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ロンドンのゲストハウス
Sa. 24. Aug. 2019

「メルケル後」のドイツはどうなるのか

メルケル首相
ベルリンでの市議会選挙前の応援演説をするメルケル首相

メルケル首相の顔色がさえない。彼女が率いるキリスト教民主同盟(CDU)が、地方選挙で立て続けに敗北しているからだ。CDUは、9月4日にメクレンブルク=フォアポンメルン(MV)州で行われた州議会選挙で敗北しただけではなく、9月18日にベルリンで行われた市議会選挙でも歴史的な敗北を喫した。市議会選挙と呼ばれるものの、ベルリンは州と同格なので、首都での選挙は重要な意味を持っている。

首都でもAfDが躍進

右派ポピュリスト政党・ドイツのための選択肢(AfD)が14.2%の得票率を記録して初の議会入りを果たしたのに対し、CDUは前回の選挙に比べて得票率を5.7ポイント減らして、17.6%しか取れなかった。これはCDUのベルリン市議会選挙での得票率としては、過去最低である。

世論調査機関インフラテスト・ディマップの推計によると、前回の選挙でCDUに投票した市民28万8000人の内、3万9000人がメルケル首相に背を向けてAfDに票を投じた。ちなみにAfDは、ほかの大半の既成政党にも痛打を与えた。社会民主党(SPD)の得票率は28.3%から21.6%に下がったほか、緑の党も得票率を17.6%から15.2%に減らした。

難民政策の失敗を認めた首相

ベルリンでの敗北が明らかになった直後、メルケル首相は記者会見で「今回の無残な開票結果には、失望している」と述べた。そして、MV州とベルリンでの「ダブル敗北」の原因は、彼女が昨年9月に踏み切った難民受け入れにあるとして、自身の責任を認めた。

首相は「難民受け入れの決定自体は間違っていなかった。しかし我々は長期間にわたって、難民流入の状態を十分にコントロールすることができなかった。あのような状況は、二度と起こしてはならないと思っている」と述べた。昨年ドイツには約110万人の難民が到着したが、連邦政府は一時的に、難民入国を制御できない状態に陥っていたのだ。メルケル首相がこれほど率直に政府の失敗を認めたのは、珍しい。

さらに彼女は「現在難民危機への対処が遅々として進まない理由は、我々が過去数年間に過ちを犯したからである。今や我々は問題を解決するために、通常よりも努力しなくてはならない」と付け加えた。メルケル首相を含めてEU加盟国の首脳たちは、2010年以降アラブ世界が不安定化の兆候を見せ始めてからも、難民の大量流入に備えて、EUの亡命申請規定であるダブリン協定や、国境の開放に関するシェンゲン協定の内容を改善したり、EU外縁部の警備体制を強化したりする努力を怠ってきた。

メルケル首相は珍しく、気弱な発言を行った。「できることならば、時間を何年も前に戻して、連邦政府と全ての責任者が昨年夏に起きたような事態に十分に対処できるように、準備を整えたかった」。メルケル首相がこのような後ろ向きの発言を行い、悔悟の念をあらわにするのは、極めてまれである。さらに首相は「Wir schaffen das(我々は問題を解決できる)という決意表明が、“内容のない空虚な言葉”になってしまったことを残念に思う」とも述べ、もはやこの言葉を使わないと明言した。

2017年は選挙がめじろ押し

メルケル首相のこの発言は、彼女が昨年以来取ってきた難民政策の誤りを認めた敗北宣言である。メルケル首相は、キリスト教社会同盟(CSU)の「毎年の難民受け入れ数を20万人に限るべきだ」という要求は受け入れなかった。しかしCDU・CSUの中では「メルケル氏が党首では、選挙を戦えない」という責任論が浮上することは確実だ。来年は、ノルトライン=ヴェストファーレン、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン、ザールラントで州議会選挙が行われるほか、秋には連邦議会選挙を控えた重要な「選挙の年」である。

AfDは、16の州の内10の州で議会入りを果たしている。メルケル首相の難民政策を「まるで左翼のようにリベラルな政策だ」と感じ、深い疎外感を抱いている市民は、今後もCDU・CSUとSPDを罰するために、AfDに投票するだろう。メルケル首相は自身の進退について明確な立場を打ち出していない。だがCDU・CSU内部では、今後「メルケル後」についての議論がひそかに行われるはずだ。

後継者選びは難航する

CDU・CSUにとって最大の問題は、10年間首相を務めたメルケル氏の後継者になる器を持つ政治家がいないことだ。ショイブレ財務大臣は経験豊富なベテランだが、来年は75歳になり、首相の激務は荷が重い。フォン・デア・ライエン国防大臣も、首相の器ではない。論文盗作疑惑は一応「無罪」ということになっているが、首相候補としてはマイナスの要素だ。CSUのゼーホーファー党首は、バイエルン州土着の政治家というイメージが濃厚で、国政を担う器ではない。特にドイツ北部の有権者たちからは、受け入れられないだろう。CDU・CSUは「メルケル後」の首相候補を選ぶのに大変苦労するだろう。

CDU・CSUまたはSPDが連邦議会選挙で単独過半数を取ることは、不可能だ。どの党もAfDとの連立は拒んでいるので、再び大連立政権が生まれるだろう。だが首相の座に誰が就くかは、未知数である。ドイツの政局は大きな岐路に差し掛かっており、当分の間は目が離せない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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