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TK Techniker
Mi. 23. Sep. 2020

福島事故後の日本とドイツ(2)

前回、このコラムで福島第1原発の炉心溶融事故について「このような重大事故が祖国で起きたことの『重さ』を、事故から時が経つにつれてますます強く感じる。除染は遅々として進まず、多くの市民が故郷を奪われたままだ。フクシマは終わっていない」と書いたところ、日独にお住まいの何人かの読者の方々から「同感だ」というご意見を頂いた。多くの日本人が、今なおこの事故に衝撃を受け、沈痛な思いを抱いていることを感じた。

2022年末までに原発を全廃へ

atomkraft? nein danke
ATOMKRAFT? NEIN DANKE(原子力? いいえ結構です)

私は2000年からドイツの原子力やエネルギーに関する問題について取材、執筆してきたが、福島事故後にドイツ人たちが行った決断には驚かされた。日本から約1万キロメートルも離れている経済大国が、事故からわずか4カ月で「2022年末までにすべての原発を廃止する」という法律を連邦議会と連邦参議院で可決したのだ。一方、当事者である我が国では、事故から2年以上経った今もエネルギー政策の進路が確定していない。日独のエネルギー戦略の違いは、事故から時間が経つほど、際立っていく。

ドイツは、物作りと貿易に依存する工業先進国の中で、福島事故をきっかけとしてエネルギー政策を急激に転換し、脱原子力の「締切日」を確定した唯一の国である。この国は、福島事故を「対岸の火事」ではなく、自分たちにも関わる出来事と考えたのだ。

福島事故の約2週間後に、保守王国バーデン=ヴュルテンベルク州で行われた州議会選挙では、緑の党と社会民主党(SPD)が圧勝し、60年間にわたって単独支配を続けたキリスト教民主同盟(CDU)が惨敗した。その原因は、シュトゥットガルト駅改築工事をめぐる論争だけではなく、福島事故をきっかけに市民が原子力に「ノー」という明確な意思表示をしたからである。産業立地として重要なバーデン=ヴェルテンベルク州は、電力の約50%を原子力に依存していた。そのような州で、緑の党の議員が首相の座に就いたのは、「革命」である。

メルケル政権への批判

もちろんドイツにも、「メルケル政権の決定は拙速だった」という意見はある。原発を運転している大手電力会社4社の内3社は、「メルケル政権と州政府が原子炉を停止させたのは違法だった」と主張し、損害賠償請求訴訟や違憲訴訟を起こしている。

例えば今年2月に、ヘッセン州行政裁判所は、「ヘッセン州政府がビブリス原子力発電所のA・B号機を停止させたのは違法」と主張していた電力会社RWEの主張を認める判決を言い渡した。

この行政裁判の争点は、メルケル政権の脱原子力政策そのものの適法性ではなかった。裁判官が判断したのは、ヘッセン州政府の手続きが法律にかなっていたかどうかである。

法曹界では、「日本で起きた事故を理由に、ドイツの国民にも危険が迫っていると考えて原子炉を止めさせたメルケル政権の決定には法的な弱点がある」という指摘があった。

全政党が脱原発を支持

だが、現在のところドイツの政党には、脱原子力政策の変更を考えている政党は1つもない。その理由は、脱原子力政策を見直すことを公約に掲げた場合、次の選挙で得票率が下がることが目に見えているからだ。再生可能エネルギーに対する助成金の高騰に歯止めを掛けようと必死のペーター・アルトマイヤー環境相(CDU)ですら、「脱原子力を見直すつもりは全くない」と強調している。

かつてCDU、キリスト教民主同盟(CSU)、自由民主党(FDP)は原子力推進の立場を取っていた。これらの政党が、福島事故以降、緑の党と同じ原子力反対派に「転向」したのは、原子力推進に固執していたら有権者に見放されるという危機感を抱いたからである。ドイツの政治家は、日本とは違って経済団体や大企業よりも、世論調査の結果を重視する。

私は、ある大手企業の管理職として働くドイツ人を知っている。彼は、福島事故が起きるまでは、原発は必要だと考えていた。「しかし私は福島事故の映像を見て考え方を変え、やはり原発は使わないほうが良いと思うようになりました」。原発支持派から反対派に鞍替えしたのは、メルケル首相だけではなかったのだ。

40年間にわたる原子力論争

だが脱原子力路線を最初に踏み出したのは、メルケル氏ではない。シュレーダー氏の率いるSPD・緑の党の連立政権が2002年に施行した「脱原子力法」が最初である。

この国では、40年前から原発の是非を問う論争が行われてきた。その背景にはリスク意識が高く、巨大技術に対して批判的・悲観的な見方をするドイツ人の国民性がある。さらに、経済的な繁栄もさることながら、市民の健康と安全を重視するドイツ人の基本的な性格も影響している。

電力を外国から輸入することが日常茶飯事である欧州と、電力を外国から全く輸入していない日本を単純に比較することはできない。それでも、我々日本人はドイツ人が原子力と化石燃料ではなく、再生可能エネルギーを中心とする経済を実現すべく努力していることを、完全に無視して良いものだろうか?

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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