Hanacell

ドイツの街角から

岩本順子 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。
www.junkoiwamoto.com

現代の文学カフェ

LITERATUR HAUS

かつて、カフェは、文学カフェなどと名乗りをあげなくとも、おのずと作家や画家、音楽家、俳優など芸術家たち、そして学者たちの溜まり場となっていた。

ヨーロッパ大陸初のカフェはイスタンブール(旧コンスタンチノープル)で、開業は1554年。その後、1647年にはベネチアに、1652年にはロンドンにもカフェが店開きした。パリ最古のカフェ「プロコープ」(Le Procope)は創業1686年で、現在も営業中。ドイツ最古のカフェはブレーメンにあったそうで、1697年創業 だったという。

暖房設備がまだ発達していなかった一昔前、人々は暖かさと快適さを求めてカフェに集まった。そして、人が集まることでカフェからは様々なものが誕生した。例えばロンドンでは、カフェに郵便ポストを設置したのがきっかけで郵便制度が始まったほか、カフェに集まった商人たちが、植民地から輸送される船荷の損害リスクを避けるために保険制度を立ち上げたという。ロンドンでは新聞もカフェから発生している。フランス革命が産声を上げたのもパレ・ロワイアルにあったカフェだった。

ヨーロッパ各地には、由緒ある伝統的なカフェがいくつか残っている。サルトルとボーボワールの「仕事部屋」でもあったパリのカフェ・ド・フロール(Café de Flore)、フロイトやトロツキーの通ったウイーンのカフェ・セントラル(Cafe Central)、ディケンズ、プルーストらの訪れたベネチアのカフェ・フロリアン(Cafe Florian)、イタリア滞在中のゲーテが通ったというローマのカフェ・グレコ(Antico Caffe Greco)などだ。ドイツでは、1720年創業のライプツィヒのカフェ・バウム(Zum Arabischen Coffe Baum)が現在も営業している。ここには、ゲーテのほか、ワグナー、シューマン などが集った。

現在のドイツの街角からは、このカフェ・バウムのような歴史の重みを感じさせるカフェは、ほとんど姿を消してしまったが、1980年代後半、ベルリンにリテラトゥーアハウス(文学ハウス)という有志団体が誕生し、作家を招いての読書会といったイべントを行うようになった。設立当初は無名の団体だったというが、90年代に入ってから、その活動が評価されるようになり、徐々に各都市に伝播した。今では、ハンブルク、ケルン、ミュンヘン、フランクフルト、シュトゥットガルト、そしてマグデブルクにもリテラトゥーアハウスがある。

リテラトゥーアハウス
ハンブルクのリテラトゥーアハウス外観

リテラトゥーアハウスには大抵、書店やカフェが併設されており、イベントはそのカフェで行うところがほとんど。いわば、現代版文学カフェといった趣きだ。

自然発生的な、かつての文学カフェとは異なるが、リテラトゥーアハウスでは、世界各地の著名作家から地元の新人作家にいたるまで、あらゆる書き手が、代わる代わる講演や読書会、パフォーマンスなどを行っており、造り手と読み手との新しい出会いの場となっている。

リテラトゥーアハウスのカフェ
高校生を対象とした ラップ・ポエトリー の集い。ハンブルクのリテラトゥーアハウスのカフェで

 
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