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ロンドンのゲストハウス
Sa. 19. Okt. 2019

MV州議会選で大敗したCDUとメルケル首相

メルケル首相
今回のMV州議会選でのCDUの大敗が、
メルケル帝国崩壊の序曲となるか

9月4日に旧東ドイツ北部のメクレンブルク=フォアポンメルン(MV)州で行われた州議会選挙の投票結果は、メルケル政権に強い衝撃を与えた。

AfDの大躍進

3年前に創設された右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が20.8%もの得票率を記録して、第2党として議会入りに成功したのだ。

AfD以外のほぼ全ての党は前回(2011年)の選挙に比べて得票率を減らした。メルケルが党首を務めるキリスト教民主同盟(CDU)は、得票率を23%から19%に減らして大敗。同党は社会民主党(SPD)、AfDに次ぐ第3党の地位に転落した。

全ての既成政党は、AfDと連立しないことを投票前に公約していた。このため、SPD、CDUなどが大連立政権を作ることはほぼ確実である。しかしSPD、左派政党(リンケ)がともに得票率を5ポイントも減らしたことは、いかに多くの有権者がAfDの下へ走ったかをはっきりと示している。

市民を突き動かした難民危機

なぜAfDは躍進したのだろうか。その最大の理由は、同党がメルケルの難民政策を激しく批判したことにある。ドイツ市民の間では、メルケルの難民政策に対する不満が高まっていた。民間放送局N24が今年7月に発表した世論調査によると、回答者の57%が「メルケルの難民政策は失敗した」と答えている。また公共放送局ARDが9月1日に発表した世論調査によると、メルケルへの支持率は45%だった。これは、過去5年間で最低の水準である。

AfDは、昨年メルケルが人道的な理由で行った難民受け入れ決定を批判し、亡命権の制限を求めている。同党は、「戦火を逃れてドイツに一時的に逃げてくる難民は受け入れるが、亡命する理由もないのにドイツに不法に入国する外国人は受け入れるべきではない。ドイツへの移民は、我が国の経済が必要とする知識や技術を持っており、経済に貢献できるかどうかという基準で決めるべきだ」と主張してきた。

無党派層をも動員したAfD

 MV州の有権者たちは、こうしたAfDの主張に同調した。注目すべきことは、今回の選挙での投票率が前回の選挙から10ポイントも改善して、61.6%になったことだ。前回棄権した66万6000人の無党派層の内、5万5000人が今回は投票所に足を運び、AfDに票を投じた。つまりAfDは、CDUなどの伝統的な政党よりも、政治に無関心な有権者を動員する力を持っているのだ。同党は、ドイツの16の州議会の内、9州で議席を持つことになった。来年の連邦議会選挙で議会入りすることはほぼ確実だ。

中国・杭州でG20首脳会議に出席していたメルケル首相は、「CDU大敗の原因の一端は、私がとった難民政策にある」と述べて、自分の責任を認めた。しかし首相は、自分が1年前に行ったシリア難民の受け入れは正しかったという立場を変えなかった。ドイツの保守勢力は、難民受け入れ数に上限を設定するように求めているが、メルケルは「憲法が保障する亡命権に、上限はない」として、この要求を頑として拒絶している。メルケルが「Wir schaffen das(我々はやれる)」というスローガンを繰り返し、難民政策を転換しないことについては、政界やメディアから批判の声が高まっている。特に、CDUの姉妹政党として大連立政権に参加しているキリスト教社会同盟(CSU)からは、「MV州議会選挙の結果は、亡命権の制限を求めてきた我々の主張が正しかったことを示している。我々与党は、市民の警告を真摯に受け止めるべきだ」と、メルケルに難民政策の転換を求めている。

右派ポピュリズムが独にも到達

この地域には、メルケルの連邦議会選挙での選挙区があるが、AfDはこの地域でもCDUなどの票を奪って大きく躍進した。たとえばフォアポンメルン・グライフスヴァルト第3選挙区では、AfDの得票率が32.3%に達し、CDU(17.7%)に大きく水をあけている。CDUとSPDが構成するMV州政府は過去4年間で雇用を増やし、失業率低下に成功した。同州の失業率は、2011年の12.5%から、2015年には10.4%に低下。だが有権者は、伝統的な政党がもたらした経済的な成果を高く評価するよりも、AfDが強調した「難民増加による脅威」を理由にCDUとSPDを罰する道を選んだ。

AfDは、反イスラム、反ユーロを掲げる右派政党で、第二次世界大戦後の西ドイツが培ってきたリベラルな「戦後レジーム」の転換を目指している。同党の幹部の中には、「警官の制止を無視して国境を越えようとする難民に対しては、銃を使うべきだ」とか「多くのドイツ人は、ドイツ人に帰化した黒人のサッカー選手が、自分の家の近くに引っ越してくるのを喜ばない」などの過激な発言を行う者もいる。MV州の多くの有権者は、それでもAfDに票を投じた。英国やフランス、オランダなど多くの国々で右派ポピュリズムが躍進しているが、MV州議会選挙の結果は、ドイツにもその波が到達したことを示している。AfD躍進は、我々ドイツに住む外国人にとって、朗報ではない。

過去10年間にわたりドイツの首相を務めたメルケルは、政治的な黄昏の時を迎えた。来年の連邦議会選挙は、ドイツを「メルケル後の時代」へ突き動かすことになるだろう。

16 September 2016 Nr.1034

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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