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連邦憲法裁の厳しい判決 政府はCO2削減強化へ

ドイツの連邦憲法裁判所(BVerfG)は時折、社会をアッと言わせるような判断を示すことがあるが、4月29日の判決も政界、経済界に衝撃を与えた。

昨年12月12日に開かれた社会民主党(SPD)のデジタルディベートキャンプで話す環境保護活動家のノイバウアーさん昨年12月12日に開かれた社会民主党(SPD)のデジタルディベートキャンプで話す環境保護活動家のノイバウアーさん

「気候保護法は部分的に違憲」の判決

BVerfGは2019年にメルケル政権が施行した気候保護法について、部分的に違憲という判断を下し、政府に二酸化炭素(CO2)削減のための努力を強化するよう命じたのだ。提訴していたのは、北海のペルヴォルム島に住むゾフィー・バックセンさん(22)と3人の兄弟、環境保護団体フライデーズ・フォー・フューチャーのドイツ支部長であるルイーゼ・ノイバウアーさんだ。バックセンさんらは、「私たちの母親はペルヴォルム島で農業を営んでいるが、地球温暖化によって海面が上昇しており、将来海水が地表を覆って、農業ができなくなる可能性がある。政府の気候保護政策が不十分であるために、われわれの将来の生活権が侵害される」と主張していた。

争点となった気候保護法はドイツ政府に対し、2030年までにCO2の排出量を1990年比で少なくとも55%減らすことを義務付けている。さらに政府は、2050年までにカーボンニュートラル(CO2排出量が正味ゼロの状態)を達成しなくてはならない。

将来の世代の負担増・基本権侵害を懸念

気候保護法は、2022~2030年の期間については、エネルギー業界や工業界などが毎年排出するCO2の上限値を明記している。しかし2031年から2050年の期間については、上限値を明記していない。

BVerfGは、「2031年以降の排出量の上限が明記されていないことは、法律の手落ちだ。これにより、将来の世代が今日の世代よりもCO2削減努力を強化することを強制されるかもしれない」と指摘。つまり2050年のカーボンニュートラルを達成するため、政府が対策を強化せざるを得なくなり、将来の世代が交通機関や職業を選ぶ自由を制限されるかもしれない。

裁判官たちは「現在の世代は、削減努力を怠ることのツケを、将来の世代に押しつけてはならない。これは世代間の公平の原則に反し、未来の人々の基本権を制限する恐れがある」と判断。彼らは、このため気候保護法は部分的に違憲であると認定し、メルケル政権に対してこの法律を2022年末までに改正するよう命じた。BVerfGの判決はドイツで最も強い拘束力を持ち、政府も従わなくてはならない。控訴や上告も不可能だ。そうした裁判所が、環境保護団体の若者たちの主張を部分的に認め、政府に対して将来のCO2削減策についても具体的に明記し、気候保護のための努力を強めるよう命じたのは、初めてのことだ。

緑の党にとって追い風となる判決

この判決は今年9月26日の連邦議会選挙にも影響を与えそうだ。実際、各党は競ってCO2削減に拍車をかけることを提案している。極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)を除けば、全ての政党がBVerfGの判決を歓迎した。

緑の党のアンナレーナ・ベアボック首相候補は「地球温暖化に歯止めをかけるための闘いにとって重要で、歴史的な判決」と高く評価。同氏は、「われわれが連立政権に参加した暁には、パリ協定の目標達成を最重要課題とし、経済の全ての分野について、カーボンニュートラルに到達するための道筋を具体的に決める」という方針を明らかにした。緑の党は、2038年に予定している脱石炭を8年早めるよう求めている。

またメルケル政権の連邦環境省は判決を受けて、気候保護目標を大幅に修正する方針を打ち出した。例えば、2030年のCO2の1990年比の削減幅を55%から65%に拡大するほか、カーボンニュートラル達成期限を2050年から2045年に早める。また、2040年のCO2排出量を1990年に比べて88%減らすという新しい目標も検討されている。

現在、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)への支持率は、予防接種の遅れなどコロナ対策の混乱やマスク汚職のために低下しつつある。逆に緑の党の支持率は上昇しており、第2ドイツテレビ(ZDF)が5月に発表した調査では、緑の党(26%)がCDU・CSUを1ポイント上回った。このため緑の党が連邦議会選挙後に連立政権入りするのは、ほぼ確実と見られている。AfDを除く全政党がBVerfGの判決を支持したのは、これ以上緑の党に支持者を奪われるのを防ぐためだ。ドイツのメディアには、「全政党が福島原発事故の直後に、右へならえと言わんばかりに一斉に脱原子力を支持した時に似ている」という論調もある。

産業界からは批判の声も

しかし、経済界からは判決について当惑する声も聞かれる。ドイツ機械工業連合会(VDMA)のティロ・ボドマン専務理事は、「将来の技術革新で、CO2削減は進むはずだ。だが今の時点では、技術革新の内容は分からない。そうした不確定性があるのに、2031~2050年のCO2排出量の上限を厳密に決めるのは難しい」と指摘。ドイツ自動車工業会も、「計画経済的な禁止措置よりも、競争などの市場メカニズムによってCO2削減を加速するべきだ」と主張している。

ただし、ドイツ市民のBVerfGへの信頼感は強い。市民の間でも「現在の便利さを減らしてでも、子どもや孫たちが住みやすい環境を守らなくてはならない」という意識が高まるだろう。この国で経済グリーン化の傾向がますます強まることは確実だ。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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