Hanacell

Nr. 1 けんかを売られた?

仲良く付き合う困っているドイツ人に親切のつもりで融通を利かせてあげたのに、逆に文句をいわれてしまったとき、あなたならどうしますか?感情でも、意見でも、フィルターなしのストレートな表現を「正直」「誠意」とする風潮があるドイツですが、ものすごい剣幕で文句をいわれたら、日本人ならやっぱり傷つきますよね。特に感情面から責め込まれると、理不尽な駄々だろうがなんだろうが、とにかく動揺してしまうもの。ドイツ人同士はお互い、どうやって折り合いをつけているので しょう?あるとき、バスに乗っていて目撃したドイツ人同士のやりとりをご紹介しましょう。

バスが停留所から発進した直後に、交差点の向こうから手を振りながらひとりの中年女性が走ってきた。バスは女性を無視していったん発進したものの、10メートルほど先の信号で停車。運転手は、遅れてきた女性のためにわざわざ扉を開けてあげた。するとその女性は開口一番、いかにも不服そうに言い放った。「私が向こうで手を振っているのが見えたのに、どうして待っててくれないの!」。

面白かったのはその先のやりとりで、運転手がすかさず一言、「あなたはもっと早く家を出るべきでしたね」。女性の剣幕から察して、こんな言い方をしたら、これはもう完全に売り言葉に買い言葉になると思いきや・・、女性は「Sie haben ja so recht!(あなたは本当に正しい)」と満面笑みで、大きくため息をつきながら席に着いた。かくして一見落着。ふたりとも落ち着いて、車内には和やかな雰囲気が戻っていた。

この例をみてもわかるように、ドイツで文句をいわれて納得できなかったら、責められた方は相手の気持ちを汲んだりする前に、まずは理屈で責任関係をはっきりさせると意外にうまくいくものです。人の気持ちを汲んであげることはよいことだけれど、特に親しい間柄でもなければ、優先させるべきは「社会や公共のルール」。一見杓子定規で融通性のないドイツ人気質を証明しているように思えますが、日本とは違って、すべての隣国と陸続きで、しかも地方分権でこれといった「文化の中心」となる都市もなく、いろいろな価値観や文化背景、行動規範をもった人々が大昔から東西南北行き交ってきたドイツならではの生活の知恵、と言えるかもしれません。

相手が感情的にアピールしてきたら、あっさりと自分の責任と相手の責任を仕切ってしまうことが解決の秘訣です。「気持ちの上で甘えられない」関係であることが判明すれば、たいていの相手なら、正論を述べればそこで退いてくれるでしょう。こんなときに、相手の「気持ちレベル」の議論に乗ってしまったら、もはや筋は通せません。そのドイツ人と一緒に、人柄や倫理、時代や文化の背景についてまで、とことん得体の知れない論争の泥沼にはまってしまう危険もあります。

こうした対応は、会社の部下や取引先に「泣き」を入れられたときも、ご近所にクレームをつけられたときにも応用できます。まず、相手が「気持ち」や「倫理」で責めてきたら、ひとまず「正論」で返して、土俵をはっきりさせてみてください。相手の心情に配慮する意思があることを示す前に、冷静に(だからといって冷たくするわけではなく)落ち着いた声で、まず、あなたの職務、法律、常識的な行動基準はどうなっているのか、はっきり示してみましょう。はっきりと一線をひいてから、どこまで譲れるか、話し合えばいいのです。

逆に、自分が文句をいう立場で、相手に「なんて不親切なの!」という不満がある場合、相手が冷たく「正論」を返してきても逆上しないこと。話はそこから始まります。このような場合は、「もちろんあなたは正しい。でもあなたには、そのルールを拡大解釈する権限があるのでは?」というような切り口で、落ち着いて働きかけてみるのもひとつのコツのです。もちろん相手は頑なに意見を譲ってくれないかもしれないし、もし相手のいっていることに矛盾があれば、激しい議論を覚悟で矛盾を指摘し、徹底的に戦うことも時には必要かもしれません。でも問題が心情問題に限られている場合は、おどろおどろしい争いの深みにはまる前に、上記の女性のように、「Sie haben recht!」とあっさり諦め、にこにこ、さばさばするのが一番健康的な対応でしょう。

ひとことSie haben ja so recht!
ジー・ハーベン・ヤー・ゾー・レヒト
言い放ってから、派手なため息か深呼吸をします。この表現は、冷たく「仕切られた後」をフォローするときによく使われ、「そりゃあなたの言い分はごもっともだけど、本当に災難で、そのあたりまえのことができなかった。もういやになっちゃう」といった含みがあります。相手に情がありそうなときには、この先にaber(でもねえ・・)と続けて、さらに自分の言い分をアピールし、相手の説得を試みる会話に発展させることもできます。
 
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古川まり 東京生まれ。1979年よりドイツ在住、翻訳者、ライター。主な訳書に、アネッテ・カーン著「赤ちゃんがすやすやネンネする魔法の習慣」など。ドイツ公営ラジオ放送局SWRにてエッセイを発表
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