
Avsh Alom Gur

メンズはパンツもシャツも、ロール・アップ、さらにパンツにタック・インが来るのだそう
B Store

派手に、華美に、幾何学的に。花柄やボーダー、ドットも自由に組み合わせて
House of Holland

多くのコレクションで目立っていたのが、差し色として用いていたオレンジ色
Betty Jackson

首もとや耳に主張のある大きなアクセサリーを着けるだけで、いつものコーディネートがワンランク上に
Issa

Cat walk

美の集結、キャットウォークに潜入

薄暗い会場のなか、くっきりとライト・アップされた1本のキャットウォーク。そしてその先に待ち構えるカメラマンと期待にざわめく観客席からは、独特の熱気がじわりと伝わってくる。さあ、この体験記を読んで、LFW常連気分を味わってみよう。

Day1 Bernard Chandran

場所: ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの別館
時間: 12:30
座席: フロアに並んだベンチの4列目
ランウェイの段差:なし

感想段差のないフロアで後ろの方の席と言えど、意外に見やすい。会場が狭いので、4列目でも十分に迫力があり、目の前を通るモデルたちのバストアップをはっきり見ることが出来る。ランウェイの先端で待ち構えるカメラマンたちの前で立ち止まる様子なども、全体像もじっくり眺められる。
バーナード・チャンドラン
Day2 B Store/Soar

場所: ポートマン・スクエアのレストラン
時間: 10:30
座席: 最前列
ランウェイの段差: なし

感想レストランの裏庭に通されると、ショーの開始時間が過ぎているというのに、みんなシャンパン片手にくつろぎモード。ようやく開場すると、西日を思わせる照明の中、最前列に案内される。一本の糸くずでも見えてしまうような位置から、素材や靴のディテールをじっくり堪能できた。
ビー・ストア/ ソアー
Day3 Issa

場所: 自然史博物館横のBFC特設会場
時間: 16:15
座席: 特設テントの2階、ランウェイの右上
ランウェイの段差: あり

感想さすが公式のショーとあって、ショー・パスのチェックも3回入る物々しさ。この日一番のサプライズは、あのスーパー・モデル、ナオミ・キャンベルの登場だ。その大物の風格は、他のモデルが小さく見えたほど。今では滅多にランウェイを歩かない彼女をキャッチできて、大満足。
イッサ


Fashion People
Fashion People

Back Stage

Todd Lynn のバックステージに密着

1度きりの本番を控え、心地良い緊張感に包まれるバックステージ。キャットウォークを成功させるために、あわただしく働く「美」の職人たちの仕事っぷりを覗き見るため、人気沸騰中のブランド「トッド・リン」のバックステージに、いざ潜入!

バックステージに潜入


The Exhibition at London Fashion Week

LFWの開催に合わせ、世界各国のバイヤーがロンドンに集まるこの1週間。それに合わせ、LFWの主要会場である自然史博物館に建てられた特設展示場で行われるのが、プレスとバイヤー向けのエキシビションだ。新進気鋭のデザイナーたちのブースが200店も並ぶなか、ここでの楽しみはやはり、次の流行発信源として将来が有望なデザイナーを発掘すること。今回は小物に焦点を当て、気になるブランドをピックアップしてみた。

Shoes

MelissaMelissa
ブラジル生まれのラバー・シューズ・ブランドのメリッサ。どんなデザインでも思いのままなうえ、履きやすさも抜群だ。今季の目玉はなんといっても、「建築界の女王」ザハ・ハディッドが手掛けたデザイン。お披露目パーティーでは、自身のクリエーションを履いて登場した。2年がかりで構想が練られたという靴は、まさに歩く建築作品だ。

Thomas Murphy
Thomas Murphy英国出身のシューズ・デザイナー、トーマス・マーフィー。一見、地味であるが、ディテールを見ると実に面白い。例えば金色に輝くコッパー(銅)製のヒールは、年月を経につれダークな茶に変化していくという過程を楽しみながら履くことが出来る。素材は木や金属に皮など、自然の素材を使用。メンズ靴の思考を取り入れ、長く履き込むと味が出るよう計算されている。

Bags & Belts

Paparazzi
Paparazziありそうでなかった、雑誌を丸めたようなクラッチ・バッグ。伊勢丹のバイヤーがサンプルを購入したというから、日本上陸も近いかも。雑誌「バニティ・フェア」の表紙デザインでの特注オーダーも入ったのだとか。

Kate Sheridan
Kate Sheridanプリントからデザインするというケイトのバッグは、ブロードウェイ・マーケットやスピタルフィールズ・マーケットで買うこともできる。カンバス素材のでかバッグは軽くてお手頃価格、普段使いに愛せるタイプだ。プリントものが旬なこのシーズンに、個性を出せる。

Borba Margo
Borba Margoシルクのフリル・バッグに革のヒップ・バッグもフリルと、甘くなりそうなデザインなのになぜか辛口なのは、ブラジルとスウェーデンのデザイナーという対極コンビの賜物かも。ベルトも静かなシャープさで、かっこいい印象。日本では「ビームス」などで取り扱っている。

Hat & Accesory

House of Flora
House of Flora旬のモデル、アギネス・ディーンが雑誌の表紙で被り、一躍注目が集まったベレー帽は、PVC製でどことなくコミック的かわいさがある。長いリボンとメッシュが新感覚のサンバイザーなど、不思議なデザインを涼しい顔で着こなして、目指せ、お洒落の達人!

Babylon Sisters
Babylon Sistersステートメント・ジュエリーは素敵だけど、1日着けると重さで意外に疲れを感じるもの。それを意識し、軽い素材で作られた大ぶりのアクセサリーがこちら。果物の木を彫った黒花モチーフなど、見かけによらない軽さにびっくりだ。

Stephen Jones
Babylon Sistersこちらのブランドでも、レディースではミニ・サイズの帽子が目立つ。リアルなイチゴがついたカクテル・ハットは、「主役は私」を目指したい日のコーディネートにぴったり。アクリルの蛍光色が近未来的なキャスケットは、冒険好きなメンズへの提案だ。

 

ロンドン空港アラカルト

ロンドン空港アラカルト

近年、滑走路拡張問題などでたびたびメディアを騒がせているロンドンの空港。しかし、空港には飛行機の離発着地というだけではない、さまざまな魅力が溢れている。今回はロンドンにある5つの空港に大注目。心地良く空港でのひとときを過ごすためのアドバイスから、各空港の知られざる事実、驚きのサービスの数々までをご紹介。単なる旅の玄関口としての役割を超えた空港の姿に迫ってみた。

