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ロンドンのゲストハウス
Di. 19. Nov. 2019

ギリシャ救済と憲法裁

9月7日に、メルケル首相はカールスルーエからの第一報を聞いて、安堵のため息をついたに違いない。この日、連邦憲法裁判所はメルケル政権がこれまで行なってきたギリシャ政府への援助措置について、違憲ではないという判決を下したのである。

この訴訟では、キリスト教社会同盟(CSU)の政治家と、数人の経済学者たちが「欧州連合(EU)のギリシャ政府への救済措置は、通貨同盟の法的基盤であるマーストリヒト条約に違反するものであり、通貨の安定性を揺るがす措置だ。政府が国民の意見を十分に考慮せずに、EUの救済措置に参加することは、議会の予算決定権を侵害し、民主主義の精神に反するものであり、違憲」と主張していた。

これに対しアンドレアス・フォスクーレ裁判長は、「政府の救済措置への参加は基本法(ドイツの憲法)には違反しない」としながらも、連邦政府に対しては過重債務国への援助措置に参加する前に連邦議会の予算委員会の承認を得ることを義務付けた。

憲法裁は、「このような救済措置に加わるかどうかについては、政府の裁量を尊重しなくてはならない」として、政府の判断に真っ向から挑戦することを避けた。同時に政府の判断によって連邦議会の主権が必要以上にEUに移される事態に釘を刺すことで、原告の主張にも一定の範囲で耳を傾けた。「EUの指示に盲目的に従うのではなく、自国の議会の意見も尊重しなさい」というメッセージである。政府にとっては、ハードルが1つ増えたものの、救済措置の合法性についてドイツ司法の最高権威から一応のお墨付きを得たことになる。

ドイツ人は、法律や規則を重視する民族。憲法裁判所に絶大な信頼を寄せており、政治的に重要なテーマについても、カールスルーエの判断を仰ぐのが好きだ。しかし、もしも裁判官たちがメルケル政権のギリシャ救済措置を違憲と判断していたら、ドイツだけでなく欧州全体が大混乱に陥ったはずだ。裁判官たちは、「憲法裁の判決のせいでユーロが崩壊した」と批判されることを避けたかったのであろう。その意味で、今回の判決は純粋な法的判断というよりは、きわめて政治色が濃い判断である。

一方、欧州は相変わらずギリシャをめぐって悲観的な空気に包まれている。同国は深刻な不況に襲われているほか、税金の滞納分の取立てや国営企業の民営化が遅々として進んでいない。このため、EUと国際通貨基金(IMF)が課した財政再建目標を達成できるかどうかについて、重大な疑問が生じているのだ。EUとIMFは、「ギリシャ政府は宿題をさぼっている」と判断した際、9月末に予定されている援助金の支払いを見送る。その場合ギリシャ政府は資金繰りに行き詰まり、「債務不履行」、つまり国家倒産の危険が高まるのだ。

自由民主党(FDP)の党首であるレスラー副首相は、ドイツの新聞に寄稿して「ユーロの安定化00000のためには、あらゆる可能性が考慮されるべきだ。その中には、ギリシャを整然と破たんさせることも含まれる」と書いた。この発言は、同国の破たんを是が非でも防ごうとしているメルケル首相や欧州委員会の努力に水をさすものであり、政府内で批判が高まっている。レスラー氏の発言は、独仏の銀行の株価の下落に拍車をかけた。ドイツでは、ギリシャのユーロ圏からの脱退を求める声も高まっている。だがギリシャが破たんした場合、アイルランドやポルトガル、スペインなどに飛び火する危険もある。

この秋から冬にかけては、公的債務危機が重大な局面を迎えるかもしれない。ユーロをめぐる情勢からは、当分目が離せない。

23 September 2011 Nr. 886

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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