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So. 19. Jan. 2020

パナマ文書 暴露の衝撃

調査報道に基づくドイツ発のスクープが、全世界を揺るがしている。4月4日、ドイツの日刊紙南ドイツ新聞(本社ミュンヘン)は、多数の政治家、スポーツ選手、ビジネスマンらがパナマなどに持っていたオフショア資金口座の実態を暴露した。この報道をきっかけに、資産を隠していた富裕層に対し、税務署や検察庁の捜査のメスが入る可能性もある。

パナマ文書
パナマ文書を基に、各国指導者や著名人による脱税など
不正取引がなかったか調査を開始

アイスランドの首相が退陣

南ドイツ新聞は、パナマの弁護士事務所「モサック・フォンセカ」が、政治家や富裕層のために英国バージン諸島、パナマ、バハマ、セイシェルなどの租税回避地(タックス・ヘイブン)に設置した21万4488件のペーパーカンパニーに関する情報を入手した。その情報量は、2.6テラバイト、文書にして1150万枚に達する。同紙はデータの量が膨大である上、取材対象が多くの国にまたがっていることから、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の協力を依頼。約80カ国の新聞社や放送局100社から、約400人の記者が取材に加わった。

取材チームは、ペーパーカンパニーの名義人のリストの中に、多くの有力者や著名人の名前を発見した。たとえばウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領、アイスランドのシグムンドゥル・ダヴィード・グンラウグソン首相、ロシアのプーチン大統領の側近セルゲイ・ロルドゥギンらの名前がリストに載っていた。またシリアのアサド大統領の従弟や、アルゼンチンのサッカー選手リオネル・メッシもこの弁護士事務所を通じて、郵便受けだけがあって実体のない幽霊会社を開設していた。

この内アイスランドのグンラウグソン首相は、2009年末まで妻とともにペーパーカンパニーを持っており、オフショア口座にアイスランドの銀行の社債を保管していた。首相は4月5日に市民らの抗議を受けて辞任した。

各国政府が調査を開始

ドイツ連邦政府の副首相ジグマー・ガブリエル経済大臣は、「名義人に匿名性を与えるペーパーカンパニーや財団の設置を、世界中で禁止するべきだ」と要求。連邦財務省のヴォルフガング・ショイブレ大臣も、「パナマ文書の暴露によって、実体のないオフショア幽霊会社への資金隠しを禁じるための圧力が高まったと言える」と述べた。各国の政府も、モサック・フォンセカ弁護士事務所を通じてペーパーカンパニーを作った企業や個人に対する調査を開始。さらに南ドイツ新聞の報道から、ドイツの銀行28行が、モサック・フォンセカ弁護士事務所の仲介でオフショア幽霊会社を開設していたことも明らかになった。この事務所の仲介でオフショア幽霊会社を顧客のために作った銀行の数は、世界中で約500行に上る。ペーパーカンパニーを作ること自体は違法ではないが、脱税のために使われた場合は、法律に触れる可能性がある。各国の税務当局は、金融機関に対して会社設立を仲介した経緯について、事情聴取を開始する方針。 モサック・フォンセカ弁護士事務所は、「過去40年間にわたり、全く違法行為を行っていない」と述べた上で、わが社が仲介して創設されたオフショア会社を悪用する顧客がいたとしたら、遺憾である」という声明を発表している。また同事務所は、「我々はハッカーによって情報を盗まれた被害者だ」と主張している。

背景に金融業界の変化

インターネット上では、この事務所だけでなく、 多くの会社が顧客のためにオフショア資金口座を開設するサービスを行っている。これらの企業は、顧客に匿名性と秘密厳守を約束する。このため資金を目立たない場所にプールしたいと考える企業や個人にとっては、オフショア幽霊会社や秘密口座は「隠れ家」として悪用されかねない。

バージン諸島やパナマなどのタックス・ヘイブンが多くの企業・個人によって使われる背景には、金融業 界のグローバルな変化がある。近年、欧米の捜査当局や税務署はテロ組織の金の流れや資金洗浄、脱税犯に対する捜査を強化しており、スイスやルクセンブルク、リヒテンシュタインの銀行は匿名口座を原則として禁止している。30年前には、ドイツの富裕層が多額の現金を車でスイスまで運んで、銀行に匿名口座を作り、ドイツの税務署の目を逃れることができたが、現在では金融機関側が拒否する。多くの国の銀行では、税務当局からの問い合わせがあった場合、「銀行の顧客に関する情報の守秘義務」は存在しない。

ドイツでは、2008年頃からドイツ・ポストの社長だったクラウス・ツムヴィンケルや、サッカーチームFCバイエルン・ミュンヘンのマネジャー、ウリ・ヘーネスなど大物脱税者の摘発が目立っている。これらの脱税犯が摘発されたきっかけは、リヒテンシュタインなどの銀行員が、資産を隠していた富裕層のリストをドイツの税務当局に数億円の報酬と引き換えに売ったことだった。これを受け、ドイツでは富裕層が刑事訴追を逃れるために、税務署に脱税の事実を暴露するケースが急増している。このように欧州で税務調査が厳しさを増していることから、一部の富裕層は、匿名性を保証するオフショア・カンパニーに資金を隠しているのだ。世界中の大半のサラリーマンは、源泉徴収で税金を取られているので、資産隠しは難しい。多くの国々で所得格差が拡大し、市民の不公平感は強まっている。パナマ文書の暴露報道で、各国政府はタックス・ヘイブンへの圧力を高めるだろう。

15 April 2016 Nr.1024

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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