Hanacell

Nr. 4 お礼をする

仲良く付き合う異文化コミュニケーションについて書かれた本を読むと、西洋人には好意を受けたお礼として贈り物をしても喜ばれないからしないほうがよい、というアドバイスを目にすることがあります。お中元やお歳暮を始め、感謝の気持ちを物に託すことに慣れている日本人にとって違和感があるのは否めません。「口頭でのお礼だけではそれこそ失礼にあたるのではないか」「他にどんなお礼の方法があるの」など気を揉むことになれば、近所付き合いはますます億劫なものになってしまいます。そこで、今回はドイツで一般的なお礼の仕方を取り上げることにしましょう。

ドイツでは車を運転しない日本人が、買い物帰りに重い荷物を持ってスーパー前のバス停で待っていると、たまたま車で通りかかった近所の顔見知りの奥さんが「一緒に乗っていかない?」と声をかけてくれ、家まで送ってくれた─という場合。

まず注目すべきは、向こうから申し出てくれたかどうかです。近所の奥さんの方が好意として言ってくれた場合は、親切を受ける側がすまながったり、申し訳ないと思ったりする必要は一切ありません。あなたにアプローチをするか、しないかの判断と責任はその人に委ねられているからです。ドイツ的な言い方をすれば、相手は「親切をしたくてやっている」わけで、日本人的発想で「相手にそう言わせてしまった」と気遣う必要は無用です。

ですが、その親切には「私はあなたに好感をもっている」という意味が込められていることがよくあります。自分も仲良くなりたいな、と思う相手だったら、これを機会に相手が出した好意のサインに対して、「仲良くしましょうよ」というメッセージを出してみることです。

具体的には、「今度我が家にきて一緒におしゃべりしませんか」と手作りのケーキを焼いて家に招待するようなお返しをしてみてはどうでしょうか。ドイツ語でのおしゃべりはちょっときついかな?と思われる場合は、蚤の市や展覧会、花火大会、お祭り、ショッピ ングなどに一緒に行こうと誘ってみることもできます (費用は相手持ちでかまいません)。もちろん、手作りのジャムをプレゼントしたり、物を贈ることもできますが、すぐに値段のばれる物、高価な物をプレゼントしてしまうと、仲良くしたいと思っている相手を物質的にねぎらうことになり、相手の行為に「値段をつけて支払った」ことになります。相手は気持ちを跳ねつけられたと感じるかもしれません。

相手が単なる世話好きで、特に個人的な接近は望んでいないこともあるかも知れません。そんな場合は、せっかく招待してもあいまいな返事が返ってきたり、断られたりすることもあるでしょうが、あまり気にしないこと。人助けはその人の趣味、と割り切って口頭でにこやかにお礼をいうだけで充分です。

では、こちらの頼みごとを引き受けてくれた、という場合はどうでしょう。休暇旅行中の植木の水やりを頼んだり、急用で出かけるときに子どもを数時間預かってもらったら、お礼を述べた後で、「今度は私が頼まれる番ですからね」「必ず恩返ししますから」と互いに助け合える、対等の仲であることを強調しましょう。

もちろん次に同じことを頼まれたら、気持ちよく引き受けること。お返しができそうにないとあらかじめ分かっている場合は、用件が終わったその場で手渡せ るようなプレゼントを用意しておくと楽です。植木に水をやってくれた人には、旅先の小さなお土産を手渡してもいいかもしれません。相手の好みが分からなければチョコレートやワインをあげてもいいでしょう。

もうひとつ考えられるケースは、本当は一緒にやるべきことを、相手が好意で全面的に引き受けてくれた場合。隣の庭との境界線にある柵にペンキを塗ったり、共同ガレージの屋根を隣の人がDIYで修繕してくれたというようなことが想定できます。男同士のお礼はワインその他のアルコール類が定番となっています。ただし、ペンキ代、あるいは屋根の修繕に必要になった道具や材料の代金は、確認して現金で割り勘にします。具体的に、「ペンキ代はいくらでしたか?」と聞いても全く失礼になりません。あるいは、金額をやんわりと聞くには、「私の借りはどれくらいでしょう?」(Was schulde ich Ihnen?)という決まり文句を使うこともできます。人によっては冗談めかして「100万ユーロ」という答えを返してきたり、「ペンキは15ユーロ99セント、刷毛は2ユーロ26セント」といった具体的な数字を挙げる人もいたりと千差万別ですので、こういった 時は臨機応変に対応しましょう。

反対に、ドイツ人からお礼に何かをプレゼントされたらどう反応すればよいでしょうか。ドイツ人同士で は、こんな場合「Oh, das war wirklich nicht nötig(まあ、お礼をいただくほどのことではなかったのに)」「Ich habe es doch gern gemacht(私の好きでやったことですから)」と大きな声でいって、「Aber vielen Dank」と続けるのが一般的なパターン。お礼して感謝してもらって当然だ、と内心思うようなときは、「Oh, das ist nett.Danke(まあ、ご親切に、どうもありがと う)」程度ですませてもいいでしょう。

  ひとことVielen Dank! Das nächste Mal bin ich dran!
Vielen Dank! Ich revanchiere mich!

「次は私の番ですからね!必ず恩返しします」互いに助け合える仲の人が、何かを引き受けてもらったときに発する言葉。植木の水遣り、子どもの送迎など、交代でできることを頼みあう場合によく使われる。
 
 
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古川まり 東京生まれ。1979年よりドイツ在住、翻訳者、ライター。主な訳書に、アネッテ・カーン著「赤ちゃんがすやすやネンネする魔法の習慣」など。ドイツ公営ラジオ放送局SWRにてエッセイを発表
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