空港サバイバル・ガイド

原油高騰に伴う燃料税の値上げ、セキュリティの強化など、空の旅は近年、何かと煩わしくなってきた。ことにロンドンの空港の渋滞は厳しく、飛行機の遅延はかなり頻繁で、ある統計によるとバジェット・エアラインの場合、夏のピーク時期など約半数の便が遅れるというから、空の旅も楽ではない。そこでここではロンドンの空港にスポットを当てて、いかにストレスを軽減し、気持良く、楽しく旅行ができるかを探ってみた。
(三上義一 http://homepage3.nifty.com/ymikami

エアポート・ホテルに泊まる

朝早い時刻の出発なら、エアポート・ホテルを賢く利用したいものだ。確かにホテル代はかかるが、ホテルの中には1泊するだけで2週間、無料で自家用車を駐車させてくれる所もあるので、それを考えるなら決して高い買い物ではないはずだ。なかには両親と同じ部屋ならば、子ども2人まで無料で宿泊できるホテルも。また、ホテルから空港までのシャトル・バス・サービスもあり、これを利用すれば空港までのタクシー代も不要となる。

エアポート・ホテルで是非試してみたいのが、日本のカプセル・ホテルからヒントを得たという「YOTEL」だ。これは「Yo! Sushi」と同じ経営者が始めたホテルで、2007年、ガトウィック空港に第1号ができ、今ではヒースロー空港、そして近い将来にはスタンステッド空港にも登場するというから、かなり繁盛しているのだろう。キャビンと呼ばれる部屋は、10平方メートルほどの広さで、すっきり機能的。薄型液晶テレビ、無料のインターネット接続サービスなどの設備を完備している。数時間単位で利用できるから、乗り継ぎの空き時間や突然の遅延時には最適だと言えよう。

Yotel
清潔感あふれるつくりのYOTEL

・エアポート・ホテルに関する便利なサイト
superbreak: www.superbreak.com
・パーキング、ホテル、ラウンジの予約に便利なサイト
Holiday Extras: www.holidayextras.co.uk
・YOTEL: www.yotel.com
運転手を頼む

エアポート・ホテルを利用したくはないが、自家用車で空港まで行きたいという場合には、どうすればいいのか。自分で空港内の駐車場に停めればよい話なのだが、これが言うほど簡単ではない。駐車場はターミナル・ビルからかなり遠い場所に位置していることが多く、子ども連れや荷物が多いときなどには一苦労だ。こういうときの味方が、ターミナル・ビルの前で待っていてくれて、代わりに車をパーキングに駐車してくれる運転手のサービス。外国から帰ってくる際には、ビルの前で車とともに待っていてくれる。

このような「meet-and-greet」サービスを提供しているのが、BCPという空港パーキング会社。先述の Holiday Extrasもヒースローとガトウィックの双方の空港で同様のサービスを提供しているので、要チェックだ。

ラウンジでチルアウト

空港のラウンジを使用できるのは、ファーストかビジネス・クラスの利用客だけだと思われているかもしれないが、ロンドンの空港には搭乗するエアラインに関係なく、料金さえ払えば誰でも利用できるラウンジがある。料金は3時間で約15~20ポンド、予約なしで利用できるところもある。

空港ターミナルは、時に人で溢れ、座る席もないことがある。そんなときには静かなラウンジに移動し、チルアウトしてはどうだろうか。落ち着いて座れ、テレビや新聞・雑誌、それにフリー・ドリンクやスナックが用意されている。ビールやワインなどのアルコール類もあり、シャンペンだけは有料だが、他は飲み放題。特にフライトが遅れた場合などには、ラウンジでくつろぐのが最適であろう。

ヒースロー空港にあるラウンジ
ターミナル1、2、3
・Servisair Lounge: 朝6時から夜10時まで。ビジネスマンだけで なく、子どもの利用も可。大人1人17.50ポンド。予約が必要な場 合あり。
ターミナル4
・Holideck Lounge: 朝5時半から夜の10時まで。3フロアある、 新しいコンセプトのラウンジ。ビジネスマンから子どもまで楽しめる。電話、ファックス、インターネット、ビデオ・ゲームなどが完備。室内からは空港のパノラマが楽しめる。
ターミナル3には、子供用のラウンジがある。朝8時から夜7時まで営業の「The Jetterz Kids Club」は5~14歳までの子どもが対象。テレビ、DVDプレーヤー、本、コンピューター、オモチャ などが揃い、親がショッピングしている間、子どもを預かってくれるというありがたい場所だ。2時間で子ども1人15ポンド、その後は1時間毎に10ポンドが加算される。
・The Jetterz Kids Club: Tel: 07767 368 600
ショッピング

英国在住の読者の方々ならば、空港でどのようなものを買うことができるかを説明する必要はないだろう。ただ、空港によく行かれるのならば是非ともお勧めしたいのが「WorldPoints」。これは空港内でショッピングをするとポイントがたまり、ポンドのクーポン券がもらえるシステムで、英国内のほとんどの空港で使えるため、非常に便利だ。

また、免税を利用すれば割引とポイントという2つの特典がある。例えば、通常小売店は値引きしないアップル社のコンピューター「Macbook Air Super-Thin Laptop」は、ヒースロー空港内の電気店Dixons なら1020.43ポンド(約19万3800円)と、ロンドン市内のアップル店よりも178.57ポンド(約3万4000円)も安く買えるだけでなく、1020ポイントが加算される。欲しいものがあれば、かなりお得なショッピングができるということになるわけだ。ヒースロー空港のウェブサイトでは、季節ごとに「best offers」が掲載されているので、事前にチェックすれば嬉しいバーゲン品が見つかるかもしれない。

・WorldPointsに関するウェブサイト
www.loyaltydata.co.uk/baa/NewRegistration.aspx
グルメ

さっぱりした魚介類が食べたい方は、ヒースローのタ ーミナル2にある「Caviar House And Prunier Seafood Bar」や、ターミナル1、3にある「Seafood Bar」が日本人観光客には評判がいいようだ。キャビアはちょっと高い、という方には、スモークサーモンかカキで冷えた白ワインというのはどうだろうか。スコットランド産のスモークサーモンやカキは、日本のものとは一味違い、実に美味なので試してもらいたい。

