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Mi. 19. Jan. 2022

2022年のドイツを展望するショルツ政権の課題

新しい年が明けた。2022年は、昨年スタートしたショルツ政権のかじ取りに世界中の注目が集まる。

昨年12月8日、所信表明演説をするショルツ首相昨年12月8日、所信表明演説をするショルツ首相

オミクロン株の拡大抑制に力点

ドイツ政府の当面の最重要課題は、コロナ対策だ。ウイルス学者たちは「オミクロン株は、デルタ株よりも感染力と免疫回避力が強いので、早急な対策強化が必要だ」と警告する。

ショルツ政権は接種率の引き上げと、ブースター投与を急いでいるほか、今年3月15日までに医療・介護従事者に対し接種を義務付けた。首相は、接種義務を原則として全国民に拡大するよう法改正の準備を指示。しかし旧東ドイツを中心に、ワクチン接種義務に対する抗議デモが過激化する傾向が見られる。政府にとっては、初のワクチン義務化が社会の分断の深刻化につながるのを防ぐことも重要だ。

デジタル化の加速を強調

ショルツ政権は、ドイツに大きな変革と進歩をもたらすことを約束した。社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)は、2021年11月24日に連立契約書を公表し、政策のポイントを明記している。

178頁にわたる連立契約書には、1969~1974年に首相だったヴィリー・ブラント氏(SPD)の「もっと民主主義を実行しよう」(Mehr Demokratie wagen)という言葉にちなんで、「もっと進歩を実行しよう」(Mehr Fortschritt wagen)という名称が付けられた。3党は、この連立政権を「自由と公正、持続可能性のための連合体」と位置付けている。つまり民主主義、自由市場経済、市民権、格差の是正、環境保護を重視するというメッセージだ。

興味深いのは、連立契約書が行政、社会、経済のデジタル化の加速を文書の冒頭で公約していることである。2020年春に勃発したパンデミックにより、ドイツの行政、経済のデジタル化が米国や中国、スカンジナビア諸国などに比べて大幅に遅れているという事実が明らかになったからだ。デジタル化の重視には、経済界寄りの新自由主義政党FDPの筆致がはっきり表れている。

またFDPの「公官庁の認可プロセスを短縮・効率化することによって、企業からの建設許可申請などの審査にかかる時間を少なくとも現在の半分に減らすべきだ」という主張も、連立契約書に盛り込まれている。連立政権はデジタル化を加速するために、ITや通信関連のインフラ構築に多額の投資を行う方針だ。さらに21世紀の経済成長の鍵となるイノベーションを促進するために、2025年までに国内総生産の少なくとも3.5%を研究開発に回すと約束している点も重要である。

再エネ拡大・産業の非炭素化へ大号令

デジタル化に次いで重要なのが、地球温暖化に歯止めをかけるための気候保護政策である。この分野では緑の党の主張が数多く盛り込まれ、ロベルト・ハベック共同党首が経済・エネルギー政策と気候保護政策を同時に担当する「連邦経済・気候保護省」という新しい省庁の大臣に任命された。経済成長とCO2削減のバランスを調整するためだ。

ショルツ政権は、今年から経済の非炭素化へ向けた本格的な作業に着手する。連立契約書が掲げる目標は、極めて野心的だ。3党は、「2030年の電力需要6800~7500億キロワット時のうち、80%を再エネでまかなう」と明記。そのために、再生可能エネルギーの発電設備を大幅に増やす。新築の商業用建物の屋根には、太陽光発電設備の設置を義務付けるほか、全国の土地の2%を陸上風力発電所の用地にする。洋上風力発電にも力を入れ、2040年の設備容量を7000万キロワットに引き上げる。

ショルツ政権は、2038年に予定されている脱石炭を「理想的には2030年に前倒しする」と明記。さらに「2030年までに1500万台の電気自動車を普及させる」と発表したが、これは現在の台数(約50万台)の約30倍だ。内燃機関の新車の販売は、2035年以前に禁止される予定である。

財源確保が未知数

SPDが重視した所得格差の是正も、連立契約書に明記された。ショルツ政権は、法定最低賃金を9.6ユーロから12ユーロに引き上げることを明記したほか、パンデミックによってテレワークが普及したことに伴い、労働時間のさらなる柔軟化も目指す。3党は社会保障制度を引き続き重視することを国民に対して約束している。

気になるのは、デジタル化や再生可能エネルギー拡大のための財源だ。ショルツ政権はFDPの要求通り、所得税の最高税率の引き上げや財産税の復活を断念した。政府は「不要な補助金をカットすることで、新しい政策の財源にする」と説明しているが、それだけで巨額の投資を実行できるかは未知数である。

ショルツ首相は、最初の所信表明演説で「ドイツ経済は過去100年間で最大の変化を経験する」と述べたが、2022年は信号機政権が改革をどの程度実現できるかを占う上で、重要な里程標になるだろう。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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