Hanacell

Nr.20 初夢、永遠の夢(?)

ヨーロッパの家に住み、中華料理を食べて、日本人の奥さんと暮らす――こんなドイツ人の「夢」を聞いたことはありませんか。ステレオタイプな見方だと笑い飛ばせば良いのですが、その根は意外に深そうです。

知らず知らずに自分のイメージが「標準」になっていて、良くも悪くも周囲は皆その標準から外れているのです。イタリアやスペインは情熱の国で料理やワインが美味しく、イギリスは紳士淑女の国だが食べ物はイマイチ。ブルネットの女性は知的で、金髪女性はセクシー。映画の登場人物の多くは、このようなイメージをしっかり体現しています。不思議と女性に関連付けて語られる傾向が強いのも、こうしたステレオタイプの特徴です。

私たち日本人にも、ドイツ人は質実剛健、フランス人はお洒落、イタリア人は享楽的で賑やかというイメージが今でもありますが、これらは、こうあってほしいと願う「夢」というわけではないようです。最近、東京のある美術館がこうしたイメージに挑戦すべく、「神秘的でないインド、情熱的でないブラジル」というテーマで展覧会を開いています。

新年の初夢にちなんで、ドイツで暮らす何人かの日本人に「夢」を聞いてみました。ドイツ人に対しては、自己主張を控えてほしい、自分ばかりが正しいと思わないでほしい、相手の立場を配慮してほしい、もっと柔軟に対応してほしい、もっと良いセンスを身につけてほしい等々、実現しそうにない「夢」ばかりが挙がります。なかなかドイツ人の良い面には眼が行かないようです。考えてみれば、これらは全て「自己像」の裏返しで、自分たち(=日本人)は違うということでしょう。でも、本当にそうなのでしょうか。

ここには自分を理想化するというより、異文化の地で暮らす上での自己防衛の意味があるようです。そのせいか、相手のやり方を意識しすぎ、限度を超えて「ドイツ風」に反応する場合さえあります。

いずれにせよ、他人に何かを求めるのは難しそうです。だからと言って自分だけが聖人君子然としていれらない以上、なるべく共有できる夢を持ちたいものです。ある博物館で面白い標語が書かれた絵葉書を見つけました。「君の休暇はスペイン、車は日本製、ピザはイタリアから、コーヒーはブラジルから、数字はアラビアから、キリストはユダヤ人……」と書かれています。自分だけが正しいと思ったり、国粋主義的になっては困るよ、というメッセージなのですが、声高に主張せず身近な事実を挙げることに徹しています。誰もが共感できる夢をこのようにソフトに語り合う、それが私の夢です。

皆さんは、どんな夢をお持ちですか。

©Sae Esashi

 
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Koji Ueda ケルン日本文化会館館長
早稲田大学、筑波大学でドイツ文化および異文化交流を担当。NHKのテレビ、ラジオ「ドイツ語講座」元講師。留学や客員教授などを合わせた在独歴は十数年。ベルリン日独センター副事務長(日本側代表)を経て、2007年3月より現職。
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