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新シーズンを迎えた州立歌劇場

8月30日、ベルリン州立歌劇場の新シーズンが幕を開け、そのオープニングの2公演が大きな話題を集めた。初日のオペラ《フィデリオ》(ベートーヴェン作曲)は、歌劇場横のベーベル広場に設置された巨大スクリーンに舞台が同時中継されるという、いわばオペラのパブリックビューイングで、昨年の《マノン》に引き続いての試みだ。聴こえてくる音はスピーカーを通しているとはいえ、熱気溢れるライブの感興はかなり伝わってくるものがあった。

その翌日は、同じくベートーヴェンの第9交響曲が広場の仮設舞台で演奏された。両日とも指揮を務めたダニエル・バレンボイムは、どのような上演形式だろうが、自分の演奏スタイルを決して変えない。強い日差しが照りつける中、聴き手にやや忍耐を強いるほどのゆったりしたテンポを終始保ったまま、重厚に音楽を練り上げていく。4楽章冒頭で低弦がメロディーを奏でるレチタティーボの部分は、大見得を切るような豪快さ。その濃厚な表情付けには好みと賛否が分かれそうだが、音楽にも人生にも信念を貫く氏の姿が垣間見られた。

2日間とも入場無料の上、天気にも恵まれたことで、熱心なオペラファンだけでなく、散歩途中の人から観光客まで、広場に面した通りの向こう側にまで人が溢れる大盛況だった。「すべての人にオペラを」をモットーに、ベルリンのBMWがスポンサーとなった今回の試みは、来年も続けられるという。オペラ上演の新たな可能性を探るものとなるだろうか。

州立歌劇場

昨シーズンのベルリン州立歌劇場は、舞台に関する話題以外で何度も新聞の見出しを賑わせた。劇場の支配人だったペーター・ムスバッハの突然の辞任劇、そして劇場の大規模な改修に関する問題だ。後者については昨年秋に当連載でも取り上げたが、改修費を巡る議論が一段落したかと思いきや、その後は客席の内観をどのようにするかで大論争となった。というのも、この春、コンクールで1等を獲得したクラウス・ロートのデザインが、1950年代に劇場が再建されたときのロココ様式とは完全に決別したモダンなものだったからだ。

音楽監督のバレンボイムは、フリードリヒ大王の時代に建てられたオリジナルの劇場の構造に触れ、「オペラ座は(特定の層だけではなく)全ての人に開かれたものであるべきだ。いまの構造では音響の大幅な向上も望めない」とロート案を支持。一方で、改修費用の一部を受け持つ歌劇場の友の会は、「ロート案が採用されるならばお金は出さない」と主張し、それにベルリンのCDUとFDPの議員が後ろ盾をするなど、議論は政治色の濃いものへと発展した。

結局6月になって、市のトップの話し合いにより、「劇場の内観は大きく変更しない」という条件でデザインを新たに公募するという異例の事態で今後の方向が決まった。歌劇場の改修工事は、2010年の夏から約3年半かけて行われる予定だ。その年まであと2年、ドイツ屈指の伝統を誇るオペラ座の将来にも関わる大事なシーズンが始まった。

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
ブログ「ベルリン中央駅」 http://berlinhbf.com
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