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ロンドンのゲストハウス
Mi. 22. Jan. 2020

ポピュリズムの拡大とデジタル社会の落とし穴

SNS

12月初めにミュンヘン工科大学(TUM)で行われた日独統合学会のシンポジウムで、TUMのクラウス・マインツァー教授から、新しい言葉を学んだ。それは「postfaktisches Zeitalter(事実が大きな役割を果たさない時代)」という新語だ。教授は言う。「今日では、ある情報が事実であるかどうかが、重要な尺度ではなくなりつつある。例えば、米国での大統領選挙では、トランプ陣営が大量に流したデマを多くの有権者が信じて、結局トランプの勝利につながった。私はこの状況について、強い懸念を抱いている」。

デマを使って他陣営を攻撃

確かに今回の米大統領選ほど、目を覆いたくなるようなデマが垂れ流しになり、それが結果を左右した選挙はなかった。

ドナルド・トランプは、選挙運動の期間中に多くの偽情報を流した。彼は、「オバマはケニア人だ」「2001年9月11日の同時多発テロのとき、米国各地でイスラム教徒が道に出て大喜びした」「地球温暖化は、中国が米国産業界の競争力を弱めるためにでっち上げた」などのデマを公言し、しかも取り消さなかった。トランプのスポークスマンは、こうした発言について、「彼は言葉よりも行動を重んじる人物であり、支持者は彼の言葉を額面通りに取ってはいない」と苦しい弁明をしている。さらに彼の支持者たちは、「ローマ教皇はトランプを支持している」「ヒラリー・クリントンのチームはワシントンの『コメット・ピンポン』というピザ屋の地下室に子どもたちを監禁して拷問したり、児童ポルノのネットワークを運営したりしている」など、根も葉もない情報を流した。12月上旬には、自動小銃を持った男が「噂を確認するため」と称して、このピザ屋に乱入して発砲している。

デマがネット上で独り歩き

問題は、こうしたデマがフェイスブック(FB)やツイッターなどのソーシャル・ネットワーク(SNS)を通じて社会に瞬く間に広がり、米国の多くの庶民が信じたことである。特に高等教育を受けていない市民は、いわゆるメディア・リテラシー(情報の信ぴょう性を見分ける能力)に欠け、ネットで目にした情報が事実かどうかを確認することなく、うのみにする傾向が強い。トランプに票を投じたのは、まさにこうした人々だった。嘘を言っても取り消さない人物がホワイトハウスの主となり、世界で唯一の超大国の指導者となる。デジタル時代が、このような事態を可能にしたのだ。

SNSに載った偽情報は、誰にも訂正されることなく多くの人々に共有され、独り歩きする。数が決め手となる選挙の世界では、瞬時に数百万人の人が目にするSNSほど有効な武器はない。選挙戦において、新聞やテレビは、SNSやネットマガジンの敵ではない。選挙参謀たちにとっては、もはや情報が事実であるかどうかよりも、噂が人々の感情に影響を与え、自分の候補者に共感を抱くことの方が重要なのだ。これは極めて危険な現象である。

ゲッベルスの主張との共通点

私は、ナチス・ドイツの宣伝大臣だったヨーゼフ・ゲッベルスの言葉を思い出さざるを得ない。彼はこう言った。「人々は、真っ赤な嘘でも、繰り返し聞かされると、それを信じるようになる。嘘を長い間繰り返せば、人々はその嘘が政治的、経済的にもたらす結果に気づかなくなる。したがって政府にとっては、政府の主張に反する事実を抑圧することに全力を注ぐべきだ。真実は、政府にとって最大の敵である」。ナチスは、ユダヤ人についての悪い噂やヘイトスピーチを繰り返し流すことによって、市民の間にユダヤ人に対する偏見や憎しみを広めた。この結果、多数の市民や企業がナチスのユダヤ人弾圧に加担した。もちろんトランプ陣営と、犯罪集団ナチスを同列に並べることはできない。しかし目的を達成するために、嘘を意図的に使って人心を掌握(しょうあく)する点では、危険な共通点を見出さざるを得ない。

ドイツの右派もSNSを多用

米国だけでなく、世界中で右派ポピュリストたちが同様の手法を使っている。ドイツのザクセン州で生まれた極右市民団体「欧州のイスラム化に反対する愛国者たち(PEGIDA)」や右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持者の急激な増加も、FBなしには考えられない。FBやツイッターは便利な道具だが、論理よりも感情に訴えるメディアだ。人々は信憑性について考えるよりも、太字で書かれたメッセージだけを読んで、「いいね」をクリックする。約30万人がフォローしているAfDのFBのサイトを見ると、数千から数万回も「いいね」ボタンが押されている。

人心を汚染するデジタル公害に歯止めを!

公共放送局ARDが11月に行った世論調査によると、AfDの支持率は約13%。同党が来年の連邦議会選挙で初の議会入りを果たすのは、確実だ。英国のEU離脱決定やフランスでの極右政党の躍進に続き、米国で右派ポピュリストが大統領に就任することは、不健全なナショナリズムと排外主義が個別の国に限られたものではなく、グローバルな現象となりつつあることを示している。こうした時代に、SNSやウェブマガジンで流されるデマや流言飛語は、人々の精神を汚染するデジタル公害である。

私は、全てのSNS運営企業やネット企業に対し、デマやヘイトスピーチを禁止する措置を求めたい。

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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