Hanacell

どこへ行く、ドイツ経済

読者の皆様、新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

昨年の師走は、週末とクリスマス休日がずらりと並んだために、ほとんどのサラリーマンにとっては、有給休暇を取らなくても5日連続して休むことができるという素晴らしい年の瀬だった。ふだんの忙しさから解放されて、ほっとひと息つかれた方も多いのではないだろうか。

しかしながら、油断は禁物。今年のドイツ経済の前途には、暗雲が立ち込めているように見える。その最大の理由は、米国で不動産バブルがはじけたために、サブプライム危機が各国の経済にじわじわと影響を与え始めていることだ。

2000年初頭から、支払い能力の低い市民に貸し出された不動産ローンは不動産価格の下落によってどんどん焦げ付き、不良債権化しつつある。このローン劣化現象は今年、ピークを迎えるものと推測されている。

こうした不動産ローンは、最新の金融工学テクノロジーによって証券化され、グローバル資本市場で投資家に提供された。世界中の銀行や保険会社は、高い利回りを求めて、こうしたサブプライム証券に投資していった。世界中の金融機関のポートフォリオに、悪性のウイルスのように危険度の高い証券が忍び込んでいったのだ。

公的銀行であるIKB産業銀行やザクセン州立銀行が経営破綻の瀬戸際まで追い込まれた背景には、投資担当者が十分にリスクについての審査を行わずに、サブプライム証券に投資していたという事実がある。これからもドイツの金融機関の損失はふくらみ、銀行による貸し渋りの傾向が強まる恐れがある。

ドイツでは昨年から、景気の回復傾向が顕著になり、失業者の数が大幅に減り始めている。だが残念なことに、米国に端を発したサブプライム危機のせいで、国内経済の成長率に再び鈍化の兆しが見え始めている。欧米の中央銀行が年末に金融市場に大量の資金を注入したのも、銀行の貸し渋りによって各国の景気が悪化するのを防ぐためである。

昨年、IKB産業銀行の巨額損失が明るみに出たとき、ドイツ金融サービス監督庁のヨッヘン・ザニオ長官は「今回の危機は1930年代以来、最も深刻なものだ」と発言したが、各国政府の関係者の間では、米国発の景気停滞について同じような危惧が強まっているように思われる。

今後米国では、国民の消費意欲が減退するので、景気の悪化を恐れて資金逃避が進行する。このためドルはユーロや円に対してますます弱くなり、ドイツから米国への輸出はますます難しくなるに違いない。ドイツ企業にとっては、悪い知らせだ。サブプライム危機によるドイツおよび欧州経済への悪影響が、最小限にとどまることを切望する。

11 Januar 2008 Nr. 696

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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