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ジャパンダイジェスト
Sa. 22. Feb. 2020

FDPと右翼政党が「結託」 - テューリンゲン発の激震

「ついにダムが決壊した」。2月5日に旧東独のテューリンゲン州議会で起きた「政変」を見て、多くの政治家、報道関係者がこう語った。既成政党がタブーを破り、初めて右翼政党の力を借りて、一時的に州政府のトップの座に就いたのだ。2月10日には、メルケル首相の後継者として最も有力視されていた、キリスト教民主同盟(CDU)のクランプ=カレンバウアー党首が混乱の責任を取って辞意を表明するなど、中央政界も大きく揺さぶられている。

2月7日、報道陣の前で話すケンメリヒ氏(FDP)2月7日、報道陣の前で話すケンメリヒ氏(FDP)

FDP議員がAfDの支持を受けて首相に当選

テューリンゲン州で昨年10月に行われた州議会選挙では、左翼党が31%の得票率を確保し首位となったが、連立交渉が難航して新政権の成立が遅れていた。このため州議会での票決により首相を選ぶことに。そして、3回目の票決で驚くべき事態が起きた。保守中道の自由民主党(FDP)のケンメリヒ議員が45票を獲得したのだ。彼は、左翼党のラメロウ前首相(44票)と1票の差で首相に選ばれた。

だが問題は、ケンメリヒ氏が右翼政党・ドイツのための選択肢(AfD)の議員団の支援を受けて当選したことだ。AfDは自党の候補に投票せず、ケンメリヒ議員に全票を投じた。つまりFDPの候補者は、右翼政党の援護を受けて、州首相の座に就いたのだ。FDPは旧東独では泡沫政党であり、昨年10月の州議会選挙での得票率は5%にすぎない。ケンメリヒ氏はCDUの支援も受けたが、AfDの票なしに首相になることは不可能だった。AfDは昨年10月の州議会選挙で得票率を前回の2.2倍に増やして、第二党になっている。

なぜAfDはケンメリヒ氏に票を投じたのか。AfDの目的は、左翼党・社会民主党(SPD)・緑の党の連立政権を崩壊させること。そこでAfDは、赤・赤・緑政権を崩すために、FDPの候補に票を集中させた。ケンメリヒ議員の当選で、AfDはラメロウ氏を首相の座から追い落とすことに成功したのだった。

ネオナチに近い政党がキングメーカーに

AfDは、イスラム教徒を敵視し、排外主義を標榜する右翼政党。テューリンゲン州議会でAfD議員団を率いるヘッケ院内総務は、ベルリンのホロコースト(ユダヤ人虐殺)の犠牲者のための追悼碑を「恥のモニュメント」と呼ぶ歴史修正主義者だ。ヘッケ氏は、AfDで最右翼に位置し、人種差別的な傾向を持つ下部組織「翼(フリューゲル)」の幹部でもある。フリューゲルは連邦憲法擁護庁から「民主主義を脅かす極右団体に近い」という理由で監視されている。

AfDには、ネオナチに近い思想を持つ議員も少なくない。このため、すべての政党は、地方支部に対してAfDとの連立や提携を禁止している。だが今回初めて、AfDは「キングメーカー」の役割を演じた。FDPという既成政党が、自党の議員を権力の座に就かせるために、AfDの票を使ったのだ。

CDU党首も引責辞任へ

ケンメリヒ首相の誕生については、ドイツ全土で批判の声が巻き起こった。テューリンゲン州議会の前では、市民がFDPとAfDに抗議するデモを行った。メルケル首相も「許すことのできない事態だ。今日は、民主主義にとって悪い日となった。首相の選出をやり直すべきだ」と厳しい言葉で批判した。

CDUのクランプ=カレンバウアー党首は、FDPのリントナー党首に対し「FDP議員がAfDの支持を受けて首相の座に就いたのは、偶然ではないはずだ。FDP執行部は、テューリンゲン州支部を十分管理できていない」と厳しい批判を浴びせた。

だがCDU議員団も、AfD同様にケンメリヒ氏を支援して赤・赤・緑政権を倒すのに一役買ってしまった。このためクランプ=カレンバウアー氏に対する批判が強まり、同氏はCDU党首を辞任する意向を表明。AfDの毒矢は政権党の中枢をも直撃したのだ。

テューリンゲン州議会で左翼党の議員団を率いるヘンニッヒ=ヴェルゾウ院内総務は、ケンメリヒ氏が首相に選ばれた後、持っていた花束を新首相に手渡さずにその足下に投げ捨て、「あなたは民主主義者ではない」という言葉を浴びせて抗議の意思を表した。

過激政党の影響力増大を示す事態

ナチスによる迫害の被害者を支援する国際アウシュヴィッツ委員会は、「テューリンゲン州議会で起きたことは、致命的だ。既成政党の、『AfDと協力しない』という約束は、説得力が薄れる一方。AfDは、既成政党が極右勢力に対抗するために団結できないということを、全世界に見せつけた。これは破局的な事態であり、民主政治に深刻な被害を与えるだろう」という声明を発表した。

ケンメリヒ氏は「私は反AfDの政治家であり、同党とは絶対に連立・協力しない」と釈明したが、世論の轟轟(ごうごう)たる非難の前に、就任から3日足らずで首相を辞職した。

だがドイツ全体を揺さぶった激震は、ケンメリヒ氏の辞任では収まらない。既成政党が、AfDと結託して権力の座に就くという事態は、すでに起きてしまったからだ。AfDは「もはやわれわれを政治の世界から閉め出そうという試みは、成功しない」と豪語している。テューリンゲン州議会で起きた事態は、ネオナチに近い過激政党の政治的な影響力が強まっていることを示している。なかには、「ワイマール共和国に似てきた」という声も。われわれドイツに住む日本人にとっても、深刻な事態である。

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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