また、今年オープンしたばかりのターミナル5にはレストランがたくさんあるが、なかでも評判なのが「Gordon Ramsay Plane Food」だ。ゴードン・ラムゼイと言えば、英国を代表するセレブ・シェフ。日本にも進出し、ロンドン内にある彼のレストランはなかなか予約が取りにくいというほどの人気だが、このターミナル5のレストランは高級志向だとはいえ、入りやすく、味も評判。懐に余裕があり、一流のモダン・ブリティッシュ料理を試したい方にとっては、トライする価値はあるだろう。

眺望を楽しむ

その昔、まだまだ海外旅行が高嶺の花だったころ、飛行機を見に行くためだけに空港へ赴く人々がいた。現在、わざわざそのようなことをする人はいないだろうが、今日でも空港からの眺望は見る者を魅了するに違いない。ヒースロー空港で眺望が優れているスポットは以下の通り。

眺望
ヒースロー空港の展望スポット ©www.britainonview.com

・ターミナル1: パブ・レストラン「Tin Goose」、カフェ「Caffe Nero」「EstPresso!」「Costa Coffee」
・ターミナル4: カフェ「AMT」「Costa Coffee」「Holideck Lounge」
・ターミナル5: 眺めの良い場所はたくさんあるが、特に素晴らしいのがレストラン「Gordon Ramsay Plane Food」「Wagamama」など
ロンドン空港、ココが違う!
普段、何気なく利用しているロンドン内の5つの空港。規模のヒースロー、利便性のシティ、そして重大な任務を帯びたスタンステッドなど、各空港にはそれぞれの「色」がある。ここではこれら5つの空港の特徴と、ちょっと驚く秘密をご紹介しよう。(本誌編集部)

「世界で最も嫌われている空港」
ヒースロー空港

ヒースロー空港
ヒースロー空港
©Morley Von Sternberg

英国最大にして世界でも有数の規模を誇るヒースロー空港は、1930年、ミドルセックス州ヘイズに開港。取り扱い国際旅客人数は世界一(国内客を含めた旅客全体では世界3位)、今年3月にはターミナル5もオープンと、押しもおされぬ大空港だが、その規模の大きさ故か、トラブルに事欠かない場所としても知られる。新ターミナルのオープン直後にはご自慢の荷物自動処理システムに不備が発覚、毎日平均で900個もの乗り継ぎ客の荷物が紛失し、いまだ解決の目処が立っていないなど、その先行きが案じられている問題児なのだ。

ヒースロー空港のコレ、知ってた?
老舗旅行情報サイトの「TripAdvisor」が今年2月、2500人の旅行者たちを対象に「嫌いな空港」調査を行った。その結果、栄えある(?)第1位に選ばれたのがヒースロー空港(米シカゴのオハラ国際空港が同点1位)。ちなみにこれは新ターミナルのオープン前の話。もしオープン後に行われていたら、単独1位になっていた可能性はかなり高いだろう。

行く末が気になる「蜂の巣」空港
ガトウィック空港

今年で開港50周年を迎える、ウェスト・サセックス州クロ ーリーに位置する英国第二の空港。特定の空港の肥大化を防ぐため、ヒースロー空港に対しては、国際便のチャーター便の乗り入れ禁止や英米便の割当制限など、さまざまな規制が設けられている。その分の負担を一身に背負っているのがこの空港なのだが、滑走路の数はわずかに1本というから驚きだ。拡張工事を行うべきとの声も上がっていたが、騒音公害問題から、2019年までは現行のままということが決定している。つい先日、運営会社のBAA社が同空港を売却する方針を発表、行く末が気になるところだ。

ガトウィック空港のコレ、知ってた?
ガトウィック空港は、世界で初めてサテライト・ターミナル方式を採用した空港として有名だ。「サテライト・ターミナル」方式とは、ターミナル・ビルとは別の建物(サテライト)が駐機場の中央に位置し、飛行機がどの場所にもとまることのできるようになっているシステムのこと。円形をしていることから「蜂の巣」との愛称でも親しまれている。

ハイジャックされたらここへ
スタンステッド空港

スタンステッド空港
スタンステッド空港
©www.britainonview.com
英国第三の空港として知られるスタンステッド空港は、エセックス州のアトルスフォードに位置している。すっきりとしたモダンな建物は、ロンドンのミレニアム・ブリッジを建設したことでも知られる、英国の誇るハイテク建築家、ノーマン・フォスター卿の手によるもの。太陽の光が燦燦と降り注ぐ開放的な屋根のつくりは、空港としては画期的なデザインだと言える。格安航空会社の雄、ライアンエアー社のハブ空港となっているので、利用したことがある人も多いはず。

スタンステッド空港のコレ、知ってた?
スタンステッド空港が、「ハイジャックされた飛行機が英国内に着陸する場合に使用する」という目的のもと、デザインされている空港だということはご存知だろうか。なんでもハイジャック機をターミナル・ビルや滑走路から離れた所に停め、犯人との交渉が行われている最中でも、通常業務を行えるようになっているのだとか。

巨大ハリネズミの住む空港!?
ルートン空港

1938年、ベッドフォードシャー州ルートンに開港したルートン空港は、ボーディング・ブリッジがなく、タラップを使って機内に乗り込むことからも、「地味で小さな地方空港」のイメージがつきまとう。しかしそんな印象とは裏腹に、ここはルートン地区の自治体が所有する一方で、管理運営は民間会社であるTBI plcが行うという画期的なビジネス・システム、「公民連携事業(PPP)」形態を他に先駆けて取り入れた空港なのだ。これにより業績は好調だったが資金面で不安のあったルートン空港が、さまざまな新設工事を行えるようになった。

ルートン空港のコレ、知ってた?
格安航空会社、イージージェット社のハブとなっているルートン空港。同社のスタッフや利用客の様子を追った人気テレビ・ドキュメンタリー番組、「エアライン」のおかげで一躍、脚光を浴びた。また人気テレビ・シリーズの「空飛ぶモンティ・パイソン」では、ピラニア兄弟の一人、ディンズデールが巨大ハリネズミの住む場所としてこの空港について言及している。

まるでジェットコースター!?
シティ空港

ヒースロー空港
シティ空港
©www.britainonview.com

1987年に開港したシティ空港の特色といえば、何と言ってもその立地。近代的なビルが立ち並ぶロンドン東部のドックランズ地区にあるこの空港、実は実際にロンドン内に位置する唯一の空港である。他空港と比べるとまだ利用客数が少なく、長時間セキュリティ・チェックなどに並ぶ必要がないために、近郊のビジネスマンの間で人気を呼んでいる。来年2009年には、ブリティッシュ・エアウェイズ社が、ビジネス・クラスのみの米ニューヨーク行きエアバスA318を出航させる予定になっているなど、今後の発展が注目される空港だ。

