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ロンドンのゲストハウス
Sa. 24. Aug. 2019

インターネット産業革命がやってくる

機械が自動的に機械を製造する―。SF映画に時々現れる「未来の工場」が、現実化しつつある。

欧米の産業界では、「第4の産業革命」ともいうべき大変革が静かに進行している。そのキャッチフレーズは、「インドゥストリー4.0(Industrie 4.0)」である。

ネットによる生産システム

これは、ドイツ連邦政府が「第4の産業革命」と名付けて、官民一体で推進している技術開発プロジェクトである。第1の産業革命は、18世紀から19世紀に掛けて英国で始まった。蒸気機関や水力機関が中心となり、自動織機の開発は、繊維業の生産性を飛躍的に高めた。第2の産業革命は、20世紀初頭に始まった、電力を使った労働集約型の大量生産方式の導入。3番目は1970年代に始まった、電子技術の導入による生産工程の部分的な自動化である。

これに続くインドゥストリー4.0は、インターネットと人工知能の本格的な導入によって、生産・供給システムの自動化、効率化を革命的に高めようとする試みだ。米国では「インダストリアル・インターネット(Industrial Internet)」、つまり産業インターネットと呼ばれている。

ハノーファー・メッセでも話題に

今年4月にメルケル首相は、世界最大の産業見本市ハノーファー・メッセの会場を訪れ、ある模型の前で足を止めた。それは、ベージュ色のプラスチック素材で作られた未来の自動車工場の模型である。ドイツで最大の電機・電子メーカー、シーメンスのヨー・ケーザー社長が、マイクを片手に解説した。この模型は、シーメンスが自動車メーカー、フォルクスワーゲンと共同で開発中の「スマート自動車工場」を概念化したものだ。

「スマート工場」は、インターネット産業革命の中核となるもので、ネットによって結ばれた生産システムである。インターネットの最大の特徴は、リアルタイム(即時)性だ。スマート工場はこの特性を最大限に活用し、生産拠点や企業間の相互反応性を高める。具体的には、生産工程に関わる企業がネットによって伝達される情報に反応して生産・供給活動を自動的に行う。人間が関与しなくても、機械がネットによって情報を伝達し合い、生産や供給を行うので、「スマート(利口な)」という言葉が使われている。

ハノーファー・メッセ
4月に開催された産業見本市「ハノーファー・メッセ」のシーメンスの展示

生産・供給への人間の関与が不要に

例えば、自動車を組み立てているA工場と、そのために自動車部品を供給しているB社をネットで繋ぎ、A工場で部品の在庫が一定水準以下に減ると、その情報がネットを通じてB社に自動的に伝達される。するとB社から自動的に部品がA工場に供給され、代金の支払いも自動的に決済される。このプロセスには、人間が一切関わる必要がない。組立工場の内部では、工作機械の不具合などがあると、システムが異常を自動的に感知し、自動的に修理する。

現在、ドイツではスマート工場に関する試験プロジェクトが次々に生まれている。例えば、企業財務ソフトウエアの大手SAPは、自動生産システムメーカー、フェストと電力・ガス供給の自動制御システムのメーカー、エルスターとともに研究を行っている。

ドイツでは自動車、IT、機械製造の各業界がインドゥストリー4.0に重大な関心を寄せており、連邦政府も「第4の産業革命の波に乗り遅れたら競争力に悪影響が出る」として、研究活動を積極的に支援している。

最先端は米国

この種のスマート・ビジネスが最も進んでいるのは、グーグルやフェイスブックが本社を置き、IT分野で欧州やアジアに水を開けている米国だ。同国は、インターネット利用者の嗜好に関するビッグ・データの活用においては世界で最も進んでいる。

例えば、読者の皆さんもインターネットを利用していて、自身が関心のある製品や旅行先の検索をした後、次に見るサイトの片隅にそれに関する広告が自動的に現れたり、そうした製品に関する宣伝メールが送られてくることに気付かれた方も多いだろう。大手通販サイトのアマゾンも、「あなたはこんな本に関心があるのではないですか」と新刊の購入を勧めてくる。これは、インターネットを利用して消費者の嗜好に関するデータを集め、人工知能がデータを分析して消費者に商品を勧めるスマート・ビジネスの一例だ。

このように米国は、まず大衆向けの商品に関するビジネスのスマート化を進めているが、今後は工業用のスマート・ビジネスを本格化させる。米国のジェネラル・エレクトリック、シスコ、インテルが、今年4月上旬に「産業インターネット・コンソーシアム(IIC)」というプロジェクトをスタートさせたのはその表れだ。

労働市場には悪影響も

スマート工場建設の鍵の1つはソフトウエアの開発だが、多額の資金が掛かるため、ドイツ企業の90%を占める中規模企業(ミッテルシュタント)にとっては不利だ。このため、政府が主導で産業のスマート化を進めようとしていることは重要である。

ただし、産業のスマート化には問題点もある。スマート工場が普及した場合、企業は人件費を大幅に削減することができるが、労働市場には悪影響が出る。政府は、インターネット産業革命が社会に及ぼす悪影響についても十分配慮してほしいものだ。

2 Mai 2014 Nr.977


 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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