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輸出で急成長!ドイツ経済

今年8月中旬、ドイツ連邦統計局や研究機関の経済学者たちは、コンピューターがはじき出したデータを見て目を丸くした。今年の第2四半期つまり4月から6月までの3カ月間に、ドイツの国内総生産(GDP)が第1四半期に比べて2.2%も伸びたのである。第1四半期の成長率はわずか0.5%。つまり経済成長のスピードが4倍以上に増えたことになる。

ドイツ経済がこれだけの成長率を見せたのは、20年前のドイツ統一以来初めて。このため連邦経済省では、2010年度の予想成長率を3%に上方修正した。各金融機関のアナリストたちも、今年の経済成長率が3.3%から3.5%に達すると楽観的な予想を行っている。

昨年ドイツはリーマン・ショック以降の不況に直撃されたため、輸出が激減。2009年度の経済成長率はマイナス5%という戦後最悪の数字を記録した。しかし2.2%という成長率は、ドイツ経済が駆け足で不況の後遺症から脱却しつつあることを、はっきりと示している。欧州連合(EU)に加盟するほかの国々は、ドイツほど急成長してはいない。たとえば第2四半期の英国の成長率は1.1%、フランスは0.6%、イタリアは0.4%にとどまっている。

なぜドイツの成長率だけが突出しているのだろうか。その最大の理由は、メーカーを中心に多くのドイツ企業が輸出を増やしたこと、特に中国での売上高が急増したことにある。ダイムラーやフォルクスワーゲンなどの自動車メーカーは、「今年に入ってから中国で高級車の売れ行きが急に良くなっている」と報告している。たとえばBMWは「今年の第2四半期に中国での車の販売台数が昨年の同じ時期に比べて2倍に増えた」と発表した。中国市場の拡大に牽引されて、同社の第2四半期の売上高は前年同期比で約18%増え、収益は7倍に上った。

中国の経済規模は今年、日本を抜いて世界第2位になった。「メイド・イン・ジャーマニー」の栄光が過去に比べてかなりくすんだとは言え、ドイツ経済は今も物づくりの伝統を色濃く残している。ドイツのメーカーは、中国で中間階層が急激に拡大し、消費を増やしているため、大きな利益を得ているのだ。ギリシャの債務危機の余波で、ユーロの他通貨に対する為替レートが下がったことも、ドイツにとっては追い風だ。円高に苦しみ、第2四半期のGDPが0.1%しか伸びなかった日本とは対照的である。

ドイツの政界、財界とも、今回の数字に喜びを隠しきれない様子だが、油断は禁物である。現在世界には、中国ほど急激に拡大するマーケットはない。したがって企業がこの国に販売努力を集中させることは無理もないが、同国への依存度が高くなりすぎると、中国経済が冷え込んだ時にドイツ経済は大きな打撃を受けることになるだろう。

さらに、ドイツ経済が輸出に依存し過ぎており、国内消費が弱いことも問題だ。ドイツの貿易黒字がEUの中で突出していることについては、フランスなどほかの加盟国から批判の声が上がっている。所得税や社会保険料を減らすことによって、ドイツ国民の可処分所得を増やし、国内消費を活性化することも重要だ。

メルケル政権は、急激な経済成長にもかかわらず、公的債務と財政赤字の削減を最優先課題とし、減税には慎重な構えを崩していない。しかし2.2%という驚異的な数字には、多くの市民が懸命に働いたことも反映されている。減税によって市民に経済成長の配当を行き渡らせることも、政府の重要な任務ではないだろうか。

27 August 2010 Nr. 831

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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