シティ空港のコレ、知ってた?
街中にあるが故に、ほかの空港以上にさまざまな規制が課せられているシティ空港。なかでもシビアなのが、5.5°という急勾配での進入が求められていることだ。滑走路が短く、周辺住民への騒音にも配慮する必要があるための措置なのだが、通常の大型ジェット機の進入は3°だから、いかに急降下を余儀なくされているのかが分かるだろう。


Bon Voyage
 

フードマイル再考

フードマイル再考

環境問題の一環として、食物にも気を配る人が増えている。買うのはもっぱらオーガニック・フード。居住地域で生産されたものしか口にしない「ロカヴォア(Locavore)」を名乗るエコロジストまで現れた。彼らの信念の核を成すのが、「フードマイル(food miles)」という考え方。しかし、これって本当にエコなのか?食欲の秋を迎えた今、人と地球に優しい食生活を改めて考えてみよう。(サイトウ・ケイナ)

フードマイル(フードマイレージ) =
食べ物の輸送された総距離 X 輸送された食べ物の重量
日本は、なんと国民一人あたりのフードマイルが第1位。食料自給率が40パーセント以下と低く、多くを輸入に頼るために、自ずとフードマイルは大きくなる。一方、食料自給率約60パーセントの英国のフードマイル個人総量は日本の約半分。ちなみに米国は日本の約8分の1。この計算式から算出されたフードマイルの値が大きいほど環境への負担は大きいとされるが、あくまでも環境問題を考える際の一つの視点と して捉えよう(農林水産省2001、08 年、Defra 08年統計より)。

フードマイルとは

今日のあなたの晩ご飯、一体どのくらいの距離を経てそのお皿までやって来たか、想像できるだろうか。例えば、メインのお肉はニュージーランド、付け合せの野菜はスペイン産で、食後のフルーツは南アフリカから、という具合。スーパーで買う冷凍食品やパブで食べる料理の中には、さらなる長旅を強いられてきたものもあるというから驚きだ。

「フードマイル」はこのように、ある食物がその生産地から消費者の口に運ばれるまでの移動距離に着目した考え方。90年代に、現シティ大学教授で消費者運動家のティム・ラング氏が提唱し、食品製造が及ぼす環境問題や社会・経済問題への影響を、それまで見落とされがちであった輸送距離という観点から単純化して一般に示したことで注目された。以降、マークス・アンド・スペンサーやテスコといった英国の大手スーパーが、環境問題への企業努力として、野菜や果物のパッケージにフードマイルについての表示をするなど、フードマイルは消費者のエコ志向の高まりと共に広く認知されてきたのだ。

フードマイルの落とし穴?!

環境問題を考慮すると、自宅の近くで採れた食材を買うか、究極的には自給自足の生活をするのが一番で、遠く離れたケニアの地で育ったインゲンなんてもってのほか、ということになる。実際にこの考え方を自らの食生活に適用する環境保護活動家もおり、彼らは「ロカヴォア(Locavore)」と呼ばれる。ある土地で生産されたものをそこで消費する「地産地消」こそがエコなのだ、という主張だ。

ところが、何でもかんでも地域農家で育てれば良いのかというと、それは大間違い。トマトを例にとって考えてみよう。英国内で消費されるトマト、英国産とスペイン産ではどちらが地球に「優しい」か ─ はい、答えはスペイン産。フードマイルは確実にスペイン産の方が大きいのに……と疑問に思ったあなたは「偽エコの罠」に要注意だ。

「適地適作」という言葉がある。読んで字の如く、その土地ごとに栽培に適した作物があるということ。というわけで、上の例では、英国の気候条件がトマト栽培に適さないことが鍵だ。英国のほとんどの地域では、トマト作りを温室栽培に頼らざるを得ない。実はこの温室栽培に必要なエネルギーは、スペインからのトラック輸送で消費されるそれよりも、はるかに大きいのだ。同様に、レタスを旬ではない時期に英国内で作ろうとした場合、結果的にスペインから輸入するよりも多くの温室効果ガス(二酸化炭素など)を排出することになってしまう。

トマト以外についても、ぜひ生産方法に注目されたい。なんと英国産の羊肉よりも、はるか1万1000マイル(約1万7700キロ)もの旅路を船でやってきたニュージーランド産羊肉の方が、環境負荷は少ないというのだ。これは、ニュージーランドの農家が英国内の農家に比べてより少ない肥料を用い、より効率良くエネルギーを使って羊を育てているため。それゆえ、その温室効果ガスの総排出量が、結果的に輸送で生じる温室効果ガスの排出量を下回ることになるそうだ。先のケニヤ産インゲンも然り。ケニアの産地では、トラクターなどは使わず昔ながらの手作業で栽培や収穫を行っているため、石油系の肥料やディーゼル・トラクターなどを駆使して作られる英国産の同品よりも、環境への負担は総合的に少なく済んでいる。ところが、栽培にエネルギーを要しない旬の英国産野菜と比べた場合には、空輸されたケニア産の方が20倍もの温室効果ガスを出していることもある。輸送方法もポイントだ。同じ商品でも、空輸した場合の温室効果ガス排出量は、船輸送の約177倍にも上ると言われる。

そして、店頭に並ぶまでの保存方法にも留意する必要がある。せっかく英国内で採れたオーガニックのリンゴであっても、そのほとんどが店頭や倉庫で最長1年間も冷蔵保存されている。冷蔵・冷凍保存には莫大なエネルギーが消費され、温室効果ガスが排出される。それなら旬のニュージーランド産リンゴを船で運んだ方がエコロジカルなのだ。

さらに、ことには立場を変えた視点、人道的、世界経済的な視点も求められる。アフリカには、英国のような先進国に作物を空輸することで、どうにか生活をしている人々が100万人以上いる。フードマイルばかりが強調され、環境のために輸入品の不買運動をすれば良いという単純な考え方が広まると、そうした貧困国の経済を圧迫することにもなりかねないのだ。

食物を「ゆりかごから墓場まで」 で考える

このように、食品消費にかかわる環境負荷を考える場合、フードマイルだけにとらわれていては誤りの元となる。食品の生産から輸送、販売、消費、廃棄、再利用までの、すべての過程で必要とされるエネルギーや材料、排出される温室効果ガスなどの大気汚染物質や廃棄物の量といったあらゆる環境負荷、つまり「ライフサイクル・コスト」を考慮すべきなのだ。この考え方は、限られた資源を効率的に活用しながら人間の活動と地球環境の調和を図る「循環型・持続型社会」を目指したもの。食ベ物に限らず、人間によって作られるすべての製品やサービスに適用され、それぞれのライフサイクル・コストは、温室効果ガスの総排出量などさまざまな観点から専門的に評価される(ライフサイクル・アセスメント)。

