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ロンドンのゲストハウス
Sa. 19. Okt. 2019

ドイツは国境を閉鎖するべきなのか?

今年に入って、難民危機にどう対処するかをめぐる議論が白熱化している。メルケル首相は難民数を減らすべきだとしながらも、「基本法(憲法)が保障する亡命権に上限はない」という立場を崩していない。

国境を開くべきか閉ざすべきか
難民に対し、国境を開くべきか閉ざすべきか

上限設定を求めるCSU

これに対し、大連立政権に属するキリスト教社会同盟(CSU)は、今年ドイツが受け入れる難民数を20万人に制限するべきだと主張している。

CSUに属するバイエルン州政府のゼーダー財務大臣は、「欧州連合(EU)境界線の警備も、EU加盟国への難民の配分も機能していない。今年、ドイツの難民受け入れ数が20万人に達したら、少なくとも内戦などが起きていない国からやってきた外国人は、ドイツに入国させずに国境で追い返すべきだ」と主張する。

ゼーダーによると、昨年ドイツに入国した110万人の難民のうち、亡命する資格があるのは約67%。彼は「亡命のための要件を満たしていない残りの35万人は、ドイツから追い出すべきだ」と訴える。また彼は、「EUではドイツとフランス、英国、東欧諸国との間で難民の扱いをめぐって不協和音が高まり、分裂の危機さえ高まっている。ドイツが昨年、独断的に国境開放という決断を下したことが、現在のEUの内部対立の大きな原因になっている」と述べ、メルケルの決定を強く批判している。

現在、欧州でドイツの孤立は深まっている。今年1月に隣国オーストリアは、「2019年までに受け入れる難民の数を12万7500人に制限する。今年の受け入れ数の上限は、3万7500人にする」と発表した。これまで難民受け入れに積極的だったスウェーデンが、国境検査を強化し始めたことも、メルケル首相にとって大きなプレッシャーとなっている。

AfDへの支持率急上昇

難民問題は、ドイツの政局の台風の目である。今年ドイツでは、南部のバーデン=ヴュルテンベルク州など3つの州議会で選挙が行われる。また来年には日本の総選挙に相当する連邦議会選挙が行われる。こうした重要な選挙が近づいているため、メルケルに対する圧力は刻一刻と高まっている。

公共放送ARDが今月行った世論調査によると、排外主義を主張する右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率は約12%に達し、キリスト教民主同盟(CDU)・CSUと社会民主党(SPD)に次いで、第3党となった。右派政党が、緑の党や自由民主党(FDP)を追い抜いたのである。

さらに「連邦政府の仕事に満足している」と答えた回答者の割合は、昨年7月には57%だったが、今年2月には、19ポイントも下がって38%になった。メルケル首相に対する支持率は今年1月には58%だったが、2月には12ポイントも下がって46%になった。また、「連邦政府は難民問題にきちんと対応していると思うか」という設問に「ノー」と答えた市民の割合は、81%にのぼった。

これらの数字は、既成政党の難民危機に関する対応に不満を抱いた有権者たちが、抗議の姿勢を示すために、AfDを支持し始めていることを示している。AfDが、今年と来年の選挙で州議会や連邦議会に議席を獲得することは、ほぼ確実だ。

多くのドイツ人が抱く「今年も100万人の難民がドイツにやって来るのだろうか」という漠然たる不安感が、ポピュリスト政党にとって追い風となっている。

しかしAfDは、信頼するに足る政党だろうか。同党の幹部は、今年1月に「ドイツは国境を閉ざすべきだ。もしも難民が警官の制止にもかかわらず国境を突破した場合、警察官は銃を使用してでも、難民の侵入を防ぐべきだ」と発言した。ドイツの法律によると、警察官は国境を越えようとする外国人に対して発砲することを禁じられている。

社会主義時代の東ドイツ政府は、国境警備兵に対し、ベルリンの壁を越えて西側に逃亡しようとした市民を見つけた場合には、射殺してでも逃亡を食い止めるよう命じていた。AfD幹部の発言は、民主国家ドイツを、社会主義時代の東ドイツのような国にすることを求めるものであり、噴飯物である。この発言は、今日のドイツ社会での議論が難民危機のために、いかに感情的なものになっているかを浮き彫りにするものだ。

メルケルの言動に微妙な変化

そうした中、メルケル首相も次第に難民に対する姿勢を硬化させつつある。特に大晦日にケルンで起きた集団暴力事件以降、メルケル首相の言動に変化が生じている。

たとえばメルケル首相は1月30日にメクレンブルク=フォアポンメルン州での党の集会でこう語った。「シリアが平和になり、ISが撃退されたら、シリア難民はドイツで学んだ知識を持って、シリアに戻ってほしい」。これは、メルケル首相が難民に対し祖国への帰還を望んでいることを示した初めての発言として、ドイツの政治家やメディアによって注目された。彼女は心の中で、「難民に対して寛容な姿勢を見せ続けた場合、AfDによって、州議会選挙や連邦議会選挙で票を奪われる」という、冷徹な計算を行っているのかもしれない。

ドイツやオーストリアが国境を閉ざした場合、難民たちはどこへ行けばよいのか。数万人の難民が国境の前で立ち往生する悪夢が再現されるのか。難民危機という長く暗い夜に、まだ明かりは見えない。

19 Februar 2016 Nr.1020

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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