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Mi. 30. Nov. 2022

ショルツ訪中に高まる批判 対中戦略見直しも激論

ドイツのオーラフ・ショルツ首相は11月4日、中国を訪問して習近平国家主席と会談した。2年前のコロナ・パンデミック勃発後、G7加盟国の首脳が訪中したのは初めてだ。フォルクスワーゲン、BMW、シーメンスなどの社長ら約10人も同行した。

4日、北京で会談したショルツ首相と中国の習近平国家主席4日、北京で会談したショルツ首相と中国の習近平国家主席

中国の人権問題にも言及

わずか11時間の北京滞在だったが、いくつかの「前進」があった。一つは、プーチン大統領へのけん制球だ。ショルツ首相と習近平国家主席は、「核兵器の使用に反対する。核による威嚇は無責任かつ危険だ」という点で合意した。

ロシア政府は、最近「ウクライナ軍が通常の爆弾を使って放射性物質をまき散らす『ダーティー・ボム』(汚い爆弾)を準備している」と主張している。西側諸国は、「ロシアがこの偽情報を口実に、戦術核兵器を使用する危険がある」という懸念を強めている。中国首脳がロシアの核兵器使用に反対する姿勢を明確に打ち出したのは、今回が初めて。これはショルツ首相にとって一つの成果だ。

もう一つの成果は、中国政府がコロナワクチンについて譲歩したことだ。同国は、ドイツのビオンテックなどのワクチンを、中国に住む外国人に接種することを初めて許可した。中国では、外国製のコロナワクチンの接種は禁止されている。外国製ワクチンを受けられるのは、中国に住んでいる外交官だけだった。

中国はドイツにとって世界で最も重要な貿易相手国だ。このため会談の中心的なテーマは経済関係だったが、ショルツ首相は中国にとって不快なテーマにも言及した。首相は「新疆ウイグル自治区などの人権問題について話すことは、内政干渉ではない。全ての国連加盟国は、人権擁護と少数民族の保護を義務付けられている。このことは中国にも当てはまる」と指摘。さらに同氏は「人権問題については、ドイツと中国の間に著しい見解の相違がある。新疆ウイグル自治区の問題については、引き続き協議していく」と述べた。

さらに首相は、ドイツは「一つの中国」の原則を尊重するが、台湾問題を武力によって解決することには断固反対するという姿勢を打ち出した。彼は「習主席に対し、この点をはっきり伝えた」と述べている。これに対し中国側は「両国は見解が一致している点についてのみ話し合い、意見が異なる点については触れないようにするべきだ」という従来の姿勢を繰り返した。

党大会直後の訪中に批判の声

ショルツ首相の訪中については、批判の声が上がっていた。野党キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首は、「習主席が党大会で権力基盤を固めた直後に、ドイツの首相が訪問するというタイミングは最悪だ。中国は、この訪中を『われわれの路線が正しいことを西側が認めた』というプロパガンダの材料に使うだろう」と批判した。人権保護団体「脅かされている民族を守るための組織」のシェドラー会長は、「貿易によって相手国を民主化しようという政策が機能しないことは、ロシア政策の失敗で明らかになっている。中国に対しては欧州連合(EU)が一丸となって対処しないと効果がない。ショルツ首相は、ほかの欧州諸国と歩調をそろえるべきだ」と批判した。当初フランスのマクロン大統領も、ショルツ首相と一緒に訪中することを希望していたが、ドイツ側は拒否した。

これに対しショルツ首相は、「中国に一方的に依存しないように、ほかの国からの輸入を増やすなどして天然資源調達を多角化することは重要だ。しかし中国との関係を断ち切ることはできない」と主張した。

首相は緑の党のベアボック外相などに比べると、中国との経済関係を重視している。その一例が、ハンブルク港のコンテナ・ターミナルをめぐる議論だ。

中国の国営船会社である中国遠洋海運集団公司(COSCO)は、ハンブルク港のコンテナ・ターミナル運営会社HHLAの権益35%の買収を計画した。ドイツ外務省、経済気候保護省、連邦情報局など六つの省庁は「港湾という重要なインフラに中国の国営企業を参加させることは、危険が大きい」と反対。欧州委員会も、買収に批判的だった。しかしショルツ首相だけはCOSCOの資本参加に賛成し、所有比率を24.9%に下げるという条件で、訪中直前に同社の申請を許可した。ショルツ氏は、中国の「一帯一路」計画の一部を間接的に支持したことになる。この議論は、政権内にも対中姿勢に温度差があることを明らかにした。

新しい対中戦略を公表へ

現在ドイツ外務省は、ロシア政策の失敗を教訓として、新たな外交戦略を策定している。来春に公表される戦略文書では、「中国経済への依存度をいかにして減らすか」が重要なポイントになる。だがドイツの製造業界は、中国事業の大幅な縮小に反対している。特に、国外で販売する車の10台のうち3台を中国で売っている自動車メーカーは、「中国事業を減らしたら、ドイツの雇用や経済成長率に深刻な悪影響が出る」として、「脱中国は論外」という姿勢を打ち出している。

しかしアジアや米国では、中国の台湾への武力行使への懸念が強まっている。習主席も、党大会での演説で、「台湾との再統一に関しては、武力行使というオプションを除外しない」と明言した。台湾有事が起きた場合、EUは厳しい経済制裁を中国に対して発動せざるを得ない。ドイツ政府と産業界は、その際にどう対応するのだろうか。今後この国で、中国戦略をめぐって激しい議論が行われることは間違いない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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