しかし、食品におけるライフサイクル・アセスメントは、その複雑さに難点がある。特に加工食品、例えば、さまざまな具が乗ったピザは一つ一つの具材の軌跡をたどるのが難しく、評価は困難を極める。商品にフードマイルを表示していた先のテスコでも、ライフサイクル・コストに視点を移し、近いうちに商品製造で生じた温室効果ガスの排出量の表示に切り替えるよう検討しているというが、やはり表示が可能な商品は限られるようだ。

購入後もライフサイクルのうち

食物のライフサイクルを考える際に忘れてはいけないのが、食材を買って家に持ち帰ってからのこと。その食材の一生は完全に消費されるまで、もしくは廃棄・リサイクルされるまで続くのだ。くどいようだが、新鮮な旬の国産野菜を買っても、自宅の冷蔵庫で不必要に長期保存したり、うっかり腐らせてゴミ箱へ直行させてしまったり……ということでは元も子もない。

それだけではない。食材をどう調理するかも、そのライフサイクル・アセスメントにかかわる大切な部分であることをお忘れなく。例えば煮豆の缶詰。天日干ししただけの乾燥豆の方が、調理済みの缶詰よりも環境に負担をかけずに店頭までやってきただろう。ところが、だ。いざ乾燥豆を買って自宅の台所で煮豆を作ろうとすると、これが意外にたくさんのエネルギーを食う。工場で一度に大量の豆を調理する方がエネルギーは効率良く使われるため、食卓に並ぶ段では、皮肉にも缶詰煮豆に軍配が上がるのだ。

最もエコなお買い物は「地域の旬モノ」「肉・車ナシ」!

さて、私たちの買い物の手段は、食品のライフサイクル・アセスメントに影響を与えないのか。そんなはずはない。フードマイルを考えたら、自宅から近いファーマーズ・マーケットで買うのが良いはずだ。しかし、そこへ自家用車で出掛けたとしたら意味がないのでは……。自分は家から動かずに、契約農家のオーガニック食材を毎週宅配してもらったらどうだろう。買い物に出る回数を減らす代わりに、車でスーパーに行って大量に買いだめしたら?

考え始めると頭がクラクラするが、これまで見てきた通り、食を取り巻く環境問題は非常に複雑だ。あちらを立てればこちらが立たずで、一般消費者である私たちは右往左往。良かれと思ってしていたことが実は逆の結果を招いていた、ということにもなりかねない。

それではつまるところ、地球環境の保護のためには、日常の食生活で何をどう実践するのが一番良いのか。現在のところ、専門家らの意見が一致しているのは「地域の旬のもの(できればオーガニック)を食べる」、「肉や乳製品を控える」(※下記コラム①②参照)、「買い物で自家用車を利用しない」ということだ。

旬のものは複雑な調理をしなくても美味しい上に、栄養価も抜群に高い。これからの季節は根菜類が旬。季節の食べ物を必要なだけ摂るという、昔から当然とされてきたシンプルなスタイルこそが、現代人のための最も理に適った食生活のお手本なのではないか。

(参考資料:農林水産省、英環境食糧農林省(Defra)、欧州委員会、カーボン・トラスト、国連食糧農業機関、BBC、「ガーディアン」紙ほか)

エコ食マメ知識1
お肉と乳製品はエコの敵!

牛肉の生産は、他のいかなる食べ物の生産や輸送方法と比べても、最も大きなダメージを環境に与える。牛から採れる牛乳やそれを加工したチーズも、赤身肉と同様にNGだ。牛のゲップが大量のメタンガス(温室効果ガスの一つ)を排出するというのは有名な話。それに加えて、英国では家畜の飼料をはるばるブラジルや米国から輸入している。しかも、それはもとをたどればケニヤ産だというから、とんでもない。
エコ食マメ知識2
週に1度はお肉を我慢

ある学者の研究によると、1年間で週にたった1回、メイン・ディッシュを牛肉ではなく野菜にするだけで、車が1860キロ走るのに必要なエネルギーを節約できることになるという。野菜が無理なら、チキンに替えるだけでも効果は大きいとのこと。
エコ食マメ知識3
ベジタリアンの食生活はエコじゃない?!

ヘルシーでエコなイメージを持つ菜食主義。でも、同じサラダを一年中食べられるのはなぜか考えて欲しい。そう、その野菜のほとんどが地球にダメージを与える温室栽培や空輸によるもの。英国内で消費される野菜の50パーセント、果物に到ってはなんと95パーセン トが輸入品だという。

ライフサイクル・コストのココをチェック!

フードマイルだけでエコを語るべからず。食物のライフサイクル全体から判断しよう。

生産方法は?
「適地適作」かチェック。温室栽培は国外からの輸送よりもエネルギーを必要とする。農作業は機械、それとも手作業?

輸送方法は?
飛行機より船がベター。空輸は他のどんな輸送手段よりも二酸化炭素の排出量が多く、環境への負担は海上輸送の150~180倍。買い物へは車ではなく徒歩か自転車で。英国に住む成人は、食品の買い物のために年間平均135マイル(217.3キロ)も自家用車を走らせている。スーパーやオーガニック食材店のデリバリー・サービスも考えもの。

保存方法は?
冷蔵や冷凍による長期保存は環境へのダメージ大。

購入後は?
一般家庭での食材の冷蔵・冷凍保存はもちろん、調理時にもエネルギーが使われることをお忘れなく。

ライフサイクル

旬のモノを知ろう!

これからの季節は何が旬?下記サイトのレシピを参考に、英国の野菜や果物を使った料理にもチャレンジしよう!

