Hanacell

Nr. 6 贈り物あれこれ

仲良く付き合う12月に入り、日本ではお歳暮の季節になりましたが、クリスマスの近づくドイツでの贈り物の作法に頭を痛めている方もあるのではないかと思います。そこで、前々回の「お礼」の章とも少し重なるテーマではありますが、今回は、クリスマスシーズンの贈り物をめぐるドイツでの慣習を、詳しく取り上げることにしましょう。

まず、「贈り物」に関する発想の基本的な違いから。日本では「送り主の気持ちを表すための手段」であるのに対して、ドイツ語圏での贈り物は「相手を喜ばすための手段」と解釈されるのが普通です。西欧の贈り物には、「ぜひ喜んでくださいね」という、より直接的に相手の気持ちに働きかけ、「特定の反応を期待していますよ」というメッセージが含まれているわけです。 親しさの度合いによっては、むやみに贈り物をしてしまうと誤解を招くことがあるのはそのためです。

クリスマスの4週間前に始まるアドヴェントの季節は、ドイツでも贈り物のシーズンといえます。クリスマスは、キリスト教徒が「愛と平和」を唱えたキリストの誕生を祝う祭典なので、この時季、人々は互いに物を贈りあって喜びを分かち合おう、という思いを贈り物に託すからです。日ごろお世話になった方への感謝を表すお歳暮とは、そこに込められているメッセージが違うわけですが、違いさえ心得ていれば、プレゼントを積極利用して、お付き合いをより円滑にする格好のチャンスといえるでしょう。

まず、職場。クリスマスの4週間前からスタッフの誰かがビスケットを大量に購入したり、自分で焼いたものを持ち込み、常にきれいな飾り皿に出しておいて、お客やスタッフがいつでもつまめるようにする、といったヴァイナハツテラー(Weihnachtsteller)の習慣は、オフィスでも、お店でもよく見かけます。あるいは12月6日の聖ニコラウスの日にチョコレートのサンタクロースを買い込んで、部下全員のデスクの上に1つずつ配って回る人もいます。「お世話になった御礼」ではなく、「この季節だから、親近感がある相手、自分のチーム仲間、自分のスタッフに喜んでもらえるとうれしい」という気持ちを込めて、日ごろ関わりのある人に小さなプレゼントをすると、心から喜んでもらえるのです。

ご近所でもプレゼントの機会はたくさんあります。聖ニコラウスの日に、日ごろ仲良くしている家族同士が、相手の家の子どものために、ドアの前に10ユーロ未満程度の小さなプレゼントを置いていくことがよくあります。子どもが朝家を出る前に見つけられるように、前の晩にサンタの姿をしたチョコレートや、1~2 ユーロで買える小さな絵本を玄関マットの上に置いておいたりするのです。

ご近所同志で何かを借りたり、手伝ってもらった時も、日ごろならば、口頭でのお礼だけ、あるいは「今度は私の番ですからね」といったやりとりで済ませるようなことでも、今なら季節感のある小さなものをプレゼントすることができます。「まあ、なんで」と驚かれたら「もうすぐクリスマスですものね(Weil bald Weihnachten ist.)」と言えば、不自然にならず、相手が喜んでくれること間違いなしです。

あるいは、日ごろから仲良くしたいと思っている異性に、さりげなく気持ちを伝えるよい機会でもあります。日焼けサロンの受付の女性が、日ごろパトロールで通りかかる警察官からチョコレートのサンタをもらい、その翌年2人は結婚した、といったような心温まる逸話も聞いたことがあります。(女性の方が公務執行中の警察官にチョコレートをあげていたら、ワイロ扱いされてしまったかも知れませんが)

いずれにせよ、物をプレゼントする場合は、「お気に召さないかも知れませんが」などと謙遜するのではなく、「気にいっていただけるとうれしいです(Ich hoffe, es gefällt Ihnen)」「お口に合うとよいのですが(Ich hoffe, es schmeckt Ihnen)」と、相手に喜んでほしいからやっていることであるとはっきり伝えます。

クリスマス前の贈り物は、あまり高価なものであってはならない、というルールもあります。特に異性に何かプレゼントをするときは、その点に気をつけない と、周りが変に詮索したり、あるいは相手からも変な誤解を受ける危険があるので要注意です。食べ物のように、形を残さないものが無難かもしれません。形と価値が残るプレゼントには「相手に喜んでほしい」というメッセージのほかに「これを見るたびに私のことを思い出してほしい」という意味が込められている、と解釈される可能性があるからです。特にスカーフや財布のような直接身につけるものを気軽にプレゼントする場合は、「これは日本的なお礼の習慣です」などという説明をした方がよいかも知れません。

これまで述べてきたのは、クリスマス前の4週間にわたるアドヴェントの季節における贈り物の作法ですが、本格的なクリスマスプレゼントとなると、また別物です。ドイツのクリスマスは、英米と違ってあくまでも「家庭の祭典」なので、クリスマスの祭日に自宅に招待された場合を除いては、親族以外の人が物を贈ることはあまりしません。ただし、クリスマスが差し迫ったアドヴェントの最終週に、誰かの家を訪ねたり、自宅に物を届けたりする場合には、「小さなプレゼント」 を持って行き「楽しい祝日を(Frohe Festtage)」と言って手渡すとよいでしょう。

  ひとことIch hoffe, es gefällt Ihnen.
Ich hoffe, es schmeckt Ihnen.

プレゼントは、「喜んでほしい」という気持ちを表すための手段です。「お口に合わないかも知れませんが」とか「つまらないものですが」といった謙遜を表現する常套句は、そのような意図を否定することになるので、場違いになってしまいます。「気に入ってもらえるといいのですが」「お口に合うといいのですが」と、あなたに喜んでもらえるように工夫したのだけれどどうだろう、という気持ちを素直に伝えるのが礼儀となっています。そして頂き物をしたときに、もらった側がすぐに包みを開くのは、「喜んでいると ころを見てもらうことが一番のお礼」とされているからなのです。
 
 
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古川まり 東京生まれ。1979年よりドイツ在住、翻訳者、ライター。主な訳書に、アネッテ・カーン著「赤ちゃんがすやすやネンネする魔法の習慣」など。ドイツ公営ラジオ放送局SWRにてエッセイを発表
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