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ジャマイカ連立交渉とエネルギー政策の隔たり

バルーン
ジャマイカ連立政権を表す、黒・黄・緑のバルーン

10月18日に、キリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)、自由民主党(FDP)と緑の党の四党は、新しい政権を作るための協議を始めた。

ジャマイカへの道は遠い

社会民主党(SPD)が連邦議会選挙で大敗し、次期政権に参加しない方針を明らかにしたため、メルケル首相はこれらの四党と連立しなくては、議会で過半数の議席を確保できない。各党のシンボルカラーが黒色、黄色、緑色でジャマイカの国旗の色と同じであることから、この連立形式は「ジャマイカ」と呼ばれる。

ジャマイカへの道程は遠い。ベルリンでの会議に参加した政治家達も、「各党がまず主張を発表しあい、折り合いをつけていくための作業が始まったばかり」と慎重な発言を行っている。各党の間の主張は、難民政策などいくつかの点で大きく隔たっている。CDU・CSUは「毎年ドイツが受け入れる亡命申請者の数は、20万人を超えないようにする」という方向で一致したが、これは左派勢力である緑の党にとって受け入れにくい。ドイツの憲法である基本法は亡命権を保障しており、人数の上限は定められていないからだ。

脱褐炭・石炭を求める緑の党

難民政策と並んで、保守党とリベラル政党の意見が鋭く対立しているのが、エネルギー・環境政策だ。

今回の連邦議会選挙で、緑の党は大胆な政策を打ち出した。同党は、政策マニフェストの中で「地球温暖化の防止を目指す国際公約を達成するために、ドイツは2030年までに褐炭・火力発電所を全廃し、再生可能エネルギーの比率を100%に高めるべきだ」と主張。特に、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量が最も多い老朽化した褐炭・火力発電所については、2020年までに停止することを求めている。緑の党は、「脱原子力」を達成した後は「脱褐炭・脱石炭」を目指しているのだ。さらに緑の党は、「メルケル政権は産業界の意向を尊重して、再生可能エネルギー拡大にブレーキをかけている」と主張して、エコ電力の普及に拍車をかけることも求めている。たとえばメルケル政権は、再生可能エネルギー賦課金の上昇率を抑えるために、2016年に陸上風力や太陽光による発電装置の設置容量に上限を設けた。緑の党はこれらの上限を撤廃するよう要求している。

これまでメルケル政権は、「気候保護計画」の中で、地球の平均気温が工業化開始以前に比べて2度以上超えないように、2050年の温室効果ガスの排出量を1990年比で80~95%減らすことを目標にしていた。再生可能エネルギー促進法(EEG)は、ドイツ政府に対し、2050年までに再生可能エネルギーが電力消費に占める比率を80%に高めることを義務付けている。つまり緑の党は、連邦政府の目標達成時期を20年も前倒しする、野心的な計画を持っているのだ。

「車のエネルギー転換の加速を!」

今回の選挙では「車のエネルギー転換」が争点の一つとなったが、緑の党は排ガス問題でも思い切った提案を行っている。同党は「ドイツの市街地で排出される有害物質の70%は、交通機関によるものだ」として、「車のエネルギー転換」を大きな目標の一つとした。そして、2030年からは内燃機関を使った車の認可禁止を要求。電気を使った路線バスを増やすとともに、市町村には電気自動車(EV)の充電ステーションの整備のために補助金を出す。さらに内燃機関を使う車への車両税を引き上げ、EVを優遇することを求めている。

2011年の福島第一原子力発電所事故以来、ドイツでは保守政党も脱原子力と再生可能エネルギー拡大政策を取り始めた。このため緑の党の個性が失われ、同党はここ数年支持率の低下に悩んでいた。しかし同党は今回の選挙で野心的なマニフェストを打ち出したため、前回の選挙に比べて0.5ポイント得票率を増やすことができた。

CSU・FDPは大反対

一方、保守政党は緑の党の主張に真っ向から反対している。市場原理を重んじるFDPは、2030年までに褐炭・火力発電所を全廃し、内燃機関を使う車の認可を禁止するという緑の党の提案に全面的に反対。クリスティアン・リントナー党首は「褐炭火力発電所を廃止したら、EVに充電できなくなる」と発言している。FDPは当分の間は褐炭火力、石炭火力による発電を続け、ディーゼル車やガソリン車を使い続けるべきだと考えている。

またCSUのホルスト・ゼーホーファー党首も、「内燃機関を使う車の禁止は、我が国の経済力の根源に斧をふるうような行為だ。内燃機関の使用継続は、連立交渉の中で妥協できない一線だ。自動車に対する魔女狩りのようなキャンペーンはやめるべきだ」と述べている。CSUが内燃機関の車の禁止に強く反対するのは、同党の地盤であるバイエルン州にBMWとアウディの本社があり、自動車産業が雇用確保の上で重要な役割を果たしているからだ。

だが第四期メルケル政権で、緑の党が環境大臣のポストを獲得しようとするのは確実。同党は1998年~2005年までシュレーダー政権で環境政策を担当し、この国で初めて原子炉の稼働年数を制限し、再生可能エネルギーの拡大政策を導入した。そう考えると緑の党が妥協することは考えにくい。指導部が安易にCSUやFDPの企業寄りの政策を受け入れたら、支持者から強い反発を受けるだろう。ジャマイカ連立政権の誕生までには、まだ相当の時間がかかるに違いない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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