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付加価値税は引き上げられるのか

経済危機の影響で、戦後最大額の新規国債発行を決めたドイツ。これを埋めていくためには増税が必要になるだろう。しかし各党は9月の総選挙を前に、所得税を中心とした減税を約束。景気後退の今だからこそ国民の負担を軽減しようというのだ。とはいっても増税の必要性を唱える声は後を絶たない。今回は引き上げの“ターゲット”になっている付加価値税に焦点を当ててみよう。

付加価値税とその意味

付加価値税(Mehrwertsteuer=MwSt.)は、すべての商品やサービスの消費に対して課される、日本で言うところの「消費税」。国民にとって最も身近で、税収入のうち最も大きな割合を占める重要な租税だ。同税は生産、製造、卸売、小売のすべての段階で売り上げに対して課されるが、仕入れにかかった税額は控除されることから、一般に付加価値税と呼ばれている。しかしこれらの課税分は最終的に、消費者が売り上げに対する税として支払う仕組みとなっており、正確には「売上税」(→用語説明)という。

現在の税率は19%(内税)。最近では2007年1月に国債を減らすため、また失業保険料を引き下げて新規雇用を促すために、16%から3ポイント引き上げられた。

日用品には軽減税率

付加価値税は一律であるため、高所得者より低所得者への負担が高くなる。そのため食料品の大半や書籍、バスの運賃、劇場のチケットなど、日常生活に必要なものへの税率は低減され、7%となっている。レシートを見ると分かるが、牛乳には7%だがワインには19%、肉類には7%だがロブスターには19%という具合に、誰しもが必要な“日用品”には低減税率の7%、日常生活で必ずしも要しない“ぜいたく品”には一般税率の19%が課されている。

また、レストランなど店内での飲食には19%が課されるが、テイクアウトの場合は7%。どちらも消費者が支払う額に変わりはないが、店内での飲食にはテーブルのセッティングや食器の片付けなどのサービスが付随することによる。7%の税率は1983年以来変わっていない。

なお、家賃や医療費、口座維持費、教育関係費などは非課税となっている。

付加価値税引き上げ問題

日本の消費税率5%と比べれば、ドイツの19%は非常に高いと思われるが、EU加盟国と比べてみると平均以下(→図表参照)。EUでは付加価値税率を15%以上(低減税率は5%以上)に設定するよう決められており、スウェーデンやデンマークでは25%が課されている。低減税率もフィンランドでは17%と、ドイツの一般税率とあまり変わらない高さだ。

では、税収を増やしたい今、比較的低い付加価値税率を“標準レベル”にまで引き上げるのはどうか。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が減税を公約として掲げている中、バーデン=ヴュルテンベルク州のエッティンガー首相(CDU)が、低減税率を一般税率の半分となる9.5%にまで引き上げると提唱し、物議を醸している。

メルケル首相、ポファラ書記長、グッテンベルク経済相らCDU・CSUのトップ陣は、「国民の税負担を増やしたら購買力が衰え、景気回復には逆効果になる」と猛反対。さらに国民の不安をあおらないようにと、「次期政権下でも付加価値税は引き上げない」と繰り返し強調し、議論を終わらせようと躍起になっている。

当の国民はというと、付加価値税の引き上げには大半が反対しているものの、次期政権下では公約に反し、増税が行われると予想する国民が78%にも上っている(世論調査「ドイチュラントトレンド」調べ)。増税なしで経済危機を乗り越えていこうとするメルケル首相と、これに疑念を抱く国民──。付加価値税問題が、総選挙およびその後の新政権でどう展開していくのか、注目だ。

フィンランドの低減税率は、17%のほか8%と0%もある。


EU加盟各国の付加価値税率(%)*2008年1月時点
Quelle: Bundesfinanzministerium

「消費税」を文字通りドイツ語に訳すと「Verbrauchsteuer」。でもこれは一般の消費税とは違い、ビールやたばこなど、一定の品の消費に課される「個別消費税」を指す。個別消費税は以下の9種。ビール税は州税で、それ以外は連邦税となる。

● アルコポップ税(Alkopopsteuer)
アルコール度数の高い酒(Alkohol)と、サイダーやコーラなどの炭酸飲料(pop)をミックスした飲料に課される。若者の飲酒を防ぐ目的で、2004年7月に導入された。昨年の税収は300万ユーロ。

● ビール税(Biersteuer)
ソフトドリンクとミックスされたビールも含まれるが、ノンアルコールビールは対象外。昨年の税収は8億ユーロ。

● 蒸留酒税(Branntweinsteuer)
ブランデー、ウオツカ、ウイスキー、ラムなどが対象。年間の税収は20億ユーロ超。

● コーヒー税(Kaffeesteuer)
1993年から導入された税で、カフェインフリーも対象。昨年の税収は約10億ユーロ。

● エネルギー税(Energiesteuer)
ガソリン、ガスなどのエネルギーに課される。昨年の税収は約390億ユーロで、個別消費税では最大の収入源。

● 発泡ワイン税(Schaumweinsteuer)
アルコール度数15%未満の発泡ワインが対象。昨年の税収は4億ユーロ。

● 電気税(Stromsteuer)
環境対策のため、1999年4月に導入。太陽エネルギー、風力、水力など再生可能エネルギーのみによる電力には課されない。昨年の収入は63億ユーロ。

● たばこ税(Tabaksteuer)
税率は紙巻きたばこで1本8.27セント、葉巻たばこは同1.4セント。エネルギー税に次ぐ大きな収入源で、昨年の収入は143億ユーロ。

● 中間生産物税(Zwischenerzeugnissteuer)
ワインと蒸留酒の「中間」、つまりシェリー、ポートワイン、マデイラ・ワインなどに課される税。同税による昨年の収入は3000万ユーロ。

用語解説

売上税
Umsatzsteuer=USt.

欧州経済共同体(EEC)内で税制を統一するため、 1968年1月に導入された。導入時の税率は10%(軽 減税率は5%)だったが、同年7月から11%(5.5%)、 78年1月から12%(6%)、79年7月から13%(6.5%)、 83年7月から14%(7%)、93年1月から15%(7%)、 98年4月から16%(7%)に引き上げられ、2007年1 月以来19%(7%)となっている。連邦と州の共同税。

<参考文献>
■ 連邦財務省(www.bundesfinanzministerium.de
■ Die Welt „Wähler lernen Erhöhung der Mehrwertsteuer ab“ (3. Juli)

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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