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Fr. 07. Aug. 2020

地球温暖化問題

季節を問わず「例年より暖かい」と感じることがずいぶん増えたように思う。人の感覚には差があり、また個人の経験は範囲が限られるためそこから地球全体の温暖化を論じることはできないが、人々が抱く素朴な感覚を裏付けるニュースが近年目立つようになってきた。地球温暖化は一昔前に考えられていたより遥かに早い速度でその姿を現しつつある。21世紀の人類にとって最重要とも言えるこの課題に、われわれはどう向き合えばいいのだろうか。

極地が解ける!

ホッキョクグマ
地球温暖化によって絶滅も心配されている
ホッキョクグマ

米航空宇宙局(NASA)が5月半ばに出したレポート(1)は、2005年1月の気温上昇で南極大陸西部の氷雪が日本の面積を上回る規模で解けていたことを報じている。この水は再凍結したり氷床の割れ目にしみ込み、海には流れなかったと考えられるが、30年に渡る衛星観測の中で最大規模という。温暖化は地球上の氷雪の減少と海水の膨張を引き起こし、それが海面水位上昇をもたらす。

オーストラリア北東の太平洋上に浮かぶミニ国家ツバルの平均海抜は1.5m、最も高い所で5mしかない。わずかな水位の上昇が国の存在そのものを脅かし、すでに作物の塩害や砂浜の侵食といった被害が発生している。ツバル政府は2001年、住民の島からの移住が必要になるかもしれないとの声明を発表し、2004年には異常な高潮で家屋や空港が浸水するなど環境難民化が差し迫った段階にある。

ただ、温暖化の影響を正確に測定することは難しく、ツバルの水没危機にしても地盤沈下や他の原因による潮位上昇の可能性が指摘されている。地球規模での観測が必要なこと、長期の変化を見極めるには観測の歴史がまだ浅いこと、仕組みが複雑で完全には解明されていないことなど、温暖化には不確定要素が極めて多い。気候変動の将来予測はさらに困難であり、だからこそ集中的な研究と客観的な分析が不可欠となる。

IPCC

温暖化問題で最も権威ある研究機構とされるのが「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)①」である。IPCCはこの春発表した第4次評価報告書(2)の中で「気候システムの温暖化には疑いの余地がない」とし、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガス②の増加によってもたらされた可能性がかなり高い」と、2001年の第3次報告書より踏み込んだ表現をとっている。

報告書の描く100年後のシナリオによると、温室効果ガスの排出量がこのまま増え続ければ気温は4℃上昇し、海水面は最大0.26~0.59m上昇する。仮に排出量が最も少ないシナリオでも気温の上昇は1.8℃、海水面の上昇は0.18~0.38mに達する。もし海水面が0.40m上昇すれば日本では沖に出ている120mの干潟が消滅し、高潮によって被害を受ける人口が世界中で7,500万~2億人増加するという。1mの上昇ならば大阪では北西部から堺市にかけての海岸線がほぼ水没し、東京でも江東区、墨田区、江戸川区、葛飾区のほぼ全域が影響を受けることになる(3)。

地球はこれまで大規模な気候変動を何度も繰り返してきた。古気候の研究によれば最後の間氷期(約12万5000年前)における世界の平均海面水位は20世紀に比べて4~6m高かったとされる。地球公転軌道の違いにより、極域の平均気温は現在より3~5℃高かったようだ(2)。しかし、人為的な影響によって20世紀ほど大き く気温が変化したことは今だかつてない。

グラフ
気温、海面水位、北半球の積雪面積の変化
(a) 世界平均地上気温
(b) 潮位計(青)と衛星(赤)データによる世界平均海面水位
(c) 3〜4月における北半球の積雪面積
すべての変化は1961〜1990年の平均からの差である。蒼い部分は分析から推定された不確実性の幅を示す。

グローバルな脅威

ライン川の洪水
ライン川の洪水で水没したケルン(1993年)
下部がライン川。並木のある部分が本来の堤防。

公に語ることはタブーとされているが、実は温暖化によって利益を享受する地域もある。高緯度地域は暖房エネルギーの消費量が劇的に減り、農耕可能な地域が増加する可能性も指摘される。だが、地球全体で考えれば海水面上昇、台風やハリケーンの強烈化、熱帯性伝染病の広がり、生態系の急激な変化といったデメリットがメリットを凌駕するはずだ。

ドイツでもこれまで経験したことのない「極端な天候」が増えている。今年の4月は観測史上最も暑く乾いた4月となり、南西部のマンハイム市を例にとれば平均気温は14.4℃(昨年10.8℃)、日照時間337.9時間(昨年154.0)、降水量0.7mm(昨年43.7)を記録した(4)。世界の異常気象がすべて地球温暖化の影響かどうかは明らかでないが、地球全体の経済損失も1950年代の年間約40億USドルから1990年代の年間約400億USドルへ とすでに10倍増加している(5)。異常気象に対して文明社会はあまりにも脆弱である。

