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オペル救済劇の波紋

100年以上の歴史を持つ米国の大手自動車メーカー、ジェネラル・モーターズ(GM)が破産法の適用を申請した。一時は世界最大の自動車企業だったGMが破たんし、事実上国有化される。世界の経済史に残る出来事だ。

GMの子会社オペルも破たんの瀬戸際に追いつめられていた。メルケル首相らドイツ連邦政府の閣僚は、ベルリンの首相府で連日深夜まで協議し、GMが破たんする2日前に「救済策」をまとめ上げた。このためオペルの破たんは一応避けられたが、この救済策の是非について、国内で激しい議論が起きている。

再建計画によると、オペルを長期的に買収するのはカナダの大手自動車部品メーカー・マグナ。同社はとりあえず株式の20%を取得する。さらにロシアの銀行ズベルバンクとGMが株式の35%をそれぞれ保有し、残りはオペルの従業員が持つ。

ところが5月29日の深夜に行われた会議では、グッテンベルク経済相がこの救済案について「国民に過重な負担をかけるリスクが大きい」として反対した。マグナとズベルバンクが投じる自己資本は、7億ユーロ(約910億円)前後。これに対し、連邦政府と州政府はまず15億ユーロ(約1950億円)のつなぎ融資を行うほか、連邦政府は少なくとも45億ユーロ(約5850億円)もの連帯保証を迫られるからだ。

マグナは「ドイツ国内のオペルの工場は閉鎖しない」としているが、最終的に雇用がどの程度確保されるかについては、書類によって確認されているわけではない。グッテンベルク氏は会議中に経済相を辞任する意向までにおわせたが、首相に説得されて内閣に留まった。

この救済劇には、「選挙対策」という色合いが濃い。保守派の論客からは、「メルケル首相とシュタインブリュック財務相は、オペルを倒産させた場合に多数の労働者が失業し、およそ3カ月後に迫った連邦議会選挙で得票率が減ることを恐れて、納税者へのリスクが大きい再建策を無理やり成立させた」という批判の声が出ている。

昨年の秋に金融危機と世界同時不況が始まって以来、大連立政権は救済の対象を金融機関に絞ってきた。米証券大手リーマン・ブラザーズの破たんが示したように、銀行の倒産は世界中の金融システムに悪影響を与えるからだ。だがオペル救済は、投資家さえ見つかれば銀行以外の企業でも、ドイツ政府が連帯保証などの間接的な支援によって破たんから救うことを示した。今後は金融機関以外の業界からも、政府による救済を求める声が高まるだろう。

実際、経営難に直面しているデパート経営会社アルカンドアについても、社会民主党(SPD)のミュンテフェリング党首は「連邦政府が6億5000万ユーロの連帯保証を与えて、数千人が職を失う事態を避けるべきだ」と述べている。

オペルの2万9000人の従業員たちはひとまず胸をなでおろしたかもしれないが、楽観はできない。オペルは金融危機が起こる前から経営難に陥っていた。販売台数に比べて、生産能力がだぶついていたからである。建設会社ホルツマンのように、連邦政府が救済策をまとめ上げたにもかかわらず倒産した企業もある。オペルをめぐる救済劇に幕が引かれたと言い切ることは、まだできない。

12 Juni 2009 Nr. 769

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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