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Sa. 29. Feb. 2020

ドイツで迎える老後のお話 - 医学博士 篠田郁弥

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高齢者のための臨床哲学
自律と連帯が共存する社会

浜渦辰二

ドイツに住んでいると、「自律」と「連帯」についてよく考えさせられます。例えば、散歩をしていると、あちこちで "Auf eigene Gefahr" という看板を見掛けます。ある行為を禁止しているのではなく、危険があることを警告し、それを承知の上で行うのなら自分の責任でどうぞ、という意味でしょうか。赤信号の横断歩道では、車が来なくても信号が青になるのをきちんと待つドイツ人が多い中、信号を無視して渡る人が時々います。しかし、待っている人たちはそれを止めるでもなく、あたかも、危険を顧みず渡りたい人はどうぞ、私は青になるのを待ちます、という雰囲気です。

こうして見てみると、ドイツ人というのは幼い頃から自分のことは自分で考えて判断し、行動するという教育を受けて来たのだろうとつくづく感じます。自分のことは自分で決める、「自律」という考え方は、近代の哲学者イマニュエル・カントが、「自らの道徳法則に自らを従わせる」という原理を打ち立てて以来、ドイツ国民に浸透しているようです。

老後

また、次のような状況に居合わせると、ドイツ社会における「自律」と「連帯」の共存を感じずにはいられません。例えば、公共施設などの重い入り口のドアを開けて先に入った人は、大抵の場合、後から来る人のために開けて待っていてくれます。また、バスや電車に乳母車や車椅子で乗り込もうとしている人がいると、必ずと言って良いほど、周囲の人が手助けしてくれます。街中で道に迷い、地図を広げてきょろきょろと周囲を見ていると、"Kann ich Ihnen helfen?(お手伝いしましょうか?)"と尋ねてくれます。

ドイツ人というのは、自律的に行動している人に対しては無言で見守ってくれ、明らかに困っている人には、さっと手を差し伸べてくれるのです。このようなドイツ社会の「連帯」感というのは、この国の社会保険や世話法という制度にも反映されています。このようにドイツには、個人を尊重する「自律」の考えと共に、人と人との繋がりを大切にする「連帯」の考えが根付いています。

一方、日本は国柄でしょうか、自己主張は控えめにし、集団における調和を重視するという教育環境が指摘されるところですが、現代では「自律」を大切にする世代がますます広がり、単なる集団主義ではなく、「自律」に基づく「連帯」を求める人々が育ってきています。ドイツと日本は、それぞれ出発点を異にしながらも、社会に対する意識が同じようなところに来ていると感じられます。

前回、「誕生」や「死」の場面において、今は何でも医師にお任せの時代ではなく「あなたが決める」時代になっていると述べました。しかし、それは必ずしも自律に即した自己決定や自己責任に放り出すことではありません。例えばドイツでは、人工妊娠中絶にはカウンセリングを受けることが条件になっていますし(日本にはありません)、事前医療指示書(本誌939 & 941号参照)にも代行解釈をする代理人(家族でなくても可)を指示する項目や、医師による説明を受けたことを記載する項目が設けられています(必須ではありませんが、両方共、例えば日本尊厳死協会などのリビングウィルにはありません)。ドイツではこのように、様々な形で「連帯」が実践されています。

誕生から死まで(あるいは死を超えて)、私たちは今、「自律」と「連帯」のはざまで生きている、そんなことをドイツで考えさせられています。

 

次回も引き続き、テーマは「高齢者のための臨床哲学」です。「高齢者の共同生活」は次々号の掲載となりますことをお知らせします。

関連ドイツ語
  • Autonomie (f) 自律
  • Solidarität (f) 連帯
  • Patientenverfügung (f) 事前医療指示書
  • Betreuungsrecht (n) 世話法

(m)男性名詞、(f)女性名詞、(n)中性名詞
浜渦辰二
静岡大学で17年間教鞭を執った後、大阪大学にて倫理学・臨床哲学を講義。現在は「ケアの臨床哲学」と題する研究会(専門の方々と市民の対話の場)を続行中で、この4年ほど「超高齢社会の中で◯◯を考える」というタイトルで、終末期医療、ホスピス、看取り、人工栄養、リビングウィルなどについて考えている。10月から12月末まで、交流協定に基づく交換講師としてハイデルベルク大学の教壇に立っている。

 

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