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Do. 09. Dez. 2021

コロナ規制緩和と デルタ変異株のジレンマ

いよいよバカンスの季節の到来だ。読者の皆さんの中にも、久しぶりの旅行を計画されている方がいるに違いない。

2日、デュッセルドルフ国際空港のチェックインカウンターに多くの旅行客が並んだ2日、デュッセルドルフ国際空港のチェックインカウンターに多くの旅行客が並んだ

重症者・死者数が減少

幸いなことに、今のところドイツでは新型コロナウイルス感染拡大の速度が落ちている。7日間指数(直近1週間の10万人当たりの新規感染者)は、冬には一時100を超えていたが、7月6日には4.9と大幅に低くなった。パンデミック第3波のピークには、一時毎日万単位の新規感染者、数百人の死者が出ていたが、同日の新規感染者数は440人、死者数は31人に減った。1月6日には約5600人の重症者が集中治療室に収容されていたが、7月6日にはその数は509人と10分の1以下になっている。

ワクチン接種も着々と進んでいる。6日時点で市民の56.8%が1回目の接種を受け、39.3%が2回目を終えた。ワクチン接種のデジタル証明書をスマートフォンにダウンロードできるようになったため、ほかの欧州連合(EU)加盟国に入国する時には、QRコードを見せるだけで良い。ほかのEU加盟国も次々に国境での検疫や規制を緩和しつつある。特に昨年以来深刻な打撃を受けたイタリアやギリシャ、スペインなどの観光産業にとっては、現在の「パンデミックの中休み」は大きな朗報である。

デルタ変異株への懸念

だが、シュパーン保健大臣は、英国などでデルタ変異株が急激に拡大していることについて懸念を隠さない。インドで最初に確認されたデルタ変異株の特徴は、感染力がほかの変異株に比べて強いことだ。

世界保健機関(WHO)によると、英国では7月6日からの24時間の新規感染者数が2万7100人に達した。6月23日の新規感染者数は1万1481人だったので、約2週間で倍以上に増加したことになる。英国の保健当局によると、新規感染者の90%以上がデルタ変異株に感染している。ドイツでは現在のところ新規感染者のほぼ半分がデルタ変異株に感染しており、この国でも90%を超えるのは時間の問題である。

ジョンソン政権の「実験」

興味深いのは、英国のジョンソン政権がデルタ変異株による新規感染者の増加にもかかわらず、近く公共交通機関や店内でのマスク着用義務を廃止するなど、大半のコロナ規制を解除しようとしていることだ。同国の保健大臣によると、8月16日以降はワクチン接種を完了している成人については、コロナ感染者との濃厚接触があっても、自己隔離する義務を免除する。また英国ではすでに数万人の観客をスタジアムに入れて、サッカーの欧州選手権の試合も行われている。

英国の労働組合や医療関係者の間には、ジョンソン政権の方針に反対する声も出ている。しかし保健大臣は「夏に向けてコロナ規制を撤廃した場合、1日の新規感染者数が10万人に増えるかもしれない。しかしわれわれはコロナと共生することを学ばなくてはならない」と述べ、規制解除に踏み切る構えだ。ジョンソン政権の自信の根拠は、英国のワクチン接種率の高さにある。オックスフォード大学が運営するデータバンク「Our World in Data」によると、7月5日の時点で英国市民の66.8%が1回目のワクチンを接種し、49.7%が2回目を受けている。欧州では首位である。

注目されるのは、死亡者数の少なさだ。英国の7月6日の死者数はわずか9人だった。同国では今年1月23日に1401人が死亡していた。英国政府はワクチン接種が死亡者の数を大幅に減らしたと主張している。さらに現在の新規感染者の大半は、感染しても軽症で済むことが多い若者だと説明する。つまり英国政府はデルタ変異株が蔓延しているにもかかわらず、規制解除により新規感染者数が急増しても、死者や重症者の数が少なければ、社会にとって受け入れられる状態と判断しているのだ。ワクチンの力によって、新型コロナウイルスを季節性のインフルエンザウイルスのような病原体と見なそうというわけである。英国の飲食業界、旅行業界などは、この「実験」を歓迎している。

ワクチンの最大の効用は重症化の防止

実際、ドイツでワクチンを承認する国立機関パウル・エアリヒ研究所もワクチンの有効性を「感染する確率を下げること」ではなく、「発症する確率を下げること」と定義している。例えば「有効性95%」とは、ワクチン接種済みの場合、感染して発症する確率を、未接種者に比べて95%下げるということを意味する。

ワクチンの最大の効用は、感染を防ぐことではなく、重症化して病院に収容されたり死亡したりするリスクを下げることだ。感染しても軽症で済めば、病院に患者が殺到して医療資源が逼ひっぱく迫する事態を防ぐことができる。実際、英国やイスラエルでも、ワクチンを2回接種した後で新型コロナウイルスに感染した例が多数報告されている。しかし大半が無症状か軽症である(したがってワクチン接種を2回受けても、感染を防ぐには屋内でのマスクや社会的距離は重要である)。

ドイツなど欧州大陸の国々でも、将来接種率が増えた場合、新規感染者数が増えても、重症者や死者の数が少なければコロナ規制を減らす動きが強まるかもしれない。パンデミックで痛手を受けた企業や市民を支える政府の財政出動を、毎年行うことは難しいからだ。その意味で英国が行う「実験」の結果は、ほかの国々にとっても極めて重要な意味を持っている。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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