Hanacell

高齢者の共同生活
日本人にとっての
WG(Wohngemeinschaft=ルームシェア)シニア版

フィッシャー・平松由紀子

同じ家やフラットを共有して暮らすことが、特に高齢時の孤立化を妨げ、生活に刺激を与え、老化防止に繋がるであろうということは前回お話ししましたが、共同生活にはほかにどんなメリットがあるのでしょうか。

日本語での生活環境

一番確かなことは、日本人が2人以上集まれば、自ずと日本語での生活環境を作りやすいということです。というのも、ほとんどの人の場合、高齢化に伴って第2、第3外国語である英語やドイツ語の能力が衰えていきます。認知症になれば、なおさらです。日本語能力は母国語のため、高齢になっても維持することができるでしょうし、幼少期、成長期に覚えた言葉は年を重ねるほど懐かしく、また大切なものになっていくのです。多くの日本人高齢者にとって日本語で会話ができるというのは、やはり心休まる環境でしょう。

万一、認知症などの初期症状が現れてドイツ語がおぼつかなくなった場合でも、会話の言語が日本語ならば、まだまだ心を通わせ、お互いに助け合うことができるはずです。認知症であっても、誰とも交流できないというわけではなく、特に母国語の日本語で生活ができれば、症状の進行速度を抑えられ、ドイツ語だけの環境よりも日常生活を豊かにすることも可能です。

そして、忘れてはならないのが食事です。料理ができる人たちが交代で日本食を作ったり、皆で出前を取ることもあるでしょう。1人分のみ注文する場合は最低金額が気になりますが、複数の人数ならば気軽に注文できます。日本語を話す看護師・介護師や、日本食を作ってもらうためにヘルパーを依頼する際も同様に、援助が必要な日本人が1カ所に集まっているほど、日本語を話す援助者に来てもらえる可能性も高まります。

経済的負担の軽減

日常生活に掛かる雑費も分担できます。年金生活に不安を感じている方は年々増えていると思います。例えば、高齢化により十分な掃除ができないので掃除ヘルパーを頼みたい、洗濯機が壊れて修理してもらいたいというようなとき、その費用を分担することで個人の負担が軽減されます。また、日本の新聞を読みたいが、1人で定期購読するのは高く付く、日本のテレビを観たいけれど1人では視聴料を負担できない……と思う方にとっても、共同生活のメリットは大きいと言えます。特に、不得意になりつつあるドイツ語メディアではなく、気楽に接することができる日本語メディアがあることで情報収集が容易になり、会話が弾んで、痴呆予防にもなるでしょう。さらに、一緒に電車に乗る際には、割安なグループチケットを購入できます。

老後

自分の能力を発揮できる場がある

高齢になり、万一障害を持つようになっても、抱える障害が皆同じというわけではありません。ある人は手に障害が出て、ある人には歩行障害、さらに別の人には言語障害が生じるなど、障害の内容は人によって異なります。しかし、例えば歩行障害を抱えていても歌を歌うのが得意、話すのは苦手だけれど手先が器用、料理ができる、あるいは手に障害があるけれど本は朗読できるなど、皆がそれぞれ自分の能力を他者のために活用していくことで、その能力を退化させることなく、一方で自分でできない部分は援助してもらいながら、相互にサポートすることが可能です。他者の支えになり、そして他者に支えられながら日々の生活を送れるということは、共同生活の最大のメリットなのです。

以上、WGでの共同生活のメリットについて大まかにお話ししましたが、もちろん数々のデメリットもあるはずです。しかし、外国で老後を過ごすには、自分の要求がすべて通るわけではないことを考えると、将来の自分のために今から何ができるのかを考え、積極的に働き掛けていくことが不可欠です。1人では考えにくいという方は、ぜひお近くの日本人グループやDeJak-友の会にご相談ください(詳しくは www.dejak-tomonokai.de または www.takenokai.de をご覧ください )。

フィッシャー・平松由紀子
1971年生まれ。93年看護師・保健師国家試験に合格後、サッカーが縁で訪れたのがきっかけで、デュッセルドルフへ来独した。1年間のオペア経験の後、市内各種医療機関に勤務し、ドイツでも看護師国家試験に合格。Dejak友の会、竹の会の会員。在独邦人の高齢化について考える。

最終更新 Montag, 20 Mai 2019 17:18  
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