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Do. 21. Okt. 2021

なぜ連邦政府の権限をコロナ禍で強化するのか?

4月13日に、メルケル政権はコロナ対策について連邦政府の権限を大幅に拡大するために、感染症防止法の改正案を閣議決定した。州の権限の一部を連邦政府に譲渡するこの決定は、連邦制の在り方にも大きな影響を与える。

13日、連邦議会議事堂前にはコロナ政策に抗議する人々が集まった。横断幕には「不安ではなく自由を」と書かれている13日、連邦議会議事堂前にはコロナ政策に抗議する人々が集まった。横断幕には「不安ではなく自由を」と書かれている

連邦政府が全国一律ロックダウンへ

感染症防止法によると、これまで商店の営業や学校の閉鎖などコロナ対策の細部を決めて実行する権限は州政府に与えられていた。だが「連邦政府による非常ブレーキ」と命名されたこの改正案が連邦議会と連邦参議院で可決されると、初めて連邦政府が全国一律の施策を命令できるようになる。

その際に重要な目安となるのは、直近1週間の住民10万人当たりの新規感染者数(Inzidenz、7日間指数)だ。特定の郡や市の7日間指数が100人を超える日が3日続いた場合、連邦政府は州政府に対してその地区で午後9時から午前5時まで外出を禁止するよう命令できる。また食料品店、スーパーマーケット、薬局、書店、花屋などを除く商店の営業は禁じられ、映画館、劇場、美術館なども閉鎖される。さらに、特定の郡や市の7日間指数が200人を超える日が3日続いた場合、連邦政府は学校や託児所の閉鎖を命じる。

本稿を執筆している4月14日の時点では、大半の郡や市で7日間指数が100人を超えているので、法案が連邦議会と連邦参議院で可決され改正法が施行され次第、大半の地域で一律のロックダウンが実施される。ただし、この改正法案は「パンデミックが続く期間に限って有効」とされ、現在のところ6月30日まで続くことになっている。

州の間でコロナ対策の足並みの乱れ

なぜメルケル政権はこのような厳しい措置に踏み切ったのか。これまでも7日間指数が上昇した際の非常ブレーキという措置は存在した。しかし感染症防止法によると、商店の営業などに関する細則の決定権が州政府に与えられていたため、一部の州政府は7日間指数が高くなっているのに、非常ブレーキを作動させていない。つまりドイツのコロナ対策は州ごとにバラバラの、パッチワーク状態となった。市民だけではなく政治家たちにとっても、どこでどのような規制措置が行われているかを把握するのが難しくなっていた。

メルケル首相は、州政府の間で足並みが乱れた状態に強い不満を抱いており、今回の感染症防止法改正を強く推し進めた。首相は「ウイルスの拡大状況は深刻であり、全国一律の非常ブレーキの導入は、もっと早く行うべきだった。各州が非常ブレーキについて、バラバラの解釈を行う時代は終わった。われわれは感染者数の急増に歯止めをかけて、医療現場で必死で働いている医師や看護師たちを支援しなくてはならない」と語っている。

英国に比べて深刻な感染状況

実際、新型コロナウイルスの感染拡大は続く一方だ。ロベルト・コッホ研究所によると、4月13日までの24時間の新規感染者数は1万810人に上り、294人が死亡した。時には新規感染者数が2万人を超える日もある。全国の7日間指数は141人となっているほか、パンデミックが昨年始まってからの累計死者数は7万8746人に達している。

しかも製薬会社のコロナワクチン生産が遅れていることなどにより、予防接種率も他国に比べて低い。ドイツでは4月13日までに市民の16.3%が1回、6.2%が2回予防接種を受けた。これに対し英国では4月12日までに市民の61.6%が1回、11.3%が2回予防接種を受けている。

この結果、英国の7日間指数は17人で、ドイツの8分の1となっている。24時間当たりの死者数は13人と、ドイツの23分の1だ(いずれも4月13日の数字)。コロナワクチンは1回打つだけでも、重症化・死亡のリスクを引き下げる。その意味で、ドイツなど欧州連合(EU)加盟国でのワクチンの遅れは、生死を左右する問題である。メルケル首相は、ワクチン接種が他国ほど迅速に進まないドイツでは、全国一律の非常ブレーキをかける以外に方法がないと考えたのだ。

「憲法との整合性に疑問」の批判も

だが今回の非常ブレーキに対する批判の声も強い。自由民主党(FDP)のクリスティアン・リントナー党首は、「メルケル政権の施策は疫学的な観点から効果があるのかどうかが不明である上に、予防接種を受けた市民への対応も欠けている。7日間指数だけで、市民の行動の自由を大幅に制限することは、憲法に照らして受け入れがたい」と述べている。

昨年3月にコロナパンデミックの第1波が発生した時には、ドイツは連邦制を採っているために各州が迅速に独自の対応を取ることができた。「フランスのように中央政府が強大な権力を持つ国とは異なり、ドイツでは州政府が機動的に感染防止策を取ったことが、死者数を低く抑えることにつながった」と指摘された。だが今年は真逆で、「16の州政府の足並みが乱れているために、コロナ対策が有効に機能しない」という批判が強まっている。コロナをめぐる連邦制に対する評価が、わずか1年で逆転したのは皮肉だ。

連邦政府は権力を集中させることで、本当に新規感染者数と死者数の増加に歯止めをかけることができるだろうか? 国民はメルケル政権の一挙手一投足を厳しく見守っている。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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