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Fr. 16. Apr. 2021

ドイツ「脱原子力」の次は「脱石炭」?

12月に入り、気温が急に下がってきた。寒さが厳しい北国のドイツでは、暖房や短い日照時間のために、冬に電力需要が最も高くなる。こうした中ドイツでは、将来の電力市場をどのように変更するかについて、新たな議論が持ち上がっている。

火力発電所の強制閉鎖?

そのきっかけとなったのは、11月末にメルケル政権が二酸化炭素(CO2)の排出量を削減するために、電力会社に褐炭・石炭火力発電所の一部を、半ば強制的に閉鎖させることを提案したことだ。ジグマー・ガブリエル経済相(社会民主党=SPD)は、RWE、E・ON、Vattenfall、ENBWなどの電力会社に対し、2020年までにCO2排出量を少なくとも2200万トン削減することを、法律で義務付けることを検討している。ガブリエル経済相は、「どのような方法によってCO2排出量を2200万トン減らすかについては、電力会社が決めれば良い」としている。だが実際には、電力会社がCO2排出量をこれだけ減らすには、火力発電所の一部を止めるしかない。したがって政府は、実質的には電力会社に対し、褐炭・石炭火力発電所の一部を法律によって強制的に閉鎖させようとしているのだ。

ガブリエル経済相は、なぜこのような強硬手段を打ち出したのか。その理由は、連邦政府がCO2削減目標を達成できない可能性が高まっているからだ。地球温暖化防止を重視するドイツ政府は、2020年までにCO2排出量を1990年比で40%削減することを目標としている。しかし、ここ数年間、電力会社は減価償却の終わった古い褐炭・石炭火力発電所をフル稼働させて収益性を確保しようとしている。このため、2013年のドイツのCO2排出量は前年に比べて1200万トン(1.2%)増加してしまった。2013年の発電比率のうち、45.5%は褐炭と石炭が占めている。その比率は前年比1.5ポイントの上昇。現在の状態がそのまま続くと、1990年と比べたドイツのCO2排出量削減率は32~35%にとどまると予想されている。経済省が褐炭・石炭火力発電所の強制閉鎖を検討しているのはそのためだ。

褐炭は、ルール地方や旧東独の露天掘り鉱山で採掘できる。このため、国産のエネルギー源としては最も安い。しかし、天然ガスに比べるとCO2の発生量が高いので、緑の党や環境保護団体は褐炭火力発電所を「クリマ・キラー(気候を害する物)」と呼んで、閉鎖を求めている。

ドイツ各地に点在する火力発電所
ドイツ各地に点在する火力発電所

褐炭・石炭から天然ガスへ

政府が褐炭・石炭火力発電所の部分的な閉鎖を目指すもう1つの理由は、電力の過剰供給量を減らして、より環境にやさしい天然ガス火力発電所の稼働率を増やすことだ。ドイツ経済研究所(DIW)・エネルギー部のクラウディア・ケムファート部長は、褐炭・石炭火力発電所の閉鎖がドイツの電力市場に与える影響について、経済省のために鑑定報告書を作成した。

現在、ドイツでは再生可能エネルギーによる電力が増えているために、電力卸売市場での価格が下がっている。このため、新型で燃焼効率が良い天然ガス火力発電所の収益性が下がっており、電力会社はこの種の発電所よりも古い褐炭・石炭火力発電所を積極的に使う傾向がある。ケムファート氏は、「褐炭・石炭火力発電所の一部を閉鎖すれば電力キャパシティーが減るので、卸売市場の電力価格は1キロワット時当たり1セント上昇する。電力価格が上昇すれば、天然ガス火力発電所の収益性と稼働率が回復するので、一挙両得だ」と主張する。つまり政府は、電力の値段を上げることによってCO2排出量の比較的少ない天然ガス火力発電所の使用を促進しようとしているのだ。

産業界は猛反対

一方、産業界はガブリエル経済相の提案に反発している。ドイツ産業連盟(BDI)のマルクス・ケルバー会長は、「もしもガブリエル経済相の提案が実施された場合、2020年までに電力の卸売価格は約20%上昇し、電力を大量に消費する企業のエネルギー・コストは15%増える。2020年から10年間にドイツの国内総生産(GDP)は約700億ユーロ減り、7万4000人分の雇用が脅かされるだろう」と述べ、政府の計画に強く反対した。BDIは、「褐炭・石炭火力発電所を閉鎖した場合、ドイツ産業界の競争力が損なわれる。さらに、結局はポーランドなどの外国から、石炭によって作られた電力がドイツに輸入されるので、欧州全体で見ればCO2は減らない」と述べて、この提案に疑問を投げ掛けた。

また、電力会社のロビー団体「ドイツ・エネルギー水道事業連邦連合会(BDEW)」も、「エネルギー業界は地球温暖化防止のために今後も貢献する用意があるが、ガブリエル氏の発電所閉鎖案については、欧州全体の視点から考えるべきだ。さらに、電力の安定供給や雇用、景気への影響にも配慮すべきだ」と述べ、慎重な姿勢を示している。

多くの科学者は、「ここ数年間、世界各地で観測されている平均気温の上昇や海面の上昇、異常気象に起因する自然災害は、CO2排出量の増加と関連がある」と主張している。CO2排出量削減が緊急の課題であることは間違いない。同時に、政府は環境保護コストが経済成長にブレーキを掛けることも避けなければならない。ドイツは、このジレンマをどのように解決するのだろうか。

5 Dezember 2014 Nr.991

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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