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ロンドンのゲストハウス
Mi. 22. Jan. 2020

メルケル対プーチン シリア・ウクライナ内戦

メルケル首相とプーチン大統領
10月19日、握手をするメルケル首相とプーチン大統領

10月19日、ロシアのプーチン大統領が2014年のクリミア併合以来初めて、ドイツの首都ベルリンの土を踏んだ。メルケル首相、フランスのオランド大統領、ウクライナのポロシェンコ大統領との首脳会議に出席するためである。

ロシアの空爆を「非人道的」と非難

メルケル首相とプーチン大統領はカメラの前で握手をしたものの、二人の表情は硬く、その笑顔はメディアの前に立つときだけにつける仮面のように見えた。

連邦首相府での6時間の会議の雰囲気は、緊迫したものだった。特にプーチン大統領の態度は氷のように冷たく、彼はポロシェンコ大統領との握手を拒否したほか、ドイツ政府が準備していた晩餐会への参加も拒んだ。10月20日未明に会議を終え、記者団の前に現れたメルケル首相は、「今回の話し合いは、非常に明瞭かつ厳しいものだった」と述べた。

メルケル首相はその日の内に、EU首脳会議で同会議の内容について報告するためブリュッセルに飛んだ。彼女は会議に先立ち、ロシアがシリアのアサド政権を軍事的に支援し、シリアのアレッポで無差別爆撃を行っていることを厳しい言葉で非難した。「アレッポでロシアの支援の下に起きていることは、全く非人道的だ。長期的な停戦を実現し、包囲下のアレッポで苦しんでいる市民に救いの手を差し伸べなくてはならない。数時間だけ爆撃をやめた後、再び攻撃を繰り返すことは許されない」。

オランド大統領も「アサド政権とロシア空軍がアレッポで行っている空爆は、戦争犯罪に他ならない」とプーチン大統領を批判した。民間人に対する軍事攻撃は、ジュネーブ条約によって禁止されている。

市街地を無差別爆撃

シリア北西部のアレッポは、トルコとの国境に近い戦略的な要衝である。この町の西半分はシリア政府軍が占拠しているが、東半分にはアサド大統領に対抗する反政府勢力、イスラム主義者の民兵組織などが潜伏。約30万人の市民が包囲下のアレッポに残されている。アサド大統領を支援するロシア空軍は、「町に隠れているテロリストを殲滅する」という名目でアレッポの市街地を無差別に爆撃している。アレッポの死傷者数に関する公式な統計は存在しないが、女性や幼児を含む多数の市民が犠牲となっていることは確かだ。アレッポ東部の市街地の大半は瓦礫の山となっており、一部の地域では食糧はおろか、水や電気も断たれている。

アレッポでの戦闘は、何でもありの「ダーティー・ウォー(汚い戦争)」だ。今年9月19日には、国際赤十字がアレッポ市民のための食糧や医薬品を運んでいた31台のトラックが、空爆を受けて破壊された。国連などは、この攻撃がロシア空軍によるものという疑いを強めている。国際赤十字のミリバンド委員長は、「アレッポで起きていることは、ジェノサイド(民族虐殺)だ」と断定している。

国連シリア特使は、シリア内戦による死者数を約40万人と推定している。SOHR(シリア人権監視団)は、「シリア内戦に介入しているロシア空軍の爆撃によりこれまで約9900人が死亡した」と推定している。

これに対してロシア側は、「アレッポでは市民とテロリストを区別することは不可能だ」として、無差別爆撃を正当化しようとしている。

ロシアへの追加制裁も視野

メルケル首相は、今回の首脳会議でシリア内戦に関してプーチン大統領から譲歩を引き出すことはできなかった。メルケル首相が当面目指している目標は、シリアへの軍事介入を理由に、ロシアに対し制裁措置を追加する可能性をちらつかせることによって、アレッポでの長期的な停戦を実現することだ。EUはロシアのクリミア併合以来、同国に対して経済制裁を実施している。つまりEUがシリア介入に関しても追加的な制裁措置を発動すれば、ロシアにとってはダブルパンチとなる。

今回プーチン大統領がドイツでの首脳会議に臨んだ理由も、制裁措置がロシア経済に悪影響を与えているためだと見られる。プーチン大統領に対する国民の支持率は、クリミア併合直後には約80%だったが、現在では約50%に下がっている。つまりメルケルとEUは、追加制裁というオプションでロシアに対する圧力を高めながらも、交渉のチャンネルを開き続けるというダブル戦略を取っているのだ。英国のメイ首相も「シリアでの残虐行為を終わらせるために、我々はあらゆる手段でモスクワに圧力をかけなくてはならない」と述べ、メルケル首相に同調した。

ウクライナ問題では小さな前進

このダブル戦略はウクライナ問題については、功を奏した。ウクライナ内戦では、ロシアに支援された分離独立派とウクライナ政府軍の小競り合いが続き、2014年の「ミンスク合意」が形骸化している。メルケル首相とプーチン大統領は、ベルリンでの首脳会議で「ミンスク合意」の崩壊を防ぎ、内戦終結のための枠組みを作るべく、外務大臣レベルで協議を始めることで合意した。だがEUが、泥沼化したシリアでの流血に歯止めをかけられるかどうかは、未知数である。アレッポの長期的な停戦を実現できるかどうかは、EUとロシアの今後の力関係を占ううえで、重要な試金石となるだろう。

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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