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ロンドンのゲストハウス
Mi. 22. Jan. 2020

TTIP文書が暴露した 欧米間交渉の実態

ここ数年、ドイツの日刊紙「南ドイツ新聞(SZ)」の特ダネ攻勢がすごい。オフショア口座の実態を暴露した「パナマ文書」、「オフショア・リークス」に関する調査報道は、世界的なスクープとなった。

SZは今年5月2日にも、スクープを放った。欧州連合(EU)と米国政府が3年前から行っている大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)についての交渉内容を、暴露したのだ。この報道は、環境団体グリーンピースがEU側の協力者から入手したオリジナル文書に基づくもの。SZはグリーンピースから事前に240ページの機密文書を入手し、文書が公表される日の朝に内容を詳細に伝え、米国政府とEUの間の交渉が事実上暗礁に乗り上げている実態を明らかにした。その中で、米国政府がEUに強い圧力をかけていることも分かったのだ。

高レベル放射性廃棄物
欧米間で難航する大西洋横断貿易投資
パートナーシップ協定(TTIP)

最大の焦点は食品輸入規制

米国では、遺伝子組み換え処理を行った農作物や、ホルモンを投与した家畜の食肉、塩素で消毒された鶏肉などに対する規制が、欧州ほど厳しくない。米国は、EUにこれらの食品への規制を緩めることを要求している。農業バイオ大手モンサントなどの米国企業が、こうした食品の欧州への輸出を増やせるようにするためだ。

これに対し、EU側は「消費者保護の観点から、これらの食品の規制を緩める気はない」として、米国の要求を拒否している。一方EUは、米国に対して自動車部品の市場を開放し、欧州メーカーの米国への部品輸出を容易にすることを求めている。

グリーンピースが暴露した文書から、米国側がこの問題で態度を硬化させていることが明らかになった。米国は「EUが食品の輸入規制を緩めない限り、自動車部品市場の開放について話し合う気はない」と通告し、欧州の要求を拒否したのだ。

交渉が難航している背景には、EUと米国との間に横たわる「リスク」についての考え方の違いがある。欧州ではリスク意識が比較的高い。このため欧州委員会は、人体に対する悪影響が懸念される場合には、具体的に病気の例などが報告されなくても、予防的に輸入や販売を禁止することができる。欧州、特にドイツなど欧州大陸の国々では、米国の自由放任主義とは一線を画し、政府が企業活動に対して厳しい枠組みをはめるのが普通である。特に近年、欧州委員会は消費者保護を重視する傾向が強い。

これに対し米国では、政府が食品や化学物質の販売を禁止できるのは、人体に対する悪影響が科学的に証明された場合か、実際に病気や後遺障害が発生した場合に限られている。自由放任主義と市場のダイナミズムを重視する米国は、政府の経済活動への介入を最小限にしようとする。

消費者保護を重視する欧州

欧州、特にドイツでは「消費者の間で有機農業やビオ農産物への人気が高まりつつあるところへ、遺伝子組み換え処理を行った農作物が米国から流入すると、市場が混乱する」として反対意見が強い。

ドイツ消費者センター連合会のクラウス・ミュラー会長は、「我々は、米国がTTIPによって食品規制の大幅な緩和を狙っていると懸念していたが、今回公表されていた文書によって、我々の懸念が正しかったことが証明された」と述べている。

政界からも、米国側の態度への批判が強い。社会民主党(SPD)のヴェストファール連邦議会議員は、「環境保護と消費者保護は、SPDにとって越えてはならない一線。我が党は、現在の協定案に同意することはできない」と述べている。また、バイエルン州の首相ゼーホーファー(キリスト教社会同盟=CSU)は、「透明性と消費者保護が確保されない限り、TTIPには同意しない。EUの消費者保護の水準をTTIPによって引き下げることはできない」と批判している。

投資家保護でも対立

また米国は、TTIP交渉の中でEUに対し、米国の投資家保護を強化するように求めている。具体的には米国政府は、「外国の投資家が欧州で政府から差別されたり、補償金を受けることなしに財産を剥奪された場合には、投資家が欧州政府を相手取って、裁判所ではなく投資家差別を専門に審判する裁定機関に提訴できるようにするべきだ」と主張している。これに対しEU側は、「米国企業は各国の裁判所に提訴すれば済む問題だ」として、米国側の要求を拒否。さらに欧州では、「現在の形でTTIPが妥結した場合、各国政府が行っている芸術活動への補助金、出版物の再販制度などが禁止される恐れがある。さらに、労働者の権利が制約される危険もある」という懸念も出されている。

交渉は一層難航か

フランスのオランド大統領も「現在のTTIPの内容にイエスと言うことはできない。我々は、ルールを欠いた自由貿易には反対だ。農業や文化に関する欧州の原則を犠牲にすることはできない」と述べ、TTIPに反対。同国の通商問題担当次官マティアス・フェクルも「EUにとっては、TTIP交渉を凍結するというのが、最も現実的なオプションだ。私が悲観的な理由は、米国が相互主義を無視しているからだ。EUは多くの提案を行ったのに対し、米国側の提案は限られていると語っている。TTIP反対派にとって、グリーンピースが暴露した文書は追い風となる。今後、欧米間の交渉は一段と難しくなるだろう。

17 Juni 2016 Nr.1028

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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