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ロンドンのゲストハウス
Do. 22. Aug. 2019

「女帝」メルケル圧勝連立交渉は難航へ

9月22日の連邦議会選挙では、メルケル首相の率いるキリスト教民主同盟(CDU)と姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)が、前回の選挙と比べて得票率を約8ポイント伸ばし、大勝した。この選挙結果は、2005年から首相を務めるメルケル氏に対する国民の信頼が、いかに強まっているかを浮き彫りにした。

メルケル個人の勝利

多くの世論調査機関やメディアが、メルケル氏の勝利を予想していた。ドイツの景気は、ユーロ危機による不況の暗雲が欧州全体を覆っているにもかかわらず好調である。この国の失業率は約5%で、ユーロ圏平均の半分にすぎない。経済状態が良い時、人々は安定を望む。

選挙前の世論調査では、「誰を首相に望むか」という問いに対して、回答者の半分以上が「メルケル」と答え、社会民主党(SPD)の首相候補シュタインブリュック氏に対して、20ポイント近い差を付けていた。「Mutti(お母さん)」というあだ名まで付けられ、安定感に満ちたメルケル氏に比べると、失言・放言の多いシュタインブリュック氏は精彩を欠いていた。欧州諸国を見回しても、メルケル氏のようにリーマン・ショック、ユーロ危機など様々な危機をくぐり抜け、絶大な指導力を発揮できるリーダーはいない。最近の政局運営の仕方には、「女帝」の風格すら加わってきた。

今回の選挙結果は、CDU・CSUの政策の勝利ではない。メルケルというベテラン政治家の勝利なのだ。

FDP惨敗の波紋

だが、今回の勝利はメルケル氏にとって完全無欠の物とはならなかった。西ドイツの政治ドラマの中で戦後半世紀以上もの長きにわたり、しばしばCDU・CSUを連立パートナーとして支えてきた自由民主党(FDP)が、5%の閾(しきい)を越えることに失敗し、初めて連邦議会での議席を失ったのだ。1948年に創立されたFDPは、テオドア・ホイス、ハンス・ディートリッヒ・ゲンシャーなど著名な政治家を輩出し、企業経営者や自営業者、富裕層の利益を代表してきた。だが近年では、党首の指導力の弱さや、政策の独自色のなさによって支持者から見離され、緑の党や左翼党よりも得票率が低い泡沫政党に転落した。

個性をアピールしない現在のFDPは、メルケル氏にとって連立パートナーとしてベストの選択肢だった。保守勢力・リベラル勢力がともに議席の過半数を確保できなかったことから、メルケル氏は2005年にも経験したライバル政党との大連立の道を探らなくてはならなくなった。組み合わせとしては黒・赤(CDU・CSUとSPD)もしくは黒・緑(CDU・CSUと緑の党)が考えられるが、現実的なのはSPDとの大連立だろう。

ドイツ連邦議会選挙の得票率

政策の違いをどう調整する?

メルケル氏にとっては、難しい交渉である。大きな争点が少ない無風選挙だったとは言え、CDU・CSUとSPDの政策の間には、様々な違いがあるからだ。

たとえば、市民の関心が強い増税問題では、両党の違いがくっきりと浮かび上がる。現在、所得税の最高税率は42%ないし45%だが、SPDはこれを49%に引き上げることを提案した。最高税率は、年収が独身者で10万ユーロ、夫婦で20万ユーロを超える世帯に適用される。さらにSPDは、90年代にコール政権が廃止した資産税を再び導入するとともに、相続税を引き上げる方針を明らかにしている。

これに対し、CDUはマニフェストの中で、「ドイツの納税者の内、最も所得が多い25%の市民が、所得税の76.9%を払っている。現在税金の大半を払っている人々の負担を、これ以上増やすべきではない」として最高税率の引き上げに反対している。また資産税の再導入や相続税の引き上げについても、「中規模企業(ミッテルシュタント)の国際競争力を弱め、雇用を脅かす」として、拒否している。

家庭での教育を重視するCSUは、働いている両親が子どもを託児所に預けないで、自宅で養育する場合には、「家庭養育手当(Betreuungsgeld)」を支給する方針を提案していたが、SPDは「女性を家庭に縛りつけようとする試み」として、強く反対している。

健康保険制度の改革でも、両党の意見は対立している。SPDは、現在の公的健保と民間健保の違いを廃止し、国民全員を「市民保険(Bürgerversicherung)」に加入させることを提案しているが、CDU・CSUら保守派は反対している。電力価格の高騰にどう歯止めを掛けるかについても、議論の難航は必至。再生可能エネルギー促進法(EEG)の抜本的な見直しが不可欠という点では、両派の意見は一致しているが、SPDが提案している電力税の引き下げなどについては、CDU・CSUが難色を示している。

メルケル首相とリベラル派の代表が連立協定書に署名して新政権が発足するまでには、まだかなりの時間が掛かるだろう。

4 Oktober 2013 Nr.963

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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