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Sa. 19. Jan. 2019

政治家の天下り規制強化を!

日本に住んでいる方々、特に年配の方の間では、ドイツ人について、質実剛健、規則を守る真面目な人々という先入観を抱いている人が少なくない。しかし最近のニュースを聞いていると、こうした先入観が当てはまらない著名人が多いことに気付かされる。特に政界人と経済界の癒着は、年々深まる一方だ。

連邦首相府からDBへ

ドイツでは現在、閣僚や高級官僚の天下りが大きな問題になっている。その理由は、第2次メルケル政権で連邦首相府の長官だったロナルド・ポファラ氏が今年、ドイチェ・バーン(DB)の取締役に就任し、政府へのロビイング(企業が政府へ働き掛ける活動)を担当することが明らかになったからだ。

ちなみにDBの取締役の年収は、110~160万ユーロ(1億5400~2億2400万円、1ユーロ=140円換算)に達する。

キリスト教民主同盟(CDU)に所属するポファラ氏は、在任当時はメルケル首相の右腕であった。そうした背景から、野党・緑の党からは「もしポファラ氏が本当に鉄道会社の取締役になるとしたら、憤慨すべきことだ」という怒りの声が上がっている。

政治家の天下りや腐敗を監視する市民団体は、「議員の辞職後3年間は、民間企業に天下りしてロビイング活動を行うことを法律で禁止すべきである」と主張している。

発足したばかりの第3次メルケル政権にとって、ポファラ氏の天下りは都合が悪い。その理由は、メルケル政権は大連立協定書の152ページに、「利害の対立(腐敗)の印象を避けるため、閣僚、政務次官、官僚の天下りについて適切な規制を設ける」という方針を明記したからだ。しかし、大連立協定書はあくまでも「公約」であり、法律はまだ制定されていないので、目下のところポファラ氏の天下りを妨げることはできないだろう。

ドイチェ・バーンの取締役、ロナルド・ポファラ氏
ドイチェ・バーンの取締役に就任することとなった
ロナルド・ポファラ氏(右)

企業とロビイング

天下りが実現すれば、DBは首相の元側近をロビイング担当者として獲得することになる。鉄道運営会社にとって、交通政策などに関する政府内の情報をいち早く入手することは大変重要である。このため、これまでも天下りした政治家を幹部として雇用してきた。

また昨年末には、連邦首相府の次官E・フォン・クレーデン氏がダイムラー社にロビイストとして再就職した。クレーデン氏は欧州連合(EU)の排ガス規制がドイツの自動車業界に過度の負担とならないよう交渉を行った人物。ドイツの自動車メーカーの主力製品には大型車が多いので、二酸化炭素(CO2)の排出量が比較的多いことが問題視されている。このためドイツ政府は、EUがCO2規制を直ちに厳格化しないよう働き掛けて、自国の自動車業界の利益を守ろうとしたのだ。クレーデン氏の再就職については、検察庁が「利益供与に当たるのではないか」として、一時捜査をした。

シュレーダー氏の天下り

ドイツでは、首相や閣僚経験者の天下りは珍しくない。これまでに最も大きな議論を呼んだのが、1998年から2005年まで首相を務めたゲルハルト・シュレーダー氏(社会民主党=SPD)の再就職だ。彼は首相を辞任してからわずか数週間後、ロシア政府の息のかかった企業に、監査役会長として再就職した。

この会社は、スイスに本社を置くノルト・ストリーム社。同社の株式の51%を保有するのは、世界最大の天然ガス生産企業であるロシアのガスプロム社。同社は、ロシア政府を大株主とする事実上の国営企業だ。ノルト・ストリーム社は、ロシアからドイツに天然ガスを供給するパイプラインを所有、管理している。

この当時、ほかの政党はシュレーダー氏を強く批判。その理由は、彼が首相時代にロシアのプーチン大統領と親密な関係を結び、パイプラインの建設プロジェクトを支援していたからである。

自由民主党(FDP)のディルク・ニーベル幹事長(当時)は、「この天下りには、政治腐敗の匂いがする。個人の利益のために国益が損なわれたのではないか」と非難した。シュレーダー氏は自伝の中で、「私が首相時代にバルト海のパイプライン計画を支援したのは、ドイツと欧州のため。個人の利益のためにやったという批判はばかげている」と反論しているが、首相時代の経験が再就職を可能にしたことは間違いない。

また、シュレーダー政権の経済相だったヴェルナー・ミュラー氏も、2002年に辞任した翌年に、エネルギー関連企業の社長に就任している。同政権で交通大臣を務めたマティアス・ヴィスマン氏も、ドイツ自動車工業連合会(VDA)の会長となった。

天下り規制法の必要性

政治家や高級官僚の華麗な転身が後を絶たない理由は、天下りを規制する法律がないからである。政治家たちも、自分の将来に関わることを見据えて、本格的な天下り規制には乗り出したくないというのが本音だろうか。

企業は、元政治家たちの政府へのコネや影響力を利用するために、高額の報酬を与える。政治家が辞職後直ちに企業に雇われて高給を手にするのは、法律違反ではなくても道義的に問題がある。ロビイストたちの裏工作が、政策にどの程度影響を与えているのかは、市民には全く分からない。今後メルケル政権は、閣僚経験者の再就職に関する法律の制定を急ぐべきではないだろうか。

17 Januar 2014 Nr.970

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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