ジャパンダイジェスト

2021年のドイツを展望する政治が大きく変わる年に

厳しいコロナ・ロックダウンのなか、2021年が始まった。わずか1年間で世界がこれほど大きく変わるとは、2020年の元日には想像もできなかった。

毎年恒例の新年演説を行ったメルケル首相(12月30日撮影)毎年恒例の新年演説を行ったメルケル首相(12月30日撮影)

コロナ第2波で苦戦する優等生ドイツ

今年も最大のテーマは、人類のパンデミックとの闘いである。昨年秋以降、新型コロナウイルスの拡大に拍車がかかっている。世界保健機関(WHO)によると全世界で7500万人を超える市民が感染し、約170万人が犠牲となっている。最も被害が深刻なのは米国で、12月21日までの24時間で新規感染者数が約40万人増え、約2700人が死亡した。

ドイツは2020年3~5月の第1波では、感染者数や死者数をほかの欧州諸国よりも低く抑えることに成功し、「コロナ対策の優等生」と呼ばれた。他国の重症者を受け入れて治療するほどの余裕があった。

だが昨年10月以降はドイツでも新規感染者数が毎日うなぎ上りとなり、12月には1日の新規感染者数が2万~3万人に達した。1000人を超える死者が出た日もある。昨年春にイタリア北部やフランス東部で起きた惨状が、約9カ月遅れてドイツにも到達したのだ。ザクセン州やブランデンブルク州の一部の病院では、人工呼吸器付きの集中治療室(ICU)が不足し、ヘリコプターなどでほかの病院に重症者を移送してい る。

メルケル政権は「11月2日から行っていた部分的ロックダウンは不十分だった」として、12月16日に大半の商店の営業禁止、学校の閉鎖を含む厳しいロックダウンに切り替えた。私は1990年から30年以上ドイツに住んでいるが、街角にクリスマス市場がなく、家族や友人との会食、旅行までが制限される年の瀬は初めてだ。

12月下旬には、英国でこれまでよりも感染力が70%強いといわれるコロナ変異種が発見され、ドイツを含む数カ国が英国からの航空機の乗り入れを禁止した。これも気を重くするようなニュースである。

ワクチンはパンデミックにブレーキをかけるか?

唯一の希望の光は、昨年12月に投与が始まったワクチンである。欧州諸国は、重症化の危険が最も大きい80歳以上の高齢者や、重い基礎疾患を持つ市民、介護施設の勤務者、コロナ病棟で働く医療従事者への予防接種を開始した。通常のワクチンよりも迅速に開発、承認されたこのワクチンが、重症者や死亡者の増加速度にどの程度ブレーキをかけることができるか、重篤な副作用のリスクはどの程度あるのかなど、多くの課題が残されている。2021年は、人類が科学の力によってウイルスとの闘いに転機をもたらすことができるかどうかを左右する、重要な年である。

メルケル首相の後継者は誰に?

2021年はドイツの政局にとって大きな変化の年だ。2005年以来首相を務めてきたアンゲラ・メルケル氏がいよいよ政界を引退する。つまりわれわれは、16年ぶりに新しい首相を持つことになる。来年9月26日の連邦議会選挙は、この国の行方を左右する重要な選挙となるだろ う。

昨年11月時点でのキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と緑の党の支持率を合わせると、50%を優に超える。市民の間で地球温暖化・気候変動についての関心が極めて高いことを考えると、これらの党が連邦レベルで初めて連立政権を樹立する公算が大きい。その場合、誰がメルケル首相の後継者になるのかは、未知数である。

その試金石となるのが、CDUが1月15~16日に実施する党大会だ。同党はこの党大会で、新党首を選ぶ。立候補しているのは、ノルトライン=ヴェストファーレン州のアルミン・ラシェット首相、フリードリヒ・メルツ前連邦議会院内総務、ノルベルト・レットゲン連邦議会外務委員長の3人。だが伏兵として、バイエルン州のマルクス・ゼーダ―首相(CSU)や、イェンツ・シュパーン連邦健康大臣の名前も見え隠れする。

一方、緑の党の2人の共同党首(アンナレーナ・ベアボック氏とロベルト・ハベック氏)のうち、どちらが首相候補(Spitzenkandidat=筆頭候補)として選挙で戦うのかも決まっていない。いずれにせよ、緑の党が政権入りした場合、政府が経済の非炭素化を加速することは確実だ。経済界にとっても極めて重要な選挙となる。

さらに2021年は選挙が目白押しの年。連邦議会選挙のほかに、次の六つの州で州議会選挙が行われる。

投票日
3月14日 バーデン=ヴュルテンベルク
3月14日 ラインラント=プファルツ
4月25日 テューリンゲン
6月6日 ザクセン=アンハルト
9月26日 ベルリン
9月26日 メクレンブルク=フォアポンメルン

今年は、コロナ不況を受けて倒産する企業数が増加すると予想されており、パンデミックの経済的打撃が昨年以上に顕在化する。ドイツではコロナ対策に成功するか、失敗するかが政党の支持率に大きな影響を与える。欧州経済の機関車役ドイツが、誰をメルケル首相の後継者に選ぶか。欧州だけではなく、世界中が今年秋の連邦議会選挙に注目することは確実だ。

筆者より読者の皆様へ

いつも独断時評を読んでくださり、誠にありがとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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