Hanacell

Nr.18 おイヌ様

動物といえば、ドイツの街では数多くのイヌを見かけます。地下鉄やバスにもイヌが乗っていますし、レストランでもテーブルの下で長時間おとなしく横たわった姿を目にします。街中だけでなく、2500メートル級の山の上でイヌ連れのハイカーに会ったこともありますし、海や湖には「おイヌ様専用」の砂浜もあります。ドイツ人は、愛するイヌからひとときも離れていられないのでしょうか。

ある人に頼まれて、ドイツのホテルでイヌと一緒に宿泊できるかどうか調べたところ、大きなホテルの7割でイヌ連れの宿泊が可能。しかも、その内3割では割増料金なしでした。日常生活でのイヌの扱い方がここにも反映されているようです。ドイツでは、イヌは家の中で飼うもので、家族扱いです。ペットフード協会が調べたところ、飼い主の24%は1人暮らし、33%は2人暮し。半分以上の飼い主にとって、イヌは欠けている家族を補う存在のようです。ですから、捕獲した野犬といえども殺しません。犬小屋に短い鎖でつながれた日本のイヌを見て、ドイツ人が心穏やかでいられないのも、こんな文化の違いがあるからでしょう。

飼い主のモラルも向上しました。1980年代ころまでドイツの都会では、イヌの「落し物」が多く、いつも足元に気をつける必要がありました。しかしその後、街角にビニール袋が置かれ回収所ができたりしましたし、キャンペーンの成果もあって「後片付け」の習慣が広まりました。

こうしてみるとドイツは「おイヌ様天国」のようですが、飼い主は高額の「イヌ税」を払います。その額は自治体によって違いますが、ドレスデンの例では、なんと1匹目が年間108ユーロ、2匹目以降は144ユーロずつ加算されます(自動車税よりも高い!)。もっとも税は飼い主側の問題ですが、イヌにとっても深刻な問題があります。それは飼い主に捨てられること。とりわけ休暇シーズンには、捨てられた動物で収容施設が溢れかえる様子がテレビで取り上げられます。生き物は都合のいいときだけ相手をするわけにいかないのですが、バーチャル時代のリセット感覚なのでしょうか。

ところで、統計を見るとドイツでは飼い犬の総数は約540万匹で全世帯の14%弱と思ったよりも少なく、実際には飼い猫の方が4割強も多いのです。ついでに言えば、日本で飼われているイヌの数はドイツの倍以上で、人口比ではドイツより遥かに多いことになります。ドイツでイヌが多いように見えるのは、人々がいろいろな場にイヌを連れて行くからでしょう。もっとも、そのためには日ごろの「しつけ」が欠かせないのですが……。

©Sae Esashi

 
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Koji Ueda ケルン日本文化会館館長
早稲田大学、筑波大学でドイツ文化および異文化交流を担当。NHKのテレビ、ラジオ「ドイツ語講座」元講師。留学や客員教授などを合わせた在独歴は十数年。ベルリン日独センター副事務長(日本側代表)を経て、2007年3月より現職。
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