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次期首相はベアボックか、ラシェットか?

今年9月26日の連邦議会選挙は、ドイツと欧州の政治・経済を大きく左右する重要な政治日程だ。メルケル首相の後継者は、緑の党のアンナレーナ・ベアボック共同党首とキリスト教民主同盟(CDU)のアルミン・ラシェット党首の間で争われる可能性が強い。

ラシェット氏(CDU)とベアボック氏(緑の党)ラシェット氏(CDU)とベアボック氏(緑の党)

政権入りを目指す緑の党

4月19日に緑の党は、ベアボック共同党首(40)を首相候補に指名した。同氏はオンライン会見で、「ドイツは大きな底力を持っています。政治を変えて、このパワーを解き放ちましょう」と有権者に呼びかけた。

ハノーファー生まれのベアボック氏は、ハンブルク大学で政治学と法学を学んだ後、2004年から2年間ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに留学。2005年に緑の党に入党し、同年から2008年まで、欧州議会のエリザベート・シュレーダー議員(緑の党)の事務所のリーダーを務めた。2009~2012年まで欧州緑の党の役員会にも属した。英語を流暢に話すベアボック氏は、緑の党きっての国際派でもある。

ベアボック氏は巧みな弁舌と鋭い理解力・洞察力、高いネットワーク力によって、緑の党の中で急激に頭角を現した。同氏は急進的な左派勢力とは無縁の、「実務派」なのだ。彼女は2009年に緑の党ブランデンブルク州支部の共同支部長に選ばれた後、2013年に連邦議会選挙に初当選。2017年まで議員団で気候変動問題に関する責任者を務めた。

同氏は、2018年の党代議員集会で、ロベルト・ハベック(シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州政府の元環境大臣)と共に共同党首に選ばれた。2019年のドイツでの欧州議会選挙では、地球温暖化問題を他党よりも熱心に取り上げることによって、得票率を前回の約2倍に増やすという快挙を成し遂げている。

経験豊富なラシェット候補

一方政権与党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、4月20日にCDUのラシェット党首(60)を首相候補に選んだ。アーヘンで生まれたラシェット氏は、ボン大学などで法学を修め、フリージャーナリストとして放送局で働いた後、キリスト教系の新聞の編集長を務めた。1979年にCDUに入党し、1994年に連邦議会選挙に初当選。2012年にノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州のCDU支部長になった後、2017年に同州政府の首相に就任した。

ラシェット候補は、CDUの中で保守中道の穏健派に位置する。メルケル首相の路線に比較的忠実だ。メルケル首相は、2015年にハンガリーで立ち往生していた約100万人のシリア難民に対し、超法規的措置でドイツに入国し亡命申請することを許した。この人道的決定は、多くの国民から「ドイツの治安を悪化させた」と厳しく批判されたが、この時も、ラシェット氏はメルケル首相の難民政策を支持したのだった。

CDU・CSUでは、首相候補選びが難航した。CSU党首でバイエルン州政府首相のマルクス・ゼーダ―氏も首相候補に名乗りを上げ、ラシェット氏との間で意見が対立したからだ。だが結局CDU役員会が票決で、ラシェット党首を推すことを決めたため、ゼーダ―氏は連邦首相府の主となる野心を捨てた。

緑の党の支持率が上昇、保守党は下落

現在、どの政党も単独では議席の過半数を取れない。政界では、「緑の党抜きに連立政権を組むことは難しい」という意見が有力だ。緑の党は上昇気流に乗っている。世論調査機関のアレンスバッハ人口動態研究所が今年4月に公表した政党支持率調査の結果によると、緑の党の支持率は昨年4月には19%だったが、今年4月には4ポイント増えて23%になった。

逆にCDU・CSUの人気は、コロナ対策の混乱やマスク汚職などのために急落している。今年4月の同党への支持率は、昨年4月の38%から10ポイントも減って28%になった。一部の支持率調査では、緑の党が首位に立っている。4月26日にシュピーゲル誌が公表した世論調査では、緑の党への支持率は29%で、CDU・CSU(24%)を5ポイント上回った。

また民間放送局RTL・n-tvの世論調査では、「直接首相を選べるとしたら、誰を選びますか」という設問に対し、ベアボック氏を挙げた回答者は32%で、ラシェット氏(15%)、社会民主党(SPD)のオーラフ・ショルツ氏(15%)の2倍を超えた。この背景には、緑の党が予定通りの期日に首相候補を発表して「鉄の規律」を誇ったのに対し、CDU・CSUでは1週間以上ラシェット氏とゼーダ―氏が公の場で対立し、党内の足並みが乱れている印象を与えたという事実もある。

有権者は変革と安定のどちらを選ぶか

2005年以来、16年間にわたってメルケル政権を経験した市民の間では、「変革が必要だ」という意識が高まっている。昨年以来のパンデミックにより、デジタル化の遅れなど長期政権の「制度疲労」も露わになった。今後緑の党の支持率がさらに上昇し、CDU・CSUの凋落傾向に拍車がかかった場合、ドイツで初めて緑の党の首相が生まれる可能性もゼロではない。

ただしベアボック氏には、大臣はおろか地方自治体の首長を務めた経験すらない。統治に関する経験は、ラシェット氏の方が豊富である。NRW州議会選挙で、同氏は世論調査の支持率が低くても、有力な対立候補を負かすという粘り強さを見せたことがある。残り約5カ月間に、どのような展開があるかは分からない。誰がメルケル首相の後継者になるか、即断は禁物だ。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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