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ドイツの原発のゴミをめぐり激しい議論

 西側先進国で最悪の原子力災害となった、東京電力・福島第一原子力発電所での炉心溶融事故から、今年で5年目となる。

夜のケルン中央駅前
最終所蔵処分場をどこにすべきか議論されている放射性廃棄物

今も約10万人が避難

だが福島事故は今も終わっていない。福島県によると、2015年11月の時点で、約10万2000人が避難生活を強いられている。

この内、住んでいた場所が原発からの放射能で汚染されたために避難している人の数は、12の市町村で約9万人。彼らが住んでいた地域は、放射線量の強さに応じて、政府から帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域に指定されている。

双葉町などでは、大半の地域で年間積算線量が50ミリシーベルトを超えており、政府から帰還困難区域に指定されている。帰還困難区域では、放射能汚染がひどいために、福島事故から6年経っても線量が年間20ミリシーベルト未満にならないと予想されている。

帰還困難区域の広さは、約337キロ平方メートル。事故前にこの地域に住んでいた住民約2万5000人の大半は、今後も長年にわたって故郷に戻ることができないと見られている。福島県の原野では、汚染土を詰めた黒いビニール袋がうず高く積まれている。このビニール袋の山は、今後我々日本人が何十年にもわたって取り組んでいかなくてはならない、放射性廃棄物との戦いの象徴である。

廃棄物貯蔵処分場をどこに作るのか

ドイツでも、原発からのゴミをめぐる議論が激しく行われている。メルケル政権は、放射性廃棄物の最終貯蔵処分施設の建設へ向けて、本格的な作業を始めている。ドイツ連邦議会と連邦参議院は、2014年4月に「高レベル核廃棄物の貯蔵処分に関する委員会」を発足させた。この委員会の任務は、「最終貯蔵処分場の選定に関する法律」に基づき、原発からの使用済み核燃料など、放射能で著しく汚染された廃棄物を、長期的に貯蔵する場所を選定することだ。

委員会のメンバーは、連邦議会議員と州議会議員、科学者、宗教関係者、環境団体、産業界の代表33人である。この委員会は、次の問題について、議会と政府に提言書を提出する。

  • 最終貯蔵処分場の場所をどのように選ぶべきか?
  • 最終貯蔵処分場が満たすべき、安全基準は何か?
  • 放射性廃棄物は永久に貯蔵するべきか、それとも将来放射性廃棄物の新しい処理方法が開発される場合に備えて、廃棄物を取り出すことができるようにするべきか?

委員会は2031年頃までに最終貯蔵処分場の候補地を決定し、連邦政府と議会関係者に提案。最終的には連邦議会と連邦参議院が決定する。連邦政府は、計画通りに運べば、2050年頃には最終貯蔵処分場に高レベル放射性廃棄物の搬入を始める方針だ。

密室で決められた候補地・ゴアレーベン

この委員会での討議内容の議事録は、ネット上で公開され、誰でも読めるようになっている。高い透明性が確保されている理由は、環境団体や緑の党が「福島事故が起こるまで、高レベル核廃棄物の貯蔵処分場の選定作業は密室の中で決められてきた」と批判したからである。1977年に、当時のシュミット政権とニーダーザクセン州政府は、同州東部のゴアレーベンの岩塩坑が、高レベル放射性廃棄物の最終貯蔵処分場に適しているかどうか調査を開始した。当時の西ドイツ連邦政府は、ここに原発のゴミの捨て場所を作ることについて、事前に住民たちの意見を全く聞かなかった。このため地元の住民らの激しい反対運動が起きた。

だが1998年に、ゴアレーベンでの調査に反対していた緑の党が政権に参加すると、状況は一変した。シュレーダー政権の環境大臣に就任した緑の党のトリティンは、ゴアレーベンに関する調査活動を10年間にわたって凍結したのだ。2011年の福島事故後、メルケル政権はそれまで最有力候補地だったゴアレーベンだけにとらわれず、ほかの候補地も探すという方針を明らかにした。この決定は、ゴアレーベンを最終貯蔵処分場にしようとしていた、シュミット政権、コール政権の方針を事実上白紙撤回したものである。

日本での選定作業もガラス張りに!

ドイツでは、市民の強い反対によって原子力発電所や高速増殖炉の建設プロジェクトが中止に追い込まれたケースがいくつもある。ゴアレーベンの最終貯蔵処分場プロジェクトの挫折も、そうしたケースの一つである。地元住民たちの強硬な反対姿勢が、1998年の左派連立政権の誕生、緑の党の政権参加によって、国のエネルギー政策の大きな変更につながったのである。このエピソードは、市民の意思をエネルギー政策に反映させる上で、二大政党制が健全に機能することが、いかに重要かを示している。

日本でも、高レベル核廃棄物の貯蔵処分場がどこに作られるかは、まだ決まっていない。使用済み核燃料は、原子力発電所に中間貯蔵されている。中間貯蔵される使用済み核燃料の量は、時間とともに増えていく。

このため、日本でも高レベル核廃棄物の貯蔵処分場の正式な選定作業を、一刻も早く始める必要がある。その場合、日本政府と国会は、ドイツ政府と議会が現在行っているように、討議と決定のプロセスをガラス張りにして、技術者の意見だけではなく、住民の意思にもできるだけ配慮してもらいたい。

5 Februar 2016 Nr.1019

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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