Hanacell

Nr.3 固定観念は変わる?

20年あまり前のことですが、日独の中学生たちに、お互いの国のイメージを絵に描いてもらうプロジェクトがありました。その結果は驚くべきものでした。日本の子どもたちが思い浮かべたのは、ヒトラーやベートーベンの似顔、それにビール、ソーセージ、ラインの古城。ドイツの生徒たちは、フジヤマ、ゲイシャ、お寺、それに高速道路が走る超現代都市などでした。わずかな例外を除くと、戦後から40年が経った時点でも、子どもたちに古めかしいイメージが深く刻み込まれていたのです。(この本は国際交流基金の助成を得て、ドイツ語で「Hakenkreuz und Butterfly(ハーケンクロイツとバタフライ)」というタイトルで出版されました)。

21世紀の今日でも、海外旅行のパンフレットやポスターには、こうしたイメージが相変わらず使われています。見知らぬ遠い国に対しては、単純化された固定的なイメージが強く、なかなか変わらないのです。ドイツを訪れる旅行者は「古き良きドイツ」が見たいし、遠い日本に一生に一度の旅行をするドイツ人なら、東京の街並みより、奈良や京都などを見たいと思うでしょう。そこにしかない「独自なもの」を求めるのが人情です。

©Sae Esashi

「ひとは見たいものしか見ない(見えない)」という有名な言葉があります。早い例が写真です。皆さんも、素晴らしい景色に感動して夢中でシャッターを押したら、電線や広告も一緒に写っていたという経験がきっとおありでしょう。また、日本は美しいものを大切にするとも、「醜いものは見ないようにする文化」ともいわれます。歴史的な都市景観に象徴される日本の現実を見ると、この両者は表裏一体の関係かなと思われます。

実際に、ある文化に対する固定的なイメージから自由になるのは難しいようです。ひとつ消えたと思ったら、その現代版と入れ替わっただけということも多いのです。ドイツのマスコミの日本記事を見ていると、バブル期の前後には「最先端の産業と伝統的な価値観の並存」という決まった日本像が支配的でした。しかし、視線が中国に向かっている近年は、このパターンさえ消えそうで、「先祖帰り」の傾向も見られます。

その一方では、かつての日本の精神文化に惹かれていた層に代わって、近年はマンガやアニメに熱をあげる若い世代、村上春樹を愛読するその上の世代がいて、日本に対するイメージも変わろうとしています。日本文化は、特別な思い入れをもった少数の日本ファンから、より広い層へと広がっているとも言えそうです。

 
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Koji Ueda ケルン日本文化会館館長
早稲田大学、筑波大学でドイツ文化および異文化交流を担当。NHKのテレビ、ラジオ「ドイツ語講座」元講師。留学や客員教授などを合わせた在独歴は十数年。ベルリン日独センター副事務長(日本側代表)を経て、2007年3月より現職。
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