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Mi. 20. Okt. 2021

イスラエル・ハマス紛争が再燃 ドイツ政府の苦渋の対応

5月20日、ドイツ連邦外務省のマース大臣は、イスラエルのテルアビブ郊外で、テロ組織ハマスのロケット弾で破壊された民家を視察した。2階の外壁には人間の身長を超える穴が開き、床はコンクリートの塊とガラスの破片で覆われている。壁は真っ黒に焦げ、1階のガレージの車もほぼ完全に破壊されていた。

5月20日、握手を交わすマース外相(左)とアシュケナジ外務大臣(右)5月20日、握手を交わすマース外相(左)とアシュケナジ外務大臣(右)

マース外相、イスラエルへの連帯を表明

この日、マース外相はイスラエル政府のネタニヤフ首相やアシュケナジ外務大臣と会談し、「私は皆さんに連帯感を示すために、ここにやって来た。イスラエルは、ガザ地区からのロケット弾による攻撃に対し自衛する権利がある」と述べた。さらに外相は「私たちドイツ人にとってイスラエルの安全は、ドイツに住むユダヤ人の安全と同様に、絶対に守らなくてはならないものだ」と歴代の政権の方針を強調した。

5月10日以来、ハマスはイスラエルに向けて約3000発のロケット弾を発射し、住宅やバスを破壊した。イスラエル側には12人の死者が出た。これに対しイスラエル軍は戦闘機やドローン、自走榴弾砲などでガザ地区のハマスの拠点を攻撃。その際には周辺の建物にも大きな被害が生じ、パレスチナ側には243人の死者が出た。その中には66人の子どもも含まれている。約1900人が重軽傷を負ったほか、多数のビルが破壊された。

イスラエル側の空爆については、一部の国やメディアから「やりすぎだ」という批判が出た。これに対しマース外相は「イスラエルのハマスなど武闘組織の拠点に対する攻撃は、正当防衛だ。これらの拠点から、イスラエルを狙ったロケット弾攻撃が行われている限り、イスラエルはそうした施設を攻撃する権利がある」と述べ、イスラエルを弁護した。同時に彼は、「民間人の死傷者が双方で増えている。これ以上の犠牲者を避けるために、一刻も早く停戦するべきだ」とイスラエル側に要請した。

停戦前に現地を訪問

マース外相がイスラエルを訪れた20日には、まだ停戦が実現していなかった。イスラエルの市街地では、時折ロケット弾の飛来を伝えるサイレンが鳴り響いた。G7加盟国の中で、戦闘が続いている最中に外相をイスラエルへ送ったのは、ドイツだけだ。メルケル政権の狙いは、イスラエルへの連帯感を強く示すことだった。アシュケナジ外相は、「ドイツは、われわれの自衛権を認めてくれた国の一つだ。ドイツは中東和平の糸口を探る上で重要な役割を演じている」と述べ、マース外相に感謝の意を表した。

マース外相はその後ヨルダン川西岸のラマラで、パレスチナ自治政府のアッバース大統領やシュタイエ首相とも会談し、停戦へ向けて努力するよう訴えた。パレスチナ自治政府とハマスの関係は必ずしも良好ではないので、アッバース大統領らの影響力は限られている。しかしマース外相は、ドイツ政府がイスラエルだけに肩入れしているという印象を避けてバランスを取るために、パレスチナ自治政府をも訪問したのだ。

ドイツの姿勢の背景にホロコースト

イスラエル政府とハマスの停戦交渉はエジプトとカタールを通じて行われ、5月21日に両者は攻撃を停止した。だが戦闘で流れた血はあまりにも多い。今回目立ったのは、イスラエルの一部の都市で、アラブ系イスラエル人とイスラエル右派勢力の衝突が起きたことだ。さらにエルサレム東部のシェイク・ジャラー地区からのパレスチナ系住民の強制退去や、アルアクサモスクの扱いをめぐる議論にも解決の糸口は見えていない。紛争の火種はくすぶり続けるだろう。

「ドイツはイスラエルの肩を持ちすぎではないか」と思う人もいるだろう。しかしこの路線は、ナチス時代の歴史を考えれば当然のことだ。ナチスは強制収容所を建設して約600万人のユダヤ人を虐殺したほか、あらゆる市民権を剥奪して財産を没収した。人類の歴史のなかで虐殺は頻繁に行われてきたが、社会の特定のグループの絶滅を目指して工場のような施設を造り、流れ作業で多数の市民を殺した民族はドイツ人以外にいない。ホロコーストは、生き残ったユダヤ人たちが中東に移住してイスラエルを建国する上で重要な動機の一つともなった。この犯罪への反省から、歴代のドイツ政府はイスラエルを強く支援する路線を堅持しているのだ。

メルケル政権、反ユダヤ主義を非難

さて、イスラエルとハマスの間で戦端が開かれると、ドイツでは決まってイスラエルの軍事行動に抗議するデモが行われる。今回もベルリンやフランクフルトなどでデモが繰り広げられたが、一部で反ユダヤ的な暴力行為が起きた。デュッセルドルフでは以前シナゴーグ(ユダヤ教の礼拝施設)があった場所で、何者かが慰霊碑の上にゴミを撒いて放火した。ミュンスターではイスラエルの国旗が焼かれ、ボンではシナゴーグの扉に石が投げられたという。ゲルゼンキルヒェンでは、約180人の群衆がシナゴーグの前に集まって、ユダヤ人を罵倒する言葉を叫んだ。

これに対し、メルケル首相やシュタインマイヤー大統領は、反ユダヤ的な暴力行為を強く非難し、「民主主義国家ドイツには、ユダヤ人に対する憎悪は絶対に許されない」と述べた。イスラエル政府の軍事行動が民間人に死傷者を出したことへの批判と、ユダヤ人差別をごちゃ混ぜにすることは、ドイツではタブーなのである。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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