食に関するウェブサイト

その名も「eat the seasons」。毎週水曜日に旬の食べ物情報を更新する、英国各紙で紹介された有名なウェブサイト。
www.eattheseasons.co.uk

BBCの食に関するページ。レシピも豊富。
www.bbc.co.uk/food/in_season

英国児童のための教育チャリティー団体「The Woodcraft Folk」のウェブサイト。子ども向けに環境問題が詳しく説明されている。
www.sustnable.org.uk

旬の食品カレンダー

9月 ナス、キャベツ、レタス、ケール、人参、カリフラワー、キュウリ、トマト、マッシュルーム、玉ねぎ、ほうれん草、エンドウマメ、サヤインゲン、ピーマン、パプリカ、パースニップ、ジャガイモ、かぼちゃ、スイートコーン、リンゴ、ブラックベリー、ラズベリー、エルダーベリー、ルバーブ、洋なし、 桃、メロン、ブドウ、いちじく
10月 ナス、ビートルート、キャベツ、レタス、人参、カリフラワー、ズッキーニ、かぼちゃ、マッシュルーム、パースニップ、ジャガイモ、リンゴ、ブドウ
11月 キャベツ、かぼちゃ、スウィード、カリフラワー、ジャガイモ、パースニップ、ポロねぎ、ビートルート、栗、クランベリー、洋なし、マルメロ
12月 セロリ、キャベツ、赤キャベツ、カリフラワー、セルリアック、かぼちゃ、ビートルート、かぶ、パースニップ、芽キャベツ、洋なし

(情報は上記各ウェブサイトより一部抜粋)

地元の旬の味をファーマーズ・マーケットで!

細かいことはひとまず置いて、できることからコツコツと。ロンドン市内でもたくさんのファーマーズ・マーケットが開かれている。さっそく足を運んでみよう。

マーケット情報はここでチェック

The National Farmers' Retail & Markets Association (FARMA)
全国規模でファーマーズ・マーケットを運営・進行する協会団体。全国のマーケット主催者が登録しており、スコットランド、イングランド、ウェールズ内の情報がこのウェブサイトから得られる。入り口にFARMAマークがあれば、そのマーケッ トはお墨付き。
Tel: 0845 458 8420
www.farmersmarkets.net

London Farmers' Markets (LFM)
ロンドン市内でファーマーズ・マーケットを主催する団体。市内15カ所で開かれるマーケットの情報を調べることができる。
Tel: 020 7833 0338
www.lfm.org.uk

map

1. Blackheath
駅に隣接した駐車場が会場。地元密着型でのんびりした雰囲気のマーケット。
日曜10:00-14:00
Blackheath Rail Station Car Park, 2 Blackheath Village SE3
最寄駅: Blackheath駅
バス: 54、89、108、202、380

2. Marylebone
オックスフォード・ストリートに近く、出店数も人出の多さもダントツ。
日曜10:00-14:00
Cramer Street Car Park W1
最寄駅: Baker Street駅 / Bond Street駅

3. Pimlico Road
規模の大きさの割に雰囲気は落ち着いており、ゆっくり買い物を楽しめる。
土曜 9:00-13:00
Orange Square SW1
最寄駅: Sloane Square駅
バス: 211、11、239

4. Ealing
ロンドンで唯一の路上ファーマーズ・ マーケット。
土曜9:00-13:00
Leeland Road, West Ealing W13
最寄駅: West Ealing駅
バス:207、607、208、83

5. Islington
1999年、ロンドンで初めて開かれたファーマーズ・マーケットがここ。
日曜10:00-14:00
William Tyndale School, Upper Street Islington N1
最寄駅: Angel駅

6. Notting Hill
ロンドンで最も大きなマーケットの一つ。オーガニック商品を扱うストール が多い。
土曜9:00-13:00 
書店Waterstones裏の駐車場にて
最寄駅: Notting Hill Gate駅

7. Clapham
地域住民による長年の熱い要望に応えてついに開かれたというマーケット。
日曜10:00-14:00 
Bonneville Primary School Bonneville Gardens SW4
最寄駅: Clapham South駅

8. Acton
オーガニック食材や新鮮な魚介類が揃う。ハーブや花類のストールも豊富。
土曜 9:00-13:00
Public Square on Acton High Street King Street W3
最寄駅: Acton Town / Ealing Common駅

9. Twickenham
会場はショッピング街に近く、週末のお買い物に便利。
土曜9:00-13:00 
Holly Road Car Park, Holly Road off King St, Twickenham TW1
最寄駅: Twickenham駅

10. Wimbledon Park
ウィンブルドンの地元住民から愛され続けている、地域密着型マーケット。
土曜9:00-13:00 Wimbledon Park First School Havana Road SW19
最寄駅: Wimbledon Park駅

地球環境に配慮した食品店

週末のファーマーズ・マーケット を逃してしまった!でも環境に優しいお買い物がしたい!それなら、お散歩がてら近所のエコなお店を探してみては?

Cheshire Food
リンゴや、国内最古と言われるチーズで有名な、イングランド北西部チェシャー州で生産された食品だけを揃えている。同州を中心に約20店舗を展開。ウェブサイトにはチェシャーの旬な食材のカレンダーも。
www.cheshirefood.co.uk

The co-operative food
国内最大の「農家」である同店は、フェアトレード商品の取扱数も国内最多。
Tel: 0800 068 6727
www.co-operative.coop

EARTH natural foods
Kentish Town Road沿い、地下鉄Camden Town駅から徒歩5分、Kentish Townからは2分に位置するオーガニック食品店。
Tel: 020 7482 2211
www.earthnaturalfoods.co.uk

Planet Organic
国内最大のオーガニック商品専門店。ロンドンに5店舗を構えている。 www.planetorganic.com

Fresh and Wild
北米と英国に全270店舗を展開する、エコ志向の食品店。
Tel: 020 7368 4500
www.wholefoodsmarket.com

The Grocery
様々な食品からペット・フード、自然療法に基づく医薬品などが揃う。
Tel: 020 7729 6855
www.thegroceryshop.co.uk

 

オープン・ハウス・ロンドン 2008

オープン・ハウス・ロンドン2008

毎年恒例の「オープン・ハウス・ロンドン」が今年も9月20日、21日に開催される。約700の建築物が一般公開されるこのイベントは、ロンドンの街を深く知る絶好の機会だ。至る所で開発が進み、超近代型ビルが街のアイコンとなっていく一方で、環境保護を意識した建物が続々と登場。歴史の面影を色濃く残しながらも、街は未来へ向けて日々刻々と変化している。建築物を訪ね歩きながら、時代の潮流を感じてみてはいかがだろう。(黒澤里吏)

オープン・ハウス・ロンドン公式ウェブサイト
www.openhouse.org.uk

LONDON NOW
ハイテク / モダン建築
街の景色を一変させる圧倒的な存在感で、見る者の想像力を刺激する超近代型高層ビルや、ハイテク建築家が手掛けたアットホームなケアハウスなど、注目の5件を厳選。時代の表情を映す建築物の数々から、ロンドンの今を探ってみよう。