温室効果ガス抑制がグローバルな課題であることは改めて書くまでもない。欧州連合(EU)の中でもドイツは抑制にとりわけ積極的で、メルケル首相は今年前半の欧州理事会議長という立場を活用しながらEU全体の意識強化に力を入れている。3月にベルリンで行われたEU50周年の記念式典において首相は「エネルギー政策と気候変動対策の分野では、連帯して進むべき道を示し、気候変動という世界的脅威の回避に貢献したいと考えている」と環境色を強調している(ベルリン宣言(6))。

折りしも環境問題を重要テーマとするドイツサミット(主要国首脳会議)が開催されたばかり。排出抑制はグローバルな問題であるが故、利害調整は複雑だ。世界で排出される二酸化炭素(CO2)の22.1%(2003年)を占めるアメリカを取り込めなければ対策の効力は限られるが、同国の姿勢はEUから見てかなり後ろ向きである。サミットに先立つ外相会談で浮き彫りになったのも意見の相違だった。ドイツは今世紀の気温上昇を2℃以内に抑えるため排出量規制を主張しているがアメリカは数値目標設定に難色を示し両国の思惑には開きがある。ただ、そのアメリカも世界情勢の変化を 受け来年末までに削減目標を定めることを表明しており、その行方が注目される。

再生可能エネルギーの時代

風力発電用風車
ゴミの山の上に建てられた風力発電用風車
(カールスルーエ市)

さて、温室効果ガスの抑制に向けてはどのような方 策があり、具体的に何をしなければならないのか。京 都議定書③によれば、発展途上国への省エネ技術供与、 森林による吸収源の確保、代替フロンの排出抑制と並 び、エネルギー消費に関するCO2排出量の抑制が大き な柱とされる。

ドイツが総合的な環境政策の柱として位置づけてい るのは、再生可能エネルギーの開発だ。再生可能エネ ルギーとは循環型エネルギー(太陽光、風力、水力、 バイオマス、地熱)の総称で、石油、石炭、ガス、原 子力の従来型エネルギーと異なり環境負荷が小さく、 枯渇することがない。ドイツの取り組みで象徴的なの が、電力事業者の再生可能エネルギー電力の買い取り 義務を定めた再生可能エネルギー法( EEG: Erneurebare-Energie-Gesetz、2000年4月試行)である。この法律によって再生可能エネルギー開発が促進され、 2000年だけで国内1,200万トンのCO2削減効果があっ たと推計されている。

温暖化問題は乗り越えなければならない壁が高い。 そもそも、温暖化の原因が自然起源か人為的なものか 100%の答えが出ていない今、将来的な気温を人間が 設定することに疑問を呈する見方さえある。しかし、 温室効果ガス抑制の合理的な仕組みの必要性は間違い なく世界的な合意を得ている。教科書的な意見になる が、個人に求められるのは常にグローバルな視点を抱 きながら自分のできることをひとつずつ実行してゆく 姿勢であろう。


用語解説
① IPCC=Intergovernmental Panel on Climate Change
世界的な異常気象の発生を契機に、科学的・技術的・社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、1988年に世界気象機構(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立された組織。政府関係者に限らず世界有数の科学者が参加し、科学的知見に基づいた政策立案を目的とする
② 温室効果ガス
大気圏内にあって赤外線を吸収することにより温暖化効果をもたらすガスの総称。京都議定書ではCO2、メタン、一酸化 二窒素、HFCs、PFCs、SF6を対象としている。
③ 京都議定書
気候変動枠組条約に基づき1997年12月に京都で開催された第3回締約国会議(COP3)において議決された議定書。法的拘束力をもった温室効果ガス削減の取り組みを定めている。米国の締結見送り、目標達成の困難さ、先進国と途上国の利害対立など実効性への疑問は膨らんでいるが、地球全体での 温暖化対策に国際社会が本格的に取り組み始めた第一歩とし て大きな意味を持つ。

● 参考文献
1. http://www.nasa.gov/vision/earth/lookingatearth/arctic-20070515.html
2. IPCC 第4次評価報告書第1作業部会報告書(気象庁訳)
3. 環境庁地球環境部「地球温暖化日本はどうなる?」1997年
4. http://www.morgenweb.de/nachrichten/wetter/rueckblick/2007/
20070505_srv0000000709326.html

5. IPCC「第3次評価報告書」2001年 6. 駐日欧州委員会代表部「ベルリン宣言」
● 取材協力
財団法人地球産業文化研究所 http://www.gispri.or.jp/menu.html
全国地球温暖化防止活動推進センター http://www.jccca.org

松田雅央
カールスルーエ市在住ジャーナリスト。ヨーロッパ諸国の環境保全やまちづくりをテーマに執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。著書に『環境先進国ドイツの今』、『ドイツ・人が主役のまちづくり』(いずれも学芸出版社)など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。http://www.umwelt.jp/
 
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