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ロンドンのゲストハウス
Sa. 24. Aug. 2019

なぜドイツはサービス砂漠なのか?

私は毎年、少なくとも1度は日本に出張するが、その度に手厚いサービスを受けて感激する。

東京のあるホテルでは、ズボンのファスナーが壊れたため、「修理してくれる店を教えてくれませんか」と尋ねると、頼んでもいないのに無料で直してくれた。

日本の新幹線が、折り返し運転のために終着駅に停車する時間はわずか12分。その間、清掃チームはたった7分で掃除を終えるという。車内は、7分の清掃とは思えないほど清潔になる。日本のサービスの質の高さを象徴する早業である。

ある和菓子屋では、買った商品を紙袋に包んで手提げ袋に入れてくれるだけでなく、店員がわざわざカウンターの奥から店の前まで出て来て客に手提げ袋を手渡し、店先まで見送りをしてくれる。雨が降っているときには、紙の手提げ袋にビニール袋までかけてくれる。理髪店や美容院の中には、コーヒーや肩揉みをサービスする店もある。

ベルリンのカフェ
ベルリンのカフェの様子

•ドイツ人もサービスの悪さに驚く

読者の皆さんの中には、「おもてなし」を世界に誇る日本からドイツに来られて、商店などでの顧客サービスの悪さに強いショックを受けられた方もいらっしゃるのではないだろうか。

「サービス砂漠・ドイツ」に悩んでいるのは、われわれ日本人だけではない。私の知人で日本に長年勤務したドイツ人は、故郷に戻って来た直後、パン屋の店員の態度の悪さにショックを受けたという。彼は、日本の店員の丁寧な接客態度に慣れてしまっていたのである。あるレストランでは、食事をしながら日本から来た知人と話をしていたら、「食べ終わった後の皿を渡してくれ」とウエイトレスから指図された。レストランなどでナイフとフォークを平行に揃えておくことは、「食事が終わった」というサインだが、このウエイトレスはそのルールも知らなかった。

なぜドイツ人はサービスが不得意なのだろう。ドイツ語でサービスはDienstまたはDienstleistung だが、この言葉はdienen、つまり、誰かに仕えるという動詞からきている。dienenというドイツ語には、従属的な語感がある。自分が他者に対して、低い地位にいるような印象を与える。つまり、個人主義と独立性を重んじるドイツ人にとっては、イメージの悪い言葉だ。

したがって、ドイツではサービスが無料ではない。この国の企業や商店は、サービスを提供するためのコストを常に考慮する。サービスに掛かる費用が、収益に比べて高くなり過ぎると判断された場合には、サービスは提供しない。これは、日本とドイツの商習慣の最も大きな違いの1つだ。

もう1つ、サービス砂漠を象徴するものは、商店の営業時間の短さだ。これは「閉店法」という法律によるものだが、ドイツに初めてやって来た日本人の多くは、ほとんどの商店が日曜日や祝日に閉まっていることに戸惑う。日本では、コンビニエンス・ストアだけではなく、スーパーマーケットやデパートの中にも夜間営業を行う店が増えているが、ドイツでは考えられないことだ。

日本人は、「休日は多くの市民が買い物をする時間があるのだから、店を開けておけば売り上げが増えるではないか」と思うだろう。しかしドイツでは、週末に店を開けて売り上げを伸ばすよりも、休みを優先させる。「オフィスで働くサラリーマンだけではなく、商店で働く人々にも、家族との時間を楽しむ権利を保証するべき」という意見が有力だ。

•価格を抑えるためにサービスを節約?

一方で、ドイツの物価は日本に比べると割安である。その理由には、サービスを省略しているということもあるだろう。ドイツの商店やホテルが、日本のような、かゆいところに手が届くようなサービスを提供できない背景には、人件費が高いゆえに効率的に仕事をさせなくてはならないという事情がある。もしも、ドイツのホテルや商店で日本並みの水準のサービスを要求したら、請求書の金額はより高くなるだろう。

例えばドイツには、サービスは悪いが、割安なホテルがたくさんある。税金や社会保険料のために、ドイツの可処分所得は日本よりも低いので、市民にとっては細かいサービスよりも、安いことの方が重要なのだ。

ドイツのスーパーマーケットには、日本のように丁寧な態度をとる店員はめったにいない。あるスーパーでは、店員が商品を補充するために、品物を満載した運搬カートを通路のど真ん中に置いていた。カートが邪魔で客が通れなくて困っていても、店員はそ知らぬ顔である。ドイツの店員は、こうした点について全く気が利かない。

その代わり、この国の牛乳やヨーグルト、バター、パンなどの食料品の価格は、かなり安い。多数の安売りスーパーが激烈な価格競争を繰り広げていることも理由だが、ドイツの消費者が、良いサービスを商店やホテル、飲食店に期待せず、むしろ価格の安さを重視することが背景にある。ここに、「名を捨てて実を取る」というドイツ人の国民性が反映されている。サービスが行き届かないことに慣れてしまっていることが、ドイツのサービス砂漠がなかなか改善されない原因の1つである。

ただし、私がドイツに来た1990年頃に比べると、ドイツのサービスもやや改善した。営業時間の延長などはその1例である。顧客が気持ち良く買い物できるように、値段だけでなくサービスにも配慮してもらいたいものだ。

17 Juli 2015 Nr.1006

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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