Hanacell

Nr.17 動物をめぐる冒険

動物の分け方には、文化の違いが見られます。ヨーロッパのように昔から日常的に多くの動物が身近にいた社会では、ウマやウシのような家畜ばかりでなく、イノシシやシカのような狩猟動物にも、性別や年齢ごとに独自の単語があります。昔、英語を習った時、cow, ox, calfなどが出てきて面食らった覚えがありましたよね。

動物のイメージも文化によって違います。日本語で「ネズミ算」といえば、早い勢いで増えることを意味しますが(ネズミ講!)、ドイツでは繁殖力が強い生き物の象徴はウサギです。イースターの時期はウサギが主人公のような印象さえあって、お店にはウサギの形のチョコレートが並びます。また、絵本ではイースターといえばウサギとタマゴが一緒に描かれます。これも子孫繁栄のイメージと関係がありそうです。それに、タマゴ(!)の方がたくさん増えそうで妙に納得してしいます。

ドイツ語では、大部分の動物は人を悪く言うときに用いられます。ロバのEselは「ウスノロ」ですし、牝牛のKuhは「愚かな女」、ニワトリのHuhnは「騒々しい人」の意味です。イヌやネコも例外ではなく、ブタともなると良いイメージにつながりようがありません。おそらく唯一の例外はハトでしょう。恋人に甘えた口調で“mein Täbchen”などと言います(もう古い?)。

ところで、子どもの頃に読んだピノキオの話を覚えていらっしゃるでしょうか。ピノキオはクジラに飲み込まれて、その腹の中で暮らす羽目に陥ります。これには古い歴史があって、聖書でヨナは「大きな魚」に飲み込まれるのですが、これもクジラとされることがあります。なるほどWalfischと呼ばれるだけあって魚扱いなのでしょう。日本語でも漢字では「鯨」ですから、生物学的な分類はともかく魚の仲間として扱われていたのでしょう。

グローバル化の時代には、ものの動きが活発なだけでなく、外来動物も増えています。北米原産のアライグマはずっと以前からドイツに入り込んでいて、最近はワニやニシキヘビさえ見つかります。これらはペットが逃げ出したものと思われますが、自力でヨーロッパ遠征を果たした動物もいます。それはタヌキです。東アジア原産のタヌキは何を思ったのか急に西へ移動を始めたようで、20世紀の末頃にはドイツでも見られるようになりました。今ではドイツ語でMarderhundという名前さえもらっています(たしかにタヌキは犬の仲間です)。数世代かかってアジアから歩いてヨーロッパまで来たのですから、マルコ・ポーロ並みの壮大な冒険ではないでしょうか。

©Sae Esashi

 
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Koji Ueda ケルン日本文化会館館長
早稲田大学、筑波大学でドイツ文化および異文化交流を担当。NHKのテレビ、ラジオ「ドイツ語講座」元講師。留学や客員教授などを合わせた在独歴は十数年。ベルリン日独センター副事務長(日本側代表)を経て、2007年3月より現職。
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