Hanacell

Nr.23 日本に関する記事

遠くの地で起きている現象を、納得が行くように説明するのは難しいものです。

ドイツのインテリ層向けの週刊誌『シュピーゲル』は、テーマの背景に深く踏み込んだリベラルな報道や批判的な分析で知られていますが、それは国内や欧州連合(EU)、アメリカについての記事に関してのみ言えることです。アジアやアフリカのこととなると、首をひねることも少なくありません。

10年ほど前に、学生と一緒に過去半世紀のシュピーゲルに掲載された日本関連の記事を片っ端から集めて分析したことがあります。そこで目に付いたのは、1947年の創刊当初からいくつかの決まったテーマが繰り返し出てくることです。一家心中のようなドイツ人には理解しがたい現象、女性の低い職業的地位に代表される前近代的で不公平な社会、赤ちょうちんやスナック、セックス産業の繁栄などが好んで取り上げられる傾向がありました。こうした記事を読んでいると、日本は住みにくい異常な国としか思えません。

このような報道方法が頂点に達したのは80年代初頭で、82年の新年号の表紙には、つり目に出っ歯という日本人に見立てた日本車が描かれ、「日本車の襲来、踏みにじられるヨーロッパ」という見出しが躍っていました。ちょうど日本が世界第2位の経済大国にのし上がり、「集中豪雨的な輸出攻勢」でドイツ産業に大打撃を与えた時期でしたから、この特集が組まれた事情は良くわかります。それ以降も、日本の急成長はきっと「ズル」の上に成り立っているとして、休暇を取れない労働体制、崩壊寸前の家庭、女性の低い職業的地位、絶望から来る若者の自殺等々、次から次へと「日本社会の異常さ」が強調されました。

痛烈な批判の時代が過ぎると、前近代的なものと超現代的なものの並存が強調されるようになります。モダンなコンピューター会社の屋上に祭られている稲荷が日本人の心象を表しているとか、日本人の勤勉さは儒教的な服従と忠誠の伝統に由来するといった主張です。感情的なバッシングよりは冷静に、筋の通った説明を試みているような気がします。

遠くの地の現象を説明するために伝統や国民性などを持ち出すと、堂々巡りに陥ります。(今を説明するのに都合の良い事例だけを過去の中から取捨選択した結果が、伝統や国民性なのです)それよりも強烈な説明の仕方は、信仰や宗教を持ち出すことでしょう。説明のつかない現象は、古くからの信仰に根ざしていると説明すると、これはドイツ人が「プライベートな事情で」と言うのと似ていて、それ以上の説明は求められません。本当はもっと詳しい事情を知りたいと思う時もありますが……。

©Sae Esashi

 
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Koji Ueda ケルン日本文化会館館長
早稲田大学、筑波大学でドイツ文化および異文化交流を担当。NHKのテレビ、ラジオ「ドイツ語講座」元講師。留学や客員教授などを合わせた在独歴は十数年。ベルリン日独センター副事務長(日本側代表)を経て、2007年3月より現職。
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