Hanacell

Nr.13 休暇

ドイツ人は、モノの輸出はもとより、休暇を過ごす人を外国に送り出す点でも世界チャンピオンだそうで、それを誇りに思っているようです。しばしば「ドイツ人は休暇のために働く」とも言われます。働いている時は生きていくための仮の姿、仕事に縛られず自由に過ごす時こそ本当の自分だと言うのです。当然ながら、残業は基本的にノー、休日出勤は問題外、定年は怖くないどころか待ち遠しいことになります。この点でドイツ人は日本の勤労者と対照的なようです。

子どもがいる家庭では学校の夏休みと休暇の時期が連動するので、夏休みの初めと終わりには、南に向かうアウトバーンばかりか、国境の向こうのスイス、オ-ストリア、イタリアでも数十キロの渋滞が起きます。この混雑を緩和するため各州は夏休みを少しずつずらしていますが、それでも毎年同じ光景が繰り返されます。

ドイツ人がまとめて長い休暇を取ることに、大抵の日本人は驚きます。これには法律上の規定があって、新入社員も最初の年から24日間休暇を取る権利があり、その後は経験年数と契約により日数が増えます。労働日は週5日ですから、年休は5~6週間に達するわけです(しかも「病欠」は有給休暇と別扱いなので、いくら休んでも困りません)。他方、休暇の短い日本では、宿泊費などが高いのに愕然とします。パッと豪勢に過ごすことで、休みの短さを補おうということでしょうか。

一方、近年のドイツでは景気が失速し失業率が高まったため、メンタリティーはそのままでも現実が変わりつつあります。労働組合は早くに週40時間労働で合意し、35時間を目標にした時期もありましたが、現在では逆に賃金据え置きのまま労働時間が長くなりつつあります。また、休暇の日数は規定通り取っても、ドイツ国内で過ごしたり、自宅でふだん出来ないことをしたり、自分の街の「再発見」を楽しむ人も多くなっています。

©Sae Esashi

面白いのは、ここでも「すれ違い現象」が見られることです。日本関係の組織で働くドイツ人には日本人と同じように休暇を消化しない傾向が僅かながらも見られ、日本人の中には当然の権利として休暇を完全消化する人も出てきています。まさに「意識は環境で決まる」のですが、実際にはお互いに固定的なイメ-ジを持っていて、それに左右されている気もします。困るのは、このようなイメージが一定の「事実」に基づいていることです。私たちに出来ることは、既製のイメージに当てはまらない人がいても、それぞれの個性だと思って受け入れることくらいでしょうか。

 
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Koji Ueda ケルン日本文化会館館長
早稲田大学、筑波大学でドイツ文化および異文化交流を担当。NHKのテレビ、ラジオ「ドイツ語講座」元講師。留学や客員教授などを合わせた在独歴は十数年。ベルリン日独センター副事務長(日本側代表)を経て、2007年3月より現職。
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