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So. 29. Mai. 2022

ガザ紛争とドイツの反応

イスラエル人とパレスチナ人の憎悪の悪循環が再び加速している。今年7月、ガザのパレスチナ自治区からイスラム原理主義組織ハマスがロケット弾をイスラエルに向けて発射したことを受け、イスラエル軍が戦闘機と地上部隊を投入してガザ地区を攻撃したのだ。

パレスチナ側に多数の犠牲者

これまでのガザ紛争と同様に、パレスチナ側の犠牲者数はイスラエル側の死者数を大幅に上回った。パレスチナ側では市民ら約1800人が死亡し、約9000人が重軽傷を負った。一方、イスラエル側では兵士64人が死亡、3人がロケット攻撃で死亡している。

今回のガザ紛争の特徴は、イスラエル側の無差別攻撃が目立ったことである。ガザ地区には、国連が運営している学校がいくつかあり、ここに数千人の市民が避難していた。市民は、「イスラエル軍が国連の学校を攻撃することはない」と考えたからである。しかしガザに侵攻したイスラエル軍は、ハマスのテロリストをせん滅するという名目で数回にわたって国連の学校に砲撃を加え、市民に多数の死者が出た。

ガザ, 国連学校
7月30日、イスラエル軍に攻撃されたガザの国連学校

例えば8月3日には、ガザ地区南部のラファーで国連の学校をイスラエル軍が攻撃し、子どもを含む30人が死亡、35人が負傷した。学校関係者たちは、事前にイスラエル軍に対して学校を攻撃しないよう再三にわたって要請していた。国連の潘基文事務総長は、避難者で溢れる国連施設への攻撃を「狂気の沙汰であり、犯罪である」と非難。通常はイスラエルを弁護する米国政府も「受け入れがたい行為だ」と批判した。

ロケット攻撃に対する報復

今回のイスラエル軍の軍事行動の最大の目的は、ハマスのロケット発射装置の破壊である。ハマスは、7月9日以来、約3400発のロケット弾をイスラエルに向けて発射。イスラエル軍はこの内90%を迎撃ミサイルで破壊したとしているが、一部は住宅街などに着弾した。ハマスは兵器の性能を以前と比べて大幅に向上させており、一部のロケット弾はテルアビブだけでなく、イスラエル北部やエルサレム周辺にも落下した。ガザ地区の隣接地域では、警報が発令されてから着弾するまでに15秒しかない。また、ハマスはガザ地区の住宅密集地やモスクの近くにロケットの発射装置を隠したため、市民の犠牲者が増加する一因となった。

もう1つの目的は、ハマスがガザ地区からイスラエルへ向けて掘ったトンネルを破壊することだった。紛争のきっかけは、今年6月にヨルダン川西岸地区でハマスのテロリストがイスラエル人の若者3人を誘拐して殺害したことだった。これに対しイスラエルの過激派勢力が、報復としてパレスチナ人の少年を殺害。この事件に対する報復として、ハマスはロケット攻撃を開始した。イスラエル政府は、将来ハマスのテロリストがトンネルを使ってイスラエルに侵入し、市民や兵士を誘拐したりテロ攻撃を行うことを警戒しているのだ。

反ユダヤ・ヘイトスピーチ

今回のイスラエルのガザ攻撃に対しては、欧州を中心に世界中で非難の声が巻き起こり、各地でイスラエルに抗議するデモが繰り広げられた。この背景には、圧倒的な軍事力でガザを攻撃し、パレスチナ市民に多数の犠牲者が出ることもいとわないイスラエル政府の姿勢に、多くの市民が強い反感を抱いたからである。この反感は、一部の市民の間で反ユダヤ主義を煽った。7月25日にベルリンで行われたデモでは、約2000人の参加者の中にイスラム原理主義者、ネオナチ、極左勢力、トルコ人過激派も混じっていた。参加者の一部は過激な反ユダヤ的スローガンを叫び、中には、ナチスの「ジーク・ハイル(勝利万歳)」というスローガンを叫ぶ者もいた。この露骨な反ユダヤ主義は、ドイツ社会に戦慄を走らせた。ドイツは1940年代前半のナチス政権下で、多数のユダヤ人を迫害し虐殺した過去を持つので、反ユダヤ主義には極めて敏感だ。

極右と極左が結集

ドイツではこれらのヘイトスピーチは、国民扇動(Volksverhetzung)として刑罰の対象となる。テロリストや過激派勢力の監視を担当する連邦憲法擁護庁のハンス=ゲオルク・マーセン長官は、「様々な過激派勢力が反イスラエルの旗の下に結集し、これだけの規模で大衆行動を行うのは新しい現象だ」と述べ、強い警戒感を示した。

多くの国内メディアも、「イスラエル政府の無差別攻撃を批判することは許されるべきだが、ネオナチが煽るようなユダヤ人に対する憎悪やヘイトスピーチには、ノーと言おう」として、イスラエル政府のガザ攻撃に対する批判と、反ユダヤ主義を区別すべきだという姿勢を打ち出した。

独政府は和平工作に関与を

今回のガザ攻撃の苛烈さは、ドイツ政府にとっても頭の痛い問題である。ドイツ政府は過去に対する反省から、イスラエル政府を基本的に支援する立場を貫いてきた。メルケル首相は、「イスラエルの安全を守ることはドイツの国是だ」と語ったこともある。ナチスによるユダヤ人迫害が中東地域への移民を促し、イスラエル建国の大きな起爆剤の1つとなったことは間違いない。その意味でドイツは、過去の世代の行為を通じて、中東での対立の責任の一端を間接的に担っている。

かつてヨシュカ・フィッシャー外相(任期1998〜2005年)が行ったように、ドイツの外相には中東での調停工作にもっと力を入れて欲しい。

15 August 2014 Nr.984

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
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