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ロンドンのゲストハウス
Do. 18. Jul. 2019

苦境のドイツ連邦軍

ドイツ連邦軍が、またもやスキャンダルに揺れている。昨年11月に海軍の練習船「ゴルヒ・フォック」号で、25歳の女性士官候補生が、訓練中に帆船のマストから転落して死亡した。この直後、ほかの士官候補生たちが事故をきっかけとして訓練の継続を拒否し、上官たちとの間で激しい意見の対立が起きていたことが明らかになった。

グッテンベルク国防相は、「ゴルヒ・フォック」号の訓練航海を中止させ、寄港地に調査団を派遣して事故の背景を調査するよう命じた。「ゴルヒ・フォック」号は、3本の高いマストと白い船体を持つ優美な帆船である。かつて、10マルク紙幣の裏側にこの船の絵が印刷されていたことを覚えている方もおられるだろう。

だがその美しい姿とは対照的に、古参の水兵や上官によっていじめやセクハラが行なわれていたという情報も流れている。2008年にも女性士官候補生が、甲板から海上に転落して謎の死を遂げている。この転落死の背景も明らかにされていない。帆船の中で、何が起きていたのか。女性が転落死した原因は何だったのか。謎は膨らむばかりだ。

4500人のドイツ将兵が戦っているアフガニスタンでも、不祥事が起きた。昨年12月にメルケル首相とグッテンベルク国防相が同国に駐屯しているドイツ兵たちを訪れる直前、1人の兵士が基地で死亡した。当時連邦軍は、「武器の手入れをしている時に、誤って弾丸が発射されて事故が起きた」と発表していた。これを聞いた市民のほとんどは、死亡した兵士が武器を手入れしている際の事故だと思ったはずである。だが今年1月になって、この兵士は、自分のピストルから発射された弾丸ではなく、ある戦友がふざけながら扱っていたピストルから発射された弾丸で死んだことが明らかになった。

なぜ第一報では、事実と異なる内容が流されたのか。どのような状況であれ、ピストルを持ってふざけるのは危険な行為である。それが戦友の死につながったとしたら、上官の監督責任も追及されるだろう。この部隊の上官たちは、首相と国防相が訪れることを意識して、自分たちにとって不都合な事故を隠そうとしたのか。

さらに、この部隊の兵士たちが祖国に送った封書が何者かによって開封され、一部の手紙がなくなっていたこともわかった。ピストルの暴発事故との関連は不明だが、他人の封書を開封するのは犯罪行為である。

軍隊はその性格上、秘密の保持を重視する。このため、一般の市民やマスコミの目が届きにくい閉鎖空間である。グッテンベルク氏には、連邦軍に対する市民の信頼を回復するためにも事実の徹底的な解明と情報公開を行なってほしい。

政府は公的債務と財政赤字を大幅に減らすために、ドイツ連邦軍にも大ナタを振るう予定だ。この国の伝統だった徴兵制が、事実上廃止される可能性も強まっている。今日の連邦軍の主な任務は、本国を敵の侵攻から防衛することではなく、アフガニスタンなど国外での平和維持や危機管理活動になりつつある。連邦軍は創設以来最も大きな変化を経験しようとしているのだ。

そう考えると、優美な3本マストの帆船による洋上訓練が、今後どれだけ継続されるかも未知数である。不幸な出来事が相次いだ今、名高い「ゴルヒ・フォック」号が母港キールにその船体を休める日も遠くないかもしれない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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