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メルケル首相の人気の秘密は

今年7月は、日本・ドイツともに「選挙の夏」だ。日本では猛暑の中、参院選の候補者たちが汗を流しながら有権者たちに政策を訴えた。ドイツでも6月末に連邦議会の審議が終わり、議員たちが2カ月という日本よりもはるかに長い選挙戦に突入した。9月22日の連邦議会選挙の投票日まで、ドイツは選挙一色になる。私が住むミュンヘンでも、与野党の幹部たちの演説会のポスターが至る所に掲げられている。

日独ともに現役首相に人気

世論調査
出所: 公共放送ARD, 2013年7月実施

彼は米国の諜報機関である中央情報局(CIA)と国家安全保障局(NSA)で勤務した経験を持つ。さらに、NSAの下請けである民間企業で働いたこともある。

日本の安倍首相とドイツのメルケル首相には、1つの共通点がある。それは、ともに有権者の支持率が圧倒的に高く「我が世の春」を謳歌していることである。

日本では、民主党が権力の座にあった頃の政策に対する国民の不満が今なお根強く、その反動として安倍政権に対する支持率が高くなっている。さらに、日銀による国債の大量買い取りなど「異次元の金融緩和」を主軸とする経済政策アベノミクスによって株価が回復し、円高も緩和されたほか、経済成長率についても回復の兆しが見られる。安倍政権は、原子炉については「安全が確認されたものから再稼動」という方針を掲げている。国民の大半はエネルギー政策よりも、デフレと不況からの脱出を重視し、安倍政権に大きな期待を寄せているのだろう。

ドイツのメルケル首相の支持率も上がる一方だ。公共放送ARDが7月4日に行なった世論調査によると、「次の首相は誰であって欲しいか」という設問にメルケル氏の名前を挙げた人は58%。野党・社会民主党(SPD)のシュタインブルック候補の27%に大きく水を開けている。メルケル首相への支持率は前月に比べて1ポイント増え、シュタインブルック候補への支持率は3ポイント減っている。

政党支持率を見ても、メルケル首相の率いるキリスト教民主同盟(CDU)とバイエルン州の姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU)は、前回のアンケートに比べて1ポイント高い42%を記録した。今年旗揚げした反ユーロ政党「ドイツの選択肢(AfD)」がCDU・CSUの票の一部を奪うことが予想されているが、現在の世論調査の結果を見る限りでは、メルケル首相にとって大きな打撃にはならない模様だ。

大連立の可能性?

メルケル首相にとって最も心配なのは、現在連立政権を組んでいる自由民主党(FDP)の低迷だ。FDPは、「5%条項」をクリアできずに、連邦議会で会派を組めない恐れがある(ドイツでは小党乱立を防ぐために、得票率が5%に達しない政党は、会派を議会に送り込めない)。一方、社会民主党(SPD)と緑の党も、現時点では50%に達していない。つまり現在の情勢が9月まで続けば、保守・リベラルともに単独で過半数を確保することが難しそうだ。このため、第1次メルケル政権のように、CDU・CSUとSPDが大連立政権を組む可能性が強いと思われる。

独り勝ちのドイツ経済

なぜメルケル首相の人気は高いのだろうか。その最大の理由は、ドイツの景気が非常に良いことだ。ユーロ危機による不況の暗雲が、フランスやイタリアなどほかの国を覆っている中、数年前からドイツだけが「独り勝ち」という状況が続いている。

ユーロ圏加盟国の失業率は、過去最高の12%に達している。ギリシャとスペインでは失業率が20%を超えている。特に深刻なのが、若年労働者の失業問題。ユーロ圏全体で失業している25歳未満の若者は、353万人に上る。ギリシャの若年労働者の失業率は59.2%、スペインでは55.8%に達している。

GDP成長率
出所: 経済協力開発機構(OECD)

これに対し、ドイツの失業率は約5.5%。ユーロ圏平均の約半分である。ドイツの物づくり企業では、エンジニアなど特殊な技能を持つ人材が枯渇しており、人手不足に悩んでいる。このため、スキルを持つエンジニアなどがスペインやギリシャからドイツに流入している。製造業が多いバイエルン州やバーデン=ヴュルテンベルク州では、失業率が4%を割って完全雇用状態に近付いている。

フランスやイタリアが貿易赤字に苦しむ中、ドイツだけはここ数年間、貿易黒字を増加させている。上のグラフをご覧頂ければ、ドイツとほかの国の経済成長率に大きな差があることがご理解いただけるだろう。

現在のドイツの好景気はメルケル政権だけの手柄ではない。むしろ、真の功労者は1998年から2005年まで首相だったゲアハルト・シュレーダー氏(SPD)である。経済界では、彼が断行した社会保障制度の大改革の効果が、今現れているという見方が強い。メルケル氏は、シュレーダー氏が蒔いた種の果実を収穫する幸運な立場にあるのだ。次の政権がどのような形で連立を組むにせよ、よほどの番狂わせが起きない限り、メルケル首相が続投する可能性は高い。

19 Juli 2013 Nr.958

 

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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