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Mo. 15. Okt. 2018

米国のイラン核合意破棄、EUは核合意維持を確認

5月8日に米国のドナルド・トランプ大統領は中東情勢を大きく不安定化させる決定を行った。彼は選挙期間中の公約通り、米国政府がイランとの核合意を破棄し、同国に対する制裁措置を強化することを明らかにしたのだ。

イスラエルの路線を踏襲した米国

2015年に米国のオバマ政権がロシア、ドイツ、フランス、英国、中国と共にイランとの間で行った合意によると、イランは15年間にわたりウランの濃縮を行わないこと、低濃縮ウランの量を1万キロから300キロに減らすこと、ウラン濃縮に使われる遠心分離機の数を1万9000個から6104個に減らすことを受け入れた。この合意には、イランの核施設に対する部分的な査察も含まれていた。

イランの核開発プログラム凍結と引き換えに、米国や欧州諸国は同国に対する経済制裁を部分的に解除した。しかしトランプ氏は、「この合意では、イランの核開発を止めることはできない。最悪の合意だ」と主張していた。この姿勢にはトランプ氏が強力に肩入れするイスラエル政府の政策が反映している。イスラエルのネタニヤフ政権は、オバマ政権のイランとの核合意を一貫して批判してきた。イランの核兵器開発の最大の狙いは、敵国イスラエルに対抗することだ。イスラエル政府は公に認めていないが、同国は核兵器を保有している。だが、イランが核兵器を積んだ弾道ミサイルを配備すれば、中東の軍拡競争に拍車がかかる。イランの敵国サウジアラビアも核武装する可能性がある。

米国の合意破棄宣言を受けて、イランはミサイルをイスラエル占領下のゴラン高原へ向けて発射。イスラエルは報復措置としてシリア領内のイランの基地など約50カ所を空爆した。内戦で揺れるシリア西部には、イランの革命防衛隊が軍事拠点を置いており、今年2月からイスラエルとの間で小競り合いが続いていた。

5月8日、米ホワイトハウスでイラン核合意の破棄について発表したトランプ大統領
5月8日、米ホワイトハウスでイラン核合意の破棄について発表したトランプ大統領

EUは核合意維持を確認

イランのハッサン・ロハニ大統領は5月8日に「米国の合意破棄は、国際条約を破る違法な決定であり、許しがたい」と述べてトランプ氏の決定を強く批判。ロハニ氏は「米国の合意破棄後も、残りの5カ国と核合意を維持する」としながらも、「この合意が無効になった場合には、ウラン濃縮を再開する」と語り、再び核開発プログラムの道を歩み始めることを明らかにした。

欧州諸国は、トランプ氏の決定に強い失望感を表明した。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は5月11日に「国連の安全保障理事会で全会一致で決議した合意を一方的に破棄することは、国際秩序への信頼感を傷付ける」と述べ、トランプ大統領の決断を厳しく批判。さらにシリアを舞台に小競り合いを続けるイランやイスラエルに対して、事態をエスカレートさせるような行動を慎むよう訴えた。メルケル氏は今年4月下旬にワシントンを訪れ、トランプ大統領に対し核合意を維持するよう求めたが、その努力は空振りに終わった。

ただし欧州諸国は、米国が抜けた後も核合意を維持することを確認している。今後メルケル氏は英国、フランス政府と共に、イランにウラン濃縮を再開しないよう働きかける方針だ。EUで外交問題を担当するフェデリカ・モゲリニ委員も「イランがこれまで核合意に違反した兆候はない。同国が合意内容を順守する限り、EUは核合意を維持する」という声明を発表している。

ドイツの論壇では、「今回の決定はトランプ氏がこれまで行ってきた数々の奇矯な決定の中でも、最大の愚行だ」という厳しい見方が出ている。確かに2015年の核合意はイランに核兵器開発を完全に放棄させるものではなく、一部の施設については査察が禁じられるなど不備な点もあった。それでもイランが約15年間にわたり核開発を凍結したことは、中東の緊張緩和に貢献した。

だが米国が合意を破棄したことで、今後イラン国内で穏健派の立場が弱まり反米、反イスラエル色の濃い強硬派が主導権を握る可能性がある。

制裁強化を懸念する欧州経済界

米国がイランに対する経済制裁を強化した場合、同国での経済状況が悪化し、国民の不満が強まる可能性もある。トランプ氏の決定は、イラン国内の強硬派にとって追い風となる危険がある。それは中東だけでなく、欧州にとっても大きな損害である。

2015年の核合意以降、欧州企業はイランとの貿易を始めるための下準備を行ってきた。だがトランプ氏の決定によってそうした努力が水の泡となる可能性が強まっている。その理由は、大半の欧州諸国の企業は米国との貿易や現地生産などを行っているので、米国の制裁規定を守らざるを得ないからだ。米国に子会社を持つ欧州企業が、イランと貿易を行った場合、米国政府は「制裁違反」と見なすだろう。

ドイツはかつて欧州でイランとの経済交流が最も緊密な国の一つだった。それだけにトランプ氏の決定はドイツの経済関係者を深く失望させている。

メルケル首相はトランプ氏の大統領就任以降、「我々はもはや米国を完全に信頼することはできない。自分たちの防衛は自分の手で行わなくてはならない」と語ってきたが、今回の合意破棄によって、欧州と米国間の安全保障をめぐる信頼関係にさらに深い傷が付けられた。これは欧州だけではなく世界全体にとって大きな損失である。

今後EUは米国の力を借りなくても、地域紛争を解決し調停を行う能力を身に付けようとするだろう。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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