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トルナードは出撃するか

トルナードは出撃するか昨年のクリスマス直前にベルリンに舞い込んだ1通のファクスが、大連立政権に難しい問題をもたらしている。連邦軍はトルナード戦闘機に高性能のレーダーを搭載した偵察機を持っているが、北大西洋条約機構(NATO)はドイツに対して、この偵察機6機を数カ月にわたりアフガニスタンに投入することを要請してきたのだ。

ドイツは昨年連邦議会が行った決議に基づき、約3000人の将兵をアフガニスタンに派遣している。だが、連邦議会はその活動を治安が比較的良い北部に限定することを、派兵承認の条件としてきた。だがNATOはトルナードの偵察地域に、タリバンとの激しい戦闘が続いている南部も含めることを求めている。ドイツは偵察機の乗員や整備員250人を、追加派遣しなくてはならない。

この要請を受け入れるかどうかについて政治家たちの意見は割れている。政府側は、「トルナード投入は、アフガニスタン派兵に関する連邦議会の決議でカバーされており、新たな決議はいらない」と主張している。これに対し、キリスト教民主同盟(CDU)のカウダー院内総務は、「議会で審議する必要がある」として拙速を戒めている。初めは「新たな決議はいらない」と主張していた社会民主党(SPD)のシュトゥルック院内総務も、意見を変えて、議会での再審議を求めている。さらに、アフガニスタンへの介入拡大に慎重な緑の党は、連邦議会がトルナード投入を承認した場合、 連邦憲法裁判所に提訴する構えを見せている。

元々ドイツがアフガニスタンに軍を派遣した目的は、市民や復興援助組織をタリバンから守り、戦火で荒れた国土の再建を促進することだった。ソ連が撤退した後、この国は内戦で荒廃し、タリバン政権はアルカイダに保護を与えていた。この国がテロリストの巣窟に戻り、9・11のようなテロが再発するのを防ぐためにも、ドイツが平和維持任務に参加することは正しい。

だがタリバンは、昨年から南部を中心にNATOに対する攻撃を強めており、都市での自爆テロの数も増えている。NATOの攻撃によって、タリバンとは無関係の市民が巻き添えになって殺傷される事件も起きていることからアフガニスタン人のNATOに対する不信感も強まっている。軍事関係者の間では、「今のままではアフガニスタンを平定することはできず、イラクのような状況になる」という危惧さえ出ている。英国やカナダなどタリバンとの戦闘で多くの死者を出している国からは、今後ドイツに対して「もっと軍事貢献をしてほしい」という声が強まる可能性が高い。

こうした批判をかわすためにも連邦政府は時期を限定してトルナードの投入に踏み切る可能性が強い。だがドイツがこの決定によって、アフガニスタンの泥沼に、さらに深く足を踏み入れることも事実だ。ドイツは対テロリスト戦争にどこまで関与するべきなのか。国民的な合意を得るためにも連邦議会でとことん議論を行い、新たな決議を採択する必要があるだろう。

26 Januar 2007 Nr. 647

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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