これぞ21世紀型の癒し空間
Maggie's Centre(Hammersmith)

Maggie's Centre

ハイテク建築の巨匠、リチャード・ロジャース卿が「サ ポート・センターというより、もっと親しみやすくて寛 げる、そして心豊かになれる場所に」という発想のもと に、チャリング・クロス病院内につくり上げた、がん患 者のためのケアハウス。非営利団体による運営だけに、 センターの利用は無料で予約も不要。木材を効果的に用 い、採光に気を配った設計が、医療施設とは思えない、 心安らぐ空間を生み出している。

オープン期間 9月21日(日)10:00~17:00
(ガイド・ツアー/最終入場16:30)
住所 Charing Cross Hospital, Fulham Palace Road W6 8RF
最寄駅 Hammersmith / Baron's Court / Putney

息を呑む大胆で緻密なデザイン
Palestra(Southwark)

Palestra巨大な箱を積み重ねたような外観に目を奪われる12階建ての超近代型オフィス・ビル。トップと本体部分の結合は、梁(はり)の両端の一方のみが固定される、「片持ち梁」の構造を用いたハイテク技術の賜物だ。また、ミラー張りの外装に所どころ配された彩りはシリコン・ガラスによるもの。温度調節機能を備えており、優れたデザイン性とともに高い機能性を発揮している。


オープン期間 9月20日(土)10:00~13:00
(ガイド・ツアー / 最終入場12:30)
*公式ウェブサイトより要予約
住所 197 Blackfriars Road SE1 8AA
最寄駅 Southwark / Waterloo

行列覚悟、でも一見の価値あり
Lloyd's of London(City)

Lloyd's of Londonリチャード・ロジャース卿によるこのロイズ保険組合本社ビルを抜きにして、英国ハイテク建築は語れない。空に突き抜けるようなシャープで無機的な鉄骨+ガラスの外観は、1986年の建造当時から20余年を経た今も斬新でユニーク。地上60メートルの高さとなる11階のギャラリーから見下ろす、開放的な吹き抜けのアトリウムの眺めは圧巻だ。

オープン期間 9月20日(土)10:00~17:00(最終入場16:00)
住所 One Lime Street EC3M 7HA
最寄駅 Bank / Monument / Liverpool Street

抜群な環境の最新型オフィス
Portobello Dock(Kensington)

Portobello Dock今年新たにお目見えした、グランド・ユニオン運河を中心に広がる再開発地区。約4平方キロメートルの敷地にショッピング&食、住宅、オフィスの各エリアが点在し、一大ビレッジを形成している。今回は運河に浮かぶ5階建てのオフィス建築「カナル・ビル」の一部を一般公開。排気用の換気装置や巨大な太陽熱温水パネルなど、環境保護も意識したつくりだ。

オープン期間 9月20日(土)10:00~13:00(最終入場12:30)
住所 343 Ladbroke Grove W10 5BU
最寄駅 Ladbroke Grove / Kensal Green

上空から12年後の街の景色を思う
Taberner House & Alsop's Third City Vision
(Croydon)

Taberner House & Alsop's Third City Vision1967年建造のクロイドン行政本部ビル。ロンドン南東部を一望できる最上階には、2020年までに35億ポンド(約7000億円)を投じての開発が予定されている「アルソップのクロイドン都市化計画」の模型展示(写真)も。斬新なデザインで知られる建築家、ウィル・アルソップの未来都市ビジョンを目にするチャンスだ。

オープン期間 9月20日(土)10:00~17:00(最終入場16:50)
住所 Park Lane, Croydon CR9 1JT
最寄駅 East Croydon / West Croydon
FOR THE BETTER FUTURE
エコ建築 / 教育施設
より良い未来への鍵として真っ先に挙げられるのが、環境保護と教育対策。建築の世界でも、ここ数年でエコ・フレンドリーな建物や画期的な教育施設が増加中だ。そんな建築物に触れてみれば、未来のロンドンの姿が見えてくるはず。

こんなオフィスで働いてみたい
One Bishops Square(Tower Hamlets)

One Bishops Square

リチャード・ロジャース卿と並び、英国の2大建築家と言われるノーマン・フォスター卿が手掛ける、スピタルフィールズ再開発地区に立つ最新鋭のエコ建築。オフィス・ビル仕様としてはロンドンで最大の太陽光発電パネルや、自動節電機能付きの照明やエアコンなど、快適な職場環境を実現するためのさまざまな設備が搭載されている。

オープン期間 9月21日(日)10:00~17:00(最終入場16:30)
住所 One Bishops Square E1 6AO
最寄駅 Liverpool Street

低予算が功を奏してアイデア勝ち
Rooftop Nursery(Hackney)

Rooftop Nursery低所得層の居住区に低予算で建てられた保育園だが、国内では他に類を見ない衝撃吸収効果のあるゴム材を用いた屋上の遊び場を持つユニーク設計で、2007年のRIBA(王立英国建築家協会)アワードを始め数多くの賞を受賞。館内のフロアもスライディング・パネルの仕切りによって50パターンの使い方ができるなど、フレキシブルでアイデア満載のつくりになっている。

オープン期間 9月20日(土)13:30~16:30
住所 6 Ottaway Street E5 8PX
最寄駅 Rectory Road

地下鉄車両がアートの現場に
Village Underground (Hackney)

Village Underground閉鎖されたショーディッチの鉄道高架に廃棄処分の地下鉄車両を搬入し、アーティストのスタジオとして再利用。内装に持続可能な建築材を用いるなど、環境保護に十分配慮した設計だ。夏場にはライブやアウトドア・シネマなどのイベントが行われるほか、高架下のウェアハウスでは常時クラブ・イベントやファッション・ショーなどを開催している。

オープン期間 9月20日(土)10:00~17:00
住所 54 Holywell Lane EC2A 3PQ
最寄駅 Liverpool Street / Old Street

子どもの個性を伸ばす児童センター
Golden Lane Campus (Islington)

Golden Lane Campus生後6カ月から5歳までの幼児や児童のために開かれた複合施設。幼稚園、レセプション、養護学校を併設しており、各種アクティビティや母親のためのコースも充実している。異素材を効果的に配した有機的なデザインで、自然光の取り入れ方も見事。子どもたちの発想力を高めてくれそうな空間が実現している。

オープン期間 9月20日(土)10:00~13:00
(建築家によるガイド・ツアーあり)
住所 101 Whitecross Street EC1Y 8JA
最寄駅 Barbican / Old Street

感性を育てる彩り豊かな学校
Westminster Academy(Westminster)

Westminster Academy2006年新設の、生徒数1175人の中等学校で、校舎は翌07年に完成。緑が基調の鮮やかな配色が目を引く建物の内外には、環境汚染の原因となるストームウォーター軽減機能や、自然換気による温度調節を実現するコンクリート材の利用など、数多くのエコ機能が搭載されている。2008年RIBAアワード受賞。

オープン期間 9月20日(土)10:00~17:00
(建築家によるガイド・ツアーあり)
住所 255 Harrow Road W2 5EZ
最寄駅 Warwick Avenue / Royal Oak / Paddington

建物×新市長=エコ効果倍増!?
City Hall(Southwark)

City Hallノーマン・フォスター卿設計のロンドン市庁舎。この、卵とも筍とも見紛う不思議なフォルムが、実は自然の断熱や換気を可能にしている。加えて、コンピューターや照明器具の使用から生じる熱の再利用などで温度調節を図っているほか、節水機能や太陽光発電装置も備えるなど、隅々までエコ・フレンドリー。環境保護対策を公約に掲げている市長も満足に違いない。

オープン期間 9月20日(土)/ 21日(日)9:30~17:30
(最終入場17:00)
住所 The Queen's Walk, More London SE1 2AA
最寄駅 Tower Hill / London Bridge
FUSION OF THE TIMES
個性派スポット
英国では建物の再利用は当たり前。しかし、このハコにこの中身は偶然か必然か。ここでは当初の建築目的とは全く異なる使われ方をしているものを集めてみた。不思議な今昔のコラボレーションによって生じた、内外のギャップを味わいたい。

元は英国最古のジム施設
German Gymnasium King's Cross Visitor Centre
(Camden)

German Gymnasium King's Cross Visitor Centre1861年に創設されたドイツ体操協会の本拠地で、世界で最も古い近代オリンピックの一つとして数えられる1866年大会では、ほとんどの体操競技がここで行われた。木の合板を用いたアーチ状の梁は、キングス・クロス駅の設計の原型として知られる。現在はビジター・センターとして機能しているが、開発が進む周辺地区のなかで、やや異色の存在感を放っている。

オープン期間 9月20日(土)/ 21日(日) 10:00~17:00
住所 26 Pancras Road NW1 2TB
最寄駅 King's Cross / St.Pancras

古き良き時代の残像
Gala Bingo Club(Greenwich)

Gala Bingo Club1930年代に次々と建造された映画興行チェーン、「グラナダ・シネマ」は、伝統的な装飾をふんだんに施した壮麗なインテリアで知られる。1937年建造のこの建物もその一つで、超豪華シネマ、トゥーティングのグラナダと同様、ロシア人の舞台監督兼デザイナー、セオドア・コミサルジェフスキーが館内装飾を手掛けている。現在は娯楽産業チェーン、「ガラ・ビンゴ・クラブ」のホールとして営業中。

オープン期間 9月21日(日)11:00~12:00 *18歳以下は入場不可
住所 186 Powis Street SE18 6NL
最寄駅 Woolwich Arsenal

馬舎からカルトなポップ文化を発信
The Horse Hospital(Camden)

The Horse Hospitalラッセル・スクエア駅からすぐの裏通りに佇む1797年建造の小さな古びた馬小屋は、なんと国内外のアンダーグラウ ンド・カルチャーを発信する、会員制のアート・ヴェニューだった。レアでアヴァンギャルドな映画や音楽、アート関連のイベントを定期的に開催。ヴィンテージ服の宝庫でもあり、膨大なストリート・ファッションのコレクションを誇っている。

オープン期間 9月20日(土)/ 21日(日)12:00~18:00
住所 Colonnade WC1N 1HX
最寄駅 Russell Square / Euston

幾何学デザインが神秘性をプラス
Zoroastrian Centre for Europe(Harrow)

Zoroastrian Centre for Europe優れた建築に与えられる評価基準の一つ、「グレードⅡ」に認定されている、優美なアールデコ建築の元映画館は、現在、ゾロアスター教の欧州本部センターとなっている。ゾロアスター教とは古代ペルシアで発祥し、世界三大宗教にも影響を与えたとされる、世界最古の宗教の一つ。そう聞くと、アールデコの幾何学的なデザインがどことなく神秘的に見えてくるような……。

オープン期間 9月20日(土)10:00~13:00(ガイド・ツアー)
住所 440-442 Alexandra Avenue, Harrow HA2 9TL
最寄駅 Rayners Lane

スペシャル・イベントに参加しよう

夜間ハイキング

毎年盛況、約30キロのチャリティー・ウォーク。今年はCity Hallから出発して主要建築物を巡り、Savoy Placeのテラスで日の出を眺めながらシャンパンで乾杯!参加料はMaggie's Centreに寄付される。

日時 9月19日(金)19:30~(所要約8時間
参加費 1人£37.50(4~6人の場合はグループで£150)
  公式ウェブサイトから要登録

フォト・コンテスト

期間中に訪れた建築物をカメラに収めて、オープン・ハウス事務局に送ってみよう。有名建築写真家や「タイム・アウト」誌のエディターなどプロたちによる選考のうえ、応募作品の中から1~3位が決定。賞品も用意されている。

*応募方法の詳細は公式ウェブサイトを参照

キッズ・イベント

子どもや家族連れのためのイベントも多数。主なものは以下の通り。

City Hall
最上階に設置されたスペースで、未来のロンドンの模型をつくろう。
日時: 9月20日(土)10:00~13:00 * 対象年齢: 5~10歳
Trinity Buoy Whalf
文化とアートの発信地で、創造力を掻き立てるユニークなコン テナ建築づくりに参加。大人から子どもまで楽しめること請け合い。
日時: 9月20日(土)/ 21日(日)11:00~17:00
住所: 64 Orchard Place E14 0JW

建築バス・ガイド・ツアー

オープン・ハウス事務局は年間を通して毎週土曜の午前中に、建築家や建築評論家によるガイド・ツアーを実施している。伝統建築を巡るプランや、ハイテク建築に焦点を絞ったプランなど4種類あり、どのツアーが開催されるかは週によって異なる。建築についてもっと詳しく知りたくなった人は、是非どうぞ。

日時 毎週土曜10:00~(所要約3時間)
料金 £18.50 / 学生£13
要予約 Tel: 020 7383 2131
E-mail: このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください

*ツアー内容の詳細は公式ウェブサイトを